OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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033 VS『ビガー・クライム』

『HERE COMES A NEW CHALLENGER! READY? FIGHT!』

「はああっ!」

「何だ貴さぶぁっ!?」

 

 特区南の倉庫街。血の匂いの充満する、倉庫内。

 

 僕は戦闘開始を告げる電子音声と共に、クソの顔面に右の拳を叩き込んだ。

 

「よし」

 

 これは、ダッシュ攻撃。

 

 通常技をダッシュやジャンプと組み合わせることで発動する、特殊通常技。高速で接近し、一撃で吹き飛ばしダウンを取る。牽制、相手の攻撃拒否にも使える、攻守の用途に優れた技。

 

 そのダッシュ攻撃でダウンしている人物を、改めて観察する。

 

 灰色の髪に灰色の瞳。パリッとしたスーツを着た、初老の男性。保安正というのは相当地位の高い役職だった筈だけど、どうでもいい。

 

 こいつが、フィクサーだ。

 

「い~い打撃だ!」

 

 僕が臨戦態勢を取ると、大の字に寝ていた黒幕が、何事も無かったかのように立ち上がった。

 

「おほう、小僧! そう、小僧! なるほど! あのビルに侵入し、『インセイン』とヴァンダーカップの倅をクリアしたのはお前だな?」

 

 何が嬉しいのか、見るからに浮かれた黒幕は、特徴的な形のヒゲをさすり、

 

「ふむう、徒手空拳とは珍しい。全年齢向けの甘っちょろいスタイルだが、学生ぃ、模範的で大変よろしい! っはあ!」

「っっ!!」

 

 抜き打ちのように放たれた銃撃に反応し、即座にガードモーションで防御する。

 

「ほおお! 中々の身のこなしとガード性能だが、それはアクションゲームかな!? ふっほほほう! 仕事柄ゲームには詳しくてね! 貴様のゲームを判別し、暴き立ててやる、保安官らしくな! そおらあ!」

「っ!!」

 

 引き続き射撃をかましてくる黒幕野郎。けど、銃の痛みはもう慣れた。落ち着いて、このままガードだ。

 

「なるほどお? この得物では役不足、貴様のゲームは攻略出来んと見た。ならばクレジット使用! ウェポン購入! お次は四十四口径だ! そおらっ!」

「っ!!」

 

 発言通り、黒幕野郎は思考信号でステータス画面を展開し、装備を選択。今度は大型拳銃で撃ってくる。

 

「どうしたどうしたあ!? 防いでばかりじゃ何も出来んぞ!? おっと弾切れだ。しかし、クレジット使用! 弾丸を購入してリロード、そして撃つ! そらそらそらあ! 撃ち尽くしたらリロード! 再び弾丸を購入、購入ゥ!」

 

 クソ痛い銃弾をガードしつつ、黒幕野郎のゲームを分析する。ステータス画面や二十世紀めいた銃火器のデザインから、即特定。

 

「このゲーム、『ビガー・クライム』か!!」

「ほおお! よく勉強しているじゃあないかね!」

 

 『ビガー・クライム』

 

 僕が生まれる前に流行った、オープンワールド・クライムアクションゲームだ。

 

 ある街の裏社会に生きる主人公が、その身ひとつで成り上がっていく王道ストーリーで、主人公は様々な依頼主からミッションを受け、遂行することで報酬を得、街での知名度を上げていく。

 

 よくあるシステムに設定のゲームだけど、強いて特徴的な点を挙げるなら、ショップだろう。

 

 このゲームはステータス画面にショップの項目があり、そこで直接装備やアイテムを売り買いできる。買ったものは直接アイテム・ストレージに送られ、その場ですぐ使用可能になる。

 

 このシステムのおかげで店に寄る道草という無駄を省き、やりたいことだけを延々やっていられる。中毒性の高いストレス・フリーなゲームで、名作だ。

 

「さあて、貴様の動きを縛りながら、リソースを稼がんとなあ! ウェポン購入! 四十四口径をもう一丁! これで二丁拳銃だッ!」

 

 言葉通り、クズは両手に大口径の拳銃を装備し、

 

「はははははっ!! ふっはははははは!!」

 

 壁や天井、天井から吊り下げられた人工筋肉、倉庫内のあらゆるものを撃ち始めた。

 

「破壊! 器物破損! 犯罪! 振り込まれるクレジット! この私の行動、その犯罪性が高ければ高いほど! 振り込まれるクレジットは大きなものとなる! 更にい!」

『Crime Upgrade!』

「稼いだクレジットが目標額に到達すると、犯罪レベルがアップする! 犯罪レベルが上がると、ショップで購入できる武器がより強力なものとなる! これこそ、我が『ビガー・クライム』の犯罪的システムよ!」

 

 撃つ撃つ、撃ちまくる。クソが調子に乗ってやりたい放題撃ちまくる。

 

「はははははっ!! ふっはははははは!!」

『Crime Upgrade!』『Crime Upgrade!』『Crime Upgrade!』

 

 黒幕野郎が何かするたび、ティロリンという景気のいい音が鳴り、報酬金額とレベルアップが表示される。

 

「さあ、どんどん行こうか!」

 

 このゲームの面白いところは、リソースが確保できるようになってからの自由度だ。黒幕野郎が吠えた通り、ショップの品揃えが増えれば増えるほど、遊びの幅が増えていく。

 

 だから、そろそろ――

 

「そらそらそらあ!! 特区の学生ならしっかりゲームしてみせんかね!? そうだ、武器はどうした!? 武器を入手したらちゃあんと装備せんと、効果が発揮できんぞ!? こんな風になあ!!」

 

 その手に生成される得物を見て、予想はしつつ、驚愕する。

 

 RPG!?

 

 旧世代のロケット・プロペルド・グレネード。黒幕野郎は往年のマリアッチ・スタイルをキめ、僕に向かい躊躇なくロケランを発射した。

 

「くっ!!」

「はっはははは!! ふっははははははあ!!」

 

 ロケット弾頭はゲームの性能通り、僕に着弾し大爆発。倉庫内に白い噴煙をもうもうと立ち上がらせた。

 

 クソ痛い。けど、これでいい。

 

 なぜなら、

 

「あなた、バカでしょう」

「何だと!? 小ぞゥボあッ?!」

 

 僕はロケランの煙を隠れ蓑に、前ダッシュで接近。威力の高い強パンチを黒幕野郎の腹に思い切り捻じ込んだ。

 

「あう、うばっ、かはっ……!」

 

 お腹を抱えて前屈みになる黒幕野郎を見下ろし、再確認。

 

 痛みだ。

 

 ゲーム能力を起動しようが何だろうが、ダメージ時の痛みは現実同様、しっかり感じてしまう。だからそう、腹部への打撃は、相手の動きを止めるのにとても有効だ。

 

 さて、

 

「せっ!」

「おっおっ!?」

「せっせっ! はああっ!」

「あうっ、あううっ!?」

「はっ!!」

「おう、はあああっ!!」

 

 弱パンからの通常技連携で、黒幕野郎を倉庫の床に手早く転がす。

 

 何故、この黒幕野郎がバカなのか。頭にクソが詰まってるのは確定として、問題は『ビガー・クライム』というゲームの性質にある。

 

 犯罪を繰り返してクレジットを増やし、武器を購入してまた犯罪、そしてクレジットを増やす。それがこのゲームの趣旨であり、ルーティンだ。

 

 でも、それだけ。

 

 この『ビガー・クライム』は現代風のゲームであることから、魔法のような超常的設定が存在しない。だから、自分が強くなれる要素は装備のみで、他の要素は現実とそう変わらない。ぶっちゃけ、一般人。

 

 つまり、『ビガー・クライム』は実現能力者同士のタイマン戦に全く向いていない。

 

 実現能力としての『ビガー・クライム』は、条件を満たせば大抵のものを生成出来る、夢のような力に違いない。黒幕野郎はその力と、保安正としての立場を利用し、保安部を裏から利用し続けてきたのだろう。

 

 確かに、賢い。半端じゃない。

 

 でも、今この時、僕に対しては通用しない。

 

「く、お、おのれい……!」

 

 手加減しない、躊躇しない。

 

 悪態を吐きながら立ち上がる黒幕に、ダッシュで迫る。

 

 何かする前に、こいつを――

 

「ぬう! こんな時は、こうだあ!」

「っ!?」

 

 意表を突いた黒幕の行動、明後日の方向を狙った射撃を、直感でガードする。何とか射線に割り込めたけど、僕の背後、振り向いた先、あれは……、負傷した機動部隊員!

 

「あなたはそうやって、隊員の人達をリソースにしたのか!」

「くっくくく、その通りよ!」

 

 黒幕野郎は愉悦満面の笑顔で全肯定。

 

 絶妙だ。

 

 半径20メートル。『NO TITLE』のルールに取りこめれば、機動隊員さん達の負傷状態は固定され、一応命の保証が出来る。

 

 問題は、この倉庫の広さだ。怪我人から離れたところを狙い撃ちされたら……。

 

 そしてこいつ、勘付いた。

 

「おおっと!? どうして足を止めたのか! 不思議だなあ! そらそらそらあ!」

「っ! っ!!」

「おおっと、弾切れだ! 故に、弾丸を購入! そおらそらあ!」

 

 負傷者を庇う動き見せた僕に、煽るような射撃をくれる黒幕野郎。

 

 マジで、クソだ。

 

 怒っていい、ムカついていい、キレていい。でも、ゲームは常に冷静に。あったまったプレイはするな。

 

 炊くな、集中しろ、人の命が係ってる。

 

 黒幕野郎は、そんな僕を正にあざ笑い、

 

「さあて、それじゃあ私は、隠れんぼの続きといこう! 可愛い可愛い部下達を、ちゃりんちゃりんとクレジットにしてやらんとなあ!」

「っ……!!」

 

 僕に背を向け、逃げ出した。

 

 釣りだ。

 

 どう見ても見え見え。けど、迷う択なんてあるはずない。

 

 僕は黒幕野郎のクソッたれた背中に向かい、

 

「潰す!」

 

 

 

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