OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

1 / 38
001 こんにちは、世界

 ゲームは産業だ。

 

 有史以来、人類は様々な決まりごとを作り、文明はその掟に則り歩んできた。

 

 食事に、経済に、戦争に。そして何より、遊びに。

 

 遊びとは、人の個性を具象する文化そのもの。自らの命が掛かった生存戦略に遊び心を持ち込む生物など、人を措いて他にない。人類の文化的進化とはつまり、遊びの進化、その歴史でもある。

 

 人類は進化した。そして、遊びもまた進化した。

 

 そう、ゲームという形に。

 

 現代のゲームは実に複合的な要素を持つ娯楽表現であり、精緻に編み込まれた想像力、その情報密度は最早、一つの世界の設計図と言っても過言ではない程に進化した。ゲームという遊びは、世界を創造しうる人の力、産業となった。

 

 では、ああ、これほどの力が導く世界とは、どのような姿になるのだろう?

 

 ……そうだね、君は既に理解している。そうとも、世界は既に変わっているんだ。

 

 人類の意思が、ゲームの無意識が、全てを変革せしめたのだ。

 

 それでは、問おう。選択の時だ。

 

 選択無くしてゲームの前進はあり得ない。世界の統合は成されないのだから。

 

 理想は仮想に、仮想は現実に。

 

 さあ、ゲームをしよう。空想を始めよう。

 

 

 

 もし、ゲームが現実になるなら、君は何を選ぶ?

 

 

 

 

 

 

『Hello,World』

 

 彼方に遠ざかる暗闇と、オペーレーターの穏やかな呼び声。

 

 意識を切り替えれば、そこは仮想世界。視覚と聴覚しか存在しない、二感覚空間。

 

 アバターの瞼を開き、僕はその世界と向かい合う。

 

 目の前に広がるのは、煉瓦と木組みの家が立ち並ぶ、フランスのストラスブールを模したコテコテ欧風ファンタジーな街並み。

 

 教師陣の、「ゲームなんだからそこそこはっちゃけんと面白くないでしょう」という意見が反映された、自由が売りの校風らしい、ローカル仮想世界。

 

 その世界に向かい、僕は足を踏み出す。

 

 足元の光る円、ポートポイントから石畳の地面へと。現実の体と変わらない感覚でアバターを操作し、歩く。

 

 今の僕の姿は初期設定汎用アバターである、二足歩行のもふもふ羊。リアルの自分があまり好きではない僕は、ウェブでのアバターに大体これを選ぶ。

 

 天気は、当然快晴。

 

 現実より低くなった視線で、メインストリートをちょこちょこ歩く。道沿いの建築にはあらゆる活動の看板が設えられ、自分達の存在を主張している。

 

『RPG部』『レースゲー部』『オンプ部』『魔導ダンジョン攻略部』『マジかわモンス育成部』『仮想アバター制作部』『BGM&SE制作部』『シナリオ書く部』『配信制作編集部』『ヤルンやる部』『かんかん鍛冶屋部』『FPS部・東雲第三音速小隊』『都市育成シミュレーション部』『リアタイ戦略部』『TCG部』『仮想背景制作部』『パズルクイズ部』

 

 等々。

 

 いかつい構えの建物前では、シルクハットを被ったおじさんアバターが、「I need you」と道行く生徒を指差している。勧誘広告NPCだ。

 

 賑やかなメインストリートを抜けると、ここローカル仮想空間の中心である、円形広場に辿り着く。大きな噴水を中央に配した広場では、この学校の生徒達が思い思いに談笑している。

 

 現実の見た目が絶妙にデフォルメされた見事なアバター群と、宙に浮かび様々な情報を映す平面モニタ。そんな技術の結晶の中、縫うように歩いていると、

 

『オぼべっぐちらくんちいぎいッ、ギギギッ!!』

「おわあっ!!」

 

 突然響き渡った奇声と悲鳴に、僕は立ち止まった。見れば、鎧を着た青年が空中モニタを前に、尻もち突いて震えている。

 

『狂気が現実を侵食するパニックホラーアクション、『インセイン』。好評発売中』

 

 映像の内容は、白目を剥いて半狂乱になった人々と、ボロ布を纏ったモンスターが襲い掛かかってくる、グロ&ホラー満載のゲーム・トレーラーだ。

 

「クソッ! インパクト狙いで恐えPV作りやがって! おい、画面変えてくれよ! 俺こういうの超苦手なんだって!」

「ビビり過ぎ、超ウケんだけど」

 

 青年の懇願に、近くで笑っていた軽鎧の女子がジェスチャーでモニタを操作した。すると、

 

『今宵始まる魔法の宴! 歌って踊って映えっとプリティ! ローレルウッド魔法学院で、レット・アス、チャーミング・トゥギャザー!』

「いやー、やっぱこれだよな! 『マギアカ』のMVはどれも最高だわ!」

 

 きらびやかな衣装で踊る女の子達の画面に切り替わり、青年は超安心した笑顔で立ち上がった。

 

 あのMVは魔導ダンジョンARPG、『マギア・アカデミア』のものだ。舞台が女子校ということで女の子を中心に親しまれている、現代におけるファンタンジー代表の人気作品。

 

 軽鎧の女子は、モニタをうっとり見上げ、

 

「はー、『ヤルンディード』とコラボしてくんないかなー。『ヤルン』激推せっけど、服かわいく出来ないのが不満なのよねー」

「いやあ、『ヤルン』は開発がストイックだから、無理だろう。てかさ、『マギアカ』スタジオの他の作品はどうよ? レースゲーとか、色々あるよな?」

「んー、あのスタジオの作るゲームって、どれも魔法でしか攻撃出来ないじゃん? あたし剣でブッた斬らないとスッキリ出来ない系ー」

 

 なるほど。

 

 どうやら、あの二人の推しは『ヤルンディード』らしい。『ヤルン』は魔獣を倒して武器を作り、また魔獣を倒しに行く。ハック&スラッシュな北欧神話風アクションゲームだ。

 

 さて。

 

 二人のやり取りを見届けた僕は、羊の足を動かし、広場の喧騒を後にする。

 

 目的地はこのマップの外れ、人気のない草原に建つ、小さな東屋。

 

 街を離れ、東屋に辿り着いた僕は、設置されているベンチに座り、平面モニタを空中投影。続けて、物理コントローラーそっくりのアイテムを取り出した。

 

「今日こそ、活動メンバーを増やすんだ……」

 

 独り呟き、僕が作業を開始しようとした、その時、

 

「いたいた、一会くん!」

 

 呼ばれ、顔を上げると、少女が一人立っていた。

 

 とんがり帽子に魔法のマント。高校でクラスメイトになった女の子、そのアバターだ。

 

 同クラの子は、満面笑顔で、

 

「ね、これからダンスのモーション・キャプチャー手伝って欲しいんだけど!」

「でも、僕もゲーム活動があるから」

 

 僕の返答に、彼女はきょとんとした様子で、

 

「一会くん、何かやってるんだっけ?」

「え、うん……」

「たしか、どこのゲー活にも所属してなかったよね? てかさ、何かやってるならちゃんと主張しないと、ほら」

 

 フリル付きの袖を揺らし、彼女は僕のステータスを展開させた。そこに記入されているのは、

 

 東雲第三高等学校一年A組

 

 一会シン 十六歳

 

 推しゲー:『NO TITLE』 ジャンル:未登録

 

 という個人情報。

 

「プロファイル設定、推しゲーくらい入力しといた方がいいよ」

「う、うん……」

 

 違うんだ。

 

 答えに窮した僕に、同クラの子は、

 

「それよりさ! こないだキャプった一会くんのモーション、超凄かったよ! アクションもダンスも、ちょーカッコよくってキメキメで! みんな大喜び!」

「あ、うん。体を動かすの、好きなんだ。それで、小さい頃からモーション・アクターの講習に参加してて……」

「何それ! 最早プロじゃん! あーそっかそっか! 今開いてるそれ、モーション・エディターだったのね! 早く言ってよもー!」

 

 テンション上げ目になった彼女は、更にアゲ気味に、

 

「でね、一会君! スカートの動きはやっぱ生が欲しいのね! だから現実でスカート履いてくれると色々嬉しいんだけど!」

「それは絶対やんない」

「ままま! ダメもとで用意しとくから! それじゃ、また手伝ってね!」

 

 言うだけ言って、同クラの子は上機嫌で東屋を去っていった。

 

 途中、くるりと身を翻し、

 

「一会君もさ、早く好きなゲーム決めた方がいいよ! 自分のことは推しゲーで語る、今はそういう時代なんだから!」

 

 眩しい笑顔で手を振り、真っすぐ街の方へ駆けていく。

 

 跳ねるように、踊るように。

 

 何処までも楽しそうなその背中に、僕は息が詰まりそうになる。

 

「ゲームなら、僕もやってるよ」

 

 それに、これはモーション・エディターじゃない。

 

 手元のモニタに表示されているのは、グリッドが引かれた殺風景なステージ。その中で対峙する、真っ黒でのっぺらぼうな素体キャラが二体。そして、画面上部には色の違うゲージが二本。

 

 僕は一人、か細い声で、

 

「格ゲーっていうんだ……」

 

 

 

 

 

 

 今は未来と、人は言う。

 

 僕達私達は、人類が夢見た未来に生きているんだと。

 

 意識を切り替えるだけで接続可能な世界規模のネットワーク、仮想世界。現実と変わらない精度の仮想が実現した現在、ゲームは個人を証明するための重要なコミュニケーション基盤になった。

 

 好きなゲームで人と遊び、好きなゲームで人と繋がる。人種や性別、年齢なんて関係ない。趣味嗜好によって的確にゾーニングされたに人間関係は、誤解無く分かりあえる平和的社会の形成へと、人々を導いた。

 

 これこそ、人類が夢に描いた理想の繋がり。その到達点であり、臨界点。

 

 今、人類は、とても幸福だ。とても、とても。本当に、とても。

 

 

 

 でも僕は、格ゲーは……。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。