三馬鹿がキヴォトスを巻き込むだけの話。   作:カブトムシの相棒

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お待たせしました。時間、確保、難しい。


では、本編です。


変態には釘バット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────おや?貴方は」

「おはよう御座います『羽川』さま。今日も麗しい貴女さまにお会い出来た事、大変嬉しく思います」

「うふふ。えぇ、おはよう御座います。今日もそう言って頂きありがとう御座います」

 

 

 

トリニティ校内。そのとある廊下にて、正義実現委員会の【副委員長】である『羽川ハスミ』とケイスケが挨拶を交わしていた。

 

ケイスケはいつもの調子で、規律正しくトリニティ生に接する。先刻まで酔いどれだった彼は何処へやら、髪型に服装、香水を用いた匂いまでトリニティ生に変貌している。

 

ハスミも、そんな彼にはかなりの信頼を置いている。巷では【超級の危険人物の一角】と恐れられているが、彼はその中でも安心の類だ。

 

どうして彼がそう云われているのか、それは他のクズ共二名との相性が悪く、よく喧嘩をしてしまう事から云われている。故に巻き込まれている。

 

……と、ハスミを含む殆どのトリニティ生は桜庭ケイスケを大いに信頼し、早急に【超級の危険人物】というレッテルの撤廃を求めている。彼もシンプルにクズの類ではあるのだが。

 

 

 

「何やら朝からお騒がしいようですが、なにかあったのでしょうか?」

「はい……実は、校門前のベンチにてゲヘナの生徒が寝ておりまして」

「ゲヘナの生徒がですか?それはまた、妙なチャレンジャーがいたものですね」

「えぇ、本当に……それも、下着姿で熟睡していたのですから。怒りを通り越して最早呆れてしまいます」

「ん?(嫌な予感を察知)」

 

 

 

ケイスケが登校すると、校門前で正実の皆々が騒がしいのを見聞したケイスケは、何が有ったのかをハスミの口から聞く。

 

話を聞くに、どうやらゲヘナ生が校門前のベンチで爆睡していたらしい。

それも……下着姿で。

 

そう聞けば、男からしたらまぁまぁな役得だろう。そんな変態が居れば、少しは見て見たい物だ。

 

だが、何故だろう……なにか形容出来ない嫌な予感がするのは。

 

 

 

「……差し支えなければ、その者のお名前をお伺いしても?」

「それは、その……そうですね。言いましょう。貴方とは大きな【因縁】がある者、とだけ」

 

 

 

確定だ。

 

 

 

「(あのクソ野郎ッ……なんつう愚行を…ッ!)」

 

 

 

ゲヘナ生、下着姿、そして己に対する因縁。

 

それだけで特定できる。そいつはシンタロウだ。この世で一番のアホだ。

ケイスケは深く溜息を吐き、教えたハスミに礼を言う。

 

 

 

「ふぅ……あの愚か者が、大変な御迷惑をおかけした様ですね。大変申し訳ございません……」

「い、いえいえ!!なにを仰るのです!貴方は何も悪くないではありませんかっ」

「いえ、コレはあの男を抑えきれなかった私にも責任が御座います。私と彼には底知らぬ因縁があり、このトリニティでゲヘナ生である彼と多く交流しているのは間違いなく私です。そんな私が、彼の愚行を知らなかったとはいえ、抑えきれなかったのには確かな責任が御座います」

「責任だなんて……もう一度言いますが、貴方は何も悪くありません。過ちを犯していない貴方が謝るなんて事は……」

「羽川さま、貴女は本当にお優しい。ですが、それでも私の責任と自負しております。なのでどうか……謝らせて下さい」

「ケイスケさん……」

 

 

 

ハスミは意味が分からないだろう。どうして、ケイスケに責任があるのか。

だがケイスケはマジで謝っている。それはそうだ、彼が下着姿で爆睡しているのには、己ともう一人のゴミが招いたとも云えるからだ。

 

 

 

「(そう言えばゴミ野郎も起きたら居なかったな……それも心残りだが、今は…)」

 

 

 

ケイスケはレンの所在も気になるが、今はシンタロウだ。

ハスミに問う。

 

 

 

「羽川さま、エデン条約が後を控える中、これを公にするのは些かマズイ。なのでどうか、此処は私にお任せ頂けないでしょうか」

「は、はい……?」

「彼は【剛拳】と謳われる男、その実力は私と同格です。3年前にはブラックマーケットで【最強の傭兵】として、単独で裏社会を恐怖のドン底に陥れた怪物です。下手に暴れれば『剣先』さまでも抑える事は不可能です。私とてあの男と真正面からは殺し合いたくはありません」

 

 

 

そう言うケイスケの眼は真剣だ。

そこには騙りも誇張もない。

 

最悪の怪物を暴れさせてはならないと言い聞かせる、彼を知る者だからこその発言だ。

 

 

 

「(────最強、ですか……それは貴方にも言えた事でしょうに)」

 

 

 

そう思うはハスミ。

 

彼女もまたケイスケの戦闘性を理解している。

そう、ケイスケも【神脚】と呼ばれる程の実力者。3年であるハスミとツルギは彼の戦闘性……否。

 

 

 

────【狂気性】を理解している。

 

 

 

「ですが私はあの男と一定の関係はあります。それに話し合いが出来ない者ではないので、一度会話の時間を設けさせて頂きたい。まだゲヘナ学園にはこの事をお伝えしていなければ、ですが」

「……承知しました。ゲヘナにはまだ伝達はしていませんので、特例ですが貴方にこの件をお任せ致します」

 

 

 

許可を得た。まさか、ハスミからの特例過ぎる指令だ。

分類では一般生徒のケイスケに、だ。

 

 

 

「ありがとう御座います。しかし、こう言っては何ですが宜しいのでしょうか?私の様な一般の生徒に任せて」

「一般……えぇ、肩書はそうでしょう。ですが我々正義実現委員会から見た貴方は一人の部員です。それ故の対応と思って下されば」

「……私は、貴女さまや皆様の様な正義の心は持ち合わせておりません。正義実現委員会に悪なる者をお届けするのは、飽く迄も見かけたからです」

「それが良いのです。それだけで貴方はとても立派で、心に正義を持ち合わせています。なので、どうか……正義実現委員会に入りたくなったら私にお声掛け下さいね」

「………身に余る御言葉です。検討、させて頂きますね」

 

 

 

そう、彼は【正義実現委員会】から正式にオファーを受けている。

 

【神脚】や【彗星の貴公子】と云う異名の通り、銃撃に脚技を用いた彼の戦闘力はキヴォトスでも随一と云える。

 

その実力は『剣先ツルギ』をも凌ぎ、真のトリニティ最高戦力とまで云われてるほどだ。

そんな彼と同格である丹花シンタロウもまた、ゲヘナ最高戦力と云われているが。

 

トリニティでも群を抜いて武闘派のケイスケが正義実現委員会に勧誘を受けるのは至極真っ当の理由だ。だが彼は、首を縦には振らない。

 

……振れられないのだ。

 

 

だって……己には。

 

 

 

 

 

 

”キンコーン!”

 

 

 

「おや?」

「これは……」

 

 

 

ふと、心の中で靄が発生した。

だがその瞬間、校内放送の合図とも呼べる電子音が鳴り響く。

 

それは……正に、タイムリー。

 

 

 

『校内放送!校内放送っす!!正義実現委員会のイチカから緊急の伝達!明朝校門前にてひっ捕らえた変態…じゃない!!いや変態ではあって、えっと!!違うっす!その…正義実現委員会の要する檻で投獄していた丹花シンタロウが脱走したっす!!特徴を伝達するっす!!男性、身長は190後半、髪は全体的に黒で前髪に一本の黄色メッシュ、左脇腹と背中に火傷痕!顔はヤクザ!!パンツ一丁!!!筋肉モリモリマッチョマンのド変態っす!!!!見つけ次第ぶっ殺……じゃなくって!我々正義実現委員会に通報をお願いします!!あーホントにあの男ッ、チッ!あァッ!!!』

 

 

 

”プツッ……”

 

 

 

校内放送の主はイチカだ。

どうやらシンタロウが檻から脱走したらしい。まぁ、何か想像は出来たが。

 

最後にイチカの怨嗟が混じっていた。あれは相当ブチギレてる。

 

 

 

「………」

「……羽川さま」

「あっ、す、すみません。イチカの憤怒が想像以上で、些か驚愕を隠せませんでした……」

「彼女の怒りは至極当然です。我々も捜索にあたりましょう。では、私は此方を」

「は、はい」

 

 

 

ゲヘナ嫌いで有名なハスミだが、自分以上に怒ってそうなイチカの放送に少し冷静になってしまう。

 

あんなイチカの激情の声、初めてだ。ハスミは少しイチカの様子が気になり、捜索よりも先に最速で放送室へと向かった。

 

 

そうして、ケイスケはシンタロウと云うこの世で最もアホな狂人を捜索しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────はぁ、はぁ、はぁ……これは、まずい」

 

 

 

どうも、この世で一番の逆境に居るシンタロウです。

俺は今、マジの窮地に居る。

 

 

 

「………………」

 

 

 

”カラララララララララララ………”

 

 

 

「あ、あの、イチカ先輩……」

「見つけたっすか?」

「い、いえ!その、それはまだ何ですが……その【釘バット】は一体…?」

「決まってるじゃないすか。武器っすよ、武器。190を軽く超える大男なド変態が相手っすよ?銃だけじゃ心許ないじゃないすか。これくらいの武装はしないと」

「あ、はい……」

「じゃあ、私はアッチを見て来るんで。見つけ次第ブチ殺し………半殺しか、私に通報をお願いっす」

「は…はいっ!」

 

 

 

近くの茂みにて身を潜め、その会話を聞く俺。

イチカさんとその後輩さんの会話は俺に冷や汗を流すには十分過ぎた。

 

ヤバイ、イチカさん俺のことマジで殺そうとしてる。

 

クソ、何がダメだった?思い出せ、俺の行動を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

檻の中にて……。

 

 

 

 

 

『イチカさん!俺が悪かった!だから勘弁してくれ俺を解放しろ!』

『は?なんすか大犯罪者。いや害虫。ここで殺処分されないだけマシだと思うっすよ』

『怖すぎん?ってかちょっと待て!誤解なんだ!』

『誤解?私の制服を脱げと脅した事になんの誤解があるんすか?』

 

『だからそれが誤解だ!俺は、俺は只ッ────イチカさんの服を着たかっただけなんだ!!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おかしい。俺は何も悪くない筈だ。俺とイチカさんは親友、助け合いは必要だろうに……なぜ服を寄越さなかった?機嫌悪いにしては酷いぜイチカさん」

 

 

 

だめだ、どう考えても今日はイチカさんの機嫌が悪かったとしか思えん。

クソ!もしかしたら女の子の日なのかもな。だったら仕方ない。後で温かいココアで送ってあげよう。

 

……いや、先ずはどうやってこの窮地を乗り越えるかだ。

 

 

 

「シンタロウさ~ん。どこっすか~?私は何もしないっすよ~」

「(なに?じゃあ、いや……そう言ってるが…なんか)」

 

 

 

嫌な予感がする。俺は少し待ってみた。

すると、俺の近くにある松の木に枝が一つ落ちた。

恐らく風か何かで落ちたのだろう……と、思った瞬間だ。

 

 

 

「シッ!!!!」

 

 

 

”バゴォォォォン……ギギギ、ドズゥゥン…ッッ”

 

 

 

「ッ!?!?ッ、ッッ!!………ッ」

「……気の所為っすか」

 

 

 

い……イチカさんが釘バットを横にフルスイングして来た。

そのまま松の木が圧し折れた。や、ヤベェ……ガチでヤベェ!!!

 

ってかやっぱ嘘じゃん!俺を殺す気満々じゃん!

 

俺はそのまま、何とか息を殺してイチカさんの背中が遠くなるのを見届けた。

 

何とかつないだ命。だが、どうするか……。

 

 

 

「何やってんだお前」

「うぃぃいぃ!?……って、何だテメェか。マジで終わったかと思ったわ」

 

 

 

横から話しかけられた、終わった……そう思っていた時期が、俺にもありました。

何と此処に来て強力な助っ人だ!まさかまさかの桜庭!!熱すぎワロタ。

 

 

 

「さっきアッチで殺気爆発させてる仲正さまを見かけたが、なんだお前?結構マジでヤバい事でもしたのか?」

「いやそれが、俺にもよく分からないんだよ……パンツ一丁なのは何か許されたっぽいんだがなァ」

「ゲヘナなら兎も角、よくもまぁトリニティの生徒にその姿を許されたな」

「いや多分イチカさんだけだと思う」

 

 

 

桜庭と軽く話し合う。

正直今すぐにでもトリニティから脱出しなくてはマズい。ぶっちゃけ俺なら最速でゲヘナに帰還が出来るんだが……問題がある。

 

 

 

「なぁ桜庭、マジで頼む。助けてくれ」

「羽川さまに頼まれたから仕方なく助けてやる。ってかお前、第一としてあの仲正さまを怒らせるってどういう事だよ」

「だから分からないんだって……強いて言うならば、アレじゃないか?女の子の日ってヤツ」

「お前なぁ……まぁだが、もしかしたらそれも重なって色々と爆発してるのかもな」

「そうなのかもな……だがそれにしてもじゃないか?」

 

 

 

俺は続ける。

 

 

 

「ただ俺は、イチカさんの服を着たかっただけなのによ」

「正義実現委員会の皆さーん!!」

Wait(待てぇぇ)!!!」

 

 

 

いきなり裏切ったクソ野郎を何とか引き留め、詰める。

 

 

 

「おいこらテメェェ……どういう了見だ!アァ!?」

「気が変わった、お前は地獄に落ちた方が良い。この世の為にもな」

「ッざけんなぁ!!先にテメェを地獄に送ってやろうかァ!?」

「そんな叫んで良いのか?ん?コッチはいつでもお前を冥途に送れるんだぞ?」

「ギッ!!!こ……この野郎ッッ…!!」

 

 

 

云えてる。

 

腸が煮えくり返る思いだが、俺は今、このクズ野郎に命の糸を握られているのだ。

コイツの気分次第で俺は生きるし、死ぬ。クソがッ…何て屈辱だッ。

 

今はコイツの言う通りに従うしか……あークソ!ごみごみ!

 

 

 

「あー何て気持ち良いんだ……お前を地の底に伏せさせているこの状況。快ッ感!」

「フグの毒で昏睡状態にした後に豚の餌にして……」

「おーい!此処だz」

「ジョークジョーク!ゲヘナジョーク!!だから許して下さい!」

「くっふははは!あぁ、いいぞ?」

 

 

 

耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!!!

このゴミクズを殺すのは後だ、今はこの屈辱を前に、何とか堪え切れ……絶対に殺す。

 

 

 

「助けてくれるんだろ?ただテメェには一つお願いがある」

「なんだ?」

「────俺の携帯を取り返してほしいんだ」

 

 

 

実は何だが、俺は携帯を無くしている。

恐らくだが正実の保管庫的な場所に置かれている筈だ。ないって事は。

 

携帯が無きゃイブキの送迎の連絡が出来なくなる。あと『フウカ』さんと『ジュリ』さんの手伝いの有無が来てる可能性がある。

 

色々となきゃマズいんだよな……なんか来てたらどうしよう。

 

 

 

「あぁ、これだろ?」

「そうそう、それを取り返しに…………うぇ!?」

 

 

 

だが何と、桜庭が持っていたのは俺の携帯だ。

マジか!?なんで!?

 

 

 

「お前、普通に私の家に置きっぱだったぞ」

「桜庭ぁ……」

「気持ち悪い声だしてんじゃねぇよ、ホラ」

「ありがとう……流石にこれには感謝しか出来んッ!」

「言葉遣いが変だがまぁいい」

 

 

 

普通に桜庭の家に忘れていたらしい。

だが持っていたのがデカい!偶には使えるじゃねえかこのクズも。

 

さて、直ぐに確認しなくては。

 

 

 

「ちょいとモモトークを開くぜ」

「要件を伝える様な相手が居るのか?お前に」

「黙れ、2,3人は居るわ」

「そ、そうか」

「んで、っと……おん?」

 

 

 

確認すると、なんとイブキとフウカさんから不通に来ていた。

イブキは兎も角、フウカさんは珍しいな。なんだ?

 

しかも不在着信だし……何かあったのか?

 

 

 

「フウカさんから不在着信が来てるわ」

「愛清さまから?」

「あぁ、なんか珍しいな……掛けるか」

 

 

 

因みにだが、桜庭はフウカさんとはそれなりの仲だ。

俺と桜庭はちょくちょくゲヘナの食堂で飯を食う。本当は神崎のカスも…いやアイツを本命に呼びたかったんだが、如何せん、フウカさんと神崎の間柄が中々面倒くさい。

 

桜庭はお忍びで行くから本来はコッチの方が緊張感がある筈なんだけどなぁ……ってかあの感じ、フウカさんはツンデレっぽくなっちゃってる感じなんだよな。マジでしゃらくせえわ。

 

まぁ今はこの話はいい。取り合えず……掛けるか。

 

 

 

”プルルルルルル……プルルルル…ピッ”

 

 

 

『けほ……あ、もしもし?シンタロウ…?』

「ようフウカさん、元気?じゃなさそうだな?」

『うん、そう……ごめんなさい、ちょっとっ…げほっ!けほ……風邪引いちゃったっぽくって…』

「やっぱそうか、そんな気がしたわ。じゃあ今日の食堂は俺メインで良いのか?」

『ケホッ…本当に、ごめん……必ず、御礼はするから』

「いや別にそれは良いよ。まーアレだ、信頼できる奴にフウカさんの部屋に何か食えそうなやつ送らせるわ」

『え?い、いや、流石にそこまでじゃ……』

「病人が図に乗んじゃねえ。いいからフウカさんは黙って俺に従っとけ。んで大人しく寝とけ、良いな?」

『うっ…はい』

 

 

 

こういうヤツは人の好意を申し訳なく思うタイプだ。

謙遜は美徳だが、こういう場面ではクソだ。フウカさんの様なタイプは意外とそういうのが分からんからな。

 

 

 

『じゃあ、お願いしようかしら……』

「あぁ、任せとけ。優秀な人材送ってやっから。じゃあジュリさんには俺から云っとくから、安静にしろ。じゃあな」

 

 

 

そうして、俺はフウカさんの電話を切った。

ここまで口酸っぱく云えば大丈夫だろう。料理中毒なフウカさんでも、流石にな。

 

 

 

「愛清さま、やはり風邪だったか」

「多忙の身だ、仕方ない……で済ますには聊か問題だが、あの生活送ってたら風邪は引きやすくなるだろうな。心配だがヤツを向かわせる」

「まさか、神崎か?」

「ご名答」

 

 

 

流石は桜庭、察したようだ。

俺も桜庭も、実を言うとフウカさんと神崎のロリコンにはかなり辟易していた。

 

例を出そう。

 

いつの日か、こんな会話があった。

 

 

 

『────だから!私は別に、レン君の事が嫌いとかそんなんじゃなくってね?行き違いや、レン君が……色々あって、どうしようもない時があったのは理解しているつもり。だけど先に突き放したのは彼の方よ!?私は彼が辛い時にでも傍で支えるつもりだったの!なのに彼は……ん~~~!!なんかムカムカしてきた!ちょっとあんた達!』

『は、はい』

『なんでしょう愛清さま』

『何が愛清さまよ!遜ってないで、早くレン君のクソボケなロリコンを連れて来なさいよ!あのロリコンをぉ!!』

『いや~、その……それが頑なにあの馬鹿、フウカさんには会わないと言ってだな…────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……御飯を頂きに来ただけで凄まじい愛憎を喰らったよな、私たち」

「フウカさんは何がどうしてあんな性犯罪者を好きに成ったんだろな、いやマジで」

「幼少期からの仲とは聞いているが、何と云うか……難儀だよな」

 

 

 

どちらかというとフウカさんの方が面倒くさい感じだ。

とはいえ、いい加減俺に神崎のバカの近況を聞くのは辞めてほしいので、腹が立つが此処は少し背を押してやる。

 

 

 

”プルルルルルル……ピッ”

 

 

 

『うーい、なんやクソガキ』

「よぅゴミクズ。生きてたか、クソが。いま何処に居んだよ」

『ゲヘナや。今日ワイの部活で作った工作機器の発表があんねん、もう終わったけど』

「あ?マジ?ゲヘナに居んの?あの飲み会の後にすげーなテメェ……しかし丁度いいな」

『は?なんや、今日は飲まへんぞ流石に』

「分かってる、俺も暫くは良い。今だって後悔してんだ色々と……まぁそれはいい。お前にちょいと頼みたい事がある」

『頼みたい事?』

 

 

 

そう、その人物はレン。

先刻まで飲みに飲んで死んでいた者の一人。どうやら今日は彼が入部している【工作部】の発表があったらしい。それなのに昨日と今日で飲んでいたという事実。最早狂人だ。

 

話を戻すが、シンタロウがレンにお願いする事、それは勿論。

 

 

 

「あぁ、実は何だがフウカさん風邪引いたっぽくってな。癪だがテメェに見舞いを頼みたいんだわ。ってか行け」

『おーそれなら別にえぇ…で………………は?』

「住所と部屋の番号は送った。寮だから気を付けろよ?じゃあな」

『は…はぁ!?ちょ、お、おい待てコラァ!!テメェなにしとんねん!!ワ、ワイがフウカちゃんの所に!?な、なんでや!!ワイが行ったら色々ヤバいやろが!テメェが行けやボケェ!!!』

「俺はパンツ一丁でトリニティに行った所為でイチカさんに捕まってレ〇プされて身心共に限界なんだわ。悪いな」

『なんやと!?なんつー羨ましいこと……ってちょっと待てぇ!!な訳ないやろ!なんちゅう下らん嘘ついてんじゃテメェは!!』

「少なくともパンツ一丁で捕まったのはマジだ。つべこべ言わずに行けクソ野郎ッッ!フウカさんも気にしてたんだクズがッ!じゃあな、死ね」

『ちょっ!!まっ、テメェェェェェ!!!!』

 

 

 

”プツッ”

 

 

 

そうして、シンタロウはレンに後を託し、電話を切った。

コールが掛からないよう、電源もオフにして。

 

 

 

「どうなると思う?」

「私は門前払いされるに賭ける」

「俺は入れて貰えるが直ぐに帰るだな」

「金は?」

コレ()でどうよ」

「200万か?」

「いやあの、トリニティ基準で考えないでほしいんだが?2万だよ2万」

 

 

 

賭け金、いや金に関すると桜庭とは価値観の相違が生じる。

 

元はと云えば桜庭はとある組織の人体実験のモルモットだった男だ。

鳥羽がある様な、列記としたトリニティ生ではなかったんだがな。染まったもんだなコイツも。

 

……アビドスの借金だったっけ?もうかなり近づいてると聞いたが、どうなんだ?

 

 

 

「酒の奢りで良い。因みにどっちも違ったら割り勘な」

「そうだな。あー、昨日と今日であんな飲んだのにもう飲みたくなってきた」

「キンキンに冷えた缶ビールと、俺が捌いた刺身に焼いた鶏皮煎餅……ワインには馬刺しも良いな」

「本当にヤメロ。今日も飲みたくなるだろ」

「いや悪い。あ、でもちょっと気になったんだがよ?結局〈熱燗〉に一番合うつまみって豚鍋なんかな?」

「いや~私は冷奴だと思うぞ?神崎は雷こんにゃくって言ってたが」

「なんの話をしてるんすか?」

「いやぁ、実は熱燗に合うつまみで馬鹿共と議論しててよ?俺は………………ん?」

 

 

 

……あれ?今、俺って桜庭とサシで話してたよな?

なんか、一人増えてね?

 

……このアサガオを想起させる匂い、圧倒的ではないが骨身に絡みつく様な粘っこい存在感。

 

……いやイチカさんだがな。

 

あ、俺、死んだかも☆

 

 

 

「シンタロウさんから妙にお酒?みたいな匂いがするな~と思ってたら、そういう事っすか」

「あ、すぅ……」

「お、お疲れ様です仲正さま。今宵もとても綺麗な御姿でいらっしゃいm」

「まだ午前9時っすよ、同類さん?」

「………」

「まぁ、いいっすよ貴方は。ケイスケさんはトリニティでも優等生。しかも私たち正義実現委員会の活動に一役買っていくれていますもんね。一つや二つくらいの欠点があっても私は責められませんよ……まぁ、今回は些か頂けませんが、今は良いっす。ただ……」

 

 

 

ケイスケも同じだ、イチカさんはコイツを俺と同じ人間だと決定した。

ヤバイ。これはヤバイ。マジでエグイぞ…ッ。

 

なにがヤバいって……イチカさんの顔だ。

 

 

 

「────新学期早々、なんで私はゲヘナ生の貴方に振り回されなきゃいけないんすかねぇ~?」

「い…いや~!それ程でm…あぶっ!!」

「ハスミ先輩の命令に背いちゃうっすけど、ま、良いっすよね……貴方をぶっ殺しても!」

 

 

 

イチカさんが俺の頬を片手で掴む。

マズい、マズすぎる。俺マジで殺されるぞこれ!

 

 

 

「ま、ままま待へ!!はっ!話しぇば分かる!!」

「ふ~ん?なにが、分かるんすか?」

「ぶはっ!!お、俺の無実だ!」

「いま現在進行形で犯罪なんすよ貴方。下着姿でよくもまぁトリニティに居られますね?」

「じゃあ俺を助けると思って服を貸してくれ!!俺とイチカさんの仲じゃねぇか!!」

 

 

 

”ピキッ”

 

 

 

瞬間、イチカさんのコメカミに青筋が走る。

 

 

 

「ッ!ふざけんなっす!誰が貴方なんかに貸すもんか!第一貴方に私のサイズが合う訳ないでしょ!」

「ッ!!た、確かに……じゃ、じゃあどうすれば!?」

「……私以外にも居るっすよね?隣に」

「あのなイチカさん。桜庭が俺に服を貸すと思うか?」

「死んでも無理で御座います」

「仲良いのか悪いのかどっちなんすか貴方たちは!?あーもう!!コッチに来るっす!」

 

 

 

イチカさんが俺の腕を掴む。

そのまま立たされ、ズルズルと歩く。

 

この感じ、また俺はあの檻に入れられるのか?

 

 

 

「また檻か?」

「本来なら檻に入れてヴァルキューレかゲヘナに突き出すっすけど、今回は許すっす!ですがその恰好は余りにマズいので、わ……ぅ……私の体操着を貸すっす!」

「え!?イチカさんの体操着!?」

「なんだと!?」

 

 

 

なんとイチカさんから衝撃な発言。

どうやら俺にイチカさんの体操着を貸してくれるとの事。マジでスゲェ!え、いいぜ?いいぜソレ!?

 

あっつ!!がてんテンション上がって来た!!

 

 

 

「な、仲正さま!お気を確かに!!」

「確かっすよ!貴方が貸さないなら、それしか無いっす!今ゲヘナとトリニティで問題を起こすのは本当にマズいんすからね!?だ、だから……私の貸すので、先ずは着いてくるっす!」

「そういう事でしたら私がこの服を……ッッッ!?」

「黙れ、テメェに邪魔されるのはな」

 

 

 

ふざけるなよクソ野郎。

 

俺は右拳を握りしめ、筋肉を隆起させる。

それは即ち……破壊の一撃を繰り出す1秒前。

 

 

 

「────もう、ウンザリなんだよォッ!!!」

「お、お前…ッ!?」

「地平の彼方まで吹き飛んでそのまま死んどけェェ!!」

 

 

 

”ボグゥンンッッ!!!!!”

 

 

 

俺が鳩尾目掛け右ストレートを放つ。

 

無論、それは桜庭が両腕をクロスさせ防ぐ。

だが……そんなモン、関係ねぇんだよっ!!

 

 

 

「ぐっ!!クソッたれが……丹花ァァッ!!」

「あばよクソ野郎!!」

「え、え?」

 

 

 

そのまま桜庭のゴミクズは勢いよく消えて行った。

あの感じだと、数十㎞は飛んだな。

 

ふっ……ざまぁねぇな。あのまま死んでくれると助かるんだが。

 

 

 

「ちょ……ちょちょちょっ!?な、なに、何してんすか!?」

「あ?害虫駆除をしたまでだイチカさん。さ、あんなゴミは放って置いて、体操着を貸してくれ!」

「え、えぇ……?」

 

 

 

イチカさんは何が何だか分かってない様相だ。

 

なんか、意外と可愛いなこういう所は。

釘バット振り回して俺のこと殺そうとする所あるが、そういう所もなんか良いな。

 

俺にはイチカさんが抱える暴力性を見せるのは、何だか良いモノだ。

 

 

 

「な、なんて破壊力……パワーだけならキヴォトスでも一番っすね」

「そうか?有難いね。ほら!行こうぜ!」

「いやなんで貸される立場の貴方がそんなイキイキしてんすか………ホントどうしようもない人っすね」

「おいおい!照れるぜ~!」

「褒めてないっすよ!おばか!」

「あいた!」

 

 

 

そのまま俺は尻を足で蹴られた。

イチカさんのローキックは中々に衝撃がある。流石に武闘派、悪くないな。

 

 

 

「硬った……どんなお尻してんすか」

「いやぁ、それ程でも~!」

「褒めてな……いやコレは褒めるに成るのか。でも何か腹立つっす!」

「イチカさんの尻はどうだ?やっぱ柔いのか?」

「……言っておきますけど、触ったら蹴り殺すっすからね?」

「あら残念」

「触る気だったんすか!?」

「俺だけ触られて不公平じゃん。触る権利はあるだろ」

「ぐっ……で、でも!駄目なものは駄目っすからね!!」

「むぅ、仕方ないな」

 

 

 

一発賭けて提案してみたが、駄目だった。

だが図星?を突き付けられたイチカさんの反応、やはり、イイ反応だ。

 

俺は面白い女が好みだ。女は可愛い、それは当たり前だ。

 

だがこういうイチカさんの様な、飄々として葛藤もして、悩んで、色々と模索して人格を形成している様な女は初めて見る。

 

正直、イイ女だと思っている俺が居る。だが……釣り合わん。俺は底の人間だ。

 

 

 

「だいたい、貴方は不良が過ぎるっす!何すか下着姿で校門前で爆睡って!ホントに有り得ないんすから!全く貴方は本当に……………」

「(いずれ、イチカさんは更に成長して、俺なんかが届かない場所に存在するような女に成るだろう。それこそ、1年後には委員長に成っているだろう)」

 

 

 

イチカさんの説教を適当に流し、俺はイチカさんとの同盟の将来を見る。

 

彼女は、まだ青い。人生の現実をまだ知らない女だ。

 

苦労は人以上にしているだろう。だが、まだまだ何も知り得ていない。人の悪意を、呪いにも勝る感情の爆発を。

 

死を。

 

────否。知らなくていい。

 

 

 

「それで………ん?な、なんすか?」

「おん?どうした?」

「いえ……何か、妙に優しい雰囲気だな~って思って」

「俺が?イチカさんの体操着を着れるんだから、そりゃあな」

「変な意味じゃないっすよね!?」

「おう」

 

 

 

……何考えてんだ、俺は。

 

今この瞬間に関係がない事を、どうしていま思い出す。

 

もうあの日の俺は居ない。クソが、まだ俺もガキだな。

 

 

 

そうして、俺はイチカさんの案内の下、校舎外の空き部屋で体操着を拝借した。

 

 

 

イチカさんの体操着は、めっちゃ良い匂いした。

 

 

 

因みにだが、あの後俺に飛ばされた桜庭が鬼の形相で追いかけてきた後、俺の脇腹に刺蹴を繰り出した所為で体操着が破れ、イチカさんにブチギレされたのは内緒だ。

 

 

 

俺はその後、桜庭の案内の下ゲヘナに帰還した。

 

流石に問題だったか、ヒナさん達【風紀委員会】や、マコトさん達【万魔殿】の人達には死ぬほど怒られた。

 

ただ、妹であるイブキの進言もあり、許された。

 

 

 

トリニティでも俺のことは少し問題になったらしい。何でもイチカさんがキレる程の出来事は今迄で一度も無かったからか、中々の評判になったとか。

 

 

 

聞いた話だと、俺は〈仲正イチカの怨敵〉としてトリニティ内で広まったらしい。

 

同盟関係なんだがなぁ~……ま、俺とイチカさんが分かっていればいいんだ。それだな。

 

 

 

イチカさんには今回の俺のバカにはかなり怒っていた。だが、嫌いにはなっていないようだ。良かった。

 

 

 

 

 

次回

 

丹花シンタロウ、ゲヘナ組とのアレコレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────アカンアカン、放って置けんくて来てもうた……栄養ドリンクと軽い携帯食料とかでえぇんよな?」

 

 

 

その日、とある寮にて一人の大柄な男が立っていた。

 

其処はゲヘナ学園の寮の一つ。213と書かれた部屋番号の前に、彼は居た。

 

そう、彼の名は神崎レン。先ほどシンタロウによって此処へお見舞いに行くよう言を投げられ、行くしか道がなくなった哀れな男である。

 

 

 

「ふぅ~……よし、インターホン鳴らして、ドアノブに袋を置いて……いや先に袋置いた方が効率ええか。よしいくで…」

 

 

 

”ガチャっ”

 

 

 

「ぽえッ!?」

「……やっぱり、あんただったんだ」

 

 

 

すると、何という事だろう。

 

出てきたのはこの部屋の主である愛清フウカ。

ゲヘナ学園で食堂全体を一人の後輩と共に支える多忙を極めし子だ。

 

なぜ、同じゲヘナ学園の生徒であるシンタロウではなく、レンが此処に居るのか。

 

 

 

「けほっ………何とか言ったらどうなの?」

「あ、っと……元気に、しとるか?」

「今の私を見てそう言うんだ。皮肉?」

「あ、あぁいや!そう云う訳やないんや!ただ……」

「……嘘。ごめん、ちょっとイジワルしただけ、けほっ!っ……入って」

 

 

 

それは、この会話を見れば分かるだろう。

 

この二人は……深い間柄なのに、面倒な関係である。

 

 

 

「え……えぇんか?もう帰ろうかと思ったんやけど……」

「早く入って!」

「おわっ!あ、あぁ……失礼します」

 

 

 

フウカが強引にレンを入れる。

 

そう、この二人にはそれなりの過去がある。

 

何とも子供らしく、何とも甘酸っぱい過去が。

 

 

 

「────久しぶり。自分から遠ざけといて今更会いに来た幼馴染でロリコンのレンくん?」

「………やっぱ、元気そうで良かったで……フウカちゃん」

 

 

 

レンの脇腹をこれでもかと捻り、嫌味をぶちまけるフウカ。

 

その姿に、風邪を引いているとは思えない覇気を見たレン。

 

そう、この二人は幼少期からの仲だ。

 

 

百鬼夜行とゲヘナという珍しい組み合わせで。

幼かったレンが幼かったフウカに会いに行って。それは逆も然りで。

幼稚園、小学校に上がってもそれはずっと続いた。

いつしか、レンがゲヘナに居続ける期間が増えて。

即ち、一緒に居る時間が増えて。

いつしか………幼馴染以上の関係が見え始めた。

 

楽しかった。

 

毎日が心地よかった。

 

本当に、幸せだった。

 

 

 

13歳。中学生に上がるまでは。

 

 

 

────神崎レンが、フウカの下へ消え去る日までは。

 

 

 

 

 





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