OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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037 あの日に続く道の先で

「う……」

 

 仮想から現実に戻る時のように、僕は驚くほど自然に意識を取り戻した。

 

 感じるのは、まず痛み。体を動かそうとすると、痛みが邪魔して、息すらまともにできやしない。

 

 ぎりぎり開いた目で、辺りを見る。道路には、ビームで砕かれたアスファルトの破片が散らばっている。それから、夕陽。日が沈んでいないなら、そう時間は経っていないはずだ。

 

 地面にうつ伏せで倒れながら、何とか体の状態を確認する。手も顔も擦り傷だらけ、ワイシャツは袖が破れて、上半身はボロボロだ。

 

 クイスト博士がゲームを起動していなかったから、ビーム攻撃の火傷はトレモ的な処理で全部消えた。この怪我はゲームに負けた後、道路に転げ落ちた時のものだろう。

 

 それに、交通規制がされてなかったら、僕は今頃車に轢かれて挽肉になっていたに違いない。だから、それよりはマシだ。

 

「……」

 

 体が動かないから、せめて頭を動かし、考える。

 

 アルバート・クイスト博士。

 

 完全にやられた。オーバー・リアルによる対戦はルールの押し付け合い、分からな殺しがあって当然。それは対戦が始まる前、現実の仕込みも含まれる。

 

 あの人はお爺さんで、怪我をしてて、それでもなお凄かった。

 

 そして僕はこれから、あの人に追い付かなきゃならない。

 

「ぐ……」

 

 痛む右手で何とか尻ポケットをさぐり、フォンカードを取り出す。僕のじゃない、父さんのフォンカード。知的財産の相続やらで、このカードの操作は僕にも出来る。

 

 その父さんのフォンカードを起動させ、中身を見る。

 

 別段、何もない。息子や友人、会社との連絡に使っていただけの、普通の端末。仮想特区の人間らしく、推しのゲームに関わる履歴だけが大量に積まれた、何てことない、普通の人のフォンカード。

 

 個人ストレージには、何に使うのか分からない柄や質感の背景スキンが、しこたま買い込んであった。

 

「父さんらしいな……」

 

 父さんの趣味はみんなで使える仮想ロビー作りで、その素材である背景スキンをバカ買いするのが、本当に大好きだった。そして素材を買うと、決まって新作ゲームをついで買いし、僕に送ってくる。

 

 僕がゲームに詳しくなれたのは、父さんの悪い癖のおかげだ。

 

「好きなことをやっていいって、父さんは言ってくれたけど、僕にはとても、難しいみたいだ……」

 

 何もない。何も出来ない。僕は、そんな人間だった。

 

 どんなに努力しても、全部無駄。成功も失敗も無関係。負けるどころか、そもそも勝負の舞台に上がることすらできない。それが僕の人生だった。

 

 でも、違うよって。無駄じゃないって、言ってくれた。

 

 今はただ、結果に結び付いていないだけ。負けたって失敗したって、何度でも挑戦していい。ゲームがそれを教えてくれるって。

 

 だけど、そう言ってくれる人は、もういない。

 

 僕を支えてくれた人は、もうこの世にいないから。

 

 だから僕は、自分一人で立ち上がらなければならない。

 

「っ……」

 

 クーリエは言った。オーバー・リアルは、世界を変える力なんだと。

 

 確かに、そうだ。人が魔法を使えるようになったり、何もないところから道具を生み出せたり。分かりやすくて、とてもスケールの大きな力だと思う。

 

 でも、世界を変えるって、そういうことなんだろうか。

 

 僕は、少し違うと思う。

 

 世界を変えるっていうのは、父さんだ。

 

 あの日、父さんは世界を変えた。

 

 あの日の父さんの行動、決断で、あの親子は助かった。母一人娘一人の人生が変わった。オーバー・リアルの力なんて無くたって、父さんはやり遂げた。父さんは、世界を変えられたんだ。

 

 そして、僕はそのやり方を教わった。

 

 そう、

 

 チャイルドシートのベルトを外し、小さな赤ちゃんを救いだす。

 

 それは、とてもちっぽけなことかもしれない。でも、本当の人の力っていうのは、ちっぽけでいいんじゃないかって、思うんだ。

 

 だからきっと、もう一度。

 

「っ……」

 

 痛む体を無理やり立たせ、ふらつく足に力を入れる。歯を食いしばり、背筋を伸ばす。

 

 日が沈む。オレンジ色に染まった空を、小さなわた雲がゆっくりぽつんと流れていく。

 

 僕は遺されたフォンカードを右手に、あの日に続く道に向け、

 

「行ってくるよ、父さん」

 

 

 

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