OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
「わたしは先天的にオーバー・リアルを使える能力者として生まれ付いた」
「先天的……?」
いぶかしむ僕に、クーリエは当然といったように首肯し、
「そう、あり得ない。オーバー・リアル、ゲームを現実化させる力は後天的なものだ。仮想でゲームをやり込み、現実の肉体をゲームに適応させなければ、この力は生まれようがないのだから」
「クーリエ、君は一体何者なんだ」
直球過ぎる僕の問いに、クーリエは平然とした口調で、
「はっきり言えば、実験体だ」
「実、験……」
人体実験。
フィクションでしか聞いたことの無いその言葉の意味を、僕は驚くほど冷静に理解した。
実現能力は無から有を生み出す、超常の力。物理法則の書き換えに、物質生成。そんな力があるなら、利用しようとするのが人間と言う生き物だ。十六年しか生きていない僕にだって、そのくらいの想像は出来る。
「ああ……」
想像する、思い返して当てはめる。今までの人生のルールが、パズルのように組み合わさって、一つの形を成していく。
推しゲーによるゾーニング政策と嗜好検閲、倫理指導に向社会実習。僕がどっぷり漬かってきた生活は、全部が全部、ゲーム能力の為だったんだ。
それに、
「もしかして今の時代のゲームって、超能力として都合よく現実で使えるよう、デザインされてる……?」
「その所感は旧時代のゲームを知る君ならではのものだな。わたしにはその差異が分からんが、概ねその通りなのだろう」
ああ、やっぱりだ。やっぱりだった。
仮想のゲームに抱いていた僕の違和感は、間違いじゃなかった。今のゲームは全部が全部、現実化前提で作られていたんだ。
「世界はゲームが超能力になることを、とっくの昔に知っていた。僕が過ごしていた日常は、僕が思っていた以上に管理されたものだったってこと……」
結論付ける僕を、クーリエは嗜めるように、
「君は少々思い違いをしている。現代における人類、その目下の目的は、一人でも多くの実現能力者を生み出すことだが、そのために必要なものは、やはり秩序だ。人々が安心して生活できる社会基盤が無ければ、ゲーム能力は育まれない。実現能力者の育成は国際条約に基づいた公のものであり、同様に、ゲーム資源の社会的利用に関しては、様々な共同体が公的な政策の下で行っている。ここ特区の行政管理局と保安部の情報統制を鑑みれば、それは明白であることと思う」
「それは、うん……」
確かに、このルールは酷いことばかりじゃない。僕が今まで安全に生きてきたことが、その証明だ。この街の社会としての体裁は、ちゃんと整えられている。
けど、
「そんなの、お構いなしの人間だっている」
「残念ながら、その通りだ。それが可能であるならば、実現せずにはいられない。ここ特区にはそういった人間が世界中から集まり、一部の権力者や企業から秘密裏に融資を受け、非合法非人道的な実験を行っている。わたしを研究対象としている実験も、その内の一つだ」
金の瞳の黒猫は、話す時のクセなのか、長い尻尾をふるりと揺らし、
「判断材料が足りないため、わたしが実験体となった経緯は省かせてもらう。今重要なのは、わたしの肉体的特性の方だ」
それから、続き、
「先天的に実現能力を備えたわたしの肉体は、実現能力者として理想的な生体電子マップ構造を備えている。つまりは実現能力発現理論を解き明かすための、最適解だ。その最適解を応用した対照実験の一つに、オーバー・リアルの人為的開発プログラムの作製、というものがあった」
「能力の開発? それは、君が僕にしたみたいに?」
「いいや、君は自分の力に無自覚だっただけで、既に能力者だった。わたしが与えたのはただの切っ掛けに過ぎん。遅かれ早かれ、君は能力に目覚めていたことだろう」
なんと。
「それに、君は意味を取り違えている。ここでいう開発とは、ゲームで言うレベルアップのことだ」
「ああ、そっち。実現能力って、ゲームみたいにレベルがあるの?」
「あくまで便宜的なものだ。オーバー・リアルはゲームを現実に落とし込む力だが、その殆どはゲームの要素、その一部を現実に代入しているに過ぎない。ダウンロードしたゲームを何処まで忠実に再現できるか、これが実現能力者にとっての質、レベルやランクと言われている」
なるほど。それは確かに、レベルと言っていいものだ。
「実現能力、その発現の仕方には様々なパターンがある。ルールのみしか現実化出来ない場合や、アイテムのみである場合。アイテムにしても、衣服だけの場合や食料だけの場合。複数の実現能力者が同じタイトルをダウンロードしても、ゲームに対する没頭具合によって能力の成果は全く違うものとなる。それがオーバー・リアルという力の特徴であり、人間という種の個性だ」
「それ、凄く分かる話だよ」
キャラが好き、曲が好き、システムが好き、ゲームの何処を好きになるかは人によってそれぞれだ。何より、ゲームは遊びで、勝ち負けがある。だから、勝敗以外に無頓着なんて人は大勢いる。
「けど、どうやってレベル上げを?」
そう、これはゲームへの入れ込みに関する問題、なのだと思う。好きになる気持ちを科学的に変化させる方法なんて、僕には到底思い付かない。
僕の問いに、クーリエは、
「対象者とわたしの生体電子マップを同期させることにより特定のニューロンを着火させ、理解や関心といった意欲を促し、実現対象範囲を拡大、延長させる。これが開発プログラムの仕組みだ」
「ああ、ゲームに関する気付きを与えるんだね」
「その認識で間違っていない」
それなら分かる。例えばそう、ゲームの解説や攻略動画を観るのと同じだ。
上手い人のプレイを観て、その人の説明を聞くと、自分とは違う視点でゲームを知ることができる。そういった外部からの刺激でプレイスキルが向上したり、新しいことに興味が湧くのは、とても身に覚えのある話だから。
「この実験は非常に順調で、臨床試験も無事終了している。その威力は、君が体験した通りだ」
「威力? ……あ」
気付いた僕に、クーリエは金の瞳を鋭く細め、
「あの男の実現能力は、プログラムによって拡張させられたものだ。ルール、アイテム、そして周囲の環境を疑似的にステージ化するほどの再現力。あの規模の能力者を人工的に作り出すことが出来たのだ。実験は大成功と言っていいだろう」
あいつのあれが、プログラムの力……!
「クーリエ、続きを」
「うむ」
僕が促すと、黒猫はひとつ頷き、
「この結果に気を良くした科学者達は開発プログラムを基幹として、別の実験に転用出来ないかと考えた」
「転用……」
「そう、君が先ほど勘違いしたことだ。1を2に出来るのならば、0を1に出来るのではないか。非覚醒者を人工的に能力開花させるプログラムが作れないか、という実験にだ」
「いや、それは……」
無理なんじゃないか。
開発と覚醒は、似ているようで全く違う。実現能力者になるためには、仮想でのゲームのやり込み、適応が必須。だけど、覚醒プログラムはその前提をクリアしていない。
興味の無いゲームを無理やりやらせても、結果なんて出るはずがない。
「そう、君の考える通り、この実験は基礎理論の段階で破綻している。臨床シミュレーションでは、人体がやり込みの足りないゲームデータと拒絶反応を起こし、被験者に重篤な障害を齎す、もしくは死亡させる、という結果が出てしまった。しかし、実現能力者を一人でも多く生み出すという社会的趣旨を考えれば、こちらの実験の方が有意義だ。何より、チームに参加していた科学者達の多くは、プログラムの可能性に魅入られていた」
そこまで話したクーリエは、金の瞳を鋭く細め、
「そう、あの男もその一人だった……」