OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
『ゴゴゴゴゴゴゴ……』
ゲームをその身に宿した博士の体が、地響きのような効果音を現実化する。
「ルール、ステージ、アイテム、実現能力における三大要素。中でも、世界そのものを書き換えるステージの代入は、最も困難とされている。まだまだ未完成ではあるが、オーバー・リアルの本領、お見せしよう」
博士がそこまで言うと、効果音がぴたりと止み、
「ステージ・オーバー・リアル……!」
そのコマンドが発された途端、床一面に散らばった多脚戦車のパーツが青い粒子に姿を変え、周囲の風景に溶け込み始めた。ボロボロだった床が青い透明なパネルに、廃ビルの屋上が空飛ぶ舞台に変わっていく。
そして、ステージの中心、その上空に、光の球が収束していき――
『ベレッベベーベー! ベレッベベーベー! ベベッベ! ベベッベ! ベッベベベベベー!』
『アーイ・アーム・ユア・サーン!』
専用BGMと共に、ゴリラモチーフでレトロデザインのずんぐりロボが出現、ステージの床にずしんと着地した。
「さあ、行け! 人類を倒し、お前が真の人間であることを証明するのだ!」
『イエエエース! マイ・ファーザー!』
体長3メートルをゆうに越える人型機械は、博士の命令にガッツポーズでガッツり応えた。
ステージ・デザインと各種演出、何より科学者とロボットという敵構成。こんなの、分析するまでも無い。
「このゲーム、『ロボティクス・エイト』!!」
「ご明察だ!!」
『ロボティクス・エイト』
ロボット技術が実用化され、人に代わる労働力として利用されるようになった未来の話。悪の天才科学者Dr.ヒトデナシーは、自分の作るロボットこそが世界を統べる新人類だと主張し、世界征服に乗り出した。
人間である主人公は世界の平和を守るため、機械の力をその身に宿し、Dr.ヒトデナシーのロボット軍団に立ち向かっていく。
旧時代のゲームに多大なリスペクトを捧げたアクション・シューティングで、シリーズ化もされている、全年齢向けの古典的大名作だ。
そして、クイスト博士の役割は、悪の親玉であるDr.ヒトデナシーその人。博士の副次能力は、Dr.ヒトデナシーが機械を修理する時のものだったんだ。
そして、そして、このロボは――
『VS! マイサン・ロボ!』
バーンと空中に表示された巨大テロップが紹介する通り、このロボは第一シリーズのラスボスにしてDr.ヒトデナシーの最高傑作、マイサン・ロボだ!
『アーイ・アーム・ヒューマン・ビーイイイィィング!』(CV:イ〇ン・マッケラン)
『HERE COMES A NEW CHALLENGER! READY? FIGHT!』
空気を読み、登場演出が終わるのを待っていたのか、マイサン・ロボの雄叫びに合わせ、僕の中のゲームが開始宣言を現実化した。対戦開始だ。
「さあ、行け! ロボォ!」
『ヒューマン・ビーム!』
開幕、即攻撃。マイサン・ロボが巨大な掌を僕に向け、オレンジ色の光の球を発射してきた。マイサン・ロボ唯一の攻撃、ヒューマン・ビームだ。
「っ……!」
ビームの大きさと迫力に圧倒されつつ、僕は無事回避。避けられない速度ではないけど、あの巨体から放たれる光球は、とにかくでかい。
それにしても、
「いいぞお、ロボォ!」
博士だ。アル・クイスト博士。
右手の人差し指をびしりと立て、お尻をクイッと突き出した、土曜日夜の伝統的フィーバーポーズ。あの応援アクションは、ゲームのDr.ヒトデナシーそのものだ。
左足を負傷し、額に脂汗を浮かべながら、それでも博士はゲームを再現しようと必死にポーズを取っている。
凄い気合いだ。 その行動が、確実にゲームの再現力を高めている。
そして、上手い。
普通なら、現実なら、ロボなんて障害は無視して博士を潰せばいい。けど、『ロボティクス・エイト』というゲームにおいて、それは不可能。
マイサン・ロボ戦中、Dr.ヒトデナシーはNPCとして登場し、ロボを応援する。そしてストーリーの都合上、エンディングの関係上、この戦闘中の博士は絶対無敵判定で、場合によっては、ロボが博士を庇いもする。
つまり、マイサン・ロボが倒されない限り、博士自身はずっと無敵でいられる、という超能力になっている。
「ビームだ、ロボォ!」
『ヒューマーン・ビーム!』
「っ!」
「それ行け、ロボォ!」
『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』
「っ……!」
分析中の僕に容赦なく放たれるビーム攻撃。この大きさの光球を避けるのは、普通に辛い。
『ヒューマン・ビーム!』
「っ……」
でも、慣れる。慣れてきた。
そろそろ攻勢に出る、その僕の着地際、
「今だ、ロボ! 学習だ!」
『ラーニング・スキャーン!』
「っ……!?」
両目をビカッと光らせ、ロボが僕をスキャンした。僕に解析されたようなエフェクトが走り、ロボが学習完了のガッツポーズをする。
でも、問題ない。この行動にダメージはない。何故なら、僕は『ロボティクス・エイト』のシステムとは無関係だからだ。
『ロボティクス・エイト』のシステム、ゲームの流れは、こうだ。
まず、『ロボティクス・エイト』には、Dr.ヒトデナシーが作り出した八体のボスが存在し、このボスを倒すと、新しい武装が手に入る。そして、新しい武装を手に入れたら、次のボスを倒しに行く。
これが、『ロボティクス・エイト』というゲームの、基本的な進め方だ。
そして、それぞれのボスには弱点があり、その弱点を突ける適切な武装を使用することで、戦闘を有利なものにしていく。つまり、『ロボティクス・エイト』は、八つの武装を使いこなして遊ぶゲーム、ということ。
さっきのスキャンはゲームの主人公の武装を解析し、学習するためのもの。マイサン・ロボの確定行動だ。
でも、僕は『ロボティクス・エイト』の主人公ではないし、武装の変更なんてそもそもない。だからこれは無意味な行動、ということになる。
だから、攻める。
「せっ、せっ、はっ!」
『オウ! オオーウ! ヒューマン・ビーム!』
「ふっ……! せっ、せっ、はっ!」
『オウ! オオーウ!!』
弱弱強の基本コンボを入れ、即後退。また基本コンボを入れ、即離脱。
ヒューマン・ビームの発射間隔と僕自身の攻撃速度の差を計算し、ロボのライフを順調に削っていく。
ヒット・アンド・アウェイ。
やるべきことは、『インセイン』の時と全く同じだ
それに、博士の実現能力は精度が高すぎる。ゲームと違う所がひとつもない。だから、仮想の攻略がそのまま通じる。
更に、『ロボティクス・エイト』のボスには、怯みも防御行動もない。攻撃を当てれば、必ずその分ライフを削ることが出来る。
「せっ、せっ、はっ!」
『オウ! オオーウ! ヒューマン・ビーム!』
「ふっ……! せっ、せっ、はっ!」
『オウ! オオーウ!!』
だから、行ける。ロボのライフはもう半分も削れた。
『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』
僕は連続で発射してくるビーム、その初弾を避け、もう一発をガードで――
「ぐっ、あああああっ!?」
ビームを受けた瞬間、何故か僕の体が吹き飛びダウンした。全身から焦げた煙が立ち昇る。鋭い痛みに堪えながら、起こったことを振り返る。
まさか。これは、まさか、
「が、あ……」
ガードが、機能しない……!?
何故だ、どうして。ヒューマン・ビームに防御貫通効果なんて、無かったはずだ。
『ヒューマン・ビーム!』
「っ……!」
続けて発射されるビームを、ギリギリ立ち上がって回避する。震える足に力を入れ、何とか体勢を立て直す。
考えろ。落ち着いて、マイサン・ロボ戦の手順を思い出せ。
まず、通常モード。強力なヒューマン・ビームを使用し、特に弱点は無い。
次に、学習モード。主人公が武装を変更しロボに学習させると、ロボの武装が主人公と同じものに変わり、弱点が生まれる。そうしたら、その弱点に合わせた武装に変更し、ロボを攻撃する。
これを繰り返して、ボスを倒す。じゃんけんルールの総決算、このゲームに相応しい最終戦だ。
その戦闘の何処に、防御貫通なんて、何処に――
「いや、あった……!」
武装バリアだ。
ボスを倒して手に入る武装に、バリアを張れるものがひとつあった。そして、ヒューマン・ビームはそのバリアじゃ防げない。手順通りロボに学習させ、他の武装に切り替えさせないと、効果の無い武装だった。
導き出される答えは、そう、ヒューマン・ビームに内蔵されたバリア貫通機能が、ガード貫通攻撃として適用された。つまり、マイサン・ロボのビームは、格ゲーのガードで防げない。
更に、
『ヒューマン・ビーム!』
「っ……!」
避けながら確認する。僕のライフが、四分の一も削られている。そうだ、マイサン・ロボはラスボスらしい火力調整で、ヒューマン・ビームを四回喰らうとゲーム・オーバーになる、そういう仕様だった。
今、一回喰らってしまった。だからあと三回喰らうと、僕はゲーム・オーバーになってしまう。
「いいぞ、ロボ! 連続ビームだ!」
『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』
「くっ、くっ……!」
避けながら、ようやく気付く。
ロボの背後に控える博士が絶妙に位置取りし、ロボの射角をコントロールしている。
ゲームには、NPCとなる博士がロボを操作できるシステムは無い。けど、ロボに庇われる立場の自分があえて移動することで、本来操作することのできないロボの動きを調整している。
プロボクサーが対戦相手を体の向きだけでコーナー・ポストに追い込むように、僕の移動範囲がどんどん狭められていく。
「がんばれ、ロボォ!」
『ヒューマン・ビーム!』
「っ……!」
ビームが来る、ギリ避ける。ガードが使えない以上、これ以上はジリ貧になる。この状況を打開するためには、あれを試すしかない。もし失敗しても、必要経費と割り切るしかない。
「さあ、行け! ロボォ!」
『ヒューマン・ビーム!』
放たれるビームに向かい、僕は右手に光を漲らせ、
「震空波!」
遠距離必殺技。
僕の右拳から撃ち出された白い光弾が、オレンジ色の光球とぶつかり、そして、双方消滅した。
……よし。
相手の遠距離攻撃に自分の遠距離攻撃をぶつけることで、その攻撃を打ち消すことが出来る。格ゲーにおける、遠距離攻撃の相殺システムだ。
ロボのヒューマン・ビームには、無敵貫通効果はあっても相殺貫通効果が無い。そもそも、『ロボティクス・エイト』に遠距離攻撃の相殺システムが無い。だから、僕の震空波で打ち消し、消滅させることが出来た。
賭けには勝った。だからあとは、
『ヒューマン・ビーム!』
「震空波!」
『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』
「震空波! 震空波!」
『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーヒューマンヒューマヒューヒューマンビーム!』
「震空波! 震空波! 震空震く震く震空震空波っ!」
そして始まる、遠距離攻撃の撃ち合い戦。その中で、ロボのモーションに最大限の注意を払い、タイミングを読み続ける。
次、そう、今――
『ヒューマン・ビーム!』
「はっ!!」
ビーム発射とほぼ同時、僕はジャンプで光球を跳び越え、ジャンプ強キックを浴びせに掛かった。
よし、削る。この蹴りが当たったら、コンボで残りライフを削り切る……!
「っ……」
最中、気付く。
クイスト博士の号令ポーズ、右手の指が固く握られ、違う形になっている。
拳だ。
クイスト博士は、その拳を僕に向け――
「パンチだ! ロボォ!」
『アズ・ユア・ウィーシュ!』
パンチ!?
途端、ロボの巨体の構えが変わる。ビームと違う動きをする。それは、僕のよく知る体の動き。僕が何千何万回と撃ってきた、それは僕の――
『ヒューマン・パーンチ!』
「ぐはっ!?」
正拳突き。
ロボの繰り出すパンチを喰らい、僕は派手に吹っ飛ばされた。ステージの端、見えない壁に叩きつけられ、どさりと落ちて床に倒れる。
「げ、はっ……」
視界がぐらぐら揺れまくる。何とか上半身を起こし、青い床に血反吐を吐く。
やられた……。
飛ばせて落とす。格ゲーの基本的な戦法で、まさか僕本人がやられるなんて。しかも相手は、『ロボティクス・エイト』だ。
それに今の攻撃、マイサン・ロボにヒューマン・パンチなんて攻撃は、無かったはずた。けれど、現に喰らった、博士はやったことがあるんだ。ロボに現実のゲームを学習させたことが。
だから、これは博士の経験と、ゲームの設定に基づいた、現実の工夫だ。
さっきのラーニング・スキャンは、無意味じゃなかった。あれは博士の仕込みだったんだ。
「ぐ……」
僕の『ロボティクス・エイト』に関する知識を、逆手に取られた。僕がゲームを分かっている、博士はそのことを分かって、利用した。タイミングを計っていたのは、博士の方だった。
「う、ぐ……」
地面に手を突き支えにして、もう一度、何とか立つ。
残りライフは、すでに半分。残り二回の被弾で、僕は敗北する。
分かってはいた。分かっていたけど、改めて実感する。
この人、凄い。いや、違う――
「さあ、行け! ロボォ!」
『イエエエース! マイ・ファーザー!』
この人、強い……!