ベル・クラネルの代わりに世界を救うのは間違っているだろうか   作:ただくも

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メーテリア似のオリキャラが暗黒期で闇派閥を殺しまくってアルフィアが曇る小説ないかな〜


第5話

 薄緑色の迷宮の光が届かない、陰湿な通路の奥。パチャリ、と湿った足音が響いた瞬間、正面の地面から『ウォーシャドウ』が這い出てきた。

 上層における「新米殺し」の異名を持つ、悪名高きモンスターだ。

 身の丈は160センチほど。平均的な体格である俺とほぼ同じ目線。手足の先から頭の天辺まで、すべてが光を吸い込むような黒一色だ。唯一、十字の形を描く頭部には、顔面と思しき手鏡のような真円状のパーツがはめ込まれている。異様に長い両腕の先には3本の鋭利な指が備わっており、その鋭い切っ先は剥き出しのナイフそのものだった。

 

 真円のパーツが怪しく光り、ウォーシャドウは一切の声を上げぬまま、無気味な無音で長い黒腕を振り回して突進してくる。

 俺は一歩深く踏み込み、鋭く迫る三指のナイフを紙一重でかわした。速度に任せて強引に突っ込んでくる敵の勢いを利用し、手首を返す。鉄の片手剣が、ウォーシャドウの長い二腕の隙間をすり抜け、真円のパーツへと正確に突き出された。

 ガキィン! と硬質な音が響き、パーツが砕け散る。間髪入れず、引き抜きざまに刀身を払うと、黒い肉体が激しくブレて霧散した。

 

 しかし、休む間もなく頭上から殺気が降り注ぐ。

 天井の影から現れたのは、巨大な単眼を持った蛙のモンスター──『フロッグ・シューター』だ。

 

「ゲコォッ!」

 

 不気味な鳴き声と同時に、肉を切り裂くような速度で長い舌が撃ち出される。弾丸さながらの勢いで迫るそれを、俺は反射的に身体を捻って回避した。鋭い舌の先端が通路の石床を穿ち、激しい火花が散る。

 避けた隙を突かれ、別のウォーシャドウの不意の一撃が俺の左腕の薄皮を切り裂いた。痛覚が鈍化しているとはいえ、完全に感覚がないわけではない。出血死のリスクを避けるためにも、致命傷だけは絶対に許さない。

 反転し、バックステップで間合いを外しながら、片手剣を斜め上へと振り抜く。襲いかかってきたウォーシャドウの胴体を鋭く両断し、そのままの勢いで着地と同時にフロッグ・シューターの懐へと踏み込んだ。

 巨大な単眼が恐怖に揺れるよりも早く、鉄の刃がその喉元を深く断ち切る。

 確実に、そして最短の動きで敵の息の根を止め続ける。

 

 モンスターがいなくなり、静寂が辺りを包んだ頃、果てのない深淵の先を見据えながら、俺は一度、地上へと引き返した。

 

 

  ◇

 

 ギルド内の受付のすぐ近くにある換金所。

 カウンターの向こう側にいる無愛想な中年男性の職員は、俺が差し出した大量の魔石とドロップアイテムを、値踏みするような一瞥とともにトレイへと移した。

 彼は言葉もなく、ただ淡々と、機械的な手つきで魔石の重量を量り、計算を進めていく。

 

「……2万8000ヴァリスだ。確認しろ」

 

 低く、抑揚のない声。差し出された硬貨の袋を俺が受け取ると、おじさん職員はそれ以上視線を合わせることもなく、すぐに次の作業へと戻っていった。

 

 換金所のカウンターを離れ、ギルドのロビーを見渡すと、デスクで書類に目を通しているエイナさんの姿を見つけた。

 俺はそのまま彼女の方へと歩み寄り、声をかける。

 

「あの、エイナさん」

 

「あ、カナタ君……って、ちょっとキミ、その怪我は大丈夫!? 衣服もボロボロじゃない! 痛くないの? 結構深く切れているわよ!」

 

 顔を上げた瞬間、俺の無惨な格好と左腕から滲む血に気づき、エイナさんは血相を変えて立ち上がった。

 

「大丈夫ですよ、エイナさん。俺、結構頑丈みたいで。……あの、すみません。無茶はしないって約束したばかりなのに、早速こんな格好で声をかけちゃって。でも、エイナさん。実は少し相談というか、

お願いがありまして」

 

「お願い……?」

 

「はい。良ければどこか個室で、俺のステイタスを直接見てくれませんか。それを見て判断した上で、もっと下の階層へ降りる許可をいただきたいんです」

 

 俺がそう告げると、エイナさんはハッとしたように周囲を見回した。ステイタスは冒険者にとって命そのものの重要情報だ。

 彼女はすぐさま俺の手を引き、完全に周囲から隔離された個室へと引っ張り込んだ。重い扉を閉めてきっちりと鍵をかける。

 個室の中に入ると、エイナさんは手際よく俺の左腕に包帯を巻きながら、まだ信じられないといった様子で視線を巡らせていた。

 

「ステイタスを直接見せるだなんて、本当にいいの……? それに、下の階層への許可って……」

 

「はい。失礼します」

 

 俺は衣服の襟を広げ、自分の背中をエイナさんに向けて見せた。主神によって刻まれた恩恵の文字。アビリティの数字だけが視認できるように服をずらす。

 衣服の隙間から覗く俺の背中の文字を読み解いた瞬間、エイナさんは息を呑み、言葉を失った。

 

「これは……嘘、でしょ……?」

 

 数日目の新人としては、完全に常軌を逸した成長度。特に俊敏に関する数値は、すでに中層の冒険者すら脅かし兼ねない領域に達していた。

 

「これだけの力が身についているんです。だから、もう少しだけ、下の階層へ潜る許可をいただけませんか? もちろん無茶はしません。エイナさんのアドバイスを厳守しますから」

 

 真っ直ぐに彼女の目を見つめて懇願する。エイナさんは信じられないものを見る目で俺の背中を見つめ、やがて大きなため息をついた。

 

「……わかったわ。ただし、7層より先へ行くときは、必ず事前に私に相談すること。いいね?」

 

「はい! ありがとうございます、エイナさん」

 

 俺が衣服を整え、個室のドアノブに手をかけたその時、エイナさんが後ろから静かに、だけど真剣な声をかけてきた。

 

「カナタ君。……これだけの速度で成長しているなら、身体や心にかかる負担も普通じゃないはずよ。進むことだけじゃなくて、しっかり休むことも同じくらい大事なんだからね。分かった?」

 

「──。はい、心に留めておきます」

 

 一瞬だけ動きを止め、俺は振り返っていつもの笑みを浮かべてみせた。そのまま、気遣ってくれた彼女に会釈をして個室を後にした。

 

 

 ◇

 

 ギルドを出た後、俺は足早に中央広場を抜け、西メイン通りにある大きな酒場へと向かった。巨大な木造建築の店舗。看板には『豊穣の女主人』と書かれている。

 昨日、シル・フローヴァと交わした「お金が貯まったら必ず行く」という約束。ここで無視すれば、かえって彼女の──あるいはその背後のフレイヤの不審を買う。金が手に入ったその日のうちに来るのが、最も自然な行動だ。

 ガラガラと扉を開けると、凄まじい熱気と喧騒が押し寄せてきた。

 

「いらっしゃい! 空いてる席に座りな!」と店主のミア・グランドが厨房から地鳴りのような声をあげる。俺は促されるまま、カウンターの端の席に腰を下ろした。

 

「……あ、昨日の冒険者さん! 本当に来てくれたんですね」

 

 すぐに、灰色の髪を揺らしたシルが嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「約束ですからね。今日、まとまったお金が入ったんです。……あ、俺はカナタと言います。カナタ・カミシロです」

 

「カナタさん、ですね。私はシル・フローヴァです。お料理、おすすめのものを何か持ってきますね」

 

 しばらくして、シルが運んできたのは、肉がこれでもかと盛られた煮込み料理と麦酒だった。周囲の冒険者たちが美味そうに頬張る中、俺もスプーンで肉を口に運ぶ。

 

 ──やはり、何も味がしない。口の中にあるのは、ただの温度を持った固形物だ。

 

「……! 凄く美味しいです、シルさん」

 

「……ふふ、よかったです」

 

 シルが微笑んだその時、カウンターの奥からもう一人、薄緑色の髪のエルフが歩み寄ってきた。木製のトレイを抱え、冷徹とも言える澄んだ瞳で俺をじっと見つめている。

 ──『疾風』、リュー・リオン。

 

「シル、あまり長話をしてはお客の邪魔になります。……それに、あなた」

 

「え、俺ですか?」

 

 リューの鋭い視線が、俺の全身を品定めするように射抜いた。元第一級冒険者。その眼力は、俺のボロボロの衣服や、隠しきれない異様な気配を正確に捉えているようだった。

 

「Lv.1の駆け出しの佇まいではありませんね。……無茶な深追いは身を滅ぼします。命を大事にしなさい」

 

「……はい。忠告、ありがとうございます」

 

 俺が静かに頷くと、リューはそれ以上追及することなく、短く告げて給仕へと戻っていった。シルも「また後でね」と笑い、彼女に続く。背筋に冷や汗が流れるのを感じながら、俺は料理を胃袋へと流し込んだ。

 

 

 ◇

 

「カナタ君、ステータスの更新だよ。……準備はいいかい?」

 

 深夜の廃教会。

 ベッドにうつ伏せになった俺の背中にまたがり、恩恵の文字を更新したヘスティア様が、小さく息を呑む気配が伝わってきた。

 

  カナタ・カミシロ

  Lv.1

  力:E(412)→D(522)

  耐久:F(312)→E(410)

  器用:E(437)→D(541)

  敏捷:C(634)→B(788)

  魔力:I(0)

  ≪魔法≫

  【 】

  ≪スキル≫

  【救界義務】

  【聖火殉情】

 

 すべての項目が大きく跳ね上がっている。特に敏捷は、Lv.1の限界とされる領域すら見え始めていた。

 

「……本当に君の成長速度は恐ろしいよ。身体だって、あちこち傷だらけじゃないか」

 

 ヘスティア様の声は微かに震えていた。俺の身を案じ、今にも泣き出しそうなほどの心配が伝わってくる。だが、彼女はそこで涙を流さなかった。ぐっと拳を握りしめ、深く息を吐くと、ベッドから飛び降りて俺の前に回り込んだ。その表情は、神としての威厳と、強い意志に満ちていた。

 

 

「本当はね、カナタ君。安全にダンジョンに潜ってほしいよ。……だけどね、ボクは君の神様だ! 君がそれだけの覚悟で戦っているなら、ボクがいつまでもオロオロしてちゃいけないね。どっしり構えて、君の帰りを待つのがボクの役目だ!」

 

 ヘスティア様は胸を張り、気丈に笑ってみせた。その優しさと強さが、俺の胸の奥に確かに温かいものを灯す。

 

「ところでカナタ君。明日の予定はどうなっているんだい?」

 

 ヘスティア様が首を傾げて尋ねてくる。俺は上着を羽織りながら、淡々と答えた。

 

「明日も今日と同じように、ダンジョンに潜る予定です。少しでも早く、力をつけたいですから」

 

「それはダメだ!!」

 

 ヘスティア様は即座に両手で大きくバツ印を作り、俺の言葉を力強く却下した。

 

「そんな身体で毎日潜らせるわけにはいかないからね! 明日はボクに一日付き合っておくれ。カナタ君、デートしようぜ!」

 

 満面の笑みで、元気いっぱいに「デートしようぜ!」と言い放つ我が神。

 終末の焦燥に追われる俺の心に、彼女の真っ直ぐな言葉が、心地よい光を投げかけてくれた。

 

「……はは。わかりました、神様。明日は、あなたに一日付き合います」

 

 俺の口から出た笑みには、微かな本物の体温が混ざっていた。




スキルを略しました。


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