OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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031 ロード・トゥ・キーパーソン

「動いた……!!」

 

 一夜明けた夕方過ぎ。特区南に位置する倉庫街、その一角にあるコンビニ前。

 

 僕がお茶とおにぎりで補給していると、クーリエが何かに反応し、にゃんと立った。

 

「クソッ! 結局、後手か……!」

 

 おにぎりの残りを喉に詰め込み、お茶を一気し、ゴミは店内のゴミ箱へ。コンビニを出て、黒猫と一緒に走り出す。

 

 あれから一晩掛けて、僕らはチームの研究施設を回りまくった。ゲームの力で街を駆け、猫手荷物オーケーな交通機関に乗り、深夜バスで仮眠を取り。近い場所から、遠い場所まで。

 

 けど、その全てがハズレ。もぬけの殻ですらなかった。

 

 今から行くのが最後のポイント、そのはずだった。

 

「最悪、機動部隊と混戦かな」

「分からん、状況は未知数だ」

 

 一人と一匹、倉庫街の歩道をひた走る。

 

 交通規制のためか、不自然なまでに人通りが少ない。道路を挟んで向こう側は、既に立ち入り禁止のARが浮かんでる。

 

「それよりも、シン、フィクサーと接触する前に、話しておきたいことがある。ゲームにおける、ペナルティに関してだ」

「うん」

 

 走りながら、クーリエが言った。多分これが、突入前の最終会議だ。

 

「ゲームのペナルティにより、敗北が死亡となるタイトルの場合、そのダウンローダーは対戦途中でゲームを終了させる可能性がある」

「それって……」

「その通りだ」

 

 死ぬよりましで捨てゲーする。当然と言えば、当然だ。

 

「でもそれ、対策しようがない」

「うむ、捨てゲー自体の妨害が出来れば、それに越したことはないが……。よし、ここを渡れば、目的地は目と鼻の先だ」

 

 いよいよ立ち入り禁止の区画へ、僕らは都合よく青信号の横断歩道を渡り、

 

「うっ――」

「クーリエ!」

 

 しかし、その途中、突然クーリエがへたりと倒れこんでしまった。

 

 踵を返してクーリエを抱え、横断歩道を渡り切る。

 

 僕は道の端にしゃがみ、腕の中の黒猫に、

 

「クーリエ、どうしたの」

「すまない、シン……。わたしの援護は、ここまでの、ようだ……」

「クーリエ……?」

「わたしの、ことはいい……。足を、止めるな、シン、行け……」

 

 息も絶え絶え、クーリエは今までにないほど弱った様子で、

 

「君には、色々とすまない、父上のことも……。シン、本当に、すま、ない……」

「クーリエ? クーリエ……!」

 

 その言葉を最後に、猫の形がずるりと崩れ、クーリエだった存在は僕の影へと落ちて消えた。

 

 これ、相当ヤバいんじゃないのか……!

 

 足元の影に触れながら、思い出す。『ウィズ・デッド』に使い魔の安否確認出来るような設定があったかどうか……。落ち着け、考えろ――

 

 ――いや、やめだ。

 

 今はただ、目の前の目的に集中する。

 

 倉庫に行き、フィクサーを見付けて潰す。それが僕の役割だ。

 

 それに、今から向かう場所には間違いなくクーリエを実験体にした科学者がいる。彼女のことを聞くなら、その人だ。

 

 立ち上がり、走り出す。

 

 立ち入り禁止のARを跳び越え、道の先へ。電場感覚を研ぎ澄ませ、交通整理の保安官をすり抜ける。

 

 ワンブロックがクソでかい、巨大な倉庫が並ぶ地区に入り、まだ走る。

 

「っ……」

 

 袖口で額の汗を拭い、息を整え、走り続ける。似たような構えの倉庫をいくつも通り過ぎ、そして――

 

 この路地を抜ければ、目的地……!

 

 というところで、

 

「ヘイ、学生! そんなとこで何してる! ここは今立ち入り禁止だってえの!」

 

 アサルトライフルで武装した男性に、道を阻まれてしまった。

 

 情報機動部隊……!

 

 金髪に青い瞳、気のよさそうな隊員さんが、僕を捕まえようと近付いてくる。でも、ようやくだ。その人の背後に見える、目的地。

 

 倉庫だ。

 

 装甲車で包囲された、物々しい雰囲気の巨大な建造物。

 

 クーリエに聞いた研究チームの潜伏場所、その最終候補地に、僕はようやく辿り着いた。

 

 ここまで来たんだ、今更だ、無理やりにでも通らせてもらう。

 

 僕は申し訳程度に頭を下げ、

 

「すみません、通ります……!」

「いや、お前! 通るって――」

 

 っ……!?

 

 隊員さんの脇を潜り、路地を抜けようとしたところで、突然、僕の足が止まってしまった。

 

 ……違和感!!

 

 近くで誰かが、ゲーム能力を起動している。それは間違いない。でも、それだけじゃない。何か、不穏なことが起きている。

 

「お、現実で銃見んのは初めてか? 分かるよ、テンション上がるよな? でもだ、そういうのはゲームだけで満足しとけ、な?」

 

 急に動かなくなった僕に勘違いしたのか、隊員さんは諭すように倉庫側へと回り込んだ。

 

 でも、僕は何故だか、倉庫から目が離せない。

 

「あー、生活安全課? こちら機動の鷹三。現場に入り込んでた学生を一人確保したんで、保護よろしく、どうぞ」

 

 隊員さんが耳のインカムに手をやり、何処かに指示を出している。

 

 でも、駄目だ、間に合わない。それだけは分かる、感じる。

 

「お願いします、ここを通してください……!」

「いや、お前さん、通せっつったって――」

 

 僕が願い出た、その時、倉庫の扉がほんの少し開き、中から人が這い出てきた。

 

 全身血塗れの、どう見ても負傷者。

 

 その事態に、倉庫前の人間全ての意識が集中する。

 

「ぐ、増援を……。ほ、保安、正が……」

「帆刈さん!? 負傷したのか!!」

 

 僕を止めていた隊員さんが叫ぶと、待機していた部隊全員が一斉に動き出した。ピリピリした空気が張り詰め、みな倉庫前、巨大な引き戸のところに集まっていく。

 

 駄目だ。

 

「おい、学生! お前はさっさと避難するんだ、いいな! ……隊員一名負傷! タンカだ、タンカ持ってこい!」

 

 金髪の隊員さんも僕に一声かけ、部隊の元へと走っていく。

 

 駄目だ、駄目だ。

 

 そして、気付く、見覚えがある。何処で? ゲームで。

 

 倉庫前、満身創痍で倒れている起動隊員。その腰に付着した、筒状の――

 

「いけない! その人から離れて!」

 

 グレネード!!

 

 瞬間、走り出す。僕は金髪の隊員さんを追い越し、そして――

 

「ダウンロード!!」

「ごあっ!?」「おうあっ!?」「きゃあっ!?」

 

 ゲーム起動とほぼ同時、怪我人に付着した物体が爆発した。

 

「っ……!!」

 

 閃光と爆音。視界全てが煙に塗れる。ギリギリ防御態勢は間に合うも、噴煙が晴れると、周囲に立っている人はいなかった。

 

 全滅だ。

 

 倉庫前で待機していた機動部隊全員が、グレネードのダメージでダウンしている。

 

 負傷者に爆弾を仕掛けるのは、現実の戦争でもゲームでも、よくあるやり方だ。でも、いざ目の前にすると、そのえげつなさに怒りを覚える。

 

「隊員さん! しっかりしてください!」

「う、あ……。何、が……」

 

 僕は一番近く、鷹三と名乗っていた隊員さんに駆け寄り、膝を突いて状態を確認した。

 

「あなたは無事です、掠り傷一つ負ってません。痛みが引いたら、直ぐに増援を呼んでください」

「何、言ってんだ、学生……。お前は、逃げんだよ……」

 

 隊員さんは朦朧とした意識で僕の腕を掴むけど、その力は僕でも振り払えるほど弱々しい。無理もない。負傷していないだけで、ダメージ自体は喰らってるんだ。

 

 僕は、そんな隊員さんの手を引きはがし、

 

「すみません。でも僕には、やることがあるので」

「何する、つもりだ……」

 

 立ち上がり、決意を胸に拳を握り、

 

「はい、ゲームです」

 

 

 

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