OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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015 クーリエという存在(3)

 クーリエの話す、あの男のこと。

 

 男はクーリエを研究する実験チームに所属し、開発プログラムの完成に心血を注いでいた。

 

 研究は順調。自分の実現能力を拡張させることに成功し、個人的な支援者も得ることが出来た。

 

 男は沸いた。

 

 この力があれば、実現能力の全てを解き明かせるに違いないと。

 

 だけど、そこまでだった。

 

 次に着手した強制覚醒プログラムの開発が失敗に終わったことで、実験は中断、チームは完全に解体されることになった。

 

 男は焦る。

 

 チームが解体されてしまえば、研究の継続は不可能。プログラムは未完成に終わってしまう。

 

 そんな男に、チームの同僚がある話を持ち掛けた。自分達が携わった実験全てが闇に葬られるのは我慢ならない。データと実験体を持ち出し、特区の外で研究を続けないか、と。

 

 男はこれに乗った。乗るふりをした。

 

 そうだ、最早チームなどという協調は必要無い。実験体さえ確保できれば、個人で研究を継続できる。だから男は、そのために事を起こした。

 

 それが、あの日。

 

 移送班に同行した男は実現能力で事故を起こし、その隙に実験体を強奪しようとした。しかしここで、予想外の出来事に直面する。

 

 そう、僕だ。

 

 不完全ながら能力に目覚めた僕に撃退され、男は逃走せざるを得なくなった。実験体は移送班の生き残りである実験チームの人間に回収され、手が出せない状態になってしまった。

 

 けれど、男はそれでも諦めない。

 

 チームから完全に弾き出された男は、契約していた支援者の手を借り、このビルを拠点にプログラムの完成を強行する。必要なのは、実現能力者である自分と同期しうる人体サンプル。

 

 ここ特区の健康診断には、適応能力等の数値までもが詳細に記録される。あの男が僕の高校に来ていたのは、そのデータの確認の為。さっきの部屋のタンクにいた人達は、奴が集めた適合被験者だったんだ。

 

「――そして、わたし達はあの部屋に辿り着き、奴の暴走を止めることに成功した」

「うん……」

 

 話を聞き終え、僕は長い長い息を吐く。

 

 この世界はゲームが現実になることを知った上で動いてる。人を実験台にして、あり得ないことをやりまくっている。僕と父さん、そして高速道路の人達は、そいつらの食い物にされた。

 

 被害者の人達には、心の底から気の毒に思う。あと、このビルの奴等はあの男とグルだったようなので、殴って正解だった。むしろ、埋めとくべきだった。

 

 経緯を知った僕に、クーリエは、

 

「わたしが君に接触した目的は三つ。一つ目は、君に謝罪すること。二つ目は、君にこれからを生きるための自衛能力を身に付けさせること。そして三つ目は、オーバー・リアルの強制覚醒プログラム、その実験阻止だ」

 

 それから、キリッとした目付きで、

 

「非合法な実験だとて、科学の発展のためと言われれば、まだ納得できる。対象がわたしだけであるならば、諦めも付く。しかし、あの実験はその特性故、不特定多数の非能力者、大量の民間人を犠牲にする凶行に変貌してしまった。よって、あの男だけは、何としてでも止めねばならなかった」

 

 クーリエは、そこでもう一度頭を下げ、

 

「結果として、わたしは君を利用した。そのことも含め、改めて君に謝りたかった」

「いいんだ。僕は、君のやり方に納得してる。ああでもしなきゃ、僕はオーバー・リアルを使いこなせなかったと思う」

「そうか……」

 

 そして顔を上げ、

 

「わたしが伝えたかったことは、これで全てだ。これからの君のことは、しかるべき機関に任せるほかない。救急が動いたのだ、保安部もじきこのビルにやってくるだろう。彼等に実現能力のことを尋ね、改めて告知を受けるといい」

「うん……」

 

 今度は、とても優しい表情で、

 

「最後に、もう一度だけ言わせてくれ。ありがとう、一会シン」

「クーリエ……」

 

 最後。

 

 何となく、そんな気はしてた。この小難しい口調の子猫と話す不思議な時間は、もう終わってしまうんだって。

 

 だけど僕は、その前に、

 

「でも、クーリエ。君はそのままでいいの? 実験体なんて、普通じゃないよ、そんなの」

 

 何故、実験体になってしまったのか。彼女が話さなかったから、僕は聞けない。でも、心配せずにはいられない。だって、彼女がいなかったら、僕は立ち直れなかったと思うから。

 

 ただ一つの心残りを口にした僕に、小さな黒猫は金の瞳をぱちくりさせ、

 

「君がわたしを気に掛ける理由が分からない。その思考は、論理的では無い」

「するよ、心配くらい」

「わたしは君に実害をもたらした、いわば仇のようなものだ。心配とは、そのような相手に対し抱く感情ではない。理解不能だ」

「クーリエ。君は自分が事故の原因だって言ったけど、僕はそうは思わない。悪いのは、君やゲームを勝手に利用してるクソ共の方だ。クーリエ、君は、自分の意志で実験に協力してる訳じゃないんだろ?」

「当然だ」

「だったら……」

「言った筈だ。科学の発展のためという理由ならば、納得は――」

 

 っ!?

 

 突然、総毛立つクーリエ。僕も気付く、振り返る。

 

「Well,well,well……、やっと見付けたよ。随分派手にやらかしたようじゃないか」

 

 

 

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