OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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041 VS『ロボティクス・エイト』(2)

『ヒューマン・ビーム!』

「震空波!」

 

 必殺技を放ち、ロボのビームを相殺する。

 

『ヒューマン・ビーム!』

「震空波!」

『ヒューマン・ビーム!』

「震空波!」

 

 ロボのビームに必殺技で対抗し、何とか状況を拮抗させる。その中で、冷静に計算する。

 

 まず、攻撃を当てる読み合いに勝つ。次に、攻撃が当たるのは大前提として、確実に与えられるダメージを計算する。

 

 二回だ。

 

 僕が博士に勝つには、あと二回、読み合いに勝つ必要がある。そしてそれは、博士も同じ。

 

 状況はイーブン。けど、僕にはもう一本、ライフゲージの下に、青く光り輝くゲージがある。

 

『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーム!』

「震空波! 震空波!」

『ヒューマン・ビーム! ヒューマン・ビーヒューマンヒューマヒューヒューマンビーム!』

「震空波! 震空波! 震空震く震く震空震空波っ!」

 

 勝つ。勝ちに行く。

 

 そのために、まずは自分の技が届く間合いに移動する。

 

 震空波のモーションの隙間に、前に進む動きを挟む。弾を撃ちつつ、じりじり距離を詰めていく。

 

 そして、

 

『ヒューマン・ビーム!』

「震空波!」

 

 近付けた。なら、次で――

 

『ヒューマン・ビーム!』

「っ……!」

 

 前ダッシュ。

 

 ダッシュ中の低い姿勢を利用し、ビームの下をくぐり抜ける。

 

 ロボの懐に潜り込んだ僕は、ここで一気に――

 

「せっせっ! ……せっ!」

『オウ! オオーウ! オーウ!』

「……っはああ!」

「オオーウ!!」

 

 コンボ攻撃。

 

 立ち弱パンパンからのしゃがみ弱キック、やや遅れて、しゃがみ強パンを放つ。けれど、マイサン・ロボは怯まない。攻撃を受けながら、攻撃してくる。

 

 だから、来る。

 

「パンチだ、ロボォ!」

『ヒューマン・パーンチ!』

 

 来た。パンチに合わせ、わざと遅らせたコンボの締めを、ここで放つ!

 

「対空脚!!」

『オオーウ!?』

「なんとお!?」

 

 この戦闘で初めて、博士が驚きに声を上げる。

 

 当たるはずのパンチが僕の体をすり抜け、代わりに僕のバク転蹴りがロボの胴体に突き刺さった。

 

 対空必殺技。

 

 名称通り、空からの攻撃を迎撃するための必殺技。この技には発生直後0.14秒という短い時間のみ全身無敵判定があり、全ての攻撃を無効化できる。

 

 この無敵対空という種類の技は、相手の猛攻を中断させる差し込み、ダウン等の非有利な状況を好転させる切り返しとして、様々な戦術の核になった。

 

 着地し、ロボのライフを確認する。今のコンボで、残り四分の一まで削ることが出来た。

 

「防御貫通攻撃を無敵技で凌ぐ! いい戦略だ、少年よ! だが、しかし!」

 

 博士は再び拳を握り、ロボの至近距離まで近づいた僕に向け、

 

「パンチだ、ロボォ!」

『イエエエエス! マイ・ファーザー! ヒューマン・パーンチ!!』

 

 空手の正拳突きに似たモーションで、巨大な拳が放たれる。

 

 けれど、

 

「なな、なんとお!?」

 

 ロボの拳は、僕の目の前、毛先数センチのところでぴたりと止まってしまった。

 

 届かない、何故か。

 

 僕は別に、特別なことはしていない。僕はただ、下がっただけ。接近戦の距離から、パンチの間合いから離れただけ。

 

 つまり、ただの後ろ素歩き。

 

 マイサン・ロボの学習能力は本物だった。コレクト・モーション・スキルを備えた僕には分かる。マイサン・ロボは、僕のパンチを寸分違わず正確に模倣して見せた。

 

 だから、出来た。

 

 体格が違えど、僕の技のリーチは、僕が一番分かっているから。

 

 そして、今。ロボは技の硬直中、隙だらけの状態だ。そこに――

 

「はああっ!」

 

 モーション、始動。

 

 気合と同時、ライフゲージの下にある、青いゲージを全消費。僕の右手に力が集い、集った力が、輝き滾る。

 

 その光を前に、博士が、

 

「そのゲージ! 対戦開始から気になってはいた! それは、マジックポイントではない! エネルギーゲージや、スキルゲージでもない! まさかそれは、それはまさかの、必殺技ゲージ!!」

「ご明察ですよ……!」

 

 必殺技ゲージ。

 

 対戦中に必殺技を使用したり、ダメージの交差を行うことで溜まる、特別なゲージのことだ。そして、このゲージを丸々一本消費することで、高威力高性能な技を使うことが出来る。

 

 そう、これこそ格ゲーの歴史にリスペクトを捧げた、僕と『NO TITLE』の超必殺技!

 

「重撃!!」

 

 拳が唸る、風を呼ぶ。

 

 竜巻のようなエフェクトが僕を中心に巻き起こり、ひと際眩しい光を放つ。

 

 これを、この力を、右ストレートのモーションに乗せ、今、放つ!

 

「震空波!!」

 

 突き出された拳から生まれる、特大の光弾。白い旋風を纏った閃光が、マイサン・ロボに向かって高速で飛翔し、

 

『オオオオオオオオオウ!!』

 

 轟音、直撃。

 

 白い嵐が弾けて飛び散り、マイサン・ロボのライフをガリガリと削っていく。そして、

 

『K・O!!』

『フォーギブ・ミー。マイ・ファーザーザーザー……』

「ロボ!! ロボオオオオオオッ……!!」

 

 ライフがゼロになった瞬間、ロボの巨体がロボらしく爆発。ティウンティウンという効果音と共に、青い光となって八散した。

 

 同時に、博士も『ロボティクス・エイト』の再現通り、やられモーションで吹っ飛び、ダウンした。

 

『YOU WIN!!』

 

 電子音声が告げる、勝利宣言。その瞬間、僕のライフが全快し、体の状態が対戦前に巻き戻された。

 

「っ……」

 

 それでも、ふらつく。朦朧とする。

 

 勝った。でも、まだ途中。僕は博士と話さなきゃならない。プログラムのこと、クーリエのこと。博士には、やってもらいたいことが山ほどある。

 

 僕は仰向けに倒れた博士の元へと、ふらふら向かう。

 

『ロボティクス・エイト』は健全ゲーだから、悪人のDr.ヒトデナシーも死んだりしない。だから、博士も無事のはずだ。

 

「博士……」

 

 倒れた博士の傍らに立ち、僕が呼び掛けた、その時、

 

「っ……!」

 

 僕達の周囲。特設ステージが廃ビルに、青い透明なパネルがアスファルトに。実現能力で書き換えられた世界が、現実のものに戻っていく。

 

 後には、蛍のように宙を舞う、青い粒子だけが残された。

 

 そんな不思議な光景の中、

 

「見事だ……。ああ、私の、完敗だ……」

 

 意識を取り戻したのか、目を開いた博士が、そう言った。

 

 そんな博士に、僕は、

 

「あなたは自分の信じたゲームのままに、『ロボティクス・エイト』のシステム通りに射撃戦だけやっていれば、僕に勝てたんです」

「そうだね。あんなにやり込んだのに。あんなに、愛していたのに。私はロボにあんな命令をして、ロボを、ゲーム通りに戦わせてやれなかった……」

 

 博士は、自嘲するように、

 

「それが可能なら、実現せずにはいられない。人の性とは、実に愚かしい……」

 

 それから博士は、白衣のポケットからタブレットを引っ張り出し、

 

「勝者には、報酬が必要だ。プログラムは、完全に消去したよ……。あの試験体以外の、私の研究の全てを、今、消去した……」

 

 博士の言葉通り、タブレットが煙を上げて床に落ち、ただのガラクタになった。そして、

 

「っ……!?」

 

 落ちた、博士の指も。落ちた指が、ぼそりと崩れ、灰になった。

 

 手首、腕、それに脚も。博士の体がどんどん崩れて、壊れていく。

 

 これはゲームのペナルティじゃない。理解する、筋肉操作。

 

「まさか、自分を分解……。なんてことを……」

「言ったはずだよ、全てを消去した、と……」

 

 自分の体が崩れていく、そんな時だっていうのに、博士は夜空を見上げ、

 

「人が人を超えるということが、どういうことか。君はどう思うね……?」

 

 もう、助からない。僕はそんな博士に、

 

「オーバー・リアルの話ですか」

「いいや、原理の話さ……」

 

 ここで、博士は細く息を吸い、

 

「人を超えるということは、人以外の超常的原理によって、人間を克服することではない。人が自身の可能性に基づき、己を克服することなのだ」

 

 僕の瞳を、真っすぐ見て、

 

「そのために人は、人という種の価値を知らねばならない。人の価値とは、誠意、思いやり、理性で決まる。あるいは、自己犠牲……。その学びを以て、選択する。それこそが、人が人を超える可能性……」

 

 その目に映る自分に、言い聞かせるように、

 

「私は選択した。そう、私は人として、自分の意志で選択したのだ……」

 

 僕も、クイスト博士の青い瞳を真っすぐ見下ろし、

 

「クイスト博士。僕はあなたを、軽蔑します」

「それでも、君は真剣にプレイしてくれたね……。ああ、君とはもっと、もっと話をしてみたかった……」

 

 そこまで言うと、博士は青い光の舞う夜空に向かい、

 

「人の作り出した全てのくだらぬものは、時と共に消え失せよう。ただ生命が、生命だけが、不滅なのだ……」

 

 最後に、瞳を閉じて、

 

「正体不明の少年よ。対戦、ありがとう……」

 

 そう言い遺すと、アルバート・クイスト博士の全てが崩れ、灰になった。

 

 血で汚れた服と壊れたタブレットを残し、夜の風が博士の灰をさらっていく。

 

 すると、宙に浮かぶ青い粒子が、まるで自らの一部にでもするように、博士の灰を同じ光の粒子に変えていった。

 

 そして、ここではない何処かへ、空の彼方へ。高く高く、運んでいった。

 

 僕は、夜空に昇る青い光の粒たちへ、

 

「ゲーム・オーバーです。アル・クイスト博士……」

 

 

 

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