OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
私の名は、蔵瀬セイジン。仮想特区保安部の、特級保安正である。
現在、特区は南の倉庫地区、秘密車両整備用倉庫にて。私は一連のゲーム能力犯罪を解決するため、大作戦を決行中であった。
だがしかし、それは欺瞞! 真の目的は、実現能力者である私の悲願を達成させるための、大犯罪だったのだ!
私の目的、私の犯罪。その一番の障害となり得るこの街の治安維持部隊を一気に壊滅させ、私のゲームのリソースとする、一石二鳥の大妙案。
ターゲットであるクイスト博士に手傷を負わせ、部隊の無力化も無事達成。全ては私のコントロールの元、滞りなく運んでいた。
だがそこに、突然の闖入者!
正体不明のゲームをダウンロードした野良犬小僧により、この私は手痛いダメージを被ってしまう!
しかし、そこは流石この私、素晴らしいコントロール的発想で見事に転身! 状況を打開することに成功した!
その小僧が今! 私の挑発に乗り、一目散に突っ走ってきよる!
「潰す!」
ほいいい! 来た! 若い、青いなあ!
ここで私はまたしてもコントロール! この小僧のゲームは確かに異質、その正体も全くの不明! 更に、私の銃撃を全て防いで見せた、あのガード性能! 確かに厄介、ド厄介!
しかし、その攻撃方法はあくまでも徒手空拳のみ! よってそう、カウンターである!
小僧の攻撃の初動を見切り、こちらが先にパなせば、確実に奴めを仕留めることが出来ようというもの!
そしてそう、そのためにい!
「ウェポン購入! アサルトライフルだッ!!」
思考信号でショップ画面を呼び出し、より高火力な武器を購入する! そして、小僧はすぐ目前! よし来い、今だ! 引き金を引き、発射であるっ――
「対!!」
毎秒十発以上発射される弾丸の嵐が、小僧に命ちゅなにいいいいいっ!?
「空脚!!」
「なんとおおおお!?」
小僧に向けて発射したアサルトライフルの弾丸が! 小僧の体をすり抜けた! そして、小僧の蹴りが! 私の顎に突き刺さったあああ!
「ぐはあ! しかし、立あつ!」
攻撃を喰らい、ダウンした私は即立ち上がる! コントロール!
今のは、なんだ!?
プロレスのサマーソルト・キックのような、あの蹴り技! あの蹴りが放たれた瞬間、私の撃った弾丸が、小僧の体をすり抜けた! 現代のゲームの常識に照らし合わせて分析すれば、あれは肉体的必殺技、アーツの類と見る!
アーツとくればそう! 特殊性能だ! あのアーツにはあらゆる攻撃を無効化する、無敵時間が内蔵されている! おのれ小僧、重ねて厄介!
しかし、アーツというからにはクールタイムが存在するはず! であれば、連発は出来ん、今度こそだ!
再び迫る小僧に向け、私はアサルトライフルの引き金に指をかけ――
「今度こそ、喰らええい!」
「対!!」
今度こそ弾丸の嵐が、小僧に命ちゅなになになにいいっ?!
「空脚!!」
「ごああっ!!」
またしても当たらぬ弾丸! そして小僧の蹴りが! またしても私の顎に突き刺さったあああ!
「ぐはあ! しかし、立あつ!」
攻撃を喰らい、ダウンした私は即立ち上がる! 立ち上がって対峙する!
あのアーツ、連発してきよった! まさか、クールタイムが無い!? 回数制か!? いや、もういい、今のは距離が近過ぎたのだ! 我が『ビガー・クライム』の武装は銃火器メイン! 本領である遠距離攻撃で仕留めてくれよう!
と、思考を巡らせている内に、小僧が私に最接近! これは、もう一度あの蹴りを喰らわすつもりと見た! 馬鹿の一つ覚えが! その手は食うか!
ここはコントロール通り、一度距離を取り――
「おうっ?」
再び転身しようとした、その時、私の体の動きがぴたりと止められてしまった。
袖だ。
小僧が私の服の袖口を掴んでいる。一体何を――
「せっ!!」
「うなあああっ!?」
刹那! 私の視界が天地逆転! これは、この技はあああ!
「ぐっ、はうっ!? う、おお、おおっ……!」
そう! 一本、背負い! だとおおおお!?
全身を襲う激しい衝撃! 肺の空気が全て吐き出され、思わず悶絶! 私としたことが! 受け身を取る間もなく、背中を床に叩きつけられてしまった!
ぐ、お、投げた! こ、この小僧、この私を、投げおった……!
野外での柔道技は、相手が死にかねない危険行為! それをこの小僧! 何たる暴力! 公務執行妨害も甚だしい!
「ぐう、おおっ!」
しかし、私は痛みを堪え、即復帰! 立ち上がる!
からの、アサルトライフルを投げ捨て、小僧に突進!
「保安部は特級保安正である、この私に柔道とは! よかろう! 日本の心の真髄、分からせてくれるわ!」
そうだ! この小僧! 細っこい手足に小さな体! 私との対格差は歴然ではないか! ああ! 銃などという道具に頼らず、最初から接近戦、私の独壇場で勝負しておればよかったのだ!
私は小僧のワイシャツ、その胸倉に手を伸ばし――
「それ行くぞお! これぞ本物の、一本――」
「対!!」
背お、なあああああにいいいいい!?
「空脚!!」
「ごああっ!!」
私が投げる前に! 小僧の蹴りが! 私の顎に突き刺さったあああ!
「ぐはあっ!!」
攻撃を喰らい、私は吹き飛びダウンである!
おのれ小僧! 卑怯なり!
地面に倒れ、奥歯を嚙みしめ熟考する! もういい! 武器だっ! もう一度RPGを購入し、至近距離からの爆撃で木っ端微塵にしてくれるわ!
そうと決まれば、大復帰!
「ピヨッ?」
……!?
立ち上がった! 私の体は立ち上がったが、上半身がぐらぐらと揺れるばかりで、何も出来ん! ノー・コントロール!
「ピヨッッ!? ピヨヨヨ、何っピ!?」
何だこれは!! 何なんだこれは!?
理解不能! 緊急事態! そんな私に、小僧がダッシュで迫り来る!
「何って、ピヨってんですよ」
「ピヨヨヨヨお!?」
ピヨる!?
そうか、これは気絶! 意識がありながらも気絶しているというゲーム的矛盾! つまりは状態異常! 技のヒット数を重ねることで発動条件を満たす類と見た!
が、安心! そう、私のライフはまだ三分の一も残っている!
何を喰らおうと、回復アイテムさえ使用すれば即座に全快! 何も問題は無い! 問題は――
「ピピピヨピヨおおおッ!?」
……いや、違う!
危機感知ッ! 体感時間が引き延ばされ、思考速度が加速する! 世界がまるでスローモーションのように、ゆっくりと動き出す!
小僧が迫る! そう、小僧!
圧だ!!
リーサル! 次の攻撃で、私の残りライフを削り切る! そう思わせる圧を、この小僧は発している!
それに、ある! 小僧めの頭上に浮かぶライフゲージ、その下にもう一本!
正体不明の青ゲージ!!!!
確か対戦開始直後は空っけつだった! それが今や、何かしらの条件で蓄積していったに違いないそれが、八割ほど溜まっている!
あれは何だ! そのゲージで何をする! 何が出来る!?
不気味っ!!
その不確定要素が、私の確信を打ち砕き、想起させる!
負ける!
このままでは負ける! 負けてしまう!
敗北! それだけはいかん! 『ビガー・クライム』のゲーム・オーバーは、即ち死! それだけは、それだけは絶対に避けねばならん!
考えろ!! 頭を回せ!! 高速で考えるのだあああッピ!! 何か、ペナルティを回避する術を見つけなければッ……!!
……ペナルティ!?
そうだ、ペナルティである!!
この小僧の攻撃は、あくまで打撃! 現実で受けたとて、死ぬようなものでは絶対にない! ゲームを終了し一般人判定になれば、おそらくは意識不明で済む!
要はそう!! 死ななければよかろうなのだ!!
そこから先はそれその時! この蔵瀬セイジン、何とでもしてみせる! 何とでもなるはずなのだ!
そのために、ゲームを終了せんとおおお!!
「ゲーム……、ゲームっピ……」
「っ!?」
気付かれた!?
小僧の動きが加速する! 小僧の圧が更に強まる!
その、前にいいいいいいい!!
「ピヨぬおピヨおおおおおおッッ!!」
状態異常中のためか、ステータス画面を開くことが出来ん! よって、音声入力! 言葉に出して、ゲームを終了せねばならん!
そして、小僧が跳んだ! ジャンプした! 何故だ!? いや分からん! 分かってたまるか! そんなことより捨てゲーである!
目の前には蹴り! 小僧が空中で蹴り技を放つ! 眼前、迫る! 間に合えええええッピ!
「ピヨゲーム!! ピヨヨ終り――」
「せっ!」
「ぐおあっ!」
小僧の蹴りが、顔面に直撃! 言えたか!? どうだ!?
分からないまま、小僧が既に着地している! まるで時間を吹き飛ばし、結果だけが残ったようなこの動き! 全くの理解不能! そしてえ!
「せっせっ!」
「おうっ、おはあっ!?」
我が下半身に、拳が二発打ち込まれる!
「はああっ!」
「あうあ、べいぶ!?」
続けて喰らう、腹に一撃アッパーカット! ぬおおお、もう無い! 私のライフが! 残り僅か!
そうだ、ライフゲージが見えているということは、未だゲーム起動中ということ! 我がゲームは終わっておらん! 私は依然戦闘中! いかん! いかんいかんいかんいかん!
……はっ!?
そして気付く、土壇場で! 私の口調が元の紳士に戻っている! つまり、気絶状態は解除されたということ! ならば言える! 全神経のコントロールを喉に集中させ――
「ゲームウウウ!!」
前屈みで突き出した口から、気力と共に声を上げる! 引き延ばされた時間の中、小僧の姿が突然ブレる! アッパーカットの動きが不自然に省略され、小さな背中が回転する!
来る! またあの足技だ! 急げ! 言え言え言うのだあああああ!!
「対!!」
「終りょぼおおおおっ!!」
吐き出す! 渾身の敗北宣言! そこに!
「空脚!!」
「ぐ、はぁああああああああッッ!?」
小僧の蹴りが、私の顎に大炸裂! 瞬間! 視界からライフバー表示が消滅する!
「私の、私の犯罪はあああああああぁぁッ!!」
私の口から飛び出す、あり得ない断末魔! 私の体が錐もみ回転で宙を舞い、どさりと倉庫の床に落下する!
「が、あ……」
手足を投げ出し、仰向けに倒れる。私の体から、急速に力が抜けていく。痛みのせいか、急速に意識が遠のいていく。
もう、立てん……。ゲームがどうなったかも、もう分からん……。
馬鹿な、あり得ん。この私が、負けるなど……。
この私が……。この、私が……。
瞼の上に、帳が落ちる。私の視界が、暗い闇に飲まれていく。
私は、それでも口を開き――
「コン、トロール……」