OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
『ヒューマン・ビーム!』
「震空波!」
必殺技を放ち、ロボのビームを相殺する。
『ヒューマン・ビーム!』
「震空波!」
『ヒューマン・ビーム!』
「震空波!」
ロボのビームに必殺技で対抗し、何とか状況を拮抗させる。その中で、冷静に計算する。
まず、攻撃を当てる読み合いに勝つ。次に、攻撃が当たるのは大前提として、確実に与えられるダメージを計算する。
二回だ。
僕が博士に勝つには、あと二回、読み合いに勝つ必要がある。そしてそれは、博士も同じ。
状況はイーブン。けど、僕にはもう一本、ライフゲージの下に、青く光り輝くゲージがある。
『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』
「震空波! 震空波!」
『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーヒューマンヒューマヒューヒューマンビーム!』
「震空波! 震空波! 震空震く震く震空震空波っ!」
勝つ。勝ちに行く。
そのために、まずは自分の技が届く間合いに移動する。
震空波のモーションの隙間に、前に進む動きを挟む。弾を撃ちつつ、じりじり距離を詰めていく。
そして、
『ヒューマン・ビーム!』
「震空波!」
近付けた。なら、次で――
『ヒューマン・ビーム!』
「っ……!」
前ダッシュ。
ダッシュ中の低い姿勢を利用し、ビームの下をくぐり抜ける。
ロボの懐に潜り込んだ僕は、ここで一気に――
「せっせっ! ……せっ!」
『オウ! オオーウ! オーウ!』
「……っはああ!」
「オオーウ!!」
コンボ攻撃。
立ち弱パンパンからのしゃがみ弱キック、やや遅れて、しゃがみ強パンを放つ。けれど、マイサン・ロボは怯まない。攻撃を受けながら、攻撃してくる。
だから、来る。
「パンチだ、ロボォ!」
『ヒューマン・パーンチ!』
来た。パンチに合わせ、わざと遅らせたコンボの締めを、ここで放つ!
「対空脚!!」
『オオーウ!?』
「なんとお!?」
この戦闘で初めて、博士が驚きに声を上げる。
当たるはずのパンチが僕の体をすり抜け、代わりに僕のバク転蹴りがロボの胴体に突き刺さった。
対空必殺技。
名称通り、空からの攻撃を迎撃するための必殺技。この技には発生直後0.14秒という短い時間のみ全身無敵判定があり、全ての攻撃を無効化できる。
この無敵対空という種類の技は、相手の猛攻を中断させる差し込み、ダウン等の非有利な状況を好転させる切り返しとして、様々な戦術の核になった。
着地し、ロボのライフを確認する。今のコンボで、残り四分の一まで削ることが出来た。
「防御貫通攻撃を無敵技で凌ぐ! いい戦略だ、少年よ! だが、しかし!」
博士は再び拳を握り、ロボの至近距離まで近づいた僕に向け、
「パンチだ、ロボォ!」
『イエエエエス! マイ・ファーザー! ヒューマン・パーンチ!!』
空手の正拳突きに似たモーションで、巨大な拳が放たれる。
けれど、
「なな、なんとお!?」
ロボの拳は、僕の目の前、毛先数センチのところでぴたりと止まってしまった。
届かない、何故か。
僕は別に、特別なことはしていない。僕はただ、下がっただけ。接近戦の距離から、パンチの間合いから離れただけ。
つまり、ただの後ろ素歩き。
マイサン・ロボの学習能力は本物だった。コレクト・モーション・スキルを備えた僕には分かる。マイサン・ロボは、僕のパンチを寸分違わず正確に模倣して見せた。
だから、出来た。
体格が違えど、僕の技のリーチは、僕が一番分かっているから。
そして、今。ロボは技の硬直中、隙だらけの状態だ。そこに――
「はああっ!」
モーション、始動。
気合と同時、ライフゲージの下にある、青いゲージを全消費。僕の右手に力が集い、集った力が、輝き滾る。
その光を前に、博士が、
「そのゲージ! 対戦開始から気になってはいた! それは、マジックポイントではない! エネルギーゲージや、スキルゲージでもない! まさかそれは、それはまさかの、必殺技ゲージ!!」
「ご明察ですよ……!」
必殺技ゲージ。
対戦中に必殺技を使用したり、ダメージの交差を行うことで溜まる、特別なゲージのことだ。そして、このゲージを丸々一本消費することで、高威力高性能な技を使うことが出来る。
そう、これこそ格ゲーの歴史にリスペクトを捧げた、僕と『NO TITLE』の超必殺技!
「重撃!!」
拳が唸る、風を呼ぶ。
竜巻のようなエフェクトが僕を中心に巻き起こり、ひと際眩しい光を放つ。
これを、この力を、右ストレートのモーションに乗せ、今、放つ!
「震空波!!」
突き出された拳から生まれる、特大の光弾。白い旋風を纏った閃光が、マイサン・ロボに向かって高速で飛翔し、
『オオオオオオオオオウ!!』
轟音、直撃。
白い嵐が弾けて飛び散り、マイサン・ロボのライフをガリガリと削っていく。そして、
『K・O!!』
『フォーギブ・ミー。マイ・ファーザーザーザー……』
「ロボ!! ロボオオオオオオッ……!!」
ライフがゼロになった瞬間、ロボの巨体がロボらしく爆発。ティウンティウンという効果音と共に、青い光となって八散した。
同時に、博士も『ロボティクス・エイト』の再現通り、やられモーションで吹っ飛び、ダウンした。
『YOU WIN!!』
電子音声が告げる、勝利宣言。その瞬間、僕のライフが全快し、体の状態が対戦前に巻き戻された。
「っ……」
それでも、ふらつく。朦朧とする。
勝った。でも、まだ途中。僕は博士と話さなきゃならない。プログラムのこと、クーリエのこと。博士には、やってもらいたいことが山ほどある。
僕は仰向けに倒れた博士の元へと、ふらふら向かう。
『ロボティクス・エイト』は健全ゲーだから、悪人のDr.ヒトデナシーも死んだりしない。だから、博士も無事のはずだ。
「博士……」
倒れた博士の傍らに立ち、僕が呼び掛けた、その時、
「っ……!」
僕達の周囲。特設ステージが廃ビルに、青い透明なパネルがアスファルトに。実現能力で書き換えられた世界が、現実のものに戻っていく。
後には、蛍のように宙を舞う、青い粒子だけが残された。
そんな不思議な光景の中、
「見事だ……。ああ、私の、完敗だ……」
意識を取り戻したのか、目を開いた博士が、そう言った。
そんな博士に、僕は、
「あなたは自分の信じたゲームのままに、『ロボティクス・エイト』のシステム通りに射撃戦だけやっていれば、僕に勝てたんです」
「そうだね。あんなにやり込んだのに。あんなに、愛していたのに。私はロボにあんな命令をして、ロボを、ゲーム通りに戦わせてやれなかった……」
博士は、自嘲するように、
「それが可能なら、実現せずにはいられない。人の性とは、実に愚かしい……」
それから博士は、白衣のポケットからタブレットを引っ張り出し、
「勝者には、報酬が必要だ。プログラムは、完全に消去したよ……。あの試験体以外の、私の研究の全てを、今、消去した……」
博士の言葉通り、タブレットが煙を上げて床に落ち、ただのガラクタになった。そして、
「っ……!?」
落ちた、博士の指も。落ちた指が、ぼそりと崩れ、灰になった。
手首、腕、それに脚も。博士の体がどんどん崩れて、壊れていく。
これはゲームのペナルティじゃない。理解する、筋肉操作。
「まさか、自分を分解……。なんてことを……」
「言ったはずだよ、全てを消去した、と……」
自分の体が崩れていく、そんな時だっていうのに、博士は夜空を見上げ、
「人が人を超えるということが、どういうことか。君はどう思うね……?」
もう、助からない。僕はそんな博士に、
「オーバー・リアルの話ですか」
「いいや、原理の話さ……」
ここで、博士は細く息を吸い、
「人を超えるということは、人以外の超常的原理によって、人間を克服することではない。人が自身の可能性に基づき、己を克服することなのだ」
僕の瞳を、真っすぐ見て、
「そのために人は、人という種の価値を知らねばならない。人の価値とは、誠意、思いやり、理性で決まる。あるいは、自己犠牲……。その学びを以て、選択する。それこそが、人が人を超える可能性……」
その目に映る自分に、言い聞かせるように、
「私は選択した。そう、私は人として、自分の意志で選択したのだ……」
僕も、クイスト博士の青い瞳を真っすぐ見下ろし、
「クイスト博士。僕はあなたを、軽蔑します」
「それでも、君は真剣にプレイしてくれたね……。ああ、君とはもっと、もっと話をしてみたかった……」
そこまで言うと、博士は青い光の舞う夜空に向かい、
「人の作り出した全てのくだらぬものは、時と共に消え失せよう。ただ生命が、生命だけが、不滅なのだ……」
最後に、瞳を閉じて、
「正体不明の少年よ。対戦、ありがとう……」
そう言い遺すと、アルバート・クイスト博士の全てが崩れ、灰になった。
血で汚れた服と壊れたタブレットを残し、夜の風が博士の灰をさらっていく。
すると、宙に浮かぶ青い粒子が、まるで自らの一部にでもするように、博士の灰を同じ光の粒子に変えていった。
そして、ここではない何処かへ、空の彼方へ。高く高く、運んでいった。
僕は、夜空に昇る青い光の粒たちへ、
「ゲーム・オーバーです。アル・クイスト博士……」