OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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019 【NOW LOADING...】ブラント様(2)

「勝った! 勝ったぞ! ハレルヤ! ハレルウウウウゥゥヤアアア!!」

 

 極東の島国、とあるビルの屋上で、ボクは今、勝利の雄叫びを上げている。もろ手を挙げ、夜空の星々に喝采を求めるように。

 

 見ていたかい、春の大三角形! ありがとう、デネボラスピカアークトゥルス!

 

 ボクは勝った! 勝利だ! なんて清々しい気分なんだ!

 

 ふう、全く、終わってみればなんてことはなかった! やはりだ。やはり、これが結末、当然の結末! これ以外に可能性があっただろうか、いや無あい!

 

 どれ、無残な光景があるべき場所に、そろそろ視線を戻そうか。

 

 ボクがやれやれしかけた、その時――

 

「ッッ……!?!?」

 

 悪寒ッ!! 背骨ごと氷漬けにされたような感覚に、思わず身震い!!

 

 盾を構え直し、警戒する! アーツのエフェクト、残光と噴煙で霞む視界に目を凝らす! そこに――

 

「ぶ――」

 

 亜麻色の髪に緑色の瞳、日本の学生服を着た、小さな少年。

 

 キッズだ。

 

 キッズが立っている。しかも、

 

「ヴァカなああッ!? 無傷ッ!? ノーダメだとおッ!?!?」

 

 頭上のHPバーが、1ミリも減っていないッ! 万全だ! 万全の状態でキッズが立っているッ!

 

 それはつまり、ボクの攻撃が微塵もきかなかったということ! ダメージが入らなかったということだッ!

 

 いいや、当たった! 当たった筈だ! なのに何故? 何故何故何故何故――

 

「何故だ!? 何故ッ!? 何故なにホワァアアァイッ!? 答えろキイイイイイイイッッズ!!」

 

 叫ぶ! 納得いかない! 何故無傷で済んでいるのか、キッズはボクの疑問に答えなければならない! だというのに、まんま平常運転でボクに向かってうおお違う違う違うだろおおお!!

 

「待て待て待てええ! スターップ! 攻撃を止めろこの野蛮人め! 答えろ!! 何故、ボクの攻撃が効かなかったと聞いているんだ!!」

 

 必死に制止! すると、ボクの言うことをようやく理解したのか、キッズが止まり、拳を下ろした。そして、心底面倒くさそうに、「はあ」と溜息を吐き、いやなんだその態度はベリー・シット!

 

「甘えたんですよ」

「甘、え……?」

 

 キッズは淡々とした口調、人形のような無表情で、

 

「あなたの行動には、確証がないんです。相手のゲームの仕様も分からず、当たったらいいな、当たるに違いないを繰り返す。これが甘えでなくて、何ですか」

 

 ソー・スウィーツ……???

 

「自分の強みを押し付け、相手にやりたいことをさせない、それもひとつのやり方です。けど、受け専防御ジョブの守護騎士でやることじゃない」

 

 ザッツ・コレクト、それは確かに。

 

「それに、ブレイド・オブ・ヴェンジェンス。あれは失った体力が多ければ多いほど威力が倍増する、ダメージ効率の優秀なアーツです。でも、それだけだ。性能だけで見れば、防御無視も無敵貫通効果も付いていない、ただの単発攻撃と変わりありません」

 

 それも、そう……。

 

「何より、僕とあなたでは、ゲーム・スピードが違い過ぎます。『エタオダ』のような現代のゲーム、特にARPGは、プレイヤーに超常的な筋力を持たせる設定はあっても、プレイヤーに反応速度を求める設計をしていません。対して、僕のゲームは1秒間を60分割した速度である1フレーム、そのフレーム単位で判断と読み合いを要求する、いわば超高速の選択肢ゲーです」

 

 フレ? 何だって……?

 

「ブレヴェンみたいな大技は、ガードで割り込まれて当然でしょう」

 

 当、ぜん……。とーぜん……?

 

「もう、いいですか」

 

 フリーズしかかるボクを前に、キッズは再び拳を構え、

 

「嫌いなんですよ。勝負の最中に、グダグダ話すのは」

 

 ッッ……!? 勝負、勝ち、負け……!?

 

 そのワード、その言葉で、ボクの全身、ボクの人生に衝撃! 走る! 思い出す、ボクのメモリー!

 

 そうだ、ボクは、生まれた時から勝者だった。

 

 アメリカ大富豪の次男として生まれ、超贅沢な英才教育を受け、そして、忘れもしない十五の春、ボクは実現能力に目覚めた。

 

 ゲームを起動し、鎧姿になったボクに、父上は言った。ボクは人という生物の頂点となる存在なのだと。そして、今からそれを証明すると。

 

 父上は屋敷に世界ランクのヘヴィ級ボクサーを呼び、ボクを叩きのめすよう命じた。父上の命令通り、そのボクサーは躊躇なくボクに襲い掛かった。

 

 しかし、能力を起動したボクは、ゲームの盾でボクサーのパンチを全て防ぎ切った、防げてしまった。それだけでなく、巨漢が繰り出す世界級のパンチに対応し、見事に倒して見せた。

 

 次に、父上は庭に出ろと言った。外に用意されていたのは、最新式の軍用戦車だった。

 

 ボクは襲い来る戦車の砲弾を全て防ぎ、返す刃で鋼の車体を両断。見事に撃破して見せた。

 

 屋敷の者はみなスタンディング・オベーション。父上は、ボクを我が家の誇りだと言い、泣いていた。

 

 その時、ボクは理解したんだ。

 

 ボクは、真の勝者なのだと。勝者であることを、疑ってはならないのだと。

 

 そうだ、ボクは、ボクはあああ……!!

 

「あああああああッッ!!」

 

 負ける? このボクが? あり得ない! ならばどうする?! そう、こうだッ!!

 

「もう盾も必要ない! アイテムも魔法もいらない!」

 

 ボクは自慢の盾を投げ捨て、両手で掴むぞ剣の柄!

 

 これで重装戦士のパッシブ・スキルである、「両手持ち」が発動する! そして、「両手持ち」の効果は、全ての攻撃の威力が倍率ドン!すること! 更に、相手の防御値を無視してダメージを与える、「鎧断ち」効果も付いている!

 

 更に更にい……!

 

「キイイイッッッズッ!! ブッ殺っしゃああああああッ!!」

 

 頭上高く剣を掲げ、正面からキッズを見据えた構えを取る!

 

 これぞヨーロッパは伝統的両手持ち剣術、鷹の構えだ!

 

 確かに、『エターナル・オーダー』のアーツ・モーションはクールな反面、速度はない! そこでこれ! 上段からの強力な斬撃と、迅速な防御を両立できる現実の技術で、キッズの出方を待つ!

 

 そして間合い! ボクとキッズの距離は、おおよそ6メートル!

 

 博識なるボクによると、日本には剣道スリー・バイ・ワンという言葉がある! これは、得物を持った相手には、その三倍の実力がないと勝てない、というものだ!

 

 そう、自明! 戦いは、リーチの長い方が有利なのである! この距離なら、リーチの長いボ!ク!が!有利! ということ!

 

 キッズとのスピード差を! 剣のリーチと現実の工夫で埋めてみせる!

 

「カモンカモンカモオオン! チェストチェストチェストォオオッ!」

 

 キッズが近付く! 分かるぞキッズ! 上下に体を動かす、さっきまでのカラテ・スタイルとは違う! じりじりと寄ってくる、ジャパニーズ・摺り足だ! キッズが摺り足で距離を縮め……、5メートル! カモンだキッズ!

 

 まっすぐ来たら振り下ろす! 両手持ちでぶった斬る! まっすぐ来たら振り下ろす! 両手持ちでぶった斬る! 4メートル! チェスト仮想特区ウウッ!!

 

「カモンカモンカ――」

「だから――」

 

 ッッ!?!? サッドゥンリー! 一瞬でボクの懐に現れるキッズの体!

 

「遅いんですよ」

「ァアアアアアアアアアッ!!」

 

 速っ!? 短距離瞬間移動!? 間に合わッ!? いいや、ネバ・ギバッ!! このまま、振り下ろ――

 

「せいっ!」

「オオウッ!?」

 

 間に、合わなかった! 腹にめり込むキッズのパンチ! 鎧越しでもアァウチッ!

 

「せいっ!」

「オウッ!? オウウッ!?」

 

 更にもう一発!! 腹にめり込むキッズのパンチ! しかし、諦めない! ボクはボクを諦めない!

 

 何故なら、そう! 防御力! この鎧の防御力こそが、守護騎士最大の特徴であると言っても過言ではないのだから!

 

 残る! ボクのライフは絶対残る! 残ればあとは、斬るだけなんだ!

 

「せいっ!」

「アッ、アアウッ!?」

 

 まだまだ続く、キッズの攻撃! 今度は脛にローキック! 残おおおおおる!!

 

「はああっ!」

「アウウウンッ!?」

 

 まだ続く?! しゃがみからのアッパーカットが顎に炸裂!! こいつ、まさか! この、キッズ!

 

 ゾッとする。ボクのマインドが加速し、体感時間が引き延ばされる……!

 

 こ、こいつ、終わらせる気か!? ここに来ての連続攻撃、コンボだとおおおおお!?

 

 それはノウ!! 絶対に、ノオオオオオオウ!! 何故なら、ボクのライフは残り数ミリ!

 

 しかし、動けない! 動かない! ボクの体はやられモーションで固定され! 何も! 出来なああああい!

 

「はああっ!!」

「ノウ! ノウッ!」

 

 引き延ばされた時間の中、突然ブレるキッズの姿。アッパーカットの動きが不自然に省略され、小さな背中が回転する。これは、まさか……!

 

 上段、回し蹴り!?

 

「はああああ!!」

「ノォオオオオオオオオオオオオウッッ!!」

 

 動かない動かない! マイ・ボディ! 残れ残れ! マイ・ライフ!

 

 残れ! のこ――

 

「ああっっ!!」

「ノ――」

 

 轟音ッ!! 炸裂ッ!!

 

 キッズの蹴りがボクのこめかみに直撃する!! その瞬間ッ!!

 

『K・O!!』

「アアァン!! ビリイイィバボォオオゥオオゥオオゥッ……!!」

 

 ボクの口から飛び出す、あり得ない断末魔。ボクの体が錐もみ回転で宙を舞い、がしゃりと地面に落下する。

 

『YOU WIN!!』

 

 ビルの屋上に響き渡る、電子音声。『エターナル・オーダー』の戦闘BGMが敗北BGMに切り替わり、ゲーム能力で生成した守護騎士の鎧が、ぼろぼろ崩れ、消えていく……。

 

「こ、こんな、まさ、か……」

 

 意識を失う直前、ボクの視界に映る、氷のようなキッズの瞳。耳に残る、最後の、言葉……。

 

「ゲーム・オーバーだ。上級人類さん」

 

 

 

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