OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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020 エスケープ・フロム・高層ビル

「シン!」

 

 夜の特区、ビルの屋上。

 

 滞りなく上級人類を潰した僕のところへ、小さな黒猫が走ってくる。

 

「シン! シン!」

「クーリエ」

 

 ああ、クーリエがいてよかった。ボロ布野郎とブラント様、この二人をこのまま放置はあり得ない。手っ取り早く屋上から落とすべきか、相談できる相手がいるのはとても心強い。でも、何だろう。そのクーリエが、とても慌てて、

 

「シン、防御だ! ガードを固めろ! 今、すぐにだ!」

「っ!?」

 

 クーリエの叫びで、反射的にしゃがんでガード。直後、経験したことの無い激痛が、僕の左半身に襲い掛かった。

 

「っっ!?!?」

 

 僕の左腕に命中する激痛の原因、ちゃりちゃりと音を立てて屋上の床に落ちていく金属たち。これは、

 

「本物の、銃弾……!?」

 

 撃たれた先、屋上入り口。いつの間に入り込んでいたのか、アサルトスーツとアサルトライフルを装備した、黒い武装集団。

 

 そう、あれは、

 

「特区保安部、情報機動部隊だ! 手を頭の上に! 床に膝を突け!」

 

 そういうことは、撃つ前に言ってくれ……!!

 

 引き続き撃ち込まれる銃弾に、僕は痛みを堪え耐え凌ぐ。ちなみに、生まれて初めて銃で撃たれた感想は、

 

「ぐっ、つつづづっっ……!!」

 

 クッッソ痛い……!!!!

 

「保安部!! それも機動部隊が!! 身元確認もせず民間人に発砲するのか!!」

「そうです、待って……! 僕は、通報者で……!」

「手を頭の上に、床に膝を突け!」

 

 いや無理だろ!

 

 僕を盾にクーリエが驚くけど、僕だって驚きだ。確かに、僕達はビルに不法侵入し、あげく超能力でバトッていた不審者に違いない。だけどまさか、いきなり撃たれるとは思わなかった。

 

 しかも、

 

「ぐ、く……、くっ……!!」

 

 銃撃が、止まない……!!

 

 僕の足元に築かれていく、銃弾の山。隊員達はアサルトライフルの弾倉を交代で交換し、攻撃の手を緩める気配が一向にない。

 

 こんなの、普通の人間だったら間違いなく死んでいる。これが、このやり方が、実現能力者に対しての当たり前だって言うのか……!?

 

「ぐ、くっ……!!」

 

 それでも依然、僕は無傷。低くしゃがみ、上半身を腕で庇って耐え凌ぐ。

 

 けど、強固な防御性能とは別に、ゲームを現実化するオーバー・リアルならではの問題がある。それはダメージを受けずとも、痛みだけはしっかり感じてしまうことだ。

 

 更に、

 

「シン、離脱だ! 一刻も早くこの状況から抜け出さねば、致命的なことになる!」

「分かっ、てる……!」

 

 そうだ。ダメージを受けていないだけで、今の僕は完全に動きを封じられ、固められた状態だ。

 

 催涙ガスに閃光弾、スタン・グレネードに超音波。生きたまま人を捕らえる武器なんて、いくらでもある。格ゲーのルールをすり抜ける武装を使われたら、それで終わりだ。

 

 そうなる前に、ガードを解き、次の行動に移らなければならない。

 

 覚悟を決めろ! 行くぞ、今!

 

「ぐっ、がっ!!」

「シン!」

 

 ガード解除! と同時に僕の全身を襲う、強烈な衝撃! 痛みで断ち切られそうになる意識の中、何とか、クーリエを庇う形で床に倒れる。

 

 クソ痛い。クッソ痛い。

 

 現実で頭を撃ち抜かれれば即死だけど、プレイヤーでいる間はただの被弾、ただのダメージで済んでしまう。流石はゲームに適応した現代の人の力、オーバー・リアルだクソッたれ。

 

「うえ、ぺ……」

 

 何処を撃たれたらこうなるのか、口に銃弾が入っていたので、血反吐と一緒に吐き捨てる。

 

 ゲーム起動中の大怪我や出血は、プレイ続行可能な別の負傷へと置き換わる。上半身は見事に血塗れになったけど、確かに、その法則通りになったのだろう。

 

 それより、揺れる視界でライフを確認。よかった、半分で済んだ。何故か、これも格ゲーのシステムおかげだ。

 

 ダメージ制限と、ダウン状態。

 

 格ゲーは、互いのライフを互いの攻撃で削り合う対戦形式で、そのダメージの交差は、やはりバランスの取れたものでなければならない。

 

 たった一回の連続攻撃で全ライフを一気に削られ試合終了。そういった極端な展開にならないよう、プレイヤーは一定のダメージを受けると倒れた状態になり、それ以上の追撃を受けなくなる。

 

 つまりは今の状態だ。そして、

 

「しっかりしろ、シン!」

「クーリエ。頭を、出しちゃだめだ……」

 

 感じる。

 

 現実ではあり得ない現象が、僕の体を取り巻いている。放たれる銃弾、その全てが軌道を変え、僕の体を避けるように飛んでいく。

 

 これはそう、ダウン時における無敵時間。

 

 格ゲーにはダウン状態から起き上がるまでの僅かな間に、一切の攻撃を受け付けない無敵時間が設けられている。

 

 これはダメージ制限同様、攻防を一方的なやり取りで終わらせないための、仕切り直しのシステムだ。ダウン状態である限り、僕の体はあらゆる攻撃の一切を受け付けず、ダメージを負うことは絶対に無い。

 

 さっきの覚悟はわざと攻撃を喰らい、ダウンするための覚悟だった。ダウン状態からの復帰、その間の無敵時間を利用し、機動部隊の銃撃を無効化する。このダメージ、この痛みは、逃走するための必要経費。

 

 そして次に必要なのが、やっぱり覚悟だ……!

 

「行、くよ!」

「ああ!!」

 

 合図を叫び起き上がり、クーリエが僕にしがみ付く。無敵時間を利用して射線を抜け、屋上の縁に目掛けてダッシュする。

 

「止まれ! 貴様、止まれ!」

 

 そう言われて、逃げない奴がいるもんか!

 

 遠くネオンが瞬く特区の夜。雲が流れ始めた空の下。

 

 無意味な警告と銃声を背に、僕はビルの天辺から飛び降りた。

 

 

 

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