OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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003 ゴースト・イントルーダー

「じゃねー、また明日―」

「おう、またなー」

 

 翌日、昼休みを終えた午後の時間。

 

 手早く荷物をまとめた僕は、他の生徒に混じり、教室を出た。

 

『東雲第三高等学校の皆さん、こんにちは、本日もゲーム活動の時間帯になりました。全生徒は速やかにゲーム活動棟へ移動してください』

 

 お決まりの校内放送を聞き流しながら、リノニウムの廊下をさっさと歩く。

 

『ゲーム活動は好きなゲームで人と繋がり、仮想での発言や振る舞いを学んでいく、向社会実習です。他人の好きと、自分の好きを大切に。理想の仮想を目指しましょう。仮想特区、教育倫理委員会からのお報せでした』

 

 国際実験都市、仮想特区。

 

 それが僕の住む、この街の名前。

 

 仮想世界構築のため、海外からの移入技術者を集めて出来た、人口三百万の多人種区域。そして今は世界のゲーム産業をリードする、ゲームの聖地。

 

 だから通常授業は午前で終わり、午後は丸々ゲーム活動。それが、今という時代の当たり前。

 

「なあ、今日はまずアプデで追加された新武器試さね?」

「クソ射程のクソ武器らしいぜ」

「マジかよ、運営に即調整願いだな」

「見てこれ! 昨日捕まえためちゃカワモンスー!」

「かわよっ! てかこれ希少種!? どこにいんの!?」

 

 推しゲーの話題で盛り上がる生徒たちと一緒に、校舎から渡り廊下へ。そして、ゲー活棟の入り口に辿り着く。

 

 その矢先、

 

「はいはいはい! ごめんなさいよお!」

 

 威勢のいい声と共に、背後から十人以上の集団がどしどし突っ込んできた。

 

「総員、ジョブ点呼お!!」

「前衛、守護騎士よぉし! 重装戦士よぉし!」

「中衛、忍者と精霊術士揃ってます!」

「後衛、治癒魔導士と壊魔導士大丈夫でえす!」

「前衛、アーツのクーリングタイムと立ち回りの確認! 中衛は消費アイテム買いこんだ!? 後衛、魔法のスキル振りは!? みんな、マップは頭に叩き込んだわね!?」

「はあい、覚えましたあ!」

「ウッス! 万全っス!」

「ぃいいよっしゃあああ!! 今日こそ更新狙うわよぉおお!! 」

「「はいぃいいっしゃあああああ!!」」

 

 先頭を歩く先輩女子に続き、ずんずん僕らを追い越していく。

 

 彼らは今、この学校の話題の中心。MMORPGの覇権ゲーと言われる、『エターナル・オーダー』、その最難関ダンジョンのタイムアタックに挑戦している生徒達だ。

 

「凄いよねえ、世界ランクでしょ?」

「ねー、ファンクラブ作ってもいいレベルだよね」

「ゲームに私立も公立も関係無えからな、マジ頑張ってほしいわ」

「配信観てて、シンプルに面白いんだよね。プレイが上手いとさ」

「それな。アバター操作もそうだけど、連携精度と決断スピードが気持ちいいんよ」

 

 彼らに期待を寄せる、ゲー活棟の人々。その喧騒を余所に、僕は一人廊下を歩く。

 

 僕の向かう先はこの建物の四階、その一番端。物理漫画喫茶のような小さな個室が並ぶ、多目的仮想室。

 

 仮想室に辿り着いた僕は、一番奥の小部屋の中へ。スクールバッグを床に下ろし、小さなパイブ椅子に腰を下ろす。

 

 深呼吸。

 

 瞼を閉じ、そして、

 

「コネクト、クラウド」

『Hello,World』

 

 意識を切り替えれば、そこは仮想世界。羊のアバターで石畳に下り立ち、昨日と同じ道を行く。

 

 メインストリートを抜け、噴水広場に入ろうとした、その時、

 

「ゴーストだ! ゴーストが出たってよ!」

「マジかよ、久々だな! 今度は何のゲームだ!?」

「レースゲーだって! ほら、行くわよ!」

 

 歩幅の狭い僕を追い越し、鎧姿の生徒達が広場の方に駆けていった。

 

 ゴーストか……。

 

 迷った結果、僕は彼等の後を追うことにした。早く目的地に行かなきゃだけど、こればっかりは見逃せない。

 

 そう、何たってゴーストだ。

 

 ゴースト、その由来はレースゲームにおけるゴースト・カーで、元々は過去のプレイ記録の再現を指す言葉だった。けど、今は違う。

 

 仮想世界のあらゆるゲームに乱入し、高速で理論値を叩き出すメチャ強CPU。

 

 それが、ゴーストだ。

 

 何処の制作スタジオも「そんなAIは作ってません」と公表し続けているせいで、「まさかマジの幽霊なんじゃ!?」という都市伝説めいた噂が積み重なり、ゴーストという呼称が定着してしまった。

 

 勿論、誰も信じちゃいない。ゴーストはプレイヤーを飽きさせないための、運営の遊び心に決まってる。

 

 とにかく、ゴーストはめちゃんこ強い。仮想世界誕生以来、ゴーストに勝ったプレイヤーは存在しない。もし勝てれば、伝説になれる。ゴーストは現代に生きる僕達ゲーマーにとっての、正にラスボス的な存在だ。

 

「よし……」

 

 意を決し、彼等の後を追うと、既に人でごった返していた。

 

 広場の中央、噴水直上モニタに映っているのは、人気長寿ゲーのひとつである近未来レースゲーム、『ファスト&フレーム』。

 

 流線形のフォルムをした車輪の無いバイク、エアロフレームで宙を駆り、用意された武装をコースに合わせてアセンブリし、速さを競う。シンプル且つ戦略性の高い、良ゲーだ。

 

 モニタが映す先頭集団、そのトップを突っ走る真っ黒なエアロフレーム。おそらく、あれがゴーストだろう。その影を、他のプレイヤー達が必死に追い掛けている。

 

「おお!? 抜けっか!? これは抜けんじゃねえか!?」

「行け!! まくれ!!」

 

 けど、

 

「ああー! っぱ、ダメかあ!」

 

 最後の直線、黒い機体が装備の一つであるブースターを使い、ロングスパート。ブッ千切りでチェッカーフラッグを受けた。

 

「はっえええええ!!」

「それだけじゃねえぞ!! なんつーコース取りだよ、人間じゃねえわ!!」

 

 ゴーストが叩き出した圧倒的な結果に、広場の観衆は興奮冷めやらぬ状態で、

 

「やべえな! マジでチートじゃねえか!」

「はあ? ゴーストにチートがあるわけないじゃない! アセンもフレームもプレイヤーと一緒よ!」

「分かってんよ! マジでやべーって意味だっつーの!」

 

 ちなみに、ゴースト乱入時の試合では参加者に負けスコアが付かない。イベント扱いとして公平性が保たれているので、やっぱりゴーストは運営の仕込みなんだと思う。

 

「しっかし、あれだな。最近、レースゲー以外でゴーストって見ねえよな」

「ゴーストって運営のステルス盛り上げだろ? 直接的な売り上げ見込めねえから、プログラム作んのやめちまったんじゃね?」

「効果はあんだろ。ゴーストから学ぶプレイスキル上達講座とかよ。アレ系の動画の伸びハンパねえじゃん」

 

 うん、やっぱりゴーストは凄い。

 

 滅多に拝めないゴーストの超絶プレイを堪能し、僕は広場を後にした。

 

 

 

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