OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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035 告解のとき

 やられた……!

 

 黒幕を追いつめ、ライフを削り切ることに成功したものの、最後の最後、『NO TITLE』の勝利宣言が聞こえなかった。捨てゲーされた。

 

 黒幕野郎は今、僕の攻撃で吹っ飛び、人工筋肉の陰でダウンしている。

 

 対策だ。

 

 意識不明のうちに、拘束する。縛るか、足を折るか。あいつが動けなくなるなら、何でもいい。

 

 でも、

 

「っ……」

 

 選択する。

 

 気付けた。黒幕野郎との戦闘が終わり、周囲の電場、人の気配がはっきり分かるようになった。僕のすぐ近くに、体の大きな機動部隊員さんが倒れている。

 

 僕はその人の傍らに屈み、状態を確認。

 

 ひと目で分かる、重傷だ。今、この人から離れる訳にはいかない。この人を、『NO TITLE』のルールから外す訳にはいかない。

 

 どうすべきか。

 

「驚いた……」

 

 っ……?!

 

 突然掛けられた声に、僕は思わず顔を上げた。

 

 いつからそこにいたのか、僕達の目の前に、人が一人立っていた。片手にタブレットを持ち、左腿から血を流している、白髪の老人が。

 

 アルバート・クイスト博士。

 

「ゲームが人を傷付けることを許さない。少年よ、君はとても優しいのだね……」

 

 目の前の怪我人なんて知ったことじゃない、博士らしき人は、そんな様子で、

 

「現在のゲームにおいて、非能力者、モブと呼ばれる端役の命を保証をするような設定は、非常に稀だ。しかし、君のゲームは違う。君と君のゲームは、そう、非常にユニークだ……」

 

 そして僕に、とても穏やかな眼差しを向け、

 

「君は全くの、正体不明だね……」

 

 相手は手負い、しかも老人。だけど……、

 

「貴方は、アルバート・クイスト博士、ですね?」

「君のような若い人間に知ってもらえているとは、光栄だ」

 

 僕の確認に、クイスト博士は静かに首肯した。

 

 ……この人、ヤバイ。

 

 来栖さんよりも、あの上級人類よりも、向こうに転がってるカスよりも。

 

 僕の直感が、全神経がそう叫んでいる。

 

 そして多分、僕だから気付けた。

 

 人体の動きを正確にトレースすることが出来る副次能力、コレクト・モーション・スキル。この能力の効果は、それだけじゃなかった。この力は、動きに関わる人体の構造を即座に見抜けるんだと、今、分かった。

 

 筋肉だ。

 

 この人は、筋肉を操作して左足を止血している。

 

 この人は間違いなく人工筋肉と再生医療の専門家、アルバート・クイスト博士だ。

 

 でも、今はそれより、

 

「実現能力の開発プログラム。作ったのは、博士、貴方ですね?」

「如何にも。しかし、不思議だね。どうして君が、そのことを……?」

「消去してください、今すぐ」

 

 僕の要求に、博士は驚くほど落ち着いた口ぶりで、

 

「それは構わないが、いや、すまない。私には、やらねばならないことがあってね」

「まさか、クーリエ、実験体を追うつもりじゃ」

「そんなことまで知っていようとは、実に興味深い。君は一体何者なのか」

 

 博士と僕、二人が不思議な問答をしていた、その時、

 

「保安部、情報機動部隊だ! 手を頭の上に、床に膝を突け!」

 

 倉庫の中に、外の機動部隊が踏み込んできた。隊員さん達の素早い動きで、僕達はあっという間に包囲される。

 

 クイスト博士は、黒ずくめの集団を見回し、

 

「まったく、私の現実は、いつもこうだ。面倒事が増えるばかりで、何一つ上手くいかない……」

 

 そう呟いた後、柔らかい笑みで、

 

「すまないが、私は先にお暇させてもらうよ。ああ、君とはもっと、話をしてみたかった」

「何を、……っ!?」

 

 瞬間、感じる。思考信号! 何処に、何を? その対象を即座に目で追う。

 

 倉庫奥で沈黙している多脚戦車。その横に積まれたガラクタの山、信号のコマンド先はその中の――

 

「レーザー砲!?」

 

 何かのゲームで見たことのある、巨大な光学兵器。その砲身がこちらを向き、ブンブン光って充填を開始している。

 

 正気か!?

 

「聞こえてんのか!? 跪けって言ってんだ!!」

「すみません、無理です!」

 

 隊員さん再度の警告を無視し、僕は立ち上がって走り出す。説明してる時間も、何もかもが足りない。

 

「逃げてください! いや、伏せて!」

 

 叫び、レーザー砲の射線へとダッシュジャンプ。そして、空中で腕を構えて防御態勢。

 

 空中ガード。

 

 あのレーザーが何のゲームのものか、正確には覚えていない。博打だ。でも、やるしかない。

 

 覚悟で挑む、次の瞬間、

 

「くっ、ああ…………!!」

「おあああっ!?」「何だ、何が起こってる!?」

 

 倉庫内が眩い光に包まれ、焼けつくような痛みが右半身を覆い尽くした。クイスト博士が、躊躇なくレーザー砲を発射させた!

 

「ぐ、うっ……!」

 

 まるで太陽さながらの光と熱、耳の奥がちりちり炙られるような激痛に堪え、空中ガードの態勢で耐え凌ぐ。溶岩風呂に突き落とされたような地獄の時間を、歯を食いしばって我慢する。

 

 やがて光が収束し、レーザー砲はその役目を終えたとばかりに壊れ、本当のガラクタになった。僕は全身から焼け焦げた煙を放ちながら、倉庫の床に着地する。

 

 ……何とか、成功だ。

 

 あのレーザーは、おそらく実現能力で作られたものだったのだろう。単体攻撃判定で、貫通性能が無いものだった。だから、格ゲーのガードで防げた。

 

 もし、あれが現実製のものだったら、こうはいかない。僕はともかく、機動部隊の人達は余波で大怪我していたに違いない。

 

 クイスト博士、あの人は危険だ。あの人は――

 

「っ!?」

 

 レーザー攻撃を凌いだのも束の間、今度は倉庫内に別の破壊音が轟いた。天井から吊るされた人工筋肉が揺れ、窓や壁が崩れ出す。

 

 そして、気付く。倉庫の奥にぽっかり空いた大穴と、姿を消した博士と戦車に。

 

 ……あの人、倉庫の壁を壊して、外に逃げた!

 

 とにかく、ここはもう危険だ。機動部隊の人達に、そう呼びかけ――

 

「おい、ガキ。隊長から離れろ」

 

 る、はずだった。

 

「さっさとゲーム終わらせて、床に這いつくばれ!」

 

 振り返った先、外で会った金髪の隊員さんが、僕にぴたりと銃の照準を合わせている。

 

「警告はしたぞ、能力者……!」

 

 誤解だ。でも、僕でもそうする。負傷した仲間にレーザーに、これで警戒しない方がどうかしてる。

 

 どうする、どうすれば。

 

 僕が拳を固めかけた、その時、

 

「彼は、違います……」

 

 物陰から聞こえた、か細い声。その声に、その場全員の視線が集まる。

 

 人工筋肉の陰から、片腕で体を引きずり、血の気の失せた顔で必死に這い寄ってくる、一人の女性。

 

 あの人は……、

 

「崎守! 無事だったか!」

 

 そう、事故の後、僕を聴取した保安官。

 

 崎守ミサキさんだ。

 

「鷹三さん、彼は、違います。彼は、私達を助けてくれた、協力者です。全ては、蔵瀬保安正の犯行だったんです……」

 

 左腕に銃撃を受けたのか、崎守さんは半身を血塗れにしながら、それでも、残った右手でフォンカードを掲げ、

 

「実現能力者だったんです、保安正は。法的にも有効な、自供記録を録りました。隊員の意識が戻れば、彼等からも同じ証言が、得られる筈です……」

「ああ!? 保安正ィ!? 待てよオイ!! マジかよオイィ!?」

 

 息も絶え絶えに、倉庫内であったことを、真実を伝えてくれた。

 

「今、保安正はこの倉庫の中、意識不明の状態で、倒れているはずです。確保を、お願いします……」

「確保って、責任は誰が取んだよ! ああ、俺か! クソッ!」

 

 崎守さんの話を聞いた隊員さんは、混乱したように自分の金髪をがしがし掻き、でもすぐに、

 

「全隊へ! 負傷した隊員の生存確認と救助! タンカだ! タンカ持ってこい! あとは、ああ~、現場倒壊の恐れあり! 迅速行動!」

 

 耳のインカムで指示を出した。そして、

 

「ヘイ、学生」

「あ、はい」

「怒鳴って、すまない」

「……いいんです」

 

 僕が答えると、金髪さんは愛嬌のある笑顔で頷き、すぐに仲間の救助に走っていった。

 

 それから、みるみる内に事態が収束していった。保安部と機動部隊の人達の仕事で、倉庫から次々と人が運び出された。

 

 僕も倉庫の外に出て、これでようやくクイスト博士に集中できる。

 

 だから正直、時間が無い。でも、僕は倉庫前、負傷者が手当てを受けてる場所へ行き、

 

「すみません、いいですか」

「何だ君は、いいわきゃないだろう! 学生はさっさと避難なさいよ!」

 

 救急隊員らしき人に怒鳴られた。当たり前だ。

 

 すると、タンカに寝かされていた女性が呼吸器を外し、

 

「彼は先の事件の被害者で、担当官は、私です。彼と、話をさせてください……」

「崎守さん! あんた、撃たれてんですよ!」

「お願いします……」

「……分かりました、無理せんように!」

 

 すると、救助隊員さんはその場を離れ、僕達二人だけにしてくれた。

 

 僕はその女性、崎守さんの傍らで膝立ちなり、

 

「ありがとうございます、崎守さん。あなたのおかげで、僕は誤解されずに済みました」

「一会君……」

 

 お礼を言い、重ねて、

 

「ごめんなさい。僕がもっとはっきり、あなたに伝えていれば」

「いいえ、いいの。私は、これが仕事だから……。それより、私はあなたに、伝えたいことが、あるの……」

 

 そこまで話した崎守さんは、すうと呼吸を整え、

 

「私があなたに告げたことは、嘘でした」

 

 っ……!!

 

「あれは、事故ではなかった。あなたのお父様は、実現能力者に殺されました」

「はい……」

 

 崎守さんの震える右手が、僕の右手に伸ばされる。僕はその右手を握り、彼女としっかり視線を交わす。

 

「それだけ……」

「はい」

「それだけ、なの……」

「はい……」

 

 本当にそれだけ言うと、崎守さんは僕の右手から手を放した。

 

「もういいわ、一会君……」

「でも」

 

 疲れている、怪我している。崎守さんはそれでも、憑き物が落ちたような綺麗な笑顔で、

 

「私には、分からないけど。あなたには、やることがあるのでしょ?」

「……はい」

 

 頷き、答える。

 

「僕は、クイスト博士を、あの人を止めなきゃならないんです」

「そう……」

 

 崎守さんは、弱々しく頷き、

 

「戻ったら、何があったか、聞かせてくれる?」

「ええ、必ず」

「気を付けて、一会君……」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げ、立ち上がる。そして、周囲を見渡す。僕の電場感覚は、まだクイスト博士を捉えている。

 

 向かうべきは、倉庫街から更に南、臨海工業地区へと続く、産業用高速道路。

 

 仮想特区保安部、情報機動部隊の皆さんへ。僕は最後に一度お辞儀をし、走り出す。

 

 イメージはそう、進行方向にレバーを二回。

 

「逃がさない……!」

 

 全力ダッシュだ!!

 

 

 

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