OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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016 サドン・エンカウント

 夜の特区。市街地外れの大きなビル。

 

 嫌な感覚に振り向き、目にした光景に言葉を失う。救急隊の人達も、僕と同じように啞然としている。

 

 エントランスに集まった救急車の群れ、その上空に。

 

 人が一人、浮いている。

 

 金髪碧眼、白いスーツに首からストールを下げた、いかにもセレブな外見の青年が。ぴかぴかの革靴で宙を踏み、優雅に空を飛んでいる。

 

「は、え……!?」

「人が、飛んでる!」

 

 救護の手を止め、思わず口にする救急隊の人達に向かい、

 

「グッドゥウウ・イイイブニング! 特区の経験値諸君ンンッ!」

 

 白スーツの男は超ゴキゲンな挨拶を放ちながら、勢いよくその手を振りかぶり、

 

「突然だがあああ、R・I・Pだッ!!」

 

 いけない!

 

 反射的に植え込みから飛び出し、直感的に選択する。

 

「ダウンロード!!」

「ホーリー・バースト!!」

「「ひあっ! あああああっっ!!」」

「っっ!!」

 

 焼け付く視界、鼓膜を震わす爆発音。吹き荒れる熱風が喉を焼く。

 

 視界が元に戻ると、エントランスは白い残り火が揺れる大惨事になっていた。

 

「おや、消し炭にならないとは、おかしいな……。まあいい! ボクの目的は、こいつだ!」

 

 男が地上を指さすと、ふわりと何かが浮き上がる。あれは、ストレッチャー? そのストレッチャーを覆うシーツが燃え上がり、黒い巨体が露になる。

 

 あれは、運び出されたボロ布野郎……!

 

「さてと、それじゃあ見晴らしのいい場所に行くとしようか! アセンド・フェザー!」

 

 高い所が好きなのか、男はボロ布野郎を伴い、ぐんぐん空を昇っていく。

 

「クソッ!」

 

 僕は立ち込める煙を掻き分け、倒れた救急隊に駆け寄り、

 

「無事ですか!? 誰か、返事を!」

「……」

 

 返事は無い。でも、死んじゃいない。何故だか、傷一つ負ってない。でも、さっきと同じだ。目の前に苦しんでる人がいても、僕と格ゲーは何もできない。

 

「クソッ!!」

 

 こんなことになるなら、通報なんてするんじゃなかった! 

 

「シン! 自省は後だ! 奴を追え!」

「言われなくとも……!」

「非常階段だ! ビルの構造上、必ずある!」

 

 ぴょんと肩に飛び乗ったクーリエに頷き、走り出す。植え込みからビルの裏手に回り込むと、非常階段が、

 

「あった!」

 

 目標を定め、動きの型を切り替える。途端、足元から砂埃のようなエフェクトが舞い、僕の体がありえない速度で走り始める。

 

 ダッシュ行動。

 

 ダッシュとは、通常移動、素歩きより速いスピードで距離を詰めることが出来る、特殊移動技の一つだ。

 

 からの、

 

「せっ!」

 

 非常階段の上階へと、走り幅跳びの要領で、地面を踏み切る!

 

 ありえない速度からの、ありえない跳躍。一軒家の屋根なら余裕で跳び乗れるほどの、超跳躍。

 

 大ジャンプ。

 

 ダッシュ中にジャンプを行うことで、飛距離や高度を上げられる特殊移動技、その派生。

 

 この、大ジャンプで……!

 

「っ……!」

 

 僕は三階手すりに、無事着地。

 

 すぐに手すりから飛び降り、即ダッシュで階段を上る。上り切ったら、踊り場で方向転換、そしてまたダッシュで階段を上っていく。

 

 僕の『NO TITLE』は2D格ゲー、つまり真っ直ぐにしか進むことが出来ない。だから、ダッシュの間に現実の動きを挟んで曲がり、そしてダッシュへと切り替える。

 

 この組み合わせで、上へ上へと上っていく……!

 

「見えた、屋上!」

 

 さっき救急隊が電力どうのと言っていたから、屋上へと続く扉はどうせ開かないだろう。だったらこの非常階段から、直で行く!

 

「っ……」

 

 手すりに飛び乗り、屋上までの距離を測る。ちらりと視界に入った地面は、遥か下の真っ暗闇。落ちたら死ぬ、そんな高さだ。

 

 冷静に、足場である手すりの幅を確認する。

 

 現実の助走は、ある程度の距離が必要だ。でも、ゲームは違う。格ゲーは違う。一瞬でもダッシュ行動が発生すれば、どんな狭い足場でも最高速度の助走になる。

 

 だから、行ける。

 

 立ち上がり、超超超ショートダッシュ、からの、大ジャンプ!

 

「はっ!」

 

 一瞬の浮遊感の後、屋上に着地。……よし!

 

 目を凝らして見渡す、夜の屋上。手すりの無い、平坦な構造の空中広場。中央に横たえられた黒い巨体、その傍らに、

 

「いた!」

「おのれ!」

 

 白スーツを見付けた途端、僕の肩からクーリエが飛び降り、一目散で、

 

「貴様!! その男をどうするつもりだ!!」

 

 ちょ待っ!

 

「クーリエ、体力!」

「ぐっ、ぬう……!」

 

 噛み付く勢いのクーリエを即追いし、制止する。うかつだ、僕は全快したけど、クーリエは瀕死のままなんだ……!

 

「話す猫、実現能力? ああ、なるほど……。キッズ、お前がボクのお出迎えかい?」

 

 出迎え……?

 

 近付いた僕らに気付いたのか、白スーツの男がストールをなびかせ振り向いた。

 

「何とか言ったらどうだ? それともあれかい? このボクのゲーム言語、何処か発音がおかしいかい? まさかまさか、そんなことがあろう筈もないだろう? ボクは優秀、ボクは完璧な人間なんだからね」

 

 ゲーム言語。

 

 ゲームで使われている言葉だから、ゲーム言語。ゲーム産業がここ特区中心になり、殆どのゲームが日本語ベースになったことで定着した、あくまで通称。ここ百年で、海外では日本語をそう呼ぶ人が滅茶苦茶増えた。

 

 けど、そんなことはどうでもいい。

 

「何故、救急隊の人達を攻撃したんですか」

「何故って、それが当たり前だからさ。……うん?」

 

 質問した僕に、白スーツはようやく気付いたのか、

 

「もしかしてお前、ただの一般原住民かい?」

「何故あんなことをしたのか、聞いてるんですよ」

 

 質問に質問で返す。何が当たり前だ、そんな答えじゃ納得できない。

 

 そんな僕に、白スーツの男は、「はああ……」と大仰に溜息を吐き、

 

「ああもう! 全くあの科学者達ときたら、一体何をやっているんだ! このボク自らが! オーバー・リアルの人為的開発プログラムを受け取りに来てやったと言うのに!」

「開発プログラムだと? まさか……!」

 

 クーリエが驚き、僕も思い当たる。

 

 あの日、クーリエは特区外に移送される予定だった。それは、開発プログラムに関わる一切を、買い取ろうとした人間がいたってことだ。

 

 その買い手が、つまりこいつか……!

 

「ふうん、開発プログラムの存在を知っているとは、関係者ではあるようだ」

 

 白スーツの男は、僕達を値踏みするように見下げ、得意げに、

 

「ならば分るだろう。オーバー・リアルとは人という種の個性に根差した、非常に難解かつ繊細な超能力だ。その力を伸長させる開発プログラムなんて、そんな都合のいいものを作れるはずが無い。全くもってナンセンス、そう思っていた。だけどね、送られてきたPVを見て、居ても立っても居られなくなったよ」

「PV……?」

「そう、これだ!」

 

 ポケットから浮遊型投影装置を取り出し、起動させた。夜空に巨大なコロイド・モニタが展開し、PVとやらが映し出される。

 

 その映像は――

 

「はははははっ! はっはははははっ!」

「これは……! なんということを! やめろ、貴様! やめろっ!」

 

 クーリエの悲痛な叫びと白スーツの大爆笑をBGMに、流れ出す。

 

 厚く垂れこめる灰色の雲、赤錆色に染まった高速道路。白目を剥いた人達が、手にした拳銃でお互い撃ち合い、死んでいく。

 

「見ろ! 全く素晴らしいじゃあないか! ルール! アイテム! ステージ! 実現能力における三大要素が、極めて高い精度で現実化されている! ああ、オーバー・リアルの能力開発プログラムは本物だ!」

 

 人が死ぬ。人が死ぬ。撃って死に、撃たれて死に。そして、

 

『うウェス、かアアアアアアッッ!!』

 

 逃げ遅れた男性が、大きな化け物に、チェーンソーで斬られて死んだ。

 

「ああ、素晴らしい! ビューリホー! 実現能力の心得があるものなら、感動せずにはいられない! そうだろう? キッズ!」

「く、ぐ……」

 

 クーリエの嗚咽をかき消す、白スーツの大喝采。それからしばらくの間、ビルの屋上には能天気な笑い声が響き続けた。

 

 僕は、その笑い声が終わるのを待ち、

 

「何が、可笑しいんです……」

「……うん?」

 

 全身の血が煮えたぎる、逆に、心は氷のように冷えていく。

 

「それはゲームの映像なんかじゃない、現実だ。現実で、人が死んだんです」

「何が可笑しいって!?」

 

 白スーツは、心の底から意味が分からない、そんな笑顔で、

 

「そんなの、どうでもいいからに決まってるじゃないか!!」

 

 上映終了とばかりに投影装置を回収し、語り出す。

 

「現代における人類、その唯一にして絶対の目的は、ボクみたいな超優秀な能力者、即ち上級人類を作り出すことだ! 故に! お前達のようなゲーム下手の下級人類がどうなろうが、ボクにとっては、いや世界にとっては、どおおおおでもいいことなのだよ! そおう! お前達のような何も知らないモブは、ボク達上級人類を楽しませ、成長させるための、人型資源! 消耗品の経験値なのだよッ!」

 

 ウッキウキにご披露くださるカスボケ思想。うっとり恍惚、自己陶酔100%状態になった白スーツは、両手を広げ夜空を仰ぎ、

 

「ああっ、ハレルゥヤッ! ゲームに紐付けられた、能力評価社会よ! ボクのような覇権的人間は全てが許され、世を支配する権利が与えられる! だが、ボクはそれだけでは終わらなあい! もっと上に! 上級を超えた超級に、ボクはなある! そのための能力開発プログラム! そのための、この世界なんだッ!!」

 

 祝福あれ、そんなポーズでスピーチを終えた。

 

 僕も一度夜空を見上げ、それから、項垂れるように頷き――

 

 ああ……、そうか……。

 

「よく、分かりました」

「はははははっ! それは何よりだ! 分かって当然、だろうともお!」

「あなたは、僕が潰す」

「……は?」

 

 両の拳を胸の前に、格ゲー的な構えを取る。

 

 分かった。思い知った。

 

 ゲームが現実になると、世の中がどう変わるか。ゲームを現実に出来るなら、人は何をするか。

 

 クーリエが言った自衛の意味を、心の底から理解した。

 

 自衛とは、降りかかる理不尽に抗うことだ。自分の欲望のために無関係な人達を食い物にする、そんな奴等を返り討ちにすることだ。

 

 だから、潰す。こいつを、処す。

 

 おあつらえ向きなことに、このビルにはもうすぐ保安部がやってくる。それなら、こいつをボコして確保してもらえばいい。

 

「シン!」

「クーリエ。君は、ボロ布野郎の見張りを」

「……分かった!」

 

 僕が頼むと、クーリエは素直に身を引いてくれた。

 

 白スーツは、拳を構えた僕を爆笑寸前なアホ面で指さし、

 

「くはっ! まさかまさか、ええ? キッズは既に、ゲームを起動してたのかい? 起動していてそれなのかい? 何が気に食わないのか知らないが、そんな低レベルな力でこのボクに噛み付こうって!? やめておくれよ、ボクは弱い者いじめがだああああい嫌いなんだ!」

 

 ひとしきり笑い終えたあと、満足したのか、

 

「ハッハァ、いいよ、やろうじゃないか。それじゃあまずは、自己紹介だ。どんな時でも礼節を忘れない、それが高貴なる人間の振る舞いだからね。ボクの名はブラント・ヴァンダー……、ああ、家名を口に出すのは不用意かな。そう、ボクの名はブラント! ただのブラント様だ!」

「そうですか」

 

 僕の返事に、ブラント様なる白スーツは、ご自慢そうな金髪をかき上げ、

 

「くくっ、それじゃあ対戦、いや、一方的な蹂躙を始めようか!! 開発プログラムを手に入れる前の肩慣らし! いやさ、レベルアップの前祝いだッ! ボクという上級人類にバトルを挑む愚かしさを、心の底から理解するといい! これこそ真のオーバーリアル、真のゲームさ! ダウンロード!!」

 

 

 

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