OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
「動いた……!!」
一夜明けた夕方過ぎ。特区南に位置する倉庫街、その一角にあるコンビニ前。
僕がお茶とおにぎりで補給していると、クーリエが何かに反応し、にゃんと立った。
「クソッ! 結局、後手か……!」
おにぎりの残りを喉に詰め込み、お茶を一気し、ゴミは店内のゴミ箱へ。コンビニを出て、黒猫と一緒に走り出す。
あれから一晩掛けて、僕らはチームの研究施設を回りまくった。ゲームの力で街を駆け、猫手荷物オーケーな交通機関に乗り、深夜バスで仮眠を取り。近い場所から、遠い場所まで。
けど、その全てがハズレ。もぬけの殻ですらなかった。
今から行くのが最後のポイント、そのはずだった。
「最悪、機動部隊と混戦かな」
「分からん、状況は未知数だ」
一人と一匹、倉庫街の歩道をひた走る。
交通規制のためか、不自然なまでに人通りが少ない。道路を挟んで向こう側は、既に立ち入り禁止のARが浮かんでる。
「それよりも、シン、フィクサーと接触する前に、話しておきたいことがある。ゲームにおける、ペナルティに関してだ」
「うん」
走りながら、クーリエが言った。多分これが、突入前の最終会議だ。
「ゲームのペナルティにより、敗北が死亡となるタイトルの場合、そのダウンローダーは対戦途中でゲームを終了させる可能性がある」
「それって……」
「その通りだ」
死ぬよりましで捨てゲーする。当然と言えば、当然だ。
「でもそれ、対策しようがない」
「うむ、捨てゲー自体の妨害が出来れば、それに越したことはないが……。よし、ここを渡れば、目的地は目と鼻の先だ」
いよいよ立ち入り禁止の区画へ、僕らは都合よく青信号の横断歩道を渡り、
「うっ――」
「クーリエ!」
しかし、その途中、突然クーリエがへたりと倒れこんでしまった。
踵を返してクーリエを抱え、横断歩道を渡り切る。
僕は道の端にしゃがみ、腕の中の黒猫に、
「クーリエ、どうしたの」
「すまない、シン……。わたしの援護は、ここまでの、ようだ……」
「クーリエ……?」
「わたしの、ことはいい……。足を、止めるな、シン、行け……」
息も絶え絶え、クーリエは今までにないほど弱った様子で、
「君には、色々とすまない、父上のことも……。シン、本当に、すま、ない……」
「クーリエ? クーリエ……!」
その言葉を最後に、猫の形がずるりと崩れ、クーリエだった存在は僕の影へと落ちて消えた。
これ、相当ヤバいんじゃないのか……!
足元の影に触れながら、思い出す。『ウィズ・デッド』に使い魔の安否確認出来るような設定があったかどうか……。落ち着け、考えろ――
――いや、やめだ。
今はただ、目の前の目的に集中する。
倉庫に行き、フィクサーを見付けて潰す。それが僕の役割だ。
それに、今から向かう場所には間違いなくクーリエを実験体にした科学者がいる。彼女のことを聞くなら、その人だ。
立ち上がり、走り出す。
立ち入り禁止のARを跳び越え、道の先へ。電場感覚を研ぎ澄ませ、交通整理の保安官をすり抜ける。
ワンブロックがクソでかい、巨大な倉庫が並ぶ地区に入り、まだ走る。
「っ……」
袖口で額の汗を拭い、息を整え、走り続ける。似たような構えの倉庫をいくつも通り過ぎ、そして――
この路地を抜ければ、目的地……!
というところで、
「ヘイ、学生! そんなとこで何してる! ここは今立ち入り禁止だってえの!」
アサルトライフルで武装した男性に、道を阻まれてしまった。
情報機動部隊……!
金髪に青い瞳、気のよさそうな隊員さんが、僕を捕まえようと近付いてくる。でも、ようやくだ。その人の背後に見える、目的地。
倉庫だ。
装甲車で包囲された、物々しい雰囲気の巨大な建造物。
クーリエに聞いた研究チームの潜伏場所、その最終候補地に、僕はようやく辿り着いた。
ここまで来たんだ、今更だ、無理やりにでも通らせてもらう。
僕は申し訳程度に頭を下げ、
「すみません、通ります……!」
「いや、お前! 通るって――」
っ……!?
隊員さんの脇を潜り、路地を抜けようとしたところで、突然、僕の足が止まってしまった。
……違和感!!
近くで誰かが、ゲーム能力を起動している。それは間違いない。でも、それだけじゃない。何か、不穏なことが起きている。
「お、現実で銃見んのは初めてか? 分かるよ、テンション上がるよな? でもだ、そういうのはゲームだけで満足しとけ、な?」
急に動かなくなった僕に勘違いしたのか、隊員さんは諭すように倉庫側へと回り込んだ。
でも、僕は何故だか、倉庫から目が離せない。
「あー、生活安全課? こちら機動の鷹三。現場に入り込んでた学生を一人確保したんで、保護よろしく、どうぞ」
隊員さんが耳のインカムに手をやり、何処かに指示を出している。
でも、駄目だ、間に合わない。それだけは分かる、感じる。
「お願いします、ここを通してください……!」
「いや、お前さん、通せっつったって――」
僕が願い出た、その時、倉庫の扉がほんの少し開き、中から人が這い出てきた。
全身血塗れの、どう見ても負傷者。
その事態に、倉庫前の人間全ての意識が集中する。
「ぐ、増援を……。ほ、保安、正が……」
「帆刈さん!? 負傷したのか!!」
僕を止めていた隊員さんが叫ぶと、待機していた部隊全員が一斉に動き出した。ピリピリした空気が張り詰め、みな倉庫前、巨大な引き戸のところに集まっていく。
駄目だ。
「おい、学生! お前はさっさと避難するんだ、いいな! ……隊員一名負傷! タンカだ、タンカ持ってこい!」
金髪の隊員さんも僕に一声かけ、部隊の元へと走っていく。
駄目だ、駄目だ。
そして、気付く、見覚えがある。何処で? ゲームで。
倉庫前、満身創痍で倒れている起動隊員。その腰に付着した、筒状の――
「いけない! その人から離れて!」
グレネード!!
瞬間、走り出す。僕は金髪の隊員さんを追い越し、そして――
「ダウンロード!!」
「ごあっ!?」「おうあっ!?」「きゃあっ!?」
ゲーム起動とほぼ同時、怪我人に付着した物体が爆発した。
「っ……!!」
閃光と爆音。視界全てが煙に塗れる。ギリギリ防御態勢は間に合うも、噴煙が晴れると、周囲に立っている人はいなかった。
全滅だ。
倉庫前で待機していた機動部隊全員が、グレネードのダメージでダウンしている。
負傷者に爆弾を仕掛けるのは、現実の戦争でもゲームでも、よくあるやり方だ。でも、いざ目の前にすると、そのえげつなさに怒りを覚える。
「隊員さん! しっかりしてください!」
「う、あ……。何、が……」
僕は一番近く、鷹三と名乗っていた隊員さんに駆け寄り、膝を突いて状態を確認した。
「あなたは無事です、掠り傷一つ負ってません。痛みが引いたら、直ぐに増援を呼んでください」
「何、言ってんだ、学生……。お前は、逃げんだよ……」
隊員さんは朦朧とした意識で僕の腕を掴むけど、その力は僕でも振り払えるほど弱々しい。無理もない。負傷していないだけで、ダメージ自体は喰らってるんだ。
僕は、そんな隊員さんの手を引きはがし、
「すみません。でも僕には、やることがあるので」
「何する、つもりだ……」
立ち上がり、決意を胸に拳を握り、
「はい、ゲームです」