OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
「もおおおおいいいいいかあああい!?」
特区は南の倉庫地区。天井から吊るされた巨大な人工筋肉がきしきしと揺れる、秘密車両整備用倉庫。
その中を、私、蔵瀬セイジンは悠々と歩いている。辺り構わず銃弾を放ち、お決まりの文句で部下を気遣いながら。
そう、部下、保安部は情報機動部隊。あれから私達は衝突した。ああ、実にいい戦闘だった。彼等は火器使用不可能という不利を抱えながらも、よく善戦してみせた。
しかし、結果は残酷、いや当然。勝利したのは、この私。彼等は今、何とか私の追撃を逃れ、この倉庫内の何処かに潜伏している。そして、私はそれを狩っている真っ最中、という訳だ。
こうして耳をすませば……、むう、息づかいひとつ聞こえん! 実に優秀! 素晴らしい!
全ては私の手の内、オール・コントロール! 外の部隊を一掃する仕掛けも見事に働いたようであるし、完璧以外の言葉が見付からん!
「まあああだかなあああ!? ふっ、ふっはははは! むあっはははは!」
これはいかん。笑いが止まらん。
実現能力を使ったマン・ハントは散々やってきたが、ここまで愉快なものは初めてだ。ああ、実感する。私はいいままで、己自身を押さえつけてきたのだと。
しかしおっと、その前に、私は浮かれ気分を落ち着かせ、
「対戦車特殊弾を購入! そしてえ!」
倉庫の奥に停まっていた多脚戦車を攻撃! 特殊弾が当たった車体上部、おそらくはゲーム製タレットは木っ端微塵!
「分かっていますぞ、博士え! あんたはまだ死んじゃいない、そのように撃った! そのあんたが仕掛けてくる前に、手を打たせていただいたあ!」
戦車の傍ら、無言で伏す老人に向かい、敬老精神たっぷりの警告を放つ!
杞憂の種は全て摘み取る。そう、つまらんミスなど絶対にせん。これぞ我がコントロールである。
さあて、隠れんぼの再開だ。どれ、我が可愛い部下をリソースにせんとなあ。
というところで、
「蔵瀬、保安正いいいいい!!」
「おおっとお! まだ生きていたのかね!」
人口筋肉の遮蔽物から、新峰隊長が拳銃片手に飛び出してきた! いいぞお、優秀だ! よくぞ私の隙を狙っていた!
そして繰り広げたるは、小銃を用いた超接近戦!
「おおおっ!」
「はいはあい! はいはいはあい!」
拳銃を握ったまま、お互い正拳突きで仕掛けに仕掛ける! そして捌く! 仕掛け、そして撃つ!
空手統計学的に有利な間合いを計算し、被弾率を最小限に、攻撃効率を最大限に! そして、正拳突きの延長で銃弾を放つことにより、射撃の精度を必中の域にまで到達させる!
これぞ、現代最強の近接銃拳術! これこそ、私が機動部隊に勝利した理由である!
ぬはははは! 捌く! 殴る! 撃つ!
「ぬああああっっ!!」
「そぉい! そいそいそぉい! さぁすが新峰隊長!! 朝稽古の頻度を上げた甲斐があったというものだなあ、んんっ!?」
「黙れ!」
この手応え、素晴らしい! やはり肉には、噛み応えが無くてはならん! というところでえ!
「弾丸を購入し、リロードォ!!」
「くおおっ!」
お互い残弾ゼロ! 全くの同じタイミングで弾倉を交換! 再び近接戦を繰り広げる! と見せかけ!
「ボディアーマーの隙間に、そぉい!」
「ぐはっ!?」
現代ゲーム技術の結晶たる機動部隊装備とて、完璧ではない。装甲の隙間に銃弾を撃ち込みさえすれば、これこの通り。コオオオントロオオオル!!
新峰隊長の巨体が、膝を突いてくずおれる! そこに、その顔面にい!
「そう、らあっ!!」
「ごうっ!?」
体を正面に向けたまま、全体重を乗せるだけのシンプルな蹴り技をお見舞いする!!
爽快! 新峰隊長は吹き飛び、仰向け大の字になってバンザイ・ダウン!!
「これぞ日本の伝統芸能、ヤクザ・キックである! むっははははははは!」
攻略とは、相手を知ることから始まる! そして、この私蔵瀬セイジンは保安部の全てを熟知している! これぞ、我がセルフ・コントロールよ!
「さあ、新峰隊長。そろそろ終わりにしようじゃないかね」
常人なら即死してもおかしくない一撃を喰らい、苦悶の声ひとつ漏らさない。実に、実に見事である。
私はそんな男を見下ろし、狙いを定め、
「さらばだ、新峰君」
「がっ!!」
止めの一発! 実に名残惜しい! 新峰隊長は眉間に銃弾を喰らい、一巻の終わりである!
しかし、
「むっ……?」
何故か、新峰隊長の体が消滅せん。これはおかしい、能力の不具合か? 彼は間違いなく非能力者の一般人、現実同様死んで当然のはず。
なのだが、私は思わず笑みをこぼし、
「いかんなあ、これは。いかんいかん、これはいかん。ここまでやってもまだ死亡判定にならんとは、全く、君のタフさも相当なものだなあ! おおい、早く死んでクレジットになってくれんかね! この弾だってタダじゃないんだ! 人の命で賄っているんだ、よっ!!!」
「ごっ、ぐっ、があっ!」
続き三発、巨漢の胴に銃弾をブチ込む! おほう、新峰隊長、いい声で鳴くじゃあないかね!
「むむっ……?」
しかししかし、まだ死なん? これは一体、どうしたことか?
私が小さな疑問にコントロールしていると、
「保、安正……、この……」
「うん?」
おやおや、何だ? 遺言か?
新峰隊長は、正に鬼の形相で顔を上げ、
「この、クソ犯罪者が……!」
「誰が何だって?」
「ごふっ!!」
無礼な口を利く元部下に、今度こそ止めの一発! これでもう、何も言えまいて!
「ふあっははははは!!」
笑い出す、体を反らし、思い切り!
止まらん……!
武力! 権力! 実現能力!
それが可能であるなら、実現せずにはいられない! それが人間の本能だ! 故に、私は止まらん! 止められる訳が無い!
「ふあっははは! むっはははは! ぬわっははははは!」
笑う、笑う! 思いの丈で、そのままに!
「全く、なんて口の利き方だ! 私は品行方正、部下からの信頼も厚い、仮想特区保安部の特級保安正だぞ!?」
そうだ、足りなかった! 私にはまだ、勝利が足りていなかったのだ!
ああ、勝利の香り! 血と硝煙の香り! 本物の勝利の香り!
これこそが、本当の私であるのだっ!!
「ふあっははは! ぬわっははははは……!」
その時、
「へえ」
「誰だッ!?」
突如入った横槍。振り返って誰何すれば、倉庫の入り口に立つ小さな人影。亜麻色の髪に緑色の瞳の、おそらくは少年。
何奴ッ!? 野生の実現能力者かッ!?
その少年は逆光を背負い、人形のような無表情で、
「そうは見えませんけどね」