ベル・クラネルの代わりに世界を救うのは間違っているだろうか 作:ただくも
久しぶり過ぎてキャラがあってるか不安です。
深夜、廃教会の地下室。
ベッドにうつ伏せになった俺の背中に、ヘスティア様が神の血を滲ませた指先を滑らせると、すぐにその手がピタリと止まった。
「……ちょ、ちょっと待っておくれカナタ君。これ、ボクの見間違いじゃないよね!? 」
慌てた様子で手渡された羊皮紙を、俺は身を起こして受け取る。そこに並んでいたのは、二日間の狩りとシルバーバック討伐の成果が、これ以上ないほど露骨に反映された数値だった。
カナタ・カミシロ
Lv.1
力:D(522)→B(762)
耐久:E(410)→B(708)
器用:D(541)→B(776)
敏捷:B(788)→S(968)
魔力:I(0)
≪魔法≫
【 】
≪スキル≫
【救界義務】
【聖火殉情】
「ステイタスの伸びも凄いけど、それだけじゃない。カナタ君、……ランクアップできるぜ!!」
「え?」
(ランクアップ?なぜ?シルバーバックを倒したからか?…早すぎる。いや、成長促進のスキルが2つもあるんだ、遅いくらいか?…それにしても、もうランクアップか。さっさとランクアップしたいところだが、…見送るか)
「神様、ランクアップは見送ります。もう少しステイタスを伸ばしておきたいので」
「ええっ!?で、でも、ランクアップしたほうが安全だし、ボクのカナタ君はすごいんだぞって自慢できるのに……!」
俺のランクアップ保留の発言を受けて、ヘスティア様は心配をしているのか顔が歪む。思わず、発言を撤回しそうになるが、ぐっと堪える。
「魔力が0のままなんです。それに、アビリティを限界まで上げてからランクアップしたほうが強くなれると思うんです」
俺の言葉にヘスティア様がなるほど、と口を噤む。
たしか、ロキ・ファミリアのレフィーヤ・ウィリディスが同じ理由でランクアップを保留にした描写があったはずだ。
「……うん、分かったよ! カナタ君がそこまで考えているなら、ボクは君の選択を全力で応援するさ!」
ヘスティア様はベッドから飛び降りると、両手でポンと自分の頬を叩いて気合を入れた。その瞳からは戸惑いが消え、前向きな強い光が宿っている。
「君のためならボクはなんだってするからね。だから、もっと頼ってくれてもいいんだよ?」
胸を張り、力強くそう宣言するヘスティア様。その言葉が、俺の心の中に、確かな温かさを灯していく。
「……ありがとうございます、神様」
「むふふ。──あ、そうだ。さっきの戦いで渡したこの剣だけどね!」
ヘスティア様はベッドの脇に立てかけてあった漆黒の片手剣を手にとると、改めて誇らしげに俺へと差し出してきた。
「君のステイタスと連動して成長する、神の血が混ざった生きた黒刃さ。ヘファイストスに打ってもらったこの剣に、ボクが名前をつけたんだ!……その名はレガトゥス・ヴェスタ。『神の聖火を背負いし使途』──ボクの聖火とともに、暗闇を切り開いて進む君にぴったりの名前さ!」
「レガトゥス・ヴェスタ…」
差し出された漆黒の刀身を再び手に取り、その名を呟く。
主神の覚悟と、『聖火を預かりし者』という重みを持った黒い刃。その存在だけが、俺の心に強く、熱く刻み込まれた。
必ず世界を救い、ヘスティア様を守ろう。
◇
ヘスティア様が寝静まった後、俺は机に向かい、一冊のノートを開いていた。ペンを走らせる前に怪物祭での出来事を思い返す。
(嫌な予感が当たった……。今日の怪物祭で脱走したシルバーバックは、明らかにヘスティア様を標的にしていた)
本来であれば、ベル・クラネルの器を試すために美の女神フレイヤが仕組んだ茶番。だが、オラリオに彼はいない。にもかかわらず原作通りシルバーバックがヘスティア様を狙ったということは、あのフレイヤの視線は俺に注がれ始めている可能性が高い。
(あの女神に目をつけられたかもしれない……。いや、目をつけられたと考えたほうがいい)
あの女神と関わりたくないあまり、現実から目をそらしてしまった。気を取り直さないと。
時系列のズレと不穏な気配に背中を押されながら、俺はペンを握り直した。
(俺の脳は【救界義務】によって変質している可能性が高い。なにせ、感情の抑制や五感の消失が起こってしまっているんだ。人間らしい感情と一緒に、原作の記憶まで余分な情報として切り捨てられたら終わりだ。今のうちに書き写しておかないと)
脳内の引き出しをひっくり返す。だが、そこで俺はアニメの限界という冷酷な現実に直面した。
(俺が知っている内容は、アニメの1期から5期。そして、制作決定した6期の前情報だけ)
ミノタウロス戦、強化ゴライアス総力戦、アポロン・ファミリアとの
さらに最悪なのは、その先にあるはずだったアニメ6期━━『ロキ・ファミリア救出』の情報だ。
(詳しいことは知らない。穢れた精霊が敵として出てくることは知っているがどこで知ったのかは覚えていない。外伝のソード……アストレア?も内容が一切わからない。)
万能ではない未来の知識。ガリガリと、深夜の地下室にペン先の悲鳴が響く。焦りに押されながら、忘却に抗うようにノートに原作知識を書き殴っていった。
◇
翌朝。結局、渡すことができなかったシルの財布を届けるため、豊穣の女主人へ足を運んだ。
早朝の仕込み時間。ガラガラと扉を開けると、そこでは木床を磨いていたリュー・リオンが、すぐに俺のほうに振り返った。
「カミシロさん……いらっしゃいませ。昨日はお手伝いを引き受けていただき、ありがとうございました」
「いえ、これ……シルさんの財布です。返すのが遅くなってすみません」
懐からシルの財布を取り出し、リューへと手渡す。彼女はそれを受け取ると、安堵したように表情を和らげ、静かに頭を下げた。
「わざわざ届けていただき、ありがとうございました。あとで私からシルに渡しておきますね。……それとカミシロさん」
リューの視線が、俺の腰元──新調された
「どうやら、質の良い武器に新調されたようですが、気を抜かないでください。自分が強くなったと錯覚し、命を落とす冒険者も珍しくありません。お気をつけて」
「ありがとうございます。おかげで、気が引き締まりました。……それじゃ、行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃいませ」
当然のように交わされた「行ってきます」と「行ってらっしゃい」の言葉。
まるで夫婦のような会話に気恥ずかしさを覚え、足早にその場を後にした。
「〜〜〜〜っ! ニャハハハハ! リュー先輩、まるで新婚夫婦みたいだったニャ〜!!」
「本当です〜! 『行ってらっしゃいませ』だなんて、愛がこもっていましたよリューさん!」
「〜〜〜っ!? な、何を言っているのですか二人とも!! 私は単に、客人に挨拶を返しただけで……っ!」
なんだか店の中が騒がしいような気がした。
◇
続いて、俺は次なる進行許可を得るためにギルドの本部へと向かった。
受付デスクにいたエイナさんを見つけ、「7層への進行許可をいただきたいんですが」と声をかけると、彼女はほっと安心したように胸を撫で下ろした。
「カナタ君!無事だったのね……。昨日、的の中でモンスターが脱走して大騒ぎになったでしょう?怪我はない?」
「はい、何も問題ありません」
問題大ありだ。脱走したシルバーバックを独りで相手することになった。そんなことを言っても面倒なことになるし、心配をかけてしまうことになる。
「よかった……。でも、安心したと思ったら次は7階層への進行許可だなんて。本当に成長が早くて驚かされるわ」
そう言って苦笑いを浮かべたエイナさんだったが、俺の身体を上下に視線を往復すると、呆れたようにため息をついた。
「カナタ君、今日の恰好も防具らしい防具を身に着けていないわね。危険だといったでしょう?これじゃ許可を出すのも心配だわ」
「あー、なかなか自分に合った防具を選ぶのも難しくて」
「もう、仕方ないわね。……分かったわ。明日、私の非番に付き合いなさい。私が責任を持って、キミに合う防具を選んであげる」
「え?エイナさんが、ですか?」
「そうよ!異論は認めません。明日、朝にここで待ち合わせね!」
(明日の予定が決定してしまった。確かに、命の危険がある場所にいつまでも私服のような恰好はまずいし、ちょうどいいか。エイナさんの優しさに甘えよう。)
世間一般で言えば、エイナさんのような美人と出かける約束をしたら、胸を躍らせるような展開だろう。
だが、俺の心に揺らぎはない。休日の時間を取ってしまうことに対する罪悪感しか湧かず、感情の高鳴りは一切湧いてこない。
(……こういう時、少しも心が浮つかないのは、なんだか寂しいな)
【救界義務】によって欠落していく人間らしい感情に、残念な気持ちを覚えつつも、俺は平静を装って首を縦に振った。
「貴重な休日を、すみません。ありがとうございます、エイナさん。……その、7層の件は」
「……はぁ、絶対に無茶をしないって約束するなら許可を出します。いい?」
「はい、気を付けます」
◇
──ダンジョン七層。
薄緑色の光が差し込む通路を、俺は一人、静かに歩いていた。
腰から引き抜いたレガトゥス・ヴェスタの重みは、不思議なほどに心地よく、まるで俺の右腕の延長であるかのように馴染んでいる。
「ギ、ギチチチッ!!」
正面の暗闇から、数十匹のキラーアントと、その後方から素早く跳躍してくるニードルラビットの集団が姿を現した。上層における、数による暴力。
だが、俺は恐怖を覚えることなく、一歩深く踏み込んだ。
──疾ッ。
一閃。キラーアントの外殻を両断し、迫り来るニードルラビットの首を無造作に刎ね飛ばす。
Lv.2に匹敵、あるいは超えるほどの速さ。剣を振るうたび、モンスターたちは霧散し、紫色の魔石だけが床に転がっていく。
群れの大部分を切り捨てたところで、俺はふと刃を止め、転がる魔石と自身の持つ剣を見つめた。
(……なるほど。朝、リューさんが言っていたのはこのことか。これだけ容易く敵を倒せれば、もっと深く潜れるような万能感に浸ってしまうのも無理はないな)
気を抜けば一瞬で足元を掬われるダンジョン。
リューさんの助言の正しさを身をもって実感しながら、残ったモンスターを片付けていく。
数分後、通路を塞いでいた群れをすべて倒し終え、静寂を取り戻した通路の奥を見つめる。
(今回の目的は7層で狩りができるかの確認。これなら本格的に狩りが可能だが……明日はエイナさんに防具を買いに行くし、ここらで引き上げるか)
俺は転がった魔石を拾い上げ、刃を鞘に収めると、地上へと続く帰路に就いた。
シルバーバック戦は知る人は全然いません。
イシュタル・ファミリアに目を付けられる可能性が高いので。
アイズはばっちり見てます。