三馬鹿がキヴォトスを巻き込むだけの話。 作:カブトムシの相棒
では、本編です。
────アビドス:校舎……付近。
「────シィッ!!」
「ふんッッ」
剣と槍の戦戟が甲高く鳴り響く。
怪物同士の殺し合い……それは10分も続いていた。
相対するは逢冥アキト。そして、桜庭ケイスケ。
互いに長身であり、その圧力は抜群。
”ガキィィン!!!”
「斬る」
「危ないなァ!!」
アキトが巧みな技術でケイスケの槍術を弾く。
その隙は大きい。アキトは瞬間的に横一文字の斬撃を振るう。
だが、ケイスケはその隙すら回避。
なんと彼は驚異的なバックステップでその凶刃を完璧に避ける。
「どんなバネをしているんだ、貴様は」
「私のアイデンティティだ。お前に理解できるほど鍛えてない」
「ふん……」
スピードなら、この男は群を抜いている。
人智を超越した健脚、そこから繰り出される驚異的なバネ。
そして、この槍術。
桜庭ケイスケ……この男の狂気はまるで全てを突き刺す鋭利そのもの。
「(この男は中距離の天才だ。一定の距離は逆に命取り……ならばッ)」
瞬間。剣を握るアキトの握力が極まる。
同時、圧力が増す。
「ッ!」
来る……ケイスケの本能が刺激される。
そう思った瞬間だ。
「身心統一……早々、この一撃で沈んで貰う」
「(この構え……もう終わらせる気か)」
アキトが姿勢を深く沈み込み、剣を真っ直ぐ両手で構える。
その独特な姿勢。ケイスケはよく、知っている。
「────心火必中。三味線を弾いたまま逝けッ」
”ボゴォォォォンッッ!!”
アキトが爆発的な踏み込みでケイスケに接近。地面が抉れ、その踏み込みの強さを物語っている。
それは途轍もない速度で繰り出される刺突。
狙いは……心臓。
「(これを避けんのは無理か……だが、舐めるなよ)」
コンマの世界。一瞬の判断が生死を分ける戦線。
ケイスケはこの死の刺突を前に、頭をクリア。
すべき事は一つ。
「シィィィィィィ!!!!」
「はぁぁぁッ!!」
”グチュン……”
肉が刺さる音。手応えはあった。
この一撃はアキトの必殺の刺突。正統派な剣士であるアキトが編み出したオリジナルの技。
本来なら、この一撃で大抵の命は潰える。
だが……相手は桜庭ケイスケ。
「何ッ」
「縦向きの刃の突きならこうなるよなぁぁ……ッッ」
何とケイスケは己の左腕を犠牲にし、その刃を受け止める。
予想外、アキトは逆に虚を突かれる。
潔白の制服に血が滲む。なんたるメンタルか、ケイスケは激熱の痛みに耐えながら、即座に動く。
「一旦態勢崩れろよ」
「ッ!!」
ケイスケは犠牲にした左腕に最後の力を加え、剣を掴むアキトの態勢を右側にズラす。
その態勢は……死の領域。
その隙を突かないほど、ケイスケに容赦はない。
「槍にも近距離はあるッ、心臓貫かれとけッッ」
「ふッッ!!」
”ザシュッ!!”
カウンターが刺さる。
あの盤面でケイスケは逆に心臓を狙い、アキトへ襲い掛る。
肉が貫く手応え。だが、しかし。
「正に、肉を切らせて骨を断つ……学ばせて貰ったぞ、逢冥ッ!」
「お前……真似たか。この一瞬でッ」
そう、アキトはケイスケ同様、左腕を犠牲にしてその必殺の刺突を止める。
その左腕からは膨大な血が流れ出る。
この超至近距離での戦闘は互いに不向き。
「ふんッ」
「シュッ…」
申し合わせたように、2人はバックステップを踏み、互いの得物を引く抜く。
互いの得物には赤い血が流れる。この怪物二匹は回避型の戦闘を好むが、こういった盤面では捨て身の戦法をも厭わない。狂気に身を委ね、その真価を発揮する。
「左腕がお釈迦か……怪我するなって桐藤さまに言われてんのに、やってくれたなぁ」
「それは、俺のセリフだ……」
ボタボタと、両者の左腕から鮮血が地面に落ちる。
血溜まりが出来る程の出血。
銃社会であるこのキヴォトスで、刃物を使う怪物共だからこその戦場。
だらん…と左腕が垂れる。
両者共に、骨を切断されている。
「(この展開で銃を使うのは駄目だな……この槍で削り切るしかないか。ハッ……仕方ねぇな)」
「(奴もこの局面で槍を手放すとは思っていない……この狂人を前に生半可な覚悟は命取りだろう。ならば、俺がすべき事は)」
アキトが構える。そして、ケイスケも構える。
その右手には、己の得物……。
「────血達磨になるまで踊ろうか……逢冥」
「────付き合う気はない。貴様にはこの剣の錆となって貰う」
真正面からの衝突。互いに、正統派の戦術だ。
戦闘狂同士の戦い。最早、どちらかが倒れ伏すまで止まる事は無い。
瞬間────互いの鮮血が、舞う。
▽
☆一方その頃、アビドス高等学校。
「────誰かと思えばあんた達だったのね!!ラーメンも無料で大盛りにしてあげたのに、この恩知らずっ!」
「………」
校門前。そこで対策委員会は座を構え、便利屋を迎え撃つ準備をしていた。
アヤネが電子機器で15㎞付近で便利屋たちの進軍を確認したのが始まりだ。
ヘルメット団かと思いきや、何と現れたのは4人の曲者。
紫関ラーメンにてアビドスの生徒達と親睦を深めた後だった。
セリカを筆頭に、アビドスの生徒達は怒気を含ませる。
それもそうだ。恩を仇で返す形で且つ、武装した状態で現れたのだ。
「……アルちゃん。やっぱり言った方が良いよ」
「アル……」
「うっ……アル様ぁ…」
「っっっ……うっ…」
だが、その便利屋は何故か気が滅入っている……と云うか、顔色が余りに悪い。
その雰囲気からは、それどころの話ではない何かを含んだ表情で。
その異変に先に気付いたのは……先生。
「皆、少し待って」
「っ!先生!?」
「ん、先生、危ないから出て来ちゃ駄目」
「大丈夫、この子達に敵意はないよ。少し話をしよう」
校舎から出て来た先生はアヤネとシロコに止められるも、制止させ、そのまま便利屋68の前に立つ。
「さっき振りだね。探知機に引っ掛かった傭兵の姿が見えないけど……君達が此処に来たのは、アビドスの校舎を奪う為かな?」
「……そうよ!わ、私たち便利屋は、此処を………奪う…」
アルが空回りな笑みを浮かべ、堂々と宣言……出来ないほど、アルは何かに気を奪われている。
唇が震えている。瞳孔もだ。
それをアビドス含め、先生は見逃さない。
「……本題に入る前に、一つ聞くね────アキト、彼はどうしたの?」
「っっ!!」
アルの瞳孔が開かれる。当たりだ。本題はやはり、アキトの事だったようだ。
傭兵も引き連れず、彼の不在で、このアビドスを襲撃は現実的じゃない。
恐らく道中、何かがあった。先生は間髪入れずに告げる。
「便利屋68の皆。私は連邦捜査部シャーレの顧問、先生だ。つまり君たち生徒の為に動く組織の長。話を聞かせてほしい……君達に、アキトに何かあったんだよね?」
「……先生」
優しい声。温かい雰囲気。
話し易いように、先生は便利屋68に更に近付き、真剣な眼差しで問う。
アビドスの生徒達は静かにその様子を見守る。
確かに彼女達に敵意はない。便利屋に何かがあったのも、その様子の可笑しさから理解している。
すると、アルが口を開く。
「わ、私達の話を……聞いてほしいのっ」
「うん、是非聞かせて」
「……さっき、此処に来る前に襲撃にあったの。トリニティの制服を着た優男で、槍を持った……尋常じゃない死圧を纏った、アキトと同じくらいの……っ…ヤバい奴に、会ったの」
「トリニティの……優男で、槍を持った……え、それって…っ」
「アル、もしかしてその子、ケイス…」
「────ちょっと良いかな?」
アルの発現に、ノノミ、そして先生の頭に浮かぶ者が居た。
他のアビドスの面々はいまいちピンと来ていない。
瞬間……ホシノが形相を変え、話を遮りながらアル達に近付く。
その威圧はアビドスの面々すら見た事が無い程の圧力。皆が息を呑んでしまう。
「アルちゃん、って言ったかな?君が話してた事はホント?」
「え…えぇ、本当よ。その人は今アキトと戦っている……アキトを狙っているかのような口ぶりだったわ…っ」
そうアルが告げた、瞬間だ。
”────ドゴォォォォォンッッッ!!!!”
”「ッ!??!?」”
けたたましい地烈音が遠方に鳴り響く。
それは一発ならず、二発三発と、その激音は次第に強大なモノへと変わっていく。
つまり……アルの言っていた事は事実。アキトは……その人物と戦っているのだ。
「……ッッ!!」
「ふぇ!?」
「ホシノ!?」
「ホシノ先輩!?」
それを聞いたホシノは、音が鳴った方向へ駆けていく。
その速度は我武者羅で。まるで何かに憑りつかれたかのような、そんな空気を思わせる焦燥を顕わして駆けていく。
先生とノノミが声を荒げ、ホシノの名を叫ぶも……それは耳に入っていないのか、無視して突っ走るホシノ。
「ど、どういう事ですか…?」
「ホシノ先輩……行っちゃったんだけど」
「ん、状況が読み込めない」
アヤネ、セリカ、シロコは全く状況を読み込めずにいる。
だがノノミは違う。ホシノがあんな風になっている理由を、アルが話す人物を、理解している。
先生は混乱した場を一度整理し、アル達に問う。
「……どうやら時間はないみたいね。アル」
「え?」
「多分だけど君が話す子、見当が付く。アルは私にどうしてほしい?」
「っ………」
「アル」
先生の問いに、アルは言い淀むも……カヨコが肩に手を置く。
振り向けば、カヨコのみならずムツキとハルカも近くに居り、意を付けた表情でアルを見ている。
それは……1人じゃないと、そう言っていると同義。
「────アキトを助けるのを、手伝ってほしいの!」
アルが頭を下げて懇願。もう依頼云々の話じゃない。仲間の危機に、依頼など二の次三の次。
本当はもっと早くお願いするべきだった。だが、アキトの言葉を思い出してしまい、決意が揺らいでしまった。
「────分かった。行きましょう、皆もお願いできる?」
だが先生はアルの懇願に呼吸すると同時に承諾。断る意志など其処には微塵もない。
そのまま振り返り、アビドスの面々に告ぐ。
「うん、分かった」
「よ、よく分かりませんが……承知しました!」
「ホシノ先輩も行っちゃったしね。元より行くしかないんでしょ?じゃあいったろうじゃないの!」
「……はいっ」
そうして、アビドスの子達にも承諾を得た。
便利屋、アビドス、そして先生がその場を後にする。
「……アキトっ」
アルの胸中は穏やかじゃない。
無論アキトを信じている。あの男の力を目の当たりにしたアルだからこそ、その実力は買っている。だけど……あの男。桜庭ケイスケは……底が見えなかった。
恐怖を覚えた。あの瞬足、あの圧力。正に……生来の獣。
アルは形容出来ない嫌な予感を感じながら、面々を引き連れて行く。
▽
”────ガギィィィンッッ……”
「はぁ…はぁ……ん、ゲホッ………はぁ、はぁ……」
「ふ…ふぅ、ゲフッ………はぁ………互いに、満身創痍、か……貴様の言った通りだな、桜庭」
ビチャビチャと、両者の足元に血が滴り、その場には血の池が形成される。
周囲にはクレーターや破壊された廃墟の建造物が離散し、その戦闘の苛烈さを物語っている。
アキトの傷は刺し傷に裂傷、蹴りによるダメージが残り、その身はズダボロだ。
そしてケイスケ。彼もまた甚大なダメージが残っている。斬り傷に合気による亜流からのダメージは身体のあちこちに加えられている。
両者共に血達磨。息を荒げ、満身創痍を顕わす。
「ぺっ……聊か、踊り狂い過ぎた気がするがな……ゲホッ…」
「ふんッ………言葉には責任を持て。貴様の、ゴフッ……悪い癖だぞ」
「余計なお世話だ、ボケェ……」
血を吐きながら軽口を叩くも、互いに武器を振るう力は微弱に近い。
得物は手放していないが、戦う気力は削がれつつある。
これ以上の戦いはメリットがない。
「……まだ戦るか?その先には貴様の死への一本筋、だぞ…ッ」
「私が、お前に?戯言を吐く脳はあるみたいだが……死ぬのはお前だッ」
「そうか、グフッ……遺言はそれで良いんだなッ」
アキトが姿勢を低め、だらりと垂れる左腕を地面に着け、特異な構えを取る。
大剣を後方にし、その双眼は狂気に染まり、ケイスケを捉える。
「紫電一閃ッ。我が最速の一刀……受けるが良いッ」
「……やってみろ、出来るモンならなぁ」
だがケイスケも呼応。彼も姿勢を構える。
その構えは、アキトよりも更に低い。右脚を限界まで後ろに伸ばし、左脚を隆起させ踏み込み音を奏でる。
そして、槍をまるでビリヤードのフォームの様に構える。
桜庭ケイスケ。彼の双眼もまた、狂気に染まる。
「────私の必殺の刺突。受けは通じんぞッ……その生涯に別れを告げろ」
「────死ね」
最早待ったなし。互いの命を懸けた必殺の一撃が、その心臓を耽々と狙っている。
殺し合いの火蓋が幕を下ろす。その一瞬────
「待ってっ!!!」
「ッ!!」
「誰だッ」
声が轟く。
アキト、ケイスケのフォームが崩れ、その隅に居る女を発見。
其処に居たのは……ピンク髪の少女。
「はぁ、はぁ、はぁっ………なに、してるのさ」
「……」
「……アビドス高等学校、3年の小鳥遊ホシノ。何故ここに……まさか、敗れたか。アル達は」
小鳥遊ホシノ、その人が其処に居た。
息を切らし、その惨状を目の当たりにするその眼は……震えている。
アキトの胸中は便利屋の面々が浮かぶ。この少女が居ると云う事は、つまり……。
だがケイスケは違う。若干顔を強張らせる。
「ケイスケ、傷だらけで……っ!…わ、私だよ。久しぶりだね?も、もう!言ったじゃん、喧嘩はダメだよって……」
「………」
「ゆ、ユメ先輩も心配してたんだよ?えと……あ!あ、あっちでも………トリニティでも元気してる?えっと…わ、私達は……うへ、へへ……そ、その」
「……………」
「っ……な、なんか言ってよぉ~。お、おじさん、こういうのあまり得意じゃ────」
「黙れ」
”びくっ”
「ぇ……?」
ホシノの震えた声が響く。
ずっと喉に振動が掛かった声付きで、喋っていた空間を切り裂くには十分な一言。
ケイスケは……無表情のまま、ホシノを見据える。
「下らん戯言を口にするな。空回りな様相をこの私に見せるな……目障り、極まりない」
「え……あっ……ぅぁ…っ?」
「お前の様な女は呼んじゃいない。死にたくなかったら失せろ。それでも此処に残るのであれば……殺す」
冷徹で、死圧。
ケイスケはその双眼をホシノに向け、狂気をぶつける。
「(妙だな……関係があったのは知っていたが、険悪な仲だったか?)」
その2人の超険悪な感じに、アキトは妙な感覚に成る。
彼が元アビドス生だったのは知っている。何があってトリニティに行ったのかは知らないが、ここまでケイスケが負をホシノにぶつけるのは……妙だった。
だが己は部外者。この2人の会話に入る気はない。少し、休めるのもあるが。
「……い…」
「なに?」
「────ごめんなさい……ケイスケ……謝って済む話じゃないのは、分かってるっ……でも、おねがい……わたしの…は、話を……ユメ先輩やノノミちゃんも、貴方と…っ」
「…………」
「……むッ」
ホシノが俯いて、涙を流しながら謝る。
それをただ静かに見据え、黙るケイスケ。
この2人の間にあったのは、相応のモノなのだろう。
アキトはその現場を近くで見ながら……そう思う。
と、同時だ。
「(この気配……9人か。その中には…アル社長。なるほど、そういう事か)」
アキトが気配を感知する。
総数9名が此処へ急速的に向かってくる。その一人をアキトは特定する。
アルが先頭に立ち、向かってくるのが分かった。
恐らく戦闘はせず、アビドスを引き連れているのだろう。もう1人のエネルギーは微弱。つまり先生か。
ここへ来る。もう直ぐだ。
「………ッ!!」
ふと、天空に殺気を感じ取る。
凄まじい勢いで此処へナニかが飛来してくるのを感知。
悍ましい気配……途轍もなく重い、ナニか。
「………小鳥遊」
「あっ……」
”────”
「っ!?うぁ…っ」
瞬間。ケイスケが音を置き去りにする速度で、ホシノの前に立つ。
ソニックブームが起こる程の速度。ホシノの眼に砂埃が入り、目を拭う。
顔を上げる。其処には……ケイスケが、ホシノを見下ろしていた。
「────……」
「え」
なにか、呟いた。
だけど、それを確認するよりも先に……ケイスケは。
”ガシィッ!!”
「うぐっ!?」
「ふんッ」
ホシノの胸倉を掴み、地面に倒れ伏させる。
尻餅を着くホシノ。状況が読み込めず、口を小さくポカンと開ける。
制服に着いた血が冷たく肌に浸透していく感覚。
「来いッ」
”ヒュンッ……”
そして……ケイスケは槍を呼び、振りかざす。
「逢冥ッ!なにを……」
「終いだ。死ね」
その狂槍は、ただ残酷に………ホシノに向かう。
瞬きの間もなく、ホシノは……受け入れる姿勢を取っていた。
アキトが咄嗟に動くも、傷が突っ張り、動きが封じられる。
何故ケイスケがホシノを殺そうとするか分からない。だが、殺す理由が分らないのなら、無駄な殺生は見逃せない。
しかし、この距離は……ダメだ。
「────させへんぞ、ドアホ」
”ドンッ────ガギィィィンッッッ!!!!”
「え…?」
「ッ!貴様は…ッ」
「……神崎」
突如、飛来して来て、早々にケイスケの槍を弾き、ホシノの前に立つ偉丈夫。
独特な方便を用いて【長ドス】を握り、怒気を含ませるその姿は、まるで修羅。
そう、現れたのは……ミレニアムが誇る最強戦力の一角。
────【修羅】の名を冠する怪物。神崎レンその人だ。
「ホシノッ!!」
「ホシノ先輩っ!!」
「っ!み、みんな……?」
そして、間もなくして便利屋、アビドス、そして先生が合流。
ノノミとセリカの声に反応したホシノが顔を上げる。
そのままアビドスの面々はホシノの傍に寄り、支える。
「ッ!この惨状は一体……って、レン!?君もどうして此処に…」
「先生、話は後や。ホシノちゃんを連れて後方に行け」
「っ!う、うん!分かった」
レンは先生にそう命じ、ホシノとアビドスを離れさせる。
だが便利屋……アルは、その場に残り、アキトの方へ行こうとする。
「アキトぉ…っっ!!!」
「ッ!アルちゃん!!」
アルは我武者羅に走り、アキトの方へ走る。
大胆不敵にもレンとケイスケの間を通ってだ……便利屋68は背筋に冷や汗が辿る。ヤバイ。
だが、予想に反して、ケイスケは何もせず、その通りを無視。アルをアキトの下へと行かせる。
「……狂った訳じゃないようやな」
「ゲフッ………主の命に従っているに過ぎん。まぁ、
レンとケイスケの会話。それは、含みがあった。
「あ、アキト!アキトぉ!ちょっとっ…血、血が!血が一杯でっっ!し、死んじゃだめよ…!!」
「アル……まったく、視野が狭くなる癖は、治さなくてはな……っ!ゲホッ…」
「ひっ!!しゃ、喋っちゃだめよっ!ま、待ってて!す、すっ!直ぐにちち、治療するからぁ!」
「……血は筋肉で圧迫し、止めた。治療は必要ない」
「な、なに言ってるのよっ!!ばか!ばかばか!黙って私に応急されなさいよっ!!ひぐっ……こんな怪我してっ………帰ったら説教だからぁ!」
「………分かった」
一方、アルとアキトは怒涛のトーク。
アルが涙を流しながら、無理矢理アキトの服の上から常備していた包帯を巻いて行く。
その作業は拙い。不慣れなのだろう、身が震えているのも相俟って応急は下手っぴだ。
自己的に筋肉を圧迫し、出血は塞いだが……アルの言う通りにした方が良いだろう。
そう思ったアキトは、アルの好きなようにさせる。
「……私達も行こう。ちょっと見てられない」
「そうだねぇ。うーん、これは流石にアッキーが悪いしね」
「アキトさんっっ……こんなに怪我してっ……あの男ッ!許せな…」
「ストップ。ハルカ、今はアキトに集中」
そして、カヨコ、ムツキ、ハルカもアキトに向かう。
流石にアルみたいにあの2人の真ん中を通るような真似はしない。迂回して、だ。
「……神崎。お前が此処に来るとは予想外だな」
「丹花のクズに頼まれてなぁ?嫌な予感がするもんだとか云うて来て、ワイが態々赴いてやったまで。そんで?テメェは一体なにしとんのや」
「ふんッ……先程云った事が全てだ」
「その事やないっちゅうとんねェんッッ!!!!」
低音の声から発せられる怒号。
それは、周囲の人間をレンに集中させるには十分な程、その威圧は凄まじいモノで。
「どうしてホシノちゃんを殺そうとしたッ!!テメェはアビドスの子等を人一倍に思っとったやろぉ!!」
「………私の行動に不意味などない。必要だった、ソレだけの話だ」
「何を抜かし………ッ!!テメェ……」
瞬間。レンが何かを察する。
一同はその会話を聞くも、何も分からない。
「端から
「云った筈だ。不意味はない、と…ゴフッ」
ケイスケの口から血が滴る。
もう限界だ。それに、これ以上の会話は意味を為さない。
そして、ケイスケは……。
「────逃げるとする。最早、此処に居る意味はない……」
「……ワイは追わん。桜庭、この借りはデカいぞ」
「ふんッ……」
背を向き、その場を後にしようとする。
白い制服は背中までも傷を負い、全身を真紅に染めている。
左腕は動いていない。満身創痍のまま、誰からも治療を施されず……歩みを進める。
「ま……待って!」
「待って下さい!ケイスケくん!!」
だが、ケイスケを呼び止める声が響く。
それはホシノ、そしてノノミだ。
「せめて!せめて治療だけでも!その傷は……ダメですよっ!」
「っ……ケイスケぇ」
「………先生」
だが、ケイスケは2人の言葉を無視。
そのまま先生の名を呼び、告げる。
「今度、俺から貴方に情報を送る」
「……ケイスケ、2人の話も…」
「聞け。この惨状を引き起こした責任を負う、そのつもりでは居るって事だ。先生、貴方が中心に立ってくれ…ゴフッ……要件は言った。では、失礼する」
「待って!ケイスケく……きゃっ!!」
”ドヒュンッッッ!!!!”
そして、ケイスケは凄まじい速度でその場を後にする。
其処に居た痕跡は、彼が残した血痕のみ。
何処へ行ったかも分からぬまま……ケイスケは、姿を消した。
「……ケイスケ、くん…っっ」
「………」
ノノミとホシノはその場にしゃがみ込み、俯く。
其処に在るのは、絶望。
2人はどんよりした空気を漂わせる。それは、あの元気だった2人からは考えられないほどだ。
アビドスの面々は、その様相を、ただ静かに……でも寄り添って。
「ホシノ先輩……」
「ノノミ……」
「お二人とも……大丈夫、ですか?」
2人の身体を支える。
それしか、今は出来ないからだ。
先生はホシノとノノミをアビドスに任せ、レンに近付く。
「ふぅ……面倒な事になってもうたなぁ」
「レン、ごめん助かった。来てくれてありがとう」
「えぇよ。気にせんで……ただ、先生」
「ん?」
レンは続ける。
「────便利屋の嬢ちゃん等はもう行ってもうたが、えぇんか?」
「え?……あっ」
バッ!とアキトが居た場所を見る。
そこには、もう便利屋68の姿はなかった。
恐らく、アキトを病院へ行かせる為なのだろう。逃げ足の速い事だと、先生はそう思う。
「……アキトも酷い怪我だった。心配ね……」
「その必要はあらへんぞ。ワイ等からしたら、あんな怪我は常日頃や。殺し合いの決着が着かんのもな」
「私としては、喧嘩はしないでほしいんだけど……」
「無理やな。細胞レベルでワイ等は殺し合う。そういう運命と思わざるを得んな」
だから────超級の危険人物。
そう云われる意味は、そこにあった。
剛拳の怪物…丹花シンタロウ。
彗星の貴公子…桜庭ケイスケ。
古流武術の天才…神崎レン。
そして、超級の危険人物には入らずとも、その危険性は彼等と同義の傑物。
地獄の番人…逢冥アキト。
この4人は、何処まで行こうと……そういう人種なのだ。
「……ワイの役目も終えた。ほな、後は先生に任せるで」
「待って、レン」
「おん?」
レンがその場を後にしようとした瞬間、先生が呼び止める。
「最後、レンは気付いて居たね。ケイスケの意図を」
「……おう」
「隠さず教えて欲しい。どうしてケイスケはあんな真似を……ホシノを襲ったの?」
レンが一呼吸おいて、告げる。
「ワイからはその意思を言う事はできん。せやけど、一つ言えるとすれば」
レンは続ける。
「────全て、アビドスの為だと……そう断言できる」
「え?」
「後はあのクズ野郎から何か来るやろ。それまで、先生はこのアビドスの面倒を見ぃ。ほな」
そして、レンも途轍もない速度でその場を後にする。
まるで逃げる様に…。
「……ケイスケ」
先生の口からケイスケの名が発せられる。
それは、愁いを帯びていた。アビドスの問題も解決しなければいけないのに、イレギュラーが発生してしまったのだ。
少々、疲れてしまった。
だけど、休む時間はない。先生はホシノたちの下へ行く。
「ホシノ、大丈夫?」
「……うん。ごめんね先生、皆」
「大丈夫だよ。ノノミも大丈夫?」
「はい……私は大丈夫です。ご迷惑をお掛けしてしまい、すみません」
「いいのよ。でも、みんな疲れたでしょう。戻って休みましょう。ね?」
「…………うん」
そうして、面々は校舎に戻っていく。
皆の心の中には、ぽっかり穴が空いた感覚が襲う。
ホシノとノノミは、ケイスケの何なのか。
何もかもが分からない。
その事を聞くのは……早計だろう。
先生含め、アヤネ、セリカ、シロコは……今のノノミとホシノを見て、その事を問いただす事は、出来なかった。
▽
そして、ケイスケは……。
「────ケイスケさん。訳を聞きましょうか」
「……申し訳御座いません、桐藤さま」
場所はトリニティ総合学園。
ティーパーティーの一室であり、ナギサの部屋だ。
そこにケイスケは到着した……ボロボロの状態で。
白いトリニティの制服は全身が血で染まり、口元は血反吐の後が残り、左腕は力なく垂れている。
ある程度の応急処置は施されているが、それまで。その姿は死線を生き抜いた猛者のモノ。
「(しくったな……学校に戻るつもりはなかったんだが、桐藤さまの命令に背く事は出来ん……だが、状況は最悪だ)」
「ケイスケさん。その怪我は、一体どういう事なのでしょうか?」
「……」
本当は、ケイスケは自宅に戻り自分で全ての傷の箇所を処置しようとしていた。
制服も予備がある。この左腕も処置をし、骨と神経を神秘で繋げればギリギリ動く算段だった。
だが……道中、ナギサから呼び出しを受けたのだ。
『────今直ぐ、学園に来なさい』
その声は、まるで己のしようとしていた事を見透かしていたかのようで。
いや……そうなんだろう。彼女の眼は、己を常に見ている。
何故かは不明だが、ケイスケは…彼女に対し、形容出来ない畏怖を抱いている。
「私は言った筈です。必ず無事に帰還しろと……怪我を一掠りでもしたら、分かるか…と。忘れてしまったとは言わせませんよ?」
「………申し訳御座いません。命に背き、任務も失敗……謝って済む話ではない事、痛く理解しております」
「任務は二の次です。私は貴方が無理をし、此処までボロボロに成った事に対し憤りを覚えています。何故、私の命に背いたのですか?」
「………」
「答えなさい」
圧。ケイスケを見上げるその眼は、凄まじく重い。
ケイスケは……呼吸を整え、告げる。
「逢冥アキト……奴の力を、私は見誤っていました。あの男は便利屋の為ならば命を懸ける底力を持っていました。それに、私は充てられてしまい……傷を負っても戦闘を続行しました」
「ふむ」
「そ、それで、戦闘不能にまでは追い込めは出来なかったモノの、私と同様の怪我は負わせる事は出来ました」
「……それで?」
「………ほ、報告は…以上です」
ケイスケは眼の前のナギサに恐怖を覚える。
詰めるナギサの様相は中々に強烈だ。本心しか言えなくなる。
それもこれも、彼女が己の秘密を握っているからだ。強く出れない。
「ふぅ……いえ、この際貴方が帰還しただけでも良しとしましょう」
「……ありがとう御座います」
「では、上着を脱いで下さい」
ケイスケの目が見開かれる。
その発言は彼からすれば余りに唐突。一瞬声に詰まるも…。
「……承知、しました」
ナギサの圧に、押される。
これはどうしようもない。ケイスケは言い付け通り、上着を脱ぐ。
制服、そしてYシャツ。その下には……何も着ていないので、必然と上裸となる。
「……何とも、凄惨な姿ですね」
「お見苦しいモノを御見せしてしまい、申し訳……ッ」
そこには、包帯で隠されているが、血が滲んだ凄惨な身が露出されていた。
左腕は特に酷い。包帯で抑えられないほど、出血している。
すると、ナギサがケイスケに近付く。
「うッ…くぁ…なにをッ」
「静かに……ふむ、ここも、ここも、何処を見ても傷だらけ……彗星の貴公子の名が廃りますね?」
なんとナギサはケイスケを押し倒し、部屋のベットに寝かせる。
そして、腕、胸を指でなぞる。その仕草は妙に艶やかだ。
ケイスケの身に激痛が走る。思わず顔をしかめてしまう。
「ふ、グぁぁッ……」
「……珍しい事もあるものですね。今まで私の命には従順だった騎士だった貴方が、この盤面で初めて背くだなんて」
「グァ……ッ…申し訳、御座いません…ッ」
「もう怒っていないので、謝る必要は御座いません」
「……承知…しました」
何がしたいのか、ケイスケは分からない。
ナギサは執拗にケイスケの傷を負った箇所を指先で撫でる。その度に、ケイスケは声を漏らす。
「ふっ……っ……うぐっ!?」
「あぁ、申し訳御座いません。やはり左腕は特に酷いようですね」
「ッッ……問題ありません。桐藤さまがお気に召すまで、お触り下さい……」
”ぞくっ……”
ナギサの自身すら自覚していない、開けてはならぬ扉が開きかける。
全身を巡る加虐性を抑える。これは、トリニティの長として、抑えなければいけない。
だが……今のケイスケを見る。
「……グッ……あ、くぅ……ふぅ…ッ」
「………貴方はワザとやっているんですか?」
「??……なにを、でしょうか…?」
「いえ、何でもありません……」
この顔で、この体躯。実力もトリニティでは最強に並べられている。
そして何より、この男は自身に対し従僕だ。
桜庭ケイスケと云う男が、自分の手元にある強い独占欲。
ナギサは既に……この男に、狂っている。
「立てますか?ケイスケさん」
「ッッ…えぇ」
「お戯れに付き合って下さりありがとう御座います。服も着て構いません」
「はい……」
ケイスケを立たせ、服を着る許可をする。
顔色が来た時よりも悪くなっているケイスケを見て、流石にやり過ぎたと心の中で反省する。
「まだまだ言いたい事は山程ですが、今は救護騎士団の医院へ赴き適切な治療を受けて下さい」
「はいっ……感謝いたします」
そのままケイスケは部屋のドアまで向かう。
覚束ない歩みで、ナギサに支えられながら。
「ふふ、お供しましょうか?」
「…い、いえ。桐藤さまの御手を煩わせる訳にはいきません……ですが、御厚意…か、感謝します」
「いいえ。では、外に居る側近の案内の下、治療を受けて下さい。依頼の報酬は例の口座に振り込みますので御心配なく。あと、治療の期間が判明しましたら直ぐ私に」
「承知しました。では、失礼します……」
”バタンッ……”
そして、ケイスケは部屋を後にする。
1人残ったナギサは一息ついた後、ベットに眼を向ける。
「………」
ベットにはケイスケの血が少し残っている。
当たり前だ。寧ろ、全面的に付着していないのが不思議なほど彼は大怪我を負っている。
背中の傷はそこまで深くなかったのだろう。だが、やはり胸と左腕は酷かったからか、ベットにはその箇所から垂れるであろう血が付着している。
「……まだ理解していないようですね。貴方自身の立場を」
ナギサはその血痕を指で触れる。
もう冷たい血の感触が伝わってくる。
その声質は、綺麗なボイスを誇る彼女らしからぬ低さがあった。
「アビドスにまだ心が拠っているのは、えぇ…構いません。貴方は優しい殿方ですから。少しの戯れは許しましょう……ですが、貴方は私のモノ。それを忘れてはいけません」
シーツを握る。特有の握音が鳴る。
「────少し教育が必要なようですね……ケイスケさん」
その瞳には、ハイライトが消え……深い独占欲が見えていた。
次回
陸八魔アル、大泣き。
因みにナギサ様はベットを少し愉しんだのち、ちゃんと変えました。