OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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040 VS『ロボティクス・エイト』(1)

『ゴゴゴゴゴゴゴ……』

 

 ゲームをその身に宿した博士の体が、地響きのような効果音を現実化する。

 

「ルール、ステージ、アイテム、実現能力における三大要素。中でも、世界そのものを書き換えるステージの代入は、最も困難とされている。まだまだ未完成ではあるが、オーバー・リアルの本領、お見せしよう」

 

 博士がそこまで言うと、効果音がぴたりと止み、

 

「ステージ・オーバー・リアル……!」

 

 そのコマンドが発された途端、床一面に散らばった多脚戦車のパーツが青い粒子に姿を変え、周囲の風景に溶け込み始めた。ボロボロだった床が青い透明なパネルに、廃ビルの屋上が空飛ぶ舞台に変わっていく。

 

 そして、ステージの中心、その上空に、光の球が収束していき――

 

『ベレッベベーベー! ベレッベベーベー! ベベッベ! ベベッベ! ベッベベベベベー!』

『アーイ・アーム・ユア・サーン!』

 

 専用BGMと共に、ゴリラモチーフでレトロデザインのずんぐりロボが出現、ステージの床にずしんと着地した。

 

「さあ、行け! 人類を倒し、お前が真の人間であることを証明するのだ!」

『イエエエース! マイ・ファーザー!』

 

 体長3メートルをゆうに越える人型機械は、博士の命令にガッツポーズでガッツり応えた。

 

 ステージ・デザインと各種演出、何より科学者とロボットという敵構成。こんなの、分析するまでも無い。

 

「このゲーム、『ロボティクス・エイト』!!」

「ご明察だ!!」

 

『ロボティクス・エイト』

 

 ロボット技術が実用化され、人に代わる労働力として利用されるようになった未来の話。悪の天才科学者Dr.ヒトデナシーは、自分の作るロボットこそが世界を統べる新人類だと主張し、世界征服に乗り出した。

 

 人間である主人公は世界の平和を守るため、機械の力をその身に宿し、Dr.ヒトデナシーのロボット軍団に立ち向かっていく。

 

 旧時代のゲームに多大なリスペクトを捧げたアクション・シューティングで、シリーズ化もされている、全年齢向けの古典的大名作だ。

 

 そして、クイスト博士の役割は、悪の親玉であるDr.ヒトデナシーその人。博士の副次能力は、Dr.ヒトデナシーが機械を修理する時のものだったんだ。

 

 そして、そして、このロボは――

 

『VS! マイサン・ロボ!』

 

 バーンと空中に表示された巨大テロップが紹介する通り、このロボは第一シリーズのラスボスにしてDr.ヒトデナシーの最高傑作、マイサン・ロボだ!

 

『アーイ・アーム・ヒューマン・ビーイイイィィング!』(CV:イ〇ン・マッケラン)

『HERE COMES A NEW CHALLENGER! READY? FIGHT!』

 

 空気を読み、登場演出が終わるのを待っていたのか、マイサン・ロボの雄叫びに合わせ、僕の中のゲームが開始宣言を現実化した。対戦開始だ。

 

「さあ、行け! ロボォ!」

『ヒューマン・ビーム!』

 

 開幕、即攻撃。マイサン・ロボが巨大な掌を僕に向け、オレンジ色の光の球を発射してきた。マイサン・ロボ唯一の攻撃、ヒューマン・ビームだ。

 

「っ……!」

 

 ビームの大きさと迫力に圧倒されつつ、僕は無事回避。避けられない速度ではないけど、あの巨体から放たれる光球は、とにかくでかい。

 

 それにしても、

 

「いいぞお、ロボォ!」

 

 博士だ。アル・クイスト博士。

 

 右手の人差し指をびしりと立て、お尻をクイッと突き出した、土曜日夜の伝統的フィーバーポーズ。あの応援アクションは、ゲームのDr.ヒトデナシーそのものだ。

 

 左足を負傷し、額に脂汗を浮かべながら、それでも博士はゲームを再現しようと必死にポーズを取っている。

 

 凄い気合いだ。 その行動が、確実にゲームの再現力を高めている。

 

 そして、上手い。

 

 普通なら、現実なら、ロボなんて障害は無視して博士を潰せばいい。けど、『ロボティクス・エイト』というゲームにおいて、それは不可能。

 

 マイサン・ロボ戦中、Dr.ヒトデナシーはNPCとして登場し、ロボを応援する。そしてストーリーの都合上、エンディングの関係上、この戦闘中の博士は絶対無敵判定で、場合によっては、ロボが博士を庇いもする。

 

 つまり、マイサン・ロボが倒されない限り、博士自身はずっと無敵でいられる、という超能力になっている。

 

「ビームだ、ロボォ!」

『ヒューマーン・ビーム!』

「っ!」

「それ行け、ロボォ!」

『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』

「っ……!」

 

 分析中の僕に容赦なく放たれるビーム攻撃。この大きさの光球を避けるのは、普通に辛い。

 

『ヒューマン・ビーム!』

「っ……」

 

 でも、慣れる。慣れてきた。

 

 そろそろ攻勢に出る、その僕の着地際、

 

「今だ、ロボ! 学習だ!」

『ラーニング・スキャーン!』

「っ……!?」

 

 両目をビカッと光らせ、ロボが僕をスキャンした。僕に解析されたようなエフェクトが走り、ロボが学習完了のガッツポーズをする。

 

 でも、問題ない。この行動にダメージはない。何故なら、僕は『ロボティクス・エイト』のシステムとは無関係だからだ。

 

 『ロボティクス・エイト』のシステム、ゲームの流れは、こうだ。

 

 まず、『ロボティクス・エイト』には、Dr.ヒトデナシーが作り出した八体のボスが存在し、このボスを倒すと、新しい武装が手に入る。そして、新しい武装を手に入れたら、次のボスを倒しに行く。

 

 これが、『ロボティクス・エイト』というゲームの、基本的な進め方だ。

 

 そして、それぞれのボスには弱点があり、その弱点を突ける適切な武装を使用することで、戦闘を有利なものにしていく。つまり、『ロボティクス・エイト』は、八つの武装を使いこなして遊ぶゲーム、ということ。

 

 さっきのスキャンはゲームの主人公の武装を解析し、学習するためのもの。マイサン・ロボの確定行動だ。

 

 でも、僕は『ロボティクス・エイト』の主人公ではないし、武装の変更なんてそもそもない。だからこれは無意味な行動、ということになる。

 

 だから、攻める。

 

「せっ、せっ、はっ!」

『オウ! オオーウ! ヒューマン・ビーム!』

「ふっ……! せっ、せっ、はっ!」

『オウ! オオーウ!!』

 

 弱弱強の基本コンボを入れ、即後退。また基本コンボを入れ、即離脱。

 

 ヒューマン・ビームの発射間隔と僕自身の攻撃速度の差を計算し、ロボのライフを順調に削っていく。

 

 ヒット・アンド・アウェイ。

 

 やるべきことは、『インセイン』の時と全く同じだ

 

 それに、博士の実現能力は精度が高すぎる。ゲームと違う所がひとつもない。だから、仮想の攻略がそのまま通じる。

 

 更に、『ロボティクス・エイト』のボスには、怯みも防御行動もない。攻撃を当てれば、必ずその分ライフを削ることが出来る。

 

「せっ、せっ、はっ!」

『オウ! オオーウ! ヒューマン・ビーム!』

「ふっ……! せっ、せっ、はっ!」

『オウ! オオーウ!!』

 

 だから、行ける。ロボのライフはもう半分も削れた。

 

『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』

 

 僕は連続で発射してくるビーム、その初弾を避け、もう一発をガードで――

 

「ぐっ、あああああっ!?」

 

 ビームを受けた瞬間、何故か僕の体が吹き飛びダウンした。全身から焦げた煙が立ち昇る。鋭い痛みに堪えながら、起こったことを振り返る。

 

 まさか。これは、まさか、

 

「が、あ……」

 

 ガードが、機能しない……!?

 

 何故だ、どうして。ヒューマン・ビームに防御貫通効果なんて、無かったはずだ。

 

『ヒューマン・ビーム!』

「っ……!」

 

 続けて発射されるビームを、ギリギリ立ち上がって回避する。震える足に力を入れ、何とか体勢を立て直す。

 

 考えろ。落ち着いて、マイサン・ロボ戦の手順を思い出せ。

 

 まず、通常モード。強力なヒューマン・ビームを使用し、特に弱点は無い。

 

 次に、学習モード。主人公が武装を変更しロボに学習させると、ロボの武装が主人公と同じものに変わり、弱点が生まれる。そうしたら、その弱点に合わせた武装に変更し、ロボを攻撃する。

 

 これを繰り返して、ボスを倒す。じゃんけんルールの総決算、このゲームに相応しい最終戦だ。

 

 その戦闘の何処に、防御貫通なんて、何処に――

 

「いや、あった……!」

 

 武装バリアだ。

 

 ボスを倒して手に入る武装に、バリアを張れるものがひとつあった。そして、ヒューマン・ビームはそのバリアじゃ防げない。手順通りロボに学習させ、他の武装に切り替えさせないと、効果の無い武装だった。

 

 導き出される答えは、そう、ヒューマン・ビームに内蔵されたバリア貫通機能が、ガード貫通攻撃として適用された。つまり、マイサン・ロボのビームは、格ゲーのガードで防げない。

 

 更に、

 

『ヒューマン・ビーム!』

「っ……!」

 

 避けながら確認する。僕のライフが、四分の一も削られている。そうだ、マイサン・ロボはラスボスらしい火力調整で、ヒューマン・ビームを四回喰らうとゲーム・オーバーになる、そういう仕様だった。

 

 今、一回喰らってしまった。だからあと三回喰らうと、僕はゲーム・オーバーになってしまう。

 

「いいぞ、ロボ! 連続ビームだ!」

『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』

「くっ、くっ……!」

 

 避けながら、ようやく気付く。

 

 ロボの背後に控える博士が絶妙に位置取りし、ロボの射角をコントロールしている。

 

 ゲームには、NPCとなる博士がロボを操作できるシステムは無い。けど、ロボに庇われる立場の自分があえて移動することで、本来操作することのできないロボの動きを調整している。

 

 プロボクサーが対戦相手を体の向きだけでコーナー・ポストに追い込むように、僕の移動範囲がどんどん狭められていく。

 

「がんばれ、ロボォ!」

『ヒューマン・ビーム!』

「っ……!」

 

 ビームが来る、ギリ避ける。ガードが使えない以上、これ以上はジリ貧になる。この状況を打開するためには、あれを試すしかない。もし失敗しても、必要経費と割り切るしかない。

 

「さあ、行け! ロボォ!」

『ヒューマン・ビーム!』

 

 放たれるビームに向かい、僕は右手に光を漲らせ、

 

「震空波!」

 

 遠距離必殺技。

 

 僕の右拳から撃ち出された白い光弾が、オレンジ色の光球とぶつかり、そして、双方消滅した。

 

 ……よし。

 

 相手の遠距離攻撃に自分の遠距離攻撃をぶつけることで、その攻撃を打ち消すことが出来る。格ゲーにおける、遠距離攻撃の相殺システムだ。

 

 ロボのヒューマン・ビームには、無敵貫通効果はあっても相殺貫通効果が無い。そもそも、『ロボティクス・エイト』に遠距離攻撃の相殺システムが無い。だから、僕の震空波で打ち消し、消滅させることが出来た。

 

 賭けには勝った。だからあとは、

 

『ヒューマン・ビーム!』

「震空波!」

『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』

「震空波! 震空波!」

『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーヒューマンヒューマヒューヒューマンビーム!』

「震空波! 震空波! 震空震く震く震空震空波っ!」

 

 そして始まる、遠距離攻撃の撃ち合い戦。その中で、ロボのモーションに最大限の注意を払い、タイミングを読み続ける。

 

 次、そう、今――

 

『ヒューマン・ビーム!』

「はっ!!」

 

 ビーム発射とほぼ同時、僕はジャンプで光球を跳び越え、ジャンプ強キックを浴びせに掛かった。

 

 よし、削る。この蹴りが当たったら、コンボで残りライフを削り切る……!

 

「っ……」

 

 最中、気付く。

 

 クイスト博士の号令ポーズ、右手の指が固く握られ、違う形になっている。

 

 拳だ。

 

 クイスト博士は、その拳を僕に向け――

 

「パンチだ! ロボォ!」

『アズ・ユア・ウィーシュ!』

 

 パンチ!?

 

 途端、ロボの巨体の構えが変わる。ビームと違う動きをする。それは、僕のよく知る体の動き。僕が何千何万回と撃ってきた、それは僕の――

 

『ヒューマン・パーンチ!』

「ぐはっ!?」

 

 正拳突き。

 

 ロボの繰り出すパンチを喰らい、僕は派手に吹っ飛ばされた。ステージの端、見えない壁に叩きつけられ、どさりと落ちて床に倒れる。

 

「げ、はっ……」

 

 視界がぐらぐら揺れまくる。何とか上半身を起こし、青い床に血反吐を吐く。

 

 やられた……。

 

 飛ばせて落とす。格ゲーの基本的な戦法で、まさか僕本人がやられるなんて。しかも相手は、『ロボティクス・エイト』だ。

 

 それに今の攻撃、マイサン・ロボにヒューマン・パンチなんて攻撃は、無かったはずた。けれど、現に喰らった、博士はやったことがあるんだ。ロボに現実のゲームを学習させたことが。

 

 だから、これは博士の経験と、ゲームの設定に基づいた、現実の工夫だ。

 

 さっきのラーニング・スキャンは、無意味じゃなかった。あれは博士の仕込みだったんだ。

 

「ぐ……」

 

 僕の『ロボティクス・エイト』に関する知識を、逆手に取られた。僕がゲームを分かっている、博士はそのことを分かって、利用した。タイミングを計っていたのは、博士の方だった。

 

「う、ぐ……」

 

 地面に手を突き支えにして、もう一度、何とか立つ。

 

 残りライフは、すでに半分。残り二回の被弾で、僕は敗北する。

 

 分かってはいた。分かっていたけど、改めて実感する。

 

 この人、凄い。いや、違う――

 

「さあ、行け! ロボォ!」

『イエエエース! マイ・ファーザー!』

 

 この人、強い……!

 

 

 

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