OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
「ぐ……」
倉庫街の狭い裏路地。モルタルの壁に体を預け、伝い歩きで前に進む。
「はあ、はっ、はあっ……」
通りを挟んだ向こうの区画に轟く、建物の倒壊音。乱れた呼吸を整え、一刻も早くここから離れねばならんというのに、軋む体がそれを許さん。
だが……、
「くっ……、くっくっく……!」
だがしかし! この蔵瀬セイジン、見事に逃げおおせた!
あの騒動の中、その瀬戸際で、私は意識を取り戻した! そして、博士がひと波乱起こしてくれたおかげで、あの倉庫を脱出することが出来た! やはり、博士を手負いに止めたのは正解であった! 私のコントロールは流石である!
そうだ、私は逃げ延びた! であれば、あとは何とかするまでのことよ!
「ぐっ……」
が、歯痒い。体に走る鈍い痛みで、足が止まる。
小僧だ。あの小僧から受けたダメージが、未だ私の歩みを阻みおる。
そうだ、あの小僧、一体何処の誰なのか。クイスト博士の関係者ではあるようだが、それ以外の素性が一切知れん。
何より、小僧のダウンロードした、あのゲーム。アクションゲームであることは確かだが、数多くのゲームを取り締まってきたこの私にも、判別不能なタイトルとは……。
「しかし、そうだ、やりようはある……」
うむ、分からないなら分からないなりの対策をすればよい。何をどうしようが、私とあの小僧は実現能力者。そして、ゲームは所詮ゲームなのだ。
ああ、次だ。次こそ、この蔵瀬セイジン、あの小僧を完膚なきまでに叩きのめしてくれようぞ……!
私が壁に身をもたれさせ、全身にコントロールを漲らせていると、
「見付けたぞ、ミスタ・蔵瀬ぇええ……!!」
背後からの声に振り向けば、おや、
「ほう、君は……」
金髪を振り乱した、白いスーツの白人男性。
ブラント・ヴァンダーカップ。
保安部の拘束から逃れ、この私の居所を突き止めるとは。連絡先を知るプレイヤーの居場所を探り案内する、移動アイテムを使ったと見える。
「ミスタ・蔵瀬ええ! あんたはボクに、全て任せろと言った! ボクの好きにして構わないと! 自分は完璧なオブザーバーだと! この特区全てをコントロールし尽くしていると! なのに、何だあれは! 誰だあのキッズは! こんな、こんなことになるなんて、ボクは聞いていないぞおお!」
ブラントなる若造は、血走った目で私に吠え、
「キッズだ! このボクの勝利に砂を付けた、あのキッズは何処にいる! キッズ、キッズキッズキイイイイッズ! キッズを出せ! キッズを寄越せ! 早く、早くあのキッズを分からせないと、ボクは、ボクはボクはボクはあああああッ!」
この男、壊されておる。
げに恐るべきはあの小僧、実現能力者の精神をここまで追い詰めるとは。もし、あの小僧に通り名を付けるならば、ゲーマー壊し、いや、ゲーマー殺しになるだろうて。
私は壁に手を突き、ふらつく体で男に向かい、
「挫折を知り、なお勝利に執着するその姿勢。ゲーマーとして誇らしい。しかし、くくっ、無知と敗北は同義だな」
「敗北……? このボクが、敗北……!?」
私の言葉で、ブラントなる若造は、瞳に光を取り戻し、
「あり得ない! ボクは、ボクは勝者だ! ボクは勝つ! 勝って、ボクはまた勝者に立ち戻るッ! そのためならあ!」
肌で感じるほどの敵意を放ち、男の体がゲームを宿す器となる! そして、来る! ゲーム・ヴァーサス・ゲームの始まりが!
が、しかし――
「ダウンロ「ダウンロード! そぉい!」
「――ドばっ!?」
しかししかし、コントロール! 私は若造より先にゲームを起動し、生成した拳銃で一発お見舞い!
「ああ、あ……」
ヘッドショットを受けた男の体が、ティロティロ効果音とクレジット表示を残し、完全に消滅!
その額、五百円也。
「ふん……」
年季が違うわ、若造が。ゲーム即起動からの抜き撃ちで、この私に勝てるものかよ。
ともあれ、ようやく体の調子が戻ってきた。これでそう、再びコントロールに返り咲けるというものよ。
私が来たるべく勝利に足を踏み出した、その時、
『姿を現せ、蔵瀬保安正! ここら一帯は全て封鎖してある! 分かってんだろ、これはあんたの命令だった!』
再び背後から、拡声器による怒り心頭の警告が投げられた。
これは、ああ、鷹三副隊長か。相変わらず、口の利き方がなっとらん。
だが、あの現場で私の不在を確信し、即追跡に切り替えるとは、やはり情報機動部隊は優秀である。
『全てのゲームを終了させ、今すぐ投降しろ! 蔵瀬保安正! あんたは、もう終わりなんだ!』
「くっ、くくくっ……!」
副隊長の言葉に、思わず笑みが零れ落ちる。
「終わり? この私の、一体何が終わりだと言うのかね?」
ああ、聞こえる。大勢の靴音が。私を取り囲もうと行動する、部隊の音が。
この私自ら準備した上質なリソースが、私のために集っている。
私は右手の銃に頬ずりし、背後の大通りへと歩みを変え、
「私のゲームは、まだ終わっちゃいないのだよ……!」