OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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038 【NOW LOADING...】蔵瀬セイジン(5)

「ぐ……」

 

 倉庫街の狭い裏路地。モルタルの壁に体を預け、伝い歩きで前に進む。

 

「はあ、はっ、はあっ……」

 

 通りを挟んだ向こうの区画に轟く、建物の倒壊音。乱れた呼吸を整え、一刻も早くここから離れねばならんというのに、軋む体がそれを許さん。

 

 だが……、

 

「くっ……、くっくっく……!」

 

 だがしかし! この蔵瀬セイジン、見事に逃げおおせた!

 

 あの騒動の中、その瀬戸際で、私は意識を取り戻した! そして、博士がひと波乱起こしてくれたおかげで、あの倉庫を脱出することが出来た! やはり、博士を手負いに止めたのは正解であった! 私のコントロールは流石である!

 

 そうだ、私は逃げ延びた! であれば、あとは何とかするまでのことよ!

 

「ぐっ……」

 

 が、歯痒い。体に走る鈍い痛みで、足が止まる。

 

 小僧だ。あの小僧から受けたダメージが、未だ私の歩みを阻みおる。

 

 そうだ、あの小僧、一体何処の誰なのか。クイスト博士の関係者ではあるようだが、それ以外の素性が一切知れん。

 

 何より、小僧のダウンロードした、あのゲーム。アクションゲームであることは確かだが、数多くのゲームを取り締まってきたこの私にも、判別不能なタイトルとは……。

 

「しかし、そうだ、やりようはある……」

 

 うむ、分からないなら分からないなりの対策をすればよい。何をどうしようが、私とあの小僧は実現能力者。そして、ゲームは所詮ゲームなのだ。

 

 ああ、次だ。次こそ、この蔵瀬セイジン、あの小僧を完膚なきまでに叩きのめしてくれようぞ……!

 

 私が壁に身をもたれさせ、全身にコントロールを漲らせていると、

 

「見付けたぞ、ミスタ・蔵瀬ぇええ……!!」

 

 背後からの声に振り向けば、おや、

 

「ほう、君は……」

 

 金髪を振り乱した、白いスーツの白人男性。

 

 ブラント・ヴァンダーカップ。

 

 保安部の拘束から逃れ、この私の居所を突き止めるとは。連絡先を知るプレイヤーの居場所を探り案内する、移動アイテムを使ったと見える。

 

「ミスタ・蔵瀬ええ! あんたはボクに、全て任せろと言った! ボクの好きにして構わないと! 自分は完璧なオブザーバーだと! この特区全てをコントロールし尽くしていると! なのに、何だあれは! 誰だあのキッズは! こんな、こんなことになるなんて、ボクは聞いていないぞおお!」

 

 ブラントなる若造は、血走った目で私に吠え、

 

「キッズだ! このボクの勝利に砂を付けた、あのキッズは何処にいる! キッズ、キッズキッズキイイイイッズ! キッズを出せ! キッズを寄越せ! 早く、早くあのキッズを分からせないと、ボクは、ボクはボクはボクはあああああッ!」

 

 この男、壊されておる。

 

 げに恐るべきはあの小僧、実現能力者の精神をここまで追い詰めるとは。もし、あの小僧に通り名を付けるならば、ゲーマー壊し、いや、ゲーマー殺しになるだろうて。

 

 私は壁に手を突き、ふらつく体で男に向かい、

 

「挫折を知り、なお勝利に執着するその姿勢。ゲーマーとして誇らしい。しかし、くくっ、無知と敗北は同義だな」

「敗北……? このボクが、敗北……!?」

 

 私の言葉で、ブラントなる若造は、瞳に光を取り戻し、

 

「あり得ない! ボクは、ボクは勝者だ! ボクは勝つ! 勝って、ボクはまた勝者に立ち戻るッ! そのためならあ!」

 

 肌で感じるほどの敵意を放ち、男の体がゲームを宿す器となる! そして、来る! ゲーム・ヴァーサス・ゲームの始まりが!

 

 が、しかし――

 

「ダウンロ「ダウンロード! そぉい!」

「――ドばっ!?」

 

 しかししかし、コントロール! 私は若造より先にゲームを起動し、生成した拳銃で一発お見舞い!

 

「ああ、あ……」

 

 ヘッドショットを受けた男の体が、ティロティロ効果音とクレジット表示を残し、完全に消滅!

 

 その額、五百円也。

 

「ふん……」

 

 年季が違うわ、若造が。ゲーム即起動からの抜き撃ちで、この私に勝てるものかよ。

 

 ともあれ、ようやく体の調子が戻ってきた。これでそう、再びコントロールに返り咲けるというものよ。

 

 私が来たるべく勝利に足を踏み出した、その時、

 

『姿を現せ、蔵瀬保安正! ここら一帯は全て封鎖してある! 分かってんだろ、これはあんたの命令だった!』

 

 再び背後から、拡声器による怒り心頭の警告が投げられた。

 

 これは、ああ、鷹三副隊長か。相変わらず、口の利き方がなっとらん。

 

 だが、あの現場で私の不在を確信し、即追跡に切り替えるとは、やはり情報機動部隊は優秀である。

 

『全てのゲームを終了させ、今すぐ投降しろ! 蔵瀬保安正! あんたは、もう終わりなんだ!』

「くっ、くくくっ……!」

 

 副隊長の言葉に、思わず笑みが零れ落ちる。

 

「終わり? この私の、一体何が終わりだと言うのかね?」

 

 ああ、聞こえる。大勢の靴音が。私を取り囲もうと行動する、部隊の音が。

 

 この私自ら準備した上質なリソースが、私のために集っている。

 

 私は右手の銃に頬ずりし、背後の大通りへと歩みを変え、

 

「私のゲームは、まだ終わっちゃいないのだよ……!」

 

 

 

 

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