OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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017 VS『エターナル・オーダー』

「ダウンロード!!」

 

 ブラント様がその言葉を口にした途端、屋上が光に包まれ、荘厳な音楽が流れ始めた。

 

 光が収まると、そこに立つのは一人の騎士。白い鎧に剣と大盾。兜無しの頭上には、黄色と緑のバーが浮かんでいる。

 

 オーバー・リアル、ゲームを現実にする力だ。

 

「フーハハァ! 見たまえ、この神々しいまでの再現力を! ボク、最高ーッ!」

『HERE COMES A NEW CHALLENGER! READY? FIGHT!』

 

 白スーツならぬ白騎士になったブラント様を前に、僕の中の『NO TITLE』が反応する。実現能力者同士の対戦、ゲーム・ヴァーサス・ゲーム、スタートだ。

 

「ハッハァ! アハン、アーハンッ!」

「ふっ! ふっ!」

 

 速攻で距離を詰め、右手の剣で攻撃してくるブラント様。対する僕は回避に専念、まずは観察。見慣れたデザインの装備に、聞き慣れた戦闘BGMで即特定する。

 

「このゲーム、『エターナル・オーダー』か!」

「ハッハァ!! 分かって当然、だろうとも!!」

 

『エターナル・オーダー』

 

 みんな大好き西洋風ファンタジーMMOARPG、超多人数同時参加型仮想ロールプレイングゲームで、大昔からのシステムを継承した現代の覇権ゲーの一つだ。

 

 プレイヤーは様々な職業、ジョブを選択し、最大三十人のパーティーを組んでクエストを攻略していく。魔法にアーツにスキルに連携、その遊び心地は正に王道。

 

 ブラント様のジョブは、前衛職である守護騎士。敵の攻撃を引き受け味方を守る、盾役の代表職だ。

 

 僕も当然プレイ済み。けど、対抗策は考えない。

 

 その理由は、『エタオダ』と仮想のゲームシステムにある。

 

『エタオダ』の肝は、ジョブだ。ジョブには各ジョブ毎にレベル設定があり、そのレベルを上げることで、プレイヤーは様々な技能を習得することが出来る。そして習得した技能は、他ジョブでも使用可能となる。

 

 一つのジョブを育てたら、転職して別のジョブを育て、また転職して育てる。そうやって多くの技能を習得し、自キャラを強化する。これが、『エタオダ』の育成システムだ。

 

 そして、『エタオダ』に限らず、現代の仮想のゲームは、戦闘中に装備やスキルがいくらでもカスタマイズ出来てしまう。つまり、引き出し無限の後出しじゃんけんを相手にするのと同じこと。

 

 よって、対策しない。相手がどんな技能を習得しているか、予想するだけ無駄だからだ。

 

 それでも、確定要素はある。それは、ジョブの固有性能だ。

 

 守護騎士の場合は、盾や防御力の高い鎧を装備できること、そして固有アーツであるヴァリアント・ウォールが使えること。絶対的に確かなのは、この二つ。

 

 それ以外では、あと二つ。救急隊を攻撃した聖属性魔法、ホーリー・バースト。そして、非戦闘中のみ使用可能な移動用浮遊魔法、アセンド・フェザー。これで確定要素は、合計四つ。

 

 それ以外は、全部忘れる。

 

「そうれ、どうしたどうしたあん!!」

 

 引き続き、鋭い剣さばきで攻撃を仕掛けてくるブラント様。全身鎧を着ているというのに、そのことを全く意に介さない運動量。この身体能力も、ブラント様がゲームに適応した証なのだろう。

 

 プレイヤーがゲームをサクサク進められるように、仮想ではアバターの身体性能が現実より高く設定されることが非常に多い。ジャンプ力が凄かったり、重いものを軽々持ち上げられたり。全部が全部、ゲーム通りだ。

 

「ハッハァ! それじゃあ、ダメ押しと行こうか!」

 

 僕が『エタオダ』の仕様を確認した矢先、ブラント様は左手を空高く掲げ、

 

「これぞ守護騎士が誇る固有アーツ、ヴァリアント・ウォール!」

 

 装備している盾に、青白い光を纏わせた。

 

 来た。守護騎士の固有アーツ、盾で防いだ前面からの単発物理攻撃を一定ダメージ軽減、もしくは無効化する、ヴァリアント・ウォールだ。

 

 その性能、確かめる。だから、敢えて仕掛ける。

 

 決断した僕は近寄り、立ち弱パンでコンパクトな打撃を叩き込む。

 

「せっ!」

「ハッハァ! ヴァリアントォ!」

「せっ!」

「凄いぞウォール!! 相手が何をしてきても徒労に終わる、この快感! オウサム!」

 

 しかし、ブラント様が盾を構えただけで、僕の拳が見えない何かに止められてしまう。どう見ても盾の無い場所を殴っているのに、エネルギー・フィールドのような壁に阻まれ、こちらの攻撃が届かない。

 

 ヴァリアント・ウォールの防御判定だ。

 

 そして、実感した。物質化された装備も、正に超能力なこのアーツも、仮想でプレイしたゲーム通りの性能だ。このブラント様は、『エタオダ』というゲームを忠実に現実化できている。

 

 なら、行ける。ゲーム通りなら、抜け道はある。

 

 僕が再度踏み込もうとした、直前、

 

「ハッハァ! キッズのゲームは接近戦がお好みのようだがあ! そんな相手には、そう! シールド・ラッシュ!」

「っ!?」

 

 ブラント様は左手の盾を叩き付けるようにして、体当たりを仕掛けてきた。寸前で防御したものの、僕の体は後方に大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 シールド・ラッシュ。

 

 アーツ、いわゆる肉体的特殊技。ヒットした相手を怯ませ、遠くに飛ばすことが出来る。間合い管理の基本にして、守護騎士の定石アーツ。確定要素以外の行動だ。

 

「そしてそしてえ! 距離が離れたらあ!」

 

 僕を吹き飛ばしたブラント様が、今度は斬撃と違うモーションで剣を振りかぶる。これは――

 

「ホーリー・バースト!」

「っっ!!」

 

 距離の離れた相手に、魔法攻撃。

 

 効果音伴う白い炎弾に対し、僕は上半身を腕で庇って耐え凌ぐ。

 

 クソ熱い。クッソ熱い。それでも、僕の体力は1ミリたりとも減りはしない。

 

 これは、ガードモーション。

 

 さっきのシールド・ラッシュに続き、僕がずっと無傷で済んでいるのは、全て格ゲーのガードシステムのおかげだ。

 

 格闘ゲームというのはその名の通り、当初は格闘技を題材としたものから始まった。しかし様々なタイトルが生まれ、設定の多様化が進むにつれ、その攻撃方法は徒手空拳だけに留まらず、武器を用いたものが増えていった。

 

 剣や刀は勿論、鞭に棍棒、ブーメラン、そして拳銃。果ては未来的な光線銃や超能力ビームに魔法まで。多種多様な攻撃方法、戦闘スタイルの積み重ねは、格ゲーの歴史そのものと言っていい。

 

 しかし、武器を用いた攻撃だからといって、一撃で決着が付いてしまったらゲームのバランスが崩壊してしまう。よって、格ゲーのガード行動は何を防いでもピクちりライフが削れない、鉄壁の防御システムとして成立し、認知された。

 

 つまりは銃弾だろうとビームだろうと、特殊な設定が付加されていない限り、ノーダメージで凌ぎ切れる。

 

 それが格ゲーにおける、ガードの仕様だ。

 

「ほおう? この攻撃でもダメージを受けないとは! しかし、何処まで続くかなあ!? ほおら、ホーリー・バースト! ホーリー・バーストォ!」

「っ……!!」

「ホーリーホーリー! ホーリー・バーストォ!」

「っっ……!!」

 

 連続で繰り出される魔法、焼けつくような痛みに耐え、凌ぎに凌ぐ。

 

「……ホーリーバースト! おっと、そろそろだ!」

 

 ブラント様は魔法の息継ぎがてら、盾を腕固定モードに切り替え、空いた左手でアイテムを取り出した。それは、緑色の液体が入った小さな小瓶。

 

 マジック・ポーション、MP回復薬だ。

 

「これで魔法を撃ちながらMP回復さ! ホーリー・バースト! あ、ぐびッ! ……ふう、デリシャアス!(ピロリイン!)さあさあ! まだまだ続くぞホーリー・バーストォ!」

 

 ブラント様がマジック・ポーションを飲むと、頭上のバー、減少していたMPゲージが満タンになった。これでまた魔法が撃ち放題、ゴキゲンだ。

 

 でも、そろそろ抜け出す。この攻撃は、相手にそこまでの硬直を強いるものじゃない。

 

 よし、次の攻撃の合間に――

 

「ヘイ、キッズ! ボクと! ボクの『エターナル・オーダー』相手にここまでノーダメで凌ぎ切るとは、なかなかに見事じゃあないか!」

 

 ……?

 

 僕がタイミングを計った、その時、何故かブラント様が攻撃を止めた。右手の剣をタクトのように振り回し、よく分からないことをほざき始めた。

 

「ご褒美に! この優秀なボクが! 特別にお前の評価を下してやろう! ボクの攻撃、剣も魔法も防いだガード性能は、一応見事! 見事だがあ? だがだがだがあ……?」

 

 そこで腰に手を当て、気持ちよく溜めたあと、

 

「判定、ダメ! よく分からんが、全ッ然、ダメ!」

 

 何処までも僕を見下した笑みで、評価とやらをくださった。

 

「物質生成は実現能力の基本中の基本! だと言うのに、何だいお前のそのゲームは! 装備も作れないようなゲームをダウンロードして、全く恥ずかしい! タイトル選びは現実同様、実現能力の質を左右する重要な要素! そして、オーバー・リアルはプレイヤー本人のやり込みによって、その精度が上がる力! つまりはどんなにどんなにどんなにどんなにゲームをやり込んでもおお! ゲームがダメならダメ能力者にしかなれはしなああい! そうとも! お前はゲーム以前に、現実が下手! ああ、下手っぴさ!」

 

 確かに、そうだ。

 

 剣に魔法にアイテムに。僕の格ゲーには、そんな便利なシステムは存在しない。実現能力者基準で考えれば、僕は現実が下手なのだろう。

 

 だとしても、

 

「だから?」

「なにッ!?」

 

 防御を解き、首に手を当て、コキリと鳴らす。

 

「だから、なんです?」

 

 僕の返答、僕の態度に、ブラント様はわなわなとその身を震わせ、

 

「上級人類である、このボクが! せっかくご丁寧にティーチングしてやってるというのに! なあんて口を利くんだこのチンパン・キッズが!」

 

 怒りの形相で剣を握り、

 

「いいいいいだろう! そんなに死にたいなら、さっさと終わらせてやろうじゃないか! その前に、ヴァリアント・ウォール!」

 

 クール・タイム明けにアーツの再使用、常識だ。

 

「防御は上手い! だが、それだけだ! お前とお前のゲームは、依然としてボクに傷一つ付けちゃあいない! これがリアル! これがリザルト! ユー・アー・ルーザー! アーイ・アーム・ウィナー!」

 

 我慢の限界、処刑準備は超万端。青筋を立て、猛然と突っ込んでくるブラント様。

 

 装備にアイテム、魔法にアーツ。そして、間合いの管理。このブラント様は、確かに分かってるプレイヤーだ。

 

 だけど、

 

「終わらせてやるぞお!! キイイイイッズ!!」

 

 分かってないのは、そっちの方だ。

 

 

 

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