OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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036 ハイウェイ・チェイス

 夕方の特区。人気のない倉庫地区の道路を、僕は走る。

 

 スタミナという設定の無い格ゲーの力で、一生ダッシュで走り続ける。

 

 倉庫の向こうに見える、コンクリートの大きな橋脚。クイスト博士の気配は、既に高速道路の上にある。

 

 いくらスタミナ無限とはいえ、このまま走るだけじゃ戦車の速度に追い付けない。お行儀よくインターチェンジを通ってからなんて、尚更無理だ。

 

 だから、ショートカットで先回りする。

 

「はっ!」

 

 僕はダッシュジャンプで近場の屋根に跳び乗り、次の屋根へ。そしてすぐ、次の屋根へ。

 

 ダッシュ、刻みダッシュ、大ジャンプ。格ゲーのモーションに現実の動きを挟み、パルクールのように移動する。

 

 倉庫の屋根から倉庫の屋根へ、特区の空を駆け抜ける。

 

 高速道路沿いの倉庫まで辿り着いた僕は、隣に建つ赤と白に塗り分けられた信号塔へ、ジャンプで移動。塔の鉄骨に着地し、高度を稼ぐため、更に上へとジャンプする。高速道路の路面が覗ける高さまで、鉄骨を登ると、

 

「見えた……!」

 

 そして、来る。

 

 交通規制のためか、車の通りが全くない高速道路。その左車線を走って来る、思考式多脚戦車。ドンピシャだ、先回りした甲斐があった。

 

 僕は多脚戦車の速度にタイミングを合わせ――

 

「はっ!」

 

 鉄骨の上でショートダッシュからの、大ジャンプ。

 

 風切り音と、一瞬の浮遊感。そして高速道路、ではなく手前の照明灯に――

 

「っ……!」

 

 何とか着地。そしてすぐ、猫の額ほど面積しかないその場で、超超超ショートダッシュからの――

 

「はっ!!」

 

 大ジャンプ。

 

 再びの風切り音と浮遊感。そして、落下予想地点に戦車が――

 

「っ……!!」

 

 着地成功。

 

 僕は戦車の天蓋、その後部に無事取り付いた。

 

「クイスト博士!」

「お? おお、君か……!」

 

 僕が声を上げると、車体前方、壊れたタレットにしがみ付いていた博士が振り向き、

 

「どうやってこの戦車に追い付いたのか。やはり、君はユニーク極まりない」

「博士! 戦車を止めてください!」

 

 がたがた揺れる車体の上、僕は慎重に立ち上がって構えを取る。すると、ぴたりと姿勢が安定し、ふらつかなくなった。

 

 格ゲーには様々な背景、ステージがあり、そのシチュやロケーションは多種多様。中には、走行中の電車の上なんてステージも存在する。そして、そんな環境にあっても、格ゲーの対戦は従来通りのルールで展開される。

 

 つまり、格ゲーをプレイしていれば、乗り物の慣性や風圧に影響されるこはない。

 

 でも、制限はある。僕の『NO TITLE』は2Dゲームで、基本前後にしか移動できない。だから、この戦車の上で現実の動きを挟むと、途端に姿勢を崩してしまう。

 

 そのことに注意しつつ、慎重に、車体前方に歩みを進める。

 

 そんな僕を前に、博士は「ふむ」と頷き、

 

「そうか、君は実現能力を知ったばかりなのだね。だから、能力戦の定石も知らない」

 

 ……?

 

 ごうごうと鳴る風の中、博士は呑気な口調で、

 

「実現能力者を相手取る時、まずゲームの起動は悪手でしかない。副次能力だけで事が済むなら、そうすべきだ」

 

 まさかの発言の後、博士が破壊されたタレットに手を伸ばすと、

 

『トンテンカンテン! トンテンカンテン!』

 

 コミカルな効果音と煙のようなエフェクトが発生した。これは――

 

『テッテレー!』

 

 修理だ! 戦車上部のタレットが修理されて復活した! そのタレットが僕を狙い――

 

「くっ! ぐっ!」

 

 ビーム攻撃! 僕はすかさずガード態勢。この人、やはり躊躇しない。でも、それよりも、

 

 実現能力者。

 

 ゲームを現実にする力を、このアル・クイスト博士も身に付けていた。

 

「ほら、何かに捕まらないと、危険だよ」

「しまっ……!」

 

 注意を散らした瞬間、視界がぐらりと揺れ、僕の構えが歪んで崩れる。博士が僕を振り落とそうと、戦車を蛇行運転させている。

 

「くあっ!」

 

 姿勢を立て直す間もなく、格ゲーの構えが無効化され、僕は宙に投げ出される。もがく片手で何とか戦車の後ろ足、装甲の隙間を掴んでしがみ付く。そこに――

 

「なるほど。君のゲームは、モーションに依存したシステムなのだね」

 

 見抜かれた。と同時、

 

「ぐ、あっ!?」

 

 角度的に当たる筈の無いビームが、僕を直撃。ビリビリ痺れる感電的な痛みで、思わず手を放しそうになる。

 

 曲がった。ビームが曲がって、僕に当たった。

 

 これはそう、誘導線。

 

 仮想には、視線でマウスカーソルを操作して引く指示線というものがある。この指示線を遠距離攻撃を撃つ前に引き、射線を設定することで、みんな大好き曲がる光線を自由自在に再現できる。そのシステムを、誘導線という。

 

 あの博士、その誘導線を、僕目がけてきっちり引いている。

 

 一刻も早く復帰すべく、僕が脚から車体へ、よじ登ろうと――

 

「う、おおっ!?」

 

 目の前の光景に、ゾッとする。

 

 ビームの鳥かご、ロックオン・レーザー。色んな例えで表現される光線の嵐が、僕めがけて次々と飛んでくる。

 

「しまっ……!」

 

 着弾に次ぐ着弾、命中に次ぐ命中で、僕はあっさり戦車から吹き飛ばされてしまう。空中でもがく僕に、ビームの群れが襲い掛かる。

 

 空中ガード、いや、間に合わない……!

 

 防御態勢を取る間も無く、誘導してくるビ光線を次々と喰らう。そして、ここはダウン不可能な空中。ダメージ制限システムが働かず、僕のライフがみるみるうちに削られていく。

 

「正体不明の少年よ、さようなら」

「く、おおおおおっ……!!」

 

 博士の挨拶と共に、止めの誘導ビームが撃ち込まれ、僕のライフがゼロになった。その途端、

 

『K・O!!』

「くっ、ああっ、あああああっっ!!」

 

 急速に意識が遠のき、体の自由が利かなくなる。

 

 僕の体がビームの嵐に巻き込まれ、道路に叩き落される。ごろごろと転がり続け、ようやく止まると、もう、指一本動かせなくなった。

 

 特区の夕方。ぼろぼろに砕かれた道路の上。

 

『YOU LOSE...』

 

 電子音声の敗北宣言を最後に、僕は意識を失った。

 

 

 

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