OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
「勝った! 勝ったぞ! ハレルヤ! ハレルウウウウゥゥヤアアア!!」
極東の島国、とあるビルの屋上で、ボクは今、勝利の雄叫びを上げている。もろ手を挙げ、夜空の星々に喝采を求めるように。
見ていたかい、春の大三角形! ありがとう、デネボラスピカアークトゥルス!
ボクは勝った! 勝利だ! なんて清々しい気分なんだ!
ふう、全く、終わってみればなんてことはなかった! やはりだ。やはり、これが結末、当然の結末! これ以外に可能性があっただろうか、いや無あい!
どれ、無残な光景があるべき場所に、そろそろ視線を戻そうか。
ボクがやれやれしかけた、その時――
「ッッ……!?!?」
悪寒ッ!! 背骨ごと氷漬けにされたような感覚に、思わず身震い!!
盾を構え直し、警戒する! アーツのエフェクト、残光と噴煙で霞む視界に目を凝らす! そこに――
「ぶ――」
亜麻色の髪に緑色の瞳、日本の学生服を着た、小さな少年。
キッズだ。
キッズが立っている。しかも、
「ヴァカなああッ!? 無傷ッ!? ノーダメだとおッ!?!?」
頭上のHPバーが、1ミリも減っていないッ! 万全だ! 万全の状態でキッズが立っているッ!
それはつまり、ボクの攻撃が微塵もきかなかったということ! ダメージが入らなかったということだッ!
いいや、当たった! 当たった筈だ! なのに何故? 何故何故何故何故――
「何故だ!? 何故ッ!? 何故なにホワァアアァイッ!? 答えろキイイイイイイイッッズ!!」
叫ぶ! 納得いかない! 何故無傷で済んでいるのか、キッズはボクの疑問に答えなければならない! だというのに、まんま平常運転でボクに向かってうおお違う違う違うだろおおお!!
「待て待て待てええ! スターップ! 攻撃を止めろこの野蛮人め! 答えろ!! 何故、ボクの攻撃が効かなかったと聞いているんだ!!」
必死に制止! すると、ボクの言うことをようやく理解したのか、キッズが止まり、拳を下ろした。そして、心底面倒くさそうに、「はあ」と溜息を吐き、いやなんだその態度はベリー・シット!
「甘えたんですよ」
「甘、え……?」
キッズは淡々とした口調、人形のような無表情で、
「あなたの行動には、確証がないんです。相手のゲームの仕様も分からず、当たったらいいな、当たるに違いないを繰り返す。これが甘えでなくて、何ですか」
ソー・スウィーツ……???
「自分の強みを押し付け、相手にやりたいことをさせない、それもひとつのやり方です。けど、受け専防御ジョブの守護騎士でやることじゃない」
ザッツ・コレクト、それは確かに。
「それに、ブレイド・オブ・ヴェンジェンス。あれは失った体力が多ければ多いほど威力が倍増する、ダメージ効率の優秀なアーツです。でも、それだけだ。性能だけで見れば、防御無視も無敵貫通効果も付いていない、ただの単発攻撃と変わりありません」
それも、そう……。
「何より、僕とあなたでは、ゲーム・スピードが違い過ぎます。『エタオダ』のような現代のゲーム、特にARPGは、プレイヤーに超常的な筋力を持たせる設定はあっても、プレイヤーに反応速度を求める設計をしていません。対して、僕のゲームは1秒間を60分割した速度である1フレーム、そのフレーム単位で判断と読み合いを要求する、いわば超高速の選択肢ゲーです」
フレ? 何だって……?
「ブレヴェンみたいな大技は、ガードで割り込まれて当然でしょう」
当、ぜん……。とーぜん……?
「もう、いいですか」
フリーズしかかるボクを前に、キッズは再び拳を構え、
「嫌いなんですよ。勝負の最中に、グダグダ話すのは」
ッッ……!? 勝負、勝ち、負け……!?
そのワード、その言葉で、ボクの全身、ボクの人生に衝撃! 走る! 思い出す、ボクのメモリー!
そうだ、ボクは、生まれた時から勝者だった。
アメリカ大富豪の次男として生まれ、超贅沢な英才教育を受け、そして、忘れもしない十五の春、ボクは実現能力に目覚めた。
ゲームを起動し、鎧姿になったボクに、父上は言った。ボクは人という生物の頂点となる存在なのだと。そして、今からそれを証明すると。
父上は屋敷に世界ランクのヘヴィ級ボクサーを呼び、ボクを叩きのめすよう命じた。父上の命令通り、そのボクサーは躊躇なくボクに襲い掛かった。
しかし、能力を起動したボクは、ゲームの盾でボクサーのパンチを全て防ぎ切った、防げてしまった。それだけでなく、巨漢が繰り出す世界級のパンチに対応し、見事に倒して見せた。
次に、父上は庭に出ろと言った。外に用意されていたのは、最新式の軍用戦車だった。
ボクは襲い来る戦車の砲弾を全て防ぎ、返す刃で鋼の車体を両断。見事に撃破して見せた。
屋敷の者はみなスタンディング・オベーション。父上は、ボクを我が家の誇りだと言い、泣いていた。
その時、ボクは理解したんだ。
ボクは、真の勝者なのだと。勝者であることを、疑ってはならないのだと。
そうだ、ボクは、ボクはあああ……!!
「あああああああッッ!!」
負ける? このボクが? あり得ない! ならばどうする?! そう、こうだッ!!
「もう盾も必要ない! アイテムも魔法もいらない!」
ボクは自慢の盾を投げ捨て、両手で掴むぞ剣の柄!
これで重装戦士のパッシブ・スキルである、「両手持ち」が発動する! そして、「両手持ち」の効果は、全ての攻撃の威力が倍率ドン!すること! 更に、相手の防御値を無視してダメージを与える、「鎧断ち」効果も付いている!
更に更にい……!
「キイイイッッッズッ!! ブッ殺っしゃああああああッ!!」
頭上高く剣を掲げ、正面からキッズを見据えた構えを取る!
これぞヨーロッパは伝統的両手持ち剣術、鷹の構えだ!
確かに、『エターナル・オーダー』のアーツ・モーションはクールな反面、速度はない! そこでこれ! 上段からの強力な斬撃と、迅速な防御を両立できる現実の技術で、キッズの出方を待つ!
そして間合い! ボクとキッズの距離は、おおよそ6メートル!
博識なるボクによると、日本には剣道スリー・バイ・ワンという言葉がある! これは、得物を持った相手には、その三倍の実力がないと勝てない、というものだ!
そう、自明! 戦いは、リーチの長い方が有利なのである! この距離なら、リーチの長いボ!ク!が!有利! ということ!
キッズとのスピード差を! 剣のリーチと現実の工夫で埋めてみせる!
「カモンカモンカモオオン! チェストチェストチェストォオオッ!」
キッズが近付く! 分かるぞキッズ! 上下に体を動かす、さっきまでのカラテ・スタイルとは違う! じりじりと寄ってくる、ジャパニーズ・摺り足だ! キッズが摺り足で距離を縮め……、5メートル! カモンだキッズ!
まっすぐ来たら振り下ろす! 両手持ちでぶった斬る! まっすぐ来たら振り下ろす! 両手持ちでぶった斬る! 4メートル! チェスト仮想特区ウウッ!!
「カモンカモンカ――」
「だから――」
ッッ!?!? サッドゥンリー! 一瞬でボクの懐に現れるキッズの体!
「遅いんですよ」
「ァアアアアアアアアアッ!!」
速っ!? 短距離瞬間移動!? 間に合わッ!? いいや、ネバ・ギバッ!! このまま、振り下ろ――
「せいっ!」
「オオウッ!?」
間に、合わなかった! 腹にめり込むキッズのパンチ! 鎧越しでもアァウチッ!
「せいっ!」
「オウッ!? オウウッ!?」
更にもう一発!! 腹にめり込むキッズのパンチ! しかし、諦めない! ボクはボクを諦めない!
何故なら、そう! 防御力! この鎧の防御力こそが、守護騎士最大の特徴であると言っても過言ではないのだから!
残る! ボクのライフは絶対残る! 残ればあとは、斬るだけなんだ!
「せいっ!」
「アッ、アアウッ!?」
まだまだ続く、キッズの攻撃! 今度は脛にローキック! 残おおおおおる!!
「はああっ!」
「アウウウンッ!?」
まだ続く?! しゃがみからのアッパーカットが顎に炸裂!! こいつ、まさか! この、キッズ!
ゾッとする。ボクのマインドが加速し、体感時間が引き延ばされる……!
こ、こいつ、終わらせる気か!? ここに来ての連続攻撃、コンボだとおおおおお!?
それはノウ!! 絶対に、ノオオオオオオウ!! 何故なら、ボクのライフは残り数ミリ!
しかし、動けない! 動かない! ボクの体はやられモーションで固定され! 何も! 出来なああああい!
「はああっ!!」
「ノウ! ノウッ!」
引き延ばされた時間の中、突然ブレるキッズの姿。アッパーカットの動きが不自然に省略され、小さな背中が回転する。これは、まさか……!
上段、回し蹴り!?
「はああああ!!」
「ノォオオオオオオオオオオオオウッッ!!」
動かない動かない! マイ・ボディ! 残れ残れ! マイ・ライフ!
残れ! のこ――
「ああっっ!!」
「ノ――」
轟音ッ!! 炸裂ッ!!
キッズの蹴りがボクのこめかみに直撃する!! その瞬間ッ!!
『K・O!!』
「アアァン!! ビリイイィバボォオオゥオオゥオオゥッ……!!」
ボクの口から飛び出す、あり得ない断末魔。ボクの体が錐もみ回転で宙を舞い、がしゃりと地面に落下する。
『YOU WIN!!』
ビルの屋上に響き渡る、電子音声。『エターナル・オーダー』の戦闘BGMが敗北BGMに切り替わり、ゲーム能力で生成した守護騎士の鎧が、ぼろぼろ崩れ、消えていく……。
「こ、こんな、まさ、か……」
意識を失う直前、ボクの視界に映る、氷のようなキッズの瞳。耳に残る、最後の、言葉……。
「ゲーム・オーバーだ。上級人類さん」