OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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030 【NOW LOADING...】崎守ミサキ(3)

 アサルトライフルにボディアーマー、それからライオット・シールド。対能力者用の武器防具を装備した、黒ずくめの武装集団。

 

 電場感覚や通信装備を最大限活用するため、剥き身の頭で鉄火場に臨む、生粋の攻性組織。

 

 特区保安部、情報機動部隊。

 

 学園地区から市街区を挟み、更に南の倉庫地区。疑似情報により隔離されたここ一帯を機動部隊が封鎖するまで、三分と掛からなかった。

 

 人通りの無くなった大通り。装甲車から次々と降車する隊員達。歩道では様々な人員が、機材の再点検を行っている。

 

 まるで、戦争ね……。

 

 その中に混じり、私がブラウスの上から軽量ボディアーマーを着込んでいると、

 

「顔色が悪いぞ、崎守」

「新峰隊長……」

 

 筋骨隆々な壮年男性から、声を掛けられた。

 

 新峰サトル隊長。

 

 黒い肌に黒い瞳。黒い髪をクルーカットにした、正に巨漢。規律と実直を人間にしたらこうなる、という、機動部隊隊長そのものな人。

 

「自己管理は基本だ、しっかりしろ」

「大丈夫です。本当に、大丈夫ですから」

 

 そう答えると、新峰隊長は私の肩を叩き、部隊の列に戻っていった。

 

 ええ、大丈夫。

 

 右耳にインカムを装備し、私も準備完了。

 

 仕事はいつも通り、完璧にこなした。上から命じられたままに、やるべきことを。

 

 唯ひとつ、あの少年の名前を報告書に上げなかったこと以外は……。

 

「整列!」

 

 隊長の呼集にハッとし、大通りに並ぶ突入部隊十五名の列、その後ろに急ぐ。

 

 時刻は十七時四十五分。

 

 予定通り到着した保安部の偽装車両から、灰髪の偉丈夫が降り立った。

 

 蔵瀬セイジン特級保安正、現着。

 

「準備完了しております」

「うむ」

 

 保安正は隊長の報告に頷くと、整列していた私達を前に、

 

「本作戦はその性質により、一切の記録を残してはいかん。以降は対実現能力者想定のプランC、修正は情報統合室に任せる。そう、君だ、何と言ったか……」

「崎守です、承りました」

「うむ、頼むぞ。よし、新峰君、始めるとしよう」

「総員、作戦開始!」

 

 隊長の号令で、始まる。始まってしまった。

 

 高速道路から続く一連の能力犯罪、その首謀者を捕らえる作戦が。

 

 部隊は班に分かれ、それぞれ速やかに行動していく。私は保安正と隊長の傍に付き、部隊の一番後ろを付いていく。

 

 移動を始め、すぐに隊長が、

 

「昨晩報告した通り、自分は保安正の同行に反対です」

「知っての通り、ホシは大物だ。何かあった時の責任は誰が取るね? 私が行かねばならんだろうよ」

「理解はしています。しかし、危険です」

 

 昨日、作戦指示書を見た時の私の疑問は、一応解けた。ホシは大物、その通りだ。

 

 アルバート・クイスト博士。

 

 人工筋肉と再生医療の専門家で、この分野を四十年牽引してきた専門家。かいつまんで言えば、世界中の医療が博士の研究に救われてきた。

 

 確かに、こんな人が犯罪を主導したとなれば、保安正が指揮を執るのも頷ける。

 

 事件が明るみに出れば、潰れる企業が一つや二つで済みはしない。犯罪者の関わった研究に命を預けるなんてと、世界中が騒ぎ立てるに決まってる。

 

 そんな責任、誰も取れない。

 

「新峰君、君が隊長で私に危険が?」

 

 保安正が返すと、新峰隊長はなおも食い下がり、

 

「万一があります。装備は携帯していただけましたか」

「無い。私は完全な丸腰だ」

「指揮とは言え、最低限防弾ジャケットは着てください」

 

 まったく、この堅物め、保安正はそんな表情で、

 

「いらんだろう。それとも、君は無能を育てたのかね?」

「っ……、分かりました」

「それでこそだ」

 

 まるで挑発な保安正の言いように、とうとう新峰隊長が折れた。

 

 そして、我々は厳かに到着する。

 

 目的地。入り口は建物前面の巨大な引き戸のみという、倉庫としか呼びようのない建造物のところへ。

 

「開けます」

 

 私達の目の前で、その扉はあっさりと開かれた。訓練された隊員達が、倉庫の中へとするする侵入していく。

 

 最後に私達、その直前、

 

「突入後、即座に扉を閉めたまえ」

「ガスを使用するのですか?」

「逃走防止のためだ」

「……分かりました」

 

 作戦に無かった指示を、保安正が出した。そして、私達が倉庫に入ると、入り口付近で待機していた隊員が、静かに扉を閉じた。作戦では、倉庫の外を残りの部隊が完全包囲する予定になっている。

 

『もし、身の危険を感じたら、逃げてください』

 

 唐突に、思い浮かぶ。

 

 結局、私は彼の言葉に何の答えも出せないまま、ここにいる。私に用意出来たのは、自分の身一つ守れるかどうかの、最低限の「備え」しかなかった。

 

 倉庫の中、足音を殺し、私達は進む。

 

 暗闇に揺れる、柱と見まごうばかりの肉の塊。天井から吊るされた、象を思わせるほど大きな人工筋肉。

 

 天井の明かり取りから差し込んだ夕暮れの光が、それらの輪郭を微かに浮かび上がらせている。

 

 まるで、巨人が営む肉屋の倉庫。

 

 その奥に、何か大きな構造物が鎮座している。

 

 無骨な車体、先端に車輪の付いた長い脚。

 

 思考操作式、多脚戦車。市街地攻略用の、特殊軍用車両。

 

 その傍らにコンソールを開き、作業している老人が一人。

 

「特区情報機動部隊だ! 手を頭の上に、床に膝を突け!」

 

 全て作戦通り。部隊の迅速な行動と配置により、老人はあっという間に包囲された。

 

「ああ、お客さんか……」

 

 だというのに、白髪の老人は意にも介さない様子で振り向き、

 

「お早いお着きだ。こんなことになるなら、彼等を生かしたまま利用するべきだった……」

 

 そんな博士に向かい、隊員達がじりじりと距離を詰める。私を含め、部隊の全員が、次の命令を待っている。

 

「初めましてですなあ、クイスト博士!」

 

 っ……!?

 

「あなたのご高名は、かねてより伺っておりました!」

「目的は、私の研究かね」

「ええ、お察しの通り!」

 

 突然、隣にいたはずの保安正が進み出て、被疑者である老人と話し始めた。

 

「まさか、あれを御しようとでも思っているのかね。誰だか知らんが、少しは身の程というのものを弁えてはどうか」

「はっは、これは手厳しい!」

 

 何を、あの人、一体何を……?

 

 意味不明なやり取りをする、被疑者と保安正。それを茫然と眺める、私達部隊。

 

 止まる時間、間抜けな金縛り。

 

 そんな硬直の中、一陣を務めていた隊員が、蔵瀬保安正に近寄り、

 

「失礼ですが、保安正。先程から一体何を――」

「ダウンロード」

 

 その言葉を口にした途端、保安正の右手にパッと拳銃が現れ、

 

「っっ……!!」

 

 乾いた発砲音が鳴り、クイスト博士があっけなく床に倒れてしまった。

 

 次に、保安正は隣に来た隊員、その眉間に狙いを付け、

 

「保安正! あなたは、まさ――がっ?! ああ、あ……!!」

 

 っ……!

 

 再びの銃声。額に銃弾を喰らった隊員は、ティロンティロンという景気のいい音を立て、まるでゲームのように、跡形もなく消え去った。

 

 実現能力……!

 

 煙も出てないのに、保安正は銃口をフッと吹き、

 

「はっは! 一人消しただけで一億とは! やはり官兵殺しは効率がいい!」

「保安正! あなたは、自分がやったことを分かっているのですか!」

 

 隊長の怒声により、保安正へと狙いを変える機動部隊。

 

『保安部は利用されています』

 

 全身が泡立つ。背筋に冷たい汗が流れる。

 

 いた、内部犯が……! しかも、いえ、やはりこの人だった……!

 

「私が何をしているか? 勿論だとも、君達こそ分からないのかね?」

「保安正!!」

 

 無数の銃口に囲まれる中、保安正はくっくと笑い、

 

「保安部で使用される火器には同士討ちを避けるため、その全てに誤射防止のセキュリティが施されている。つまり、その銃では私を撃てんという訳だ」

「っっ……!!」

「新峰隊長、撃てます! 撃ってください!」

 

 半ば反射! 私はフォンカードを新峰隊長へ向け、用意していた「備え」を起動する!

 

「よくやった、崎守!! 保安正っ!!」

「うおォん?!」

 

 荒峰隊長は引き金の感触に確信を得たのか、即座に発砲。放たれた銃弾は保安正の肩を正確に打ち抜いた。

 

 私の備え。それは、保安部の火器管制システムに介入するプログラムを持ち出したこと。バレれば不正利用で懲罰解雇は免れない。

 

 もし、内部犯がいたとして、自分の身を守るにはどうしたらいいか。結局、私にはこの方法しか思い付かなかった。

 

「ほおお、セキュリティを書き換えるとは、君ぃ、重大な越権行為だよそれはぁ……!」

「保安正! あんたは、自分達保安部を欺いていたのか!」

 

 地面に落ちた保安正の銃を蹴り飛ばし、怒り心頭で確認する新峰隊長。だというのに、保安正は血塗れになったスーツで不敵な笑みを浮かべ、

 

「多勢に無勢! 加えて、負傷によるピンチ! しかし、ここでステーキを購入するッ!」

 

 ステーキ!?!?

 

 またしても途端、保安正の右手に場違いなステーキセットが出現した。そして、保安正はその肉塊にむしゃりとかぶりつき、

 

「美味い! これでライフは回復! 全ての傷は完治!(バンッ!) 更にぃ! 服のような装備ならこの通り、瞬く間に新調される!(ズアッ!)」

 

 新品そのものなったスーツに後光のようなエフェクトを纏い、ゴキゲンにポーズした。

 

 実現能力っっ……!!

 

 しかも、この速度にこの効果!! 効果音に各種演出まで実現するその精度!!

 

 この人、相当な実力者……!!

 

「崎守! 自分が許可する、隊員のセキュリティを解除しろ! すぐにだ!」

「っ!? はい!!」

「さぁせると、思うかねえ!? そら、拳銃を購入ゥ!」

「きあっ!!」

 

 命令通りプログラムを送ろうとした瞬間、左腕に鋭い痛みが走り、私の体はあっけなく地面に転がった。頬に押し付けられるアスファルトの固い感覚に混乱しながら、せめて自分の状態の確認だけでもと、必死になって意識を保つ。

 

 撃たれた? 銃で? ああ、そうか、実現能力で新しく生成、痛い。私はどうなったの? 痛い、左腕が熱い、痛い……!

 

「どうしたどうしたあん?!」

 

 聞こえる、有頂天そのものの、あの人の声が。

 

「落とした得物に気を取られ、能力者本人への警戒を怠るとは! 全くなっておらん! まあったく、なっておらんじゃないか! 無手の相手を無手と思うな! 物質生成対策は能力者戦の基本中の基本! それでも日本が誇る対ゲーム能力者戦のエキスパート、特区情報機動部隊なのかねえ!?」

「無事か、崎守!! 返事をしろ、崎守ぃ!!」

 

 ああ、隊長が叫んでいる。

 

 痛みに耐え、何とか体の向きを変える。視界には、揺れる天井。歯の根が合わず、呼吸は荒くなる一方で、もう、私に何が出来るのか分からない。

 

 そう、分からない。知らなかった。たったこれだけのことで、人が動けなくなってしまうなんて……。

 

 震える右手で左の二の腕に触れると、赤い液体がべっとりと付着した。

 

 血だ。

 

「総員、銃を捨てて盾を構えろ! 保安部への背任行為、及び第一種能力犯罪の現行犯だ! 蔵瀬保安性を拘束する!」

「了解です!」

「くっはははは! むっははははは!」

 

 重なる。隊長達の気勢と、あの人の笑い声が。全ての音と飛び交う光が、頭に響いて、気が遠くなる。

 

「私のゲームはスロー・スターターでね。成長リソースを集めるのに、少々手間が掛かるのだよ。君達には、その手助けをしてもらいたいのだ」

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 誰に向けてでもなく、ただ謝る。だって、もうそれしか、思い浮かばない。

 

 私はずっと、酷いことをしてきたから。仕事だからと自分に言い訳して、嘘を吐き続けてきたから。人の良心を踏みにじる言葉を、沢山積み重ねてきたから。

 

 これはきっと、その報い。

 

 特区南部の巨大な倉庫。人工筋肉が吊るされ揺れる、暗闇の中。

 

 流れていく、私の血液。薄れてゆく、私の意識。

 

 倉庫に響き渡る、裏切り者の宣戦布告。

 

「さああああ!! ゲームを始めようじゃないかねええええ!!」

 

 

 

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