OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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029 【NOW LOADING...】蔵瀬セイジン(2)

 目の前にあるのは、そう、肉塊だ。

 

 香り高い湯気を立て、特大プレートの上に鎮座する、牛のサーロイン・ステーキ。

 

 塩コショウは少々、焼き加減は血の滴るレア、付け合わせは無し。これ以上ないほどシンプルなオーダーである。

 

 時刻は午後三時。特区中央市街区は最高級のラグジュアリーホテル、最上階の最高級レストラン。おそらくは世界で最も美食を楽しむことが出来ようこの場所で、私、蔵瀬セイジンは遅めの昼食と洒落込んでいる。

 

「むふう……」

 

 世界に名立たる、最高級の特区和牛。フォークをもってぷつりと刺せば、溢れんばかりの血と肉汁が、鉄板の熱でじゅうじゅうと音を立てる。ナイフを通せば、おおっほう、まるでバターを切るかの如く、刃がするりと通りよる。

 

 さて、実食。

 

「ふううううううううううむ……! 美味いっ……!」

 

 その肉は私の舌の上に極大の旨味と余韻を残し、ほんの数秒で溶けて消えた。

 

 たまらん。

 

 私のために生まれ、私のために死んだ、命の味。牛の一生が凝縮されたような重厚かつ複雑な舌触りに、感動すら覚える。

 

 どれ、もう一口、今度はゆっくり咀嚼する。むう、絶妙な噛み応えと、噛めば噛むほど口の中に広がる味の洪水。頬が落ちるとは、正にこのこと。

 

 ああ、やはり食事は肉に限る。美味いものを、いつまでも美味く食える。胃もたれ知らずの完全健康体。これこそ、我がコントロールよ。

 

「どれ……」

 

 ナイフを置き、今度は赤い液体がなみなみと注がれたグラスを手に取る。

 

 特区産の二十五年物、ヴィンテージものの赤ワイン。

 

 その極上の液体を、ぐいと口の中に流し込む。

 

「ほおおう……」

 

 素晴らしい。

 

 最早快感と呼ぶべき渋みと酸味。アルコールのしつこさなど微塵も無い。この液体の原料が葡萄ではなく、牛の血なのではと錯覚すら覚える親和性。

 

 そして、次の肉を迎えるべく、口の中の脂を綺麗に洗い流し、整えてくれる。やはり、肉にはワインである。

 

 さあ、また肉だ……。んん、その前に、このような場所で眺める情報ではないが、今日は特別だ。

 

「ふうむ……」

 

 フォンカードを経由し、机の上で小型投影装置を起動させる。表示させたるは、本日の作戦に参加する我が部下達のリストである。

 

 特区保安部、情報機動部隊。加えて、情報統合室の保安官。その顔と実績に、思わず笑みが零れる。

 

 素晴らしい。実に優秀。流石は特区保安部の生え抜きよ。

 

 一人一人確認しつつ、次の肉をひと口。

 

「おおう……」

 

 肉の快感を口内で楽しみ、リストに目をやる。

 

 そこに並ぶ部下達の名前を上から順に眺め、次は下から順に、そしてまた上から順に。 肉を口運び、ワインを飲み、リストを眺め、また肉を食み、ワインを流し込む。

 

 ああっ……、たまらんっ……!

 

「ほおおおおおんっっ!!」

 

 肉! 部下! 赤ワイン! 部下! 肉! 部下部下! 肉! ワイン! 部下! 肉ッ肉ッッ!! 酒! 肉肉肉ッ! 部下ッ! 肉むほっごほっ! 酒! 肉肉肉! 部下部下部下! 肉肉肉肉部下部下部下部下ァ……!

 

 見る、食う、飲む、食う! ああ、終わってしまう! しかし、やめられん! 止まれまてん……!

 

 やがて、

 

「おっ、ふぅううううううううむ……!」

 

 空になった鉄板を前に、熱い熱い吐息を吐く。

 

 完食である。

 

 終わった、終わってしまった。しかし、もうすぐだ。次の快感は、すぐに私を満たすだろう。

 

 ナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を拭う。投影装置をポケットにしまうと、私は手を上げ、給仕を呼んだ。

 

「ありがとうございます、またお越しください」

「うむ、ご馳走になったよ」

 

 サイン・タブレットに思考信号を飛ばし、支払いを済ませ席を立つ。最高級のレストランに勤める給仕は、日本人らしく恭しいお辞儀で、私を見送った。

 

 中々にいい値段だったが、問題はない。金など、どうせただの数字、いくらでも増やせるものだ。

 

 瀟洒な看板の店を後にし、通路からホールへ。

 

 すると、私の到来を迎えるがごとくエレベーターが到着し、そのドアが開いたではないか。

 

 ああ、何という。

 

 今日という特別な日、今日という最高のステージに相応しい、完璧なエントリーである。

 

 全面ガラス窓のエレベーターに乗り込み、思考信号で一階を選択。すると、エレベーターが下り始め、ああ、眼下に広がる地上が、まるで私を迎えているかのようだ。

 

 国際実験都市、仮想特区。

 

 世界は、この街で遊んでいる。だが、今日からは違う。

 

 この街を、いや、世界を睥睨しながら、口にする。

 

「さあ、ゲームの時間だ」

 

 

 

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