三馬鹿がキヴォトスを巻き込むだけの話。   作:カブトムシの相棒

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■超重要


もう一人男子生徒を追加します。どうしても必要になってしまったのでス……許して下さい、何でもしますから。

プロフィールは下記の通りです。



・名前:逢冥(あいみょう)アキト

・学園:ヴァルキューレ警察学校(元)

・所属:■■■6■

・学年:2年

・年齢:16歳

・身長:197㎝

・誕生日:11月25日

・武器:P226、■■

・一人称:俺

・特徴:藍色。勤勉。緘黙。口下手。好きなタイプ(人物)は陸■魔■■。

・異名:バカ。地獄の番人。死神。陸■■ア■の懐刀。


※クズ共と性格が乖離している。女性に対し三馬鹿の様に本能では動かない。因みにシンタロウとしか余り話さない。

※超級の危険人物(シンタロウ、ケイスケ、レン)には入らない。比較的おとなしく、表舞台には出なかったから。だがとある理由で、それが崩れる事となる。



では、本編です。


アホに翻弄されるイチカ。そして、社長と死神。

■

 

 

 

 

 

☆イチカSide

 

 

 

 

 

────剛拳。

 

又は【最強の傭兵】として裏社会全域でその名を轟かせた男が居ました。

 

身体能力、底なしの狂気、純粋たる暴力性。

この世に生きる生物の中で、明らかに格ソノモノが違う……怪物が居ました。

 

 

その実力は、超級危険人物に分類されるケイスケさんやレンさんと云った2人以上。

強者戦線と渦巻くこの魔境キヴォトスでもトップの実力者だと名高い程、彼は傑物です。

 

 

その人の名は『丹花シンタロウ』……現在、その男は────

 

 

 

「────すぅぅぅぅぅぅぅ~~~……んふぅぅぅぅぅ………ばっか良い匂い。此処に永住して宜しいかね?イチカさんや」

「それもう一回やったら貴方の眉間にデカい風穴空けるっすからね!!」

 

 

 

私の住む寮に、来てるっす。しかも部屋に入るなり盛大に息を吸って。最悪っす。

 

いや分かってるっす。これはマズい。一人部屋とはいえ両隣の部屋は普通に生徒さんが居るっす。

うぅ、なんで連れて来てしまったのか……いや、普通にあの流れはそうしなきゃ、彼……………あぁ、もうっ!今はこの気持ちは忘れるっす!

 

この状況下、余り騒がない方が吉。でもさっきのカスみたいなムーブをされて黙ってられる程、私は堕ちてないっす!!

 

 

 

「おーすげぇ。ソファーめっちゃフカフカ。やっぱゲヘナとは材質が違うんだな」

「そう、なんすかね?って言うかちゃっかり座ってるし」

「俺は客人だぞ?堂々として何が悪い」

「いや客人だから普通は謙虚で居るべきなのでは!?」

「むっ。確かにだ……流石は努力の天才、仲正イチカ。普通に気が付かんかったわ」

「流石アホ代表の絶対的エースっすね……」

「何か知らぬ間に俺凄まじくダメな代表に選出されてるな?しかもエースだし、他のチームメイトが気になるし」

 

 

 

中身が無さ過ぎる会話。なんか、こういう会話をするのって妙に楽しいんすよね。

ソファーにドカっと座るシンタロウさんをよそ目に、私は上着をハンガーに掛けて、Yシャツの姿になるっす。

 

その仕草を見ていたシンタロウさんが、こう言ってきました。

 

 

 

「こう見ると、やっぱイチカさんってモデルさんみたいだよな。マジで綺麗だわ」

「は、はいぃ!?な…なに言ってんすか?急に……っ」

「いやガチガチ。大マジでそう思ってる。別に口説いてるとかじゃねーぞ?顔とか身体だけ見たら本当に良いよな、あんた」

「私じゃなきゃ速攻で逮捕モンっすよ……」

 

 

 

そう言いながら、私も彼の隣に座って会話を始めるっす。

ベンチの時もそうでしたが、彼、やっぱ大きいっす。

 

身長は2m近くって、どうやら本人曰くまだ伸びてるらしいっす……筋肉も凄いですし、こうして隣に座るとその差が出て来て……なんか、男の子と女の子の違いを感じるっす。

 

……隣に居るのがこんなに落ち着く。コレ、本当に嫌っス。

 

 

 

「くっはは!もうヴァルキューレの世話になんのは御免だね。あそこに居る『カンナ』ちゃんって女にはコッテリ絞られたが、あの女もイイ女だったなぁ。後は『アッくん』にもクドクド言われたなぁ」

「ホントに最低っすね……何気に捕まった歴があるのも発覚してますし………なにして捕まったんすか?」

「あのクズ共と夜中のD.U.子ウサギ公園で野球拳してて、そのまま酔い潰れて爆睡してたら2人は消えてて、何か気づいたら捕まってた」

「あー、つまり未成年飲酒した挙句、公然わいせつ物陳列罪で捕縛された真っ当な犯罪って事っすね」

「俺が言うのもアレだが犯罪に真っ当もクソもないだろ。因みにだが、カンナさんにはクッソ怒られたわ。ホンマ怖かった」

「最低の中の最低を尽くしてるんすからそりゃそうっすよ……」

「ま、その後は華麗に脱走。手土産に指名手配犯や悪徳組織の壊滅兼重要指名手配犯のあけ渡しをして何とか許されたんだ。凄くね?」

「(そういえば、数ヶ月前に突如としてゲヘナとブラックマーケットを根城とする悪徳組織や不良が、匿名の人物によって殲滅され大量に逮捕されたって異様な事件があったような………)」

 

 

 

話の流れ的に、正体は彼だったのでしょう。

ゴミみたいな所業で隠れてるっすけど、やっぱシンタロウさんの実力は規格外なんだなって思ったっす。

 

彼が単騎で潰した悪徳組織がどれもが裏社会で最高峰に位置する組織っす。

それを数日で全て殲滅。剛拳の名は伊達ではない、それは分かってるんす……でも。

 

 

 

「……そんなにお強いなら、風紀委員会とかから勧誘とか来ないんすか?」

「んあ?まぁ来るわな」

「あ、やっぱ来るんすね」

 

 

 

そんな強さを誇るシンタロウさんですが、情報ではなんと帰宅部、つまり無所属なんすよ。

彼ほどの実力なら普通なら風紀委員会に所属してなきゃ可笑しいレベルっすもん。

 

総合力ならキヴォトスで最強クラスの戦闘者。それが彼です。

 

 

 

「勧誘が来てるのに、どうして入らないんすか?」

「1、万魔殿と敵対する可能性が生まれる。2、入らない事で護れるものがある。大まかに言えばコレだな。2はまぁ無視していいが……イチカさんは、風紀委員会と万魔殿の不仲具合は知っているか?」

「えぇ、これでも外交を大々的に任される事が多いので浅くも知ってはいますが……」

「俺の妹、イブキが万魔殿の一員でな。風紀委員に入れば万魔殿の議長であるマコトさんと敵対する事に成る。俺と彼女は価値観の相違が激しいからな、会えば直ぐに喧嘩しちまう。向こうがどうかは知らんが、俺からはなるべく関わらない様にしているんだ」

「そうだったんすか……でも、なんで妹さんを万魔殿に加入させる事を許したんすか?」

「私情を入れる気はなかっただけだ。万魔殿に居ればイブキは伸びる、そう思ったんだよ。あの子は神童だからな……あそこに居れば安全だし、他の奴等も愛してもくれる。そういう面は信頼してるだけだよ」

 

 

 

意外と妹さんの事を考えているんすね……あ、いや別に悪い意味で捉えてた訳じゃないんすけど。

シンタロウさんって、こう言うとアレっすけど……結構ちゃんと不良っすからね~。

 

酒は飲む、直ぐ脱ぐ、アホすぎる。

 

でも馬鹿じゃないんすよ。なんだか、妙に惹かれるのってこういう所があるから……ひ、惹かれてはないっすけどね!!?ちょっと気が緩んだだけっす!

 

 

 

「ふぅぅ………」

「なんで顔赤いんだ?便所我慢してんなら行ってもいいz」

「はぁぁ!!!」

「あぁぁーーー!!め、目が、目ガァァ~~~!!!目がッ、あぁぁ!あぁあああぁ~~!!」

「いや狼狽え方がム〇カ大佐なんすよ」

 

 

 

さて、アホに目潰しを喰らわせた所で……ご飯を作る用意っすね。

 

床をゴロゴロと転がり痛がる彼を他所に、私は立ち上がって台所に行くっす。

そのままエプロンを着用して、準備を進めて……た瞬間、シンタロウさんが隣に現れたっす。

 

 

 

「なに作るんだ?」

「復活早すぎるっすね……もうちょっと捻じ込ませておけば良かったっす」

「怖すぎる………あぁ、カレーか」

「えぇ。今日はもう簡単にカレーにしようかなって思って。あ、そういえばアレルギーとかあるっすか?」

「無いぞ。何なら毒もイケるぞ」

「はいはい、じゃあ安全に食べれるんなら居間に居るっすよ。危ないっすから」

「手伝わせてくれ」

 

 

 

うん、絶対に言うだろうなって思ったっす。

ケイスケさんから聞いたっすけど、シンタロウさんって料理が凄く上手と仰ってました。あのケイスケさんが、シンタロウさんの料理スキルだけは褒めてたので何か覚えてたっす。

 

でも彼は客人ですし……うーーん………。

 

 

 

「……じゃあ玉ネギを切って頂きたいっす。私はじゃがいまを切るんで」

「了解。まな板と包丁を借りるぞ」

「はいっす」

 

 

 

手伝わせる事にしたっす。

袖を捲り、手を洗って直ぐに調理を始める。

 

玉ネギの皮を剥ぎ、早い速度でくし切りにする。

 

 

 

「出来たぞ。ソッチはどうだ?」

「え!?は、早いっすね~……コッチはまだっす」

「了解だ。じゃあ肉を……あ、肉はもう切り分けてるヤツか」

「えぇ、なのでえっと……あぁ、あったあった。すみませんシンタロウさん、人参もお願いしたいっす」

「なんだ人参あったのか。分かった任せろ」

 

 

 

礼を言って、シンタロウさんに人参を渡す。

私も少し早いペースでジャガイモを一口サイズに切っていく。

 

隣で人参を切るシンタロウさん。本当に手際が良くって、つい魅入ってしまう。

 

でも彼に任せっきりはマズい。彼は本来なら客人っすからね。

 

いや、でも……本当に綺麗に切るっすね~。何か、凄いっす。

 

 

 

「よし、こんなもんか。イチカさんも終わったみたいだし、炒めるか」

「はいっす!じゃあ此処からは私が…」

「此処からは俺に任せてほしい」

「へ?」

 

 

 

流石に客人にこれ以上労働させるのは如何なものか、と思ったので私はここから私一人でやろうと思ったんすけど……なんとシンタロウさんが逆にそれを言って来たっす。

 

 

 

「後は炒めて、手順通りにカレーを作るだけだ。ミジンコでも出来る。なら後は俺でも良いじゃんって話よ」

「い、いやいや!流石にそれは……」

「今日イチカさんは任務とか訓練とか色々とあって疲れてんだろ?なら、俺が作っている間に色々と済ませろよ」

「ん……じゃあ、良いっすか?」

「良いよ!」

「ぷっ!変なテンションっすね~。じゃあ私は部屋着に着替えてくるっす」

「おう」

 

 

 

なら、と……私はシンタロウさんに任せることにしたっす。

まぁ彼なら料理を任せれる謎の信頼がある。噂はかねがね聞いてますしね。

 

とはいえ、先にお風呂に入りたいっすけど、まだ沸かしても無いですし……シンタロウさん、覗いてきそうですし。

 

やっぱ部屋着に着替えて、お皿の用意でもしましょうかね。

 

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

「────お~!美味しそうっすね~!」

「まぁカレーは失敗する方が可笑しな話だからな。材料も出揃ってて作り易かったのもデケェ。まぁいいや、食おうぜ」

「はい。じゃあ……頂きます」

「頂きます」

 

 

 

イチカが部屋着に着替え、そのまま流れでカレーを作り終える。

シンタロウが作ってる最中も、2人は世間話をしていた。

 

最近どんな事があったか、趣味はどうだとか、色々と。

 

 

 

「ん!美味しいっす!」

「それは良かった。イチカさんの愛情と、俺の根性を注入したからだな」

「根性が気になるっすけど……でも本当に美味しいっすね?なんかマロヤカと云いますか、結構甘い?ような」

「牛乳と蜂蜜を少々加えたからな。あと俺の熱情とイチカさんの色香を加えた……最高の出来だァ」

「あぁ、だから一口一口が重く感じるんすね。余計な隠し味が入り過ぎって事っすね!」

「いやぁ~それ程でもないぜ!」

「貴方無敵すぎません!?」

 

 

 

嫌味の一つも効かないシンタロウ。ただ、女の子の部屋に入れた。一緒に夕飯を食せる。

それだけで、恐らく1ヶ月は何を言っても効かないだろう。

 

 

 

「くはは、んでイチカさん。最近どうよ。趣味とか何か見つかった?」

「そうっすね~……シンタロウさんから借りたデジカメはまだ続けてるっす。それ以外は、何か合わなくって」

「そうか。まぁ続けている様で良かったわ!」

「シンタロウさんは?何か良い事ありました?」

「俺か?俺はそうだな~……イチカさんと、飯を食えている今、かな」

「うざいっす」

「えぇなんでっ!?」

 

 

 

上手く隠しているが、耳が少し赤くなっているイチカ。

そんな事をキメ顔で告ぐアホに辟易している。なのに、心は穏やかになれない。

 

この男にそう言われると、ムカつくのに、嬉しい気持ちに成ってしまう。

今を生きる女子高生の中でも、イチカは一際大人な雰囲気だ。だがそれでも、多感な時期なのは変わらない。特に、異性を前にすると尚更だ。

 

そうして、カレーを食しながら世間話をしていると……ふと、イチカは少し気になる事があった。

 

 

 

「あの、シンタロウさん」

「ん?」

「その、ちょっと気になっていたんすけど……シンタロウさんっていつも銃だけじゃなく、ナイフも持ち合わせてるじゃないすか?」

「おん、そうだな。でもどうしてそんな事を聞くんだ?」

「いえ、キヴォトスでナイフを所持してるのって特段珍しい事でもないんすけど、シンタロウさんの場合ロングナイフじゃないっすか?なのでその点に於いたら珍しいので、少し気になって」

 

 

 

イチカが問うたのは、シンタロウが腰に装着しているロングナイフの事。

キヴォトスでもナイフを所持しているのは少数だが、決して珍しい事ではない。武装集団や不良、警察組織の中でも持っている人は居るからだ。

 

だが、シンタロウの場合いは特例だ。武骨で、中々に大きいナイフ。

イチカはそれが少し気になった。

 

 

 

「あーそういう事か。欲しくなったんのかと思ったわ。まぁ、欲しいんなら譲るけど」

「い、いやいや!要らないっすよ!?」

「ははっ!そりゃそうか。んで、このナイフは何なんだって話だよな?コレはな……まぁサブ武器的ポジに置いている武器って言えば良いのかな」

「サブ武器っすか?」

「あぁ。俺のメインがコイツ(トンプソンM1A1)だったら、このナイフはサブ。まぁぶっちゃけた話、俺としてはこのナイフを使った戦闘の方が好きなんだが」

 

 

 

苦笑しながらそう言うシンタロウ。

だがそこには、確かな意義があった。ロングナイフを柄越しに触れるシンタロウは、昔を思い返すような、そんな手付きで触れて。

 

だが同時に……もう戻りたくない様な、憂いを帯びた顔付きでもあった。

イチカはそれが不思議で、彼の昔を聞きたくなった。でも触れて良いのか分からないので、その勇気はまだ出なかった。

 

 

 

そうして、カレーを食べ終えた両名。

 

 

イチカがソファーに座り、シンタロウがテーブルの椅子に座る。

少しの間の後、話題はまだナイフの話になる。

 

 

 

「ただイブキが妙にこのナイフを気に入っててな?人が居ない時は大体触らせてって言うもんだから、俺としては怪我しないかビビってはいる」

「あはは、まぁ仕方ないっすよ。ナイフを持っている人でも珍しいのに、そこまで長いナイフだと私でも気になりますし」

「まーそうだよな。触ってみる?」

「え?マジっすか?良いんすか?」

「おん。ほい」

「ちょちょちょちょっっ!!」

 

 

 

ぽいっ…と、シンタロウが鞘入りのロングナイフを手軽に投げ、イチカに渡す。

慌てた様子でイチカがキャッチする。

 

 

 

「んも~、危ないじゃないっすか!……ってか重っ!」

「イチカさんなら普通にキャチルだろって思ったまでよ」

「キャチルて……抜いても?」

「おう」

 

 

 

シンタロウの許可を得て、イチカがナイフを抜く。

 

 

 

「わっ………」

 

 

 

絶句とまではいかないが、その刀身を見て……そんな一言しか出ない。

 

深紅の刀身。まるで血液の様な、紅い色合いの刀身で。

黒の紋様が螺旋の線で巻かれており、その形は悍ましく感じる。

 

 

 

「わぁ……何か、凄いっす」

「ホント?ウレシ―!ってそのナイフも言ってるわ」

「自我有りのナイフって聞いた事ないっすけど………でも、こんなナイフがあるんすね」

「オーダーメイドだからな。傭兵時代の時に譲り受けた一品だから、どうやって作られたか、その価値も俺は分からん」

「そうなんすか………ん?傭兵時代?」

 

 

 

イチカは不意にその単語が気になった。

傭兵時代。それは一体、どういう事なのか。

 

 

 

「あれ?言ってなかったっけ?俺昔は傭兵してたんよ」

「え………えぇぇ!?そ、そうなんすか!?」

「うん。とはいえ、15で引退したがな」

 

 

 

サラッと告げられる、とんでもない情報。

イチカは度肝を抜かれる。

 

 

 

「傭兵って……え、いつから?」

「7歳ん時には少年兵してたから、それ込みなら8年前か?」

「7歳の時って……親御さんは何で許可したんすか?」

「んまー、アレだ。あんま親と仲良くんなかったんだよ。結構幼い時から俺グレてたし」

「あ、すみません……」

 

 

 

イチカは察した。コレは、何かを隠している。

言い淀む隙は無かった。恐らく、この手の問答に慣れている。

 

イチカは人間観察が得意だ。シンタロウのソレは、秘匿する者の目だった。

 

だからこそ、気になった。シンタロウの過去を。どんな過程を歩んできたのかを。

 

 

 

「シンタロウさんって……」

 

 

 

そう問おうとした瞬間だ。

 

 

 

”ピリリリリリリリリリ!!ピリリリリリリリリリリ!!”

 

 

 

「あん?なんだ誰からだ?すまん、ちょいと出て良いか?」

「あ、はいっす……」

 

 

 

シンタロウの携帯から鳴る呼び出し音で掻き消された。

 

シンタロウが懐から携帯を出し、その呼び名を確認する。

 

 

 

「え……珍しいな………うーい、もしもし。久しぶりだな~!元気してたかよ。おぉそうか……え?……おん……おん?………はぁ!?」

「っ!?」

「いや、え、マジで!?そんでどうなって……ぶん殴った!?お前マジで!??!?防衛室長って、確か連保生徒会のお偉いさんだろ?そんでヴァルキューレ警察学校の管理者的な……その人をお前……え、じゃあヴァルキューレは?……クビ!??!?はぁぁぁ!??おい嘘だろマジかよ!!」

「(何か、とんでもない事が起きたんすかね…?)」

 

 

 

仲良さげに電話をしたかと思えば、急に絶叫するシンタロウ。

ヴァルキューレ警察学校、防衛室長、そんなビックネームが並ぶ言葉で、何やらぶん殴ったと云う恐ろしい単語も出て。

 

イチカは黙って、その内容を聞く。

 

 

 

「え、じゃあアッくんどうすんべ?クビって、つまり退学だろ?いやてか、そんなんじゃ済まされんくないか?……逃げてる?いやまぁ、そうだよな………カンナさんは何て?………そうか。いや、お前にもきっと訳があっての事なんは理解してる。何があったかは知らねぇが、先ずは会おう。お前いま何処に居る?……また掛け直すって………おい待て、おいッ!」

 

 

 

”プツッ……ツー、ツー、ツー……”

 

 

 

迫力のある電話が終わり、シンタロウは舌打ちをしながら携帯を懐に入れる。

そのままイチカを一瞥し、告ぐ。

 

 

 

「悪い、ちょいと緊急事態が発生したわ。俺もう帰る。じゃあまた会おう!」

「え?あ……ちょ、ちょっと待つっす!!」

 

 

 

急いだ様子で玄関に向かい、最速で靴を履いたシンタロウ。

追い付く間もなく、シンタロウは玄関のドアに手を触れ、そのまま開ける。

 

辺りを見渡し、誰も居ない事を確認したシンタロウは……イチカを見つめ、発語する。

 

 

 

「今日はありがとうな!イチカさんと会えて良かった。しかもカレーも頂けて……今日のイチカさんはまた一段と綺麗だったぞ!」

「はっ……はぁ!?」

「あと部屋の匂い最高だったぜ!イチカさん自体が良い匂いだからなのか?よく分かんねーが、俺は貴女の匂い大好きだぞ!また嗅がせてくれな!最後に、そのナイフ持っててくれ!また会う時に返してくれればいいや。じゃあな!!」

「ちょ、だから本当に待つっす……わっっ!!」

 

 

 

”ドヒュンッッ!!!”

 

 

 

言いたい事だけ言って、またいつもの瞬足で姿を消すシンタロウ。

その速度は本当に凄まじく、瞬きすら許さないと云わんばかりの韋駄天で。

 

 

 

「……な、何なんすか?本当に…っ」

 

 

 

セクハラだらけの言葉の羅列。

だが妙に嫌じゃないと感じている己が居て。

その事実に、嫌気が差す。自分の情緒が搔き乱されている。

 

怒りの中に、好意が混ざっている様な……複雑な感情。

 

こんな想い、したくないのに……喜色の情が顔に出ている。

 

 

想う。私は……丹花シンタロウが、きっと嫌い(好き)なんだ。

 

 

嫌い。嫌い嫌い嫌い。

 

 

そう考えてしまえば、胸が痛む。嫌な痛みだ。

 

 

ホント、どうかしてる。己はどうしてしまったのだろうか。

 

 

 

ボーっと、そんな感情に馳せていると、隣のドアが開く。

 

 

 

「な、何の騒ぎ……あれ?イチカ先輩?そこで何をしているんですか?」

 

 

 

その子は同じ正義実現委員会の生徒で、後輩の女の子。

何やら騒がしいと外を出てみれば、イチカがボーっとしている状況。

 

不思議に思い、そう問うと…。

 

 

 

「────恋って……何なんすかね」

「え???」

 

 

 

そう、言葉を漏らしていた。

 

それが答えだと、未熟な己は、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

■

 

 

 

 

 

 

 

 

────間違っていない。

 

俺は、間違っていない筈だ。

 

 

 

「────何処だ!!何処に行った!?」

「此方チームB!対象の足跡を確認!此処から東へと向かった模様!追跡を開始する!」

「了解!!カンナ局長、部隊Bが痕跡を発見しました」

「了解。近くの部隊を3隊ほど向かわせろ。絶対に逃がすな!!」

”「はッ!!!」”

 

 

 

間違ってなど、居ない筈なんだ……。

 

今迄、仲間だった彼女達に追われている。

俺の力なら、全員、斬り伏せる事は出来る。

 

だが、そんなことできる筈が無い。彼女達は、上層部の”汚れ”を知らぬ者達だ。

 

ただ職務を全うに、己の正義を掲げる女の子達だ。

 

そんな彼女たちを相手に、力など……振るう事は出来ん。

 

 

………。

 

 

足跡が去った。

 

同時に、雨が降り、己の身を濡らす。

 

 

 

「…………」

 

 

 

ただ静かに、俺は電話を取る。

救いを求めている訳ではなかった。だが、最後に、自分の今を知ってほしい。

 

 

 

電話。その掛け口は……アイツだ。

 

 

 

『うーい、久しぶり!元気してたかよ』

「……あぁ。元気100倍だ。ククッ」

『おぉ、そうか』

「……なぁ、丹花シンタロウ」

『おん?』

「………俺は、間違っては居ない筈だ」

『おん?』

「……防衛室長をぶん殴った」

『……はぁ!?』

 

 

 

電話越しから驚愕の声が漏れている。

シンタロウでも、流石に驚いたようだ。

 

 

 

『いや、え、マジで!?そんでどうなって……ぶん殴った!?お前マジで!??!?防衛室長って、確か連保生徒会のお偉いさんだろ?そんでヴァルキューレ警察学校の管理者的な……その人をお前……え、じゃあヴァルキューレは?』

「無論、クビだ」

『クビ!!??!?はぁぁぁ!?おい嘘だろマジかよ!!!』

 

 

 

相も変わらず、元気なようだ。

桜庭ケイスケ、神崎レン、奴等にも伝えて然るべきだったが……この男の様な反応はしないだろう。ククッ、やはり、見てて飽きん男よ。丹花……いや……千堂シンタロウよ。

 

 

 

『え、じゃあアッくんどうすんべ?クビって、つまり退学だろ?いやてか、そんなんじゃ済まされんくないか?』

「あぁ、だから逃げている」

『逃げてる?いやまぁ、そうだよな………カンナさんは何て?』

「退学を宣言した後、俺を連行しようとした。俺が逃走し、全勢力を介して捕縛しようと動いている」

『………そうか。いや、お前にもきっと訳があっての事なんは理解してる。何があったかは知らねぇが、先ずは会おう。お前いま何処に居る?』

「さぁな。俺の現状を知ってほしかっただけだ。だが、生きてたらまた掛け直す」

『……また掛け直すって………おいッ』

「では、切る。また、話してくれると助かる……さらばだ」

『おい待て、おいッ!』

 

 

 

そう言って、俺は友の電話を切った。

本当はもっと話したかったが……それは駄目だ。

 

 

 

「居たぞ!!」

「…………」

「ッ!逃げたぞ!追えっっ!!!」

 

 

 

この子等に疑われる可能性が生まれる。

 

阿呆者だが、奴は俺が本音で話せる唯一の人間だ。

どうしようもない男だが、好い意味で……阿呆者。

 

だから、奴と最後に話せてよかった。

 

 

………。

 

 

俺は、俺のした事を……間違った事だとは、思わない。

 

 

俺は、俺の【信じた道】を選んだ。

 

 

それだけで、俺は……悔いはない。

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

 

”ザ―――――ッッ!!!”

 

 

 

「────あーーんっ!んもう!なんでよりによって折り畳み傘を持ってない時に降られるのよ~!天気予報ちゃんとしなさいよっ!もう!」

 

 

 

タッタッタッ……駆け足で、既に閉じている店の屋根に入り、難を逃れる。

突如として振り出した大雨によって、身を少し濡らした少女。天気予報では雨ではなかったため、恐らく通り雨だと思案するも、それでも、かなりの大雨だ。

 

その少女の名は────『陸八魔アル』

 

【便利屋68】の社長を務めている者だ。とはいえ……経済模様は良くはないが。

 

時刻は10時を過ぎている。いつもだったら、この時間帯は就寝の準備に取り掛かっているが……今日は特別違った。

 

 

 

「うぅ、まさか落としたスマホを回収しに戻ったら、雨に打たれる何て……スマホは無事だったけど、運が無いわね……」

 

 

 

そう、彼女はスマホを落とすと云ったうっかりミスで夜更けにこの場へ戻り、スマホを探していたのだ。

他の社員達には秘密で来ている。こんな事で起こす訳には行かないし、何より面子が立たない。

 

そう云う訳で、一人で来て、何とか奇跡的にスマホを見つけて帰路に着こうとした時……雨に降られ、今に至る訳だ。

 

 

 

「どうしましょう……このまま雨が止むのを待つのか、それとも強引に帰るか……此処からアジトへは直ぐだし、それもアリだけど……うーん、迷うわねぇ」

 

 

 

走れば2分で着く距離。

だが雨は大粒で降り注いでいる。加え、もう少し降りそうな予感。

 

どうするか、アルは2択を責められている………と。

 

 

 

”ぺチャ…ぺチャ…ぺチャ………”

 

 

 

「ん?」

 

 

 

雨の中、何かが歩く音が聞こえる。

アルが足音の鳴る方へ眼を向けると……なんと、其処には。

 

 

 

「え…」

 

 

 

覚束ない様子で、大雨に濡られがら歩く……大柄な男。

背中に大きな剣を背負い、前のめりになりながら歩くその姿は……正に、異様。

 

 

 

「(な…なにあれ!?怖いんだけど!?)」

 

 

 

アルは息を出さないよう、気配を消してその姿を見る。

何故だか分からないが、彼に姿を見られてはイケナイ様な、そんな気がしてならない。

 

しかもよく見れば、彼は裸足だ。その意味不明さも相俟って、恐ろしく視える。

 

 

 

「………………」

「………(ごくり)」

 

 

 

ぺチャ、ぺチャ、ぺチャ……。

 

一歩、二歩と……次第にアルが雨宿りしている店の前に近付く。

気配をこれでもかと消し、いざとなれば愛銃を抜く姿勢になる。

 

 

 

「………………」

「…………へっくし!!……あっ」

「ん?」

 

 

 

何とアル、此処で痛恨のミス。

雨に濡れた所為で、クシャミを出してしまった。しかも目の前と云う、最悪のタイミングで。

 

目と目が合う。アルよりも高いその身長……体躯は華奢だが、其処には確かな筋肉があった。

 

彼が纏う悍ましい雰囲気。

眼は髪色と同じ深い藍色。

 

その瞳に光はなく。顔もまるで能面が如く変わらない。

 

そして、その纏うオーラは……この世のモノとは思えぬ、死を想起させる重圧。

 

其処に佇むだけで、生物を刺殺せん程の威圧。

 

 

 

「あっ………ど、どうも~」

「…………………」

「ひぃっ……!」

 

 

 

アルがガクブルと震える。

雨に濡れたからでは決してない。これは、死の氣を発するこの大男を前にして、生存本能を駆り立てられているからだ。

 

数十秒、瞳が重なる。

 

アルは怯え、涙目で震えている。

大男は黙り、静かにアルを見据える。

 

そうして、大男はニタリと笑い……告ぐ。

 

 

 

「………隣、失礼しても良いか」

「はえ!?あ、あのっ………はいっ」

「そうか………では、失礼するぞ」

「ひょえぇぇぇ…………」

 

 

 

幽霊のように、まるで気配無く、アルの隣に冷厳に立つ男。

凡そ190は軽く超えている巨躯。だが華奢であるが、其処には確かな筋力を有す肉体。

白と青の制服。それは、己達にとっても敵となる学園……ヴァルキューレの制服だった。

 

色んな情報がごっちゃになる。そもそもの話、アルはこの男の重圧にビビり散らかしている。

 

 

 

「………この雨は、暫く止まん。身は凍えては居ないか?」

「へっ!?あ、えぇっとぉ……だだ、大丈夫、です……!」

「ふッ……良い強気だ。太陽にも勝る熱き志を秘めた瞳をしている。強き者なのだな、お前は」

「え?あ、えっと……ありがとう……ございます?」

 

 

 

古風な喋り方。少し分かり辛いが、取り合えず褒めてくれているのは分かった。

 

……。

 

いや、これは何の時間だ?

 

まずこの男は何だ?ヒナを軽く超える冷徹千万の死圧。

凍えそうな程に、その男には生気を感じない。

 

ふと、アルはチラッと下からその大男の顔を見る。

 

 

 

「────」

「ひぃっ……」

 

 

 

鳥肌が立った。

 

その男は、アルを既に凝視していた。

獣の様に細目で、アルを見つめる。

恐怖そのものが、己を見ている。

 

アルは冷や汗が止まらない。心臓の鼓動が高まる。

 

何か話題を振らねば……そう思っていると、意外にも話を振って来たのは男の方だった。

 

 

 

「……俺が、怖いか?」

「へ?」

「………この見てくれだ。恐ろしいと感じるのは致し方ない。お前が望むのなら、俺はこの場から消え失せよう」

 

 

 

そう言うと、男は静かに前へと進もうとする。

アルとの問答もなく、その男はその場から消えようとしていた。

 

 

 

「あっ……ちょちょ!ちょっと待ちなさい!べべ、別にそんな訳じゃないのよ!?」

「……ほう?」

「た、只ちょっと吃驚したというか少しビビっちゃったって云うか……でも、別に私は貴方に去ってほしい訳じゃないの!そ、それにホラ!まだ雨が降ってるじゃない?だだ、だからね?えっと……あ、雨が止むまでは隣に居てもいいわよっ!」

「…………」

 

 

 

アルは思った。やってしまったと。

テンパってよく分からない事を口走ってしまった気がする。マズイ、怖くてその男を見れない。

 

こういう怖い所でも、アルは善性を出してしまう。

アルの好い所であり、小難しい所でもある。

 

ダラダラと冷や汗を流すと……その男はふっ…と笑う。

 

 

 

「ふッ……では、その言葉に甘えさせて戴こう。お前の厚意に深く感謝する」

「あ…はい」

「因みに先程の喋り方で良い。其方の方が話し易いのだろう……俺も、その方が良いと感じている」

「そうです…あ、えっと……わ、分かったわ!じゃあ、このままで行くわね!」

「…………」

「いっ……良いのよねぇ…?」

「あぁ……ふッ………良いぞ」

 

 

 

怖すぎる。アルは涙目が加速する。

 

そして、その男はまたアルの隣に立つ。

アルは下しか見れない。その男の視線がヒシヒシと己に向かっていて、怖くて仕方ないのだ。

貞操の問題ではない。生存本能をコレでもかと刺激されているからだ。

 

その男から劣情は感じない。だからこそ、恐ろしくて堪らない。

 

そして訪れる、沈黙の時間。

雨は止む気配無く、雨の音が激しく鳴り続ける。

 

アルは何とか呼吸を整え、話題を振る。

 

 

 

「あ、あの……名前を聞いても良いかしら?」

「ッ!そうか、これは大変な失礼をしたな。自己紹介もなく話しかけていたとは不躾だった。すまない」

「え!?い、良いのよ別に……ソレに関しては私も何だし……」

「そうか……懐が深いのだな。では、そんなお前に敬意を評し名乗ろう。俺は────『逢冥アキト』と謂う。この制服の通りヴァルキューレ警察学校に所属していた者だ……」

「逢冥アキトさんって言うのね!私は『陸八魔アル』よっ!ゲヘナ学園所属で、今は【便利屋68】って言う組織で社長を務めているの!宜しくね!アキトさん!」

「陸八魔、アル…か……あぁ、宜しく頼む。陸八魔アルよ」

 

 

 

その男はアキトと云うらしい。

アルは出来るだけ明るくアキトに接する。まだ余裕で怖いが、危険な人ではなさそうだからこうして話す。何とか顔も合わせて。

 

アキトは続ける。

 

 

 

「便利屋68か……噂は聞いている。金さえあれば何でもすると云う信条を掲げし、新進気鋭の組織、だったか……成程、その社長であり長が陸八魔アル、お前だと云う訳か」

「えっ!?わ、私達を知ってるの!?」

「無論だ。ヴァルキューレではお前等の事は既にリサーチ済みだ。だが……ふむ…成程………やはりヴァルキューレ情報部の情報は充てには成らんようだ。事前に聞いていた話と、俺が今現在見るお前とでは内容が乖離している。誰がどう見ても、お前は勇ましき悪の新鋭だ」

「ほんとに!?ちょ、やだ照れるじゃないの~!でも当然よね!ヴァルキューレ如き、私たち便利屋68の前じゃ手も足も出ないんだから!………あ」

 

 

 

しまった。この男はヴァルキューレの人間では無いか。

その男の前で堂々とヴァルキューレを小馬鹿にしてしまった。

 

アルは動悸が激しくなる。いつもこういう場面で調子に乗ってしまう。悪癖だ。

 

 

 

「ん?どうかしたか、陸八魔アル」

「え?」

 

 

 

だが、当の本人は何処吹く風か。

アルの言った事を聞いて尚、怒る気配も素振りも見せない。

 

アルは呆然としてしまった。ヴァルキューレ問わず、こういう正義的組織に座する者はそういう小馬鹿な発言をすると怒りそうだと思ったから。

 

 

 

「……あ、えっと……怒ってないの?」

「何をだ?」

「いえだって、私さっきヴァルキューレを馬鹿にしちゃったから……怒るんじゃないかって思って」

「あぁ、そう言う事か……怒る事は無い。お前が言う通り、近い未来ヴァルキューレはお前たち相手では何も出来なくなるだろう。他の社員がどうかは知らないが、お前程の長が束ねる組織だ。将来性は抜群だと理解している」

「貴方……すっごく褒めてくれるのねっ!」

「本音を言ったまでだ。まぁ、俺は既にヴァルキューレを降りた身だ。例えヴァルキューレが誰にどの様な罵声を浴びさせられようが、俺にソレを怒る権利はない」

「────え」

 

 

 

サラッと告げられた衝撃の事実。

アルはアキトの顔を見る。彼は真っ直ぐ前を見据え、憂いを帯びた顔付になっていた。

 

何故かは分からないが、どうしてか聞きたくなった。

 

 

 

「その、アキトさん……理由を聞いても?」

「………多くは言えん。秘匿性の高い問題だ。だが、そうだな。今日は誰かに話したい気分だ………聞いて、くれるか?」

 

 

 

アルは直ぐに頷いた。

 

すると、アキトは告ぐ。

 

 

 

「先ほど俺は、連保生徒会の防衛室の室長である『不知火カヤ』という女を殴ったんだ」

「へぇ~…………へぇ!?」

「理由は言えん。それを話せば、最悪の可能性に繋がってしまう。何人ものヴァルキューレ生が路頭に迷うかもしれない。言えるとしたら、防衛室長共々、上層部が腐っていた事か…………防衛室長を殴打した俺は無論、ヴァルキューレには居られない。局長であるカンナは俺に退学処分兼暴行罪等で捕縛命令を出した。俺は、ただの犯罪者に成り下がった訳だ」

「ッ!…………」

「だがそれでも、俺に悔いはない。正義など掲げてはいなかったが、こんな俺でも受け入れられないモノが有った。ただそれだけの行動原理で俺は防衛室長を殴り飛ばした……カンナ局長と『コノカ』副局長には、申し訳が立たないが」

 

 

 

それだけは心残りだ、と。アキトは告げた。

彼が何を知り、どの様な想いで、連保生徒会の重役を殴ったのかは分からない。

 

 

 

「悔いはない筈だ、俺は間違っていない筈だ。そう思っても、俺が正しかったかどうかで言えば……それは違う。人としてあるまじき行為であると痛感している。俺はどうも生真面目らしい」

 

 

 

彼はそれでも、何かを悔いるような顔でそう言う。

確かにそうだ。彼の言う事は真っ当。それは常識的に考えたら間違っているのかも知れない。

 

だが、彼が悔いを残していないのなら……

 

 

 

「悔いがないのなら、それで良いじゃない!」

「……なに?」

 

 

 

アルはアキトの目の前に立ち、下から彼の顔を見上げそう言う。

 

 

 

「話を聞いた限り、全てを分かった訳じゃないから一概にはコレで良いとは言えないけど、それでもアキトさんが間違っていなかった、悔いはないって思うのなら、それが答えじゃないかしら!それにっ!」

 

 

 

アルはとびっきりの笑顔で、告げる。

 

 

 

「腐っていた防衛室長をぶん殴るだなんて────最高にアウトローじゃない!貴方の行いは確かに正義ではないけど、決して間違ってなんかいないわ!すっごくカッコいいじゃない!私、そういうの好(・)き(・)よ!」

 

 

 

”ドクン……”

 

 

 

「な、ぁ………」

 

 

 

アルの真っすぐで、嘘偽りのない、ただただ、真っすぐなその言葉。

己の行いを、間違っていないと肯定してくれる理解力の深さ。

 

そして……己のそんな行為を、好きだと云ってくれた。

 

このとびっきりに明るい、朗らかな笑みで。そう言う。

 

 

 

「……って!ごめんなさい!私ったら、何か偉そうに言っちゃって……嫌じゃなかった?」

「…………とんでもない。救われた、気分だ」

「え?そうなの?よく分からないけど……良かったわ!」

 

 

 

ぺかーっと、ホッとした顔になるアル。

その様相もまた、己にはないモノ。

 

こんな女の子が、居るのだな。

 

そう思う。

 

ふと、アキトがある事を告ぐ。

 

 

 

「……俺は、もう怖くないのか?」

「え?えっと……な、何て答えれば良いの!?」

「陸八魔アルが思う感情で教えてほしい」

「そ、そう言う事なら………怖くは、あんまり思わない、かしらね?貴方ってオーラが凄いだけで、話せば何だかんだ良い人って感じたもの!」

 

 

 

よく、よく分かった。

アルは、どうしようもなく善人なのだと。

 

 

 

 

「あ、でも、それだとアキトさんヴァルキューレに追われる身って事よね?」

「……あぁ、そうなるな」

「ん~………」

 

 

 

突如、アルが思案に暮れる。

何をそんな深く考えているのか問おうと思った……その瞬間だ。

 

アルが…そうだ!と云って、アキトに問う。

 

 

 

「ねぇアキトさん!貴方────便利屋68に入る気はない?」

「………なんだと?」

 

 

 

それは、思っても居ない事だった。

 

 

 

「だって貴方、今日から何処にも属さないのでしょ?理由がどうあれ、ここまでお話を聞いちゃったら放って置けないもの」

「まさか……そんな理由で、俺を便利屋68に誘ってくれたと云うのか?」

「え?うん、そうよ?」

「……そうか」

 

 

 

アルは既にアキトを恐怖の対象として見てはいない。

ただ、此処まで話を聞いて、アキトの今後を想っての勧誘だ。

 

それに、アキトは何か強そうというのも少し思っての行動。人を見る目は自身が有るのか、アルはただ普通にそう勧誘したのだ。

 

 

 

「あ、でもいきなり社員って訳にはいかなわいね。最初は皆にも相談しなきゃ」

「………良いのか?俺が、お前の仲間に加わっても」

「えぇ、勿論よ!だけど先ずは皆にも相談しなきゃだから、私たちの事務所に着いて来てくれる?」

 

 

 

どうやらアルは、本気でアキトを仲間に加え入れる気らしい。

それが己の為だと理解したアキトは……心の底から、嬉しいと感じた。

 

 

 

「了解した。では、これから宜しく頼む……陸八魔アル社長」

「っっ!ちゃんと社長って言ってくれる何て…っ!何よ貴方、物分かりが良いのね!」

「これから仲間に加えて貰えるかもしれないのだ。役職で呼ぶのは常識として、そして目上の方に対する作法だろう」

「アキトさん……っ!」

 

 

 

何故かアルは感動している。

よく分からないが……取り合えず、アキトを便利屋68のアジトに連れて行くと云う方針が決まった。

第二の人生は、アウトローに。新鮮だが……悪くはない気持ちだった。

 

 

 

「あ、でもどうしたものかしらね……この雨、本当に止む気配がないわ」

「ふむ……陸八魔アル社長」

「ん?何かしらアキトさん」

 

 

 

アルが未だ振る大雨に悩みを吐露すると……アキトがアルに話しかける。

 

 

 

「ここからアジトへの道のりがどれ程なのか不明だが、如何なる理由でも陸八魔アル社長が雨に濡れるのは確かだ。仮加入とは言え、社長であるお前を濡らす訳にはいかん」

「あ、アキトさん貴方……もう社員魂が板に付いているのね!も、もしかしてそのコートで私を中に入れて雨を凌ぐ的な事をしてくれr」

「故に────この愚の骨頂たる雨を斬(・)り(・)伏(・)せ(・)る(・)とする」

「ん???」

 

 

 

アルを後ろに下げさせ、アキトは徐に雨の下へと行く。

彼が何をするつもりなのか、アルは全く理解できない。

 

だが……何故か、動けなかった。

 

そしてそれは……正解だった。

 

 

 

「────フゥゥゥ」

 

 

 

”ゾゾゾゾゾゾゾッッ!!!!”

 

 

 

アルの身体が硬直する。

鳥肌が立ち、脂汗が噴き出る。

 

その理由は────アキトが背に持つ【大剣】を右手に持ち、不気味に空を見上げているからだ。

 

 

 

「この剣は、我が主の為に振るわん────消えろ」

 

 

 

”キィィィィィィィン………”

 

”────バギャァァァンッッッ!!!”

 

 

 

「へぇぇ!?なに!?なになに!?なんなのぉぉ!?!?」

 

 

 

突如、落雷の様な爆音が鳴り響く。

 

アルが余りの爆音に耳を塞ぎ、目を瞑る。

恐らく8秒は眼を瞑っていたか。三半規管は正常に可動していると認識する時間。

 

一体、何が起きたのか……アルは眼を開ける。

 

すると、アルの目の前には────信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

「………え?」

「雨は消した。さぁ、行こう陸八魔アル社長……雨雲が無くなったとはいえ、お前は濡れている。身体を冷やしてはいけない」

「ん?え、え…??あ、雨は?あら??」

 

 

 

風も雨も、まるで爆発したかのように消え失せて。

そこには……雨なんて降っていなかったかのような星空を見せて。

 

アルは一体何が起きたのか、理解出来ないでいた。

 

 

 

「安心しろ、鬱陶しい雨は俺の剣で斬り殺した……もう陸八魔アル社長が雨に濡れる事はない」

「……うそ」

「嘘?否、虚偽など欠片も無い。現に今俺は剣技で周囲の雨雲を空間ごと裂き、神秘で離散させたのみ。だが……この力は全てお前に、陸八魔アル社長に捧ごう」

「……???????」

 

 

 

言っている事がまるで分からない。

アルの頭がショートしかけていると……アキトが動く。

 

 

 

「────陸八魔アル社長……」

「はっ………はえ?」

「改めて……これから、宜しく頼むぞ……ククッ」

「あ…あわ…あわわ………」

 

 

 

アキトがアルに握手をし、ふっと微笑んで告げる。

その様相は、正に悍ましくって、仕方ない。

 

アルはただ握手をするしかなかった。

 

握手をして、アルは漸く理解した。

 

 

 

 

────己は、とんでもない男を拾ってしまったのだと……。

 

 

 

 

 

次回

 

便利屋68に電撃。そして、アビドス。

 




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