OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
何も感じない。
まるで、全てが暗闇に飲まれてしまったみたいに、全ての感覚が麻痺している。
その中で、ゲーム能力だけは終了させまいと、何とか意識を繋ぎ止める。
「かっ、あ、が……」
息を吸うと、ようやく体の感覚が戻ってきた。同時に襲い来るあれやこれやの痛みに堪え、周囲の状況を把握する。
今、僕は地面に這いつくばり、辺りからはパチパチと何かが爆ぜる音が聞こえてくる。そして、ライフゲージ。僕のライフゲージが、残り数ミリまで減っている。
クーリエも、ペイルホースも虫の息だ。
つまり、僕達は攻撃を受けた。一体、誰から……。
「ふっはははは! むあっはははは!」
僕が必死に辺りを探っていると、不愉快な笑い声と共に、地響きにも似た音が近付いて来た。
大きな鉄の車体と長い砲身、キャタキャタ回る無限軌道。
火の海を越え姿を現す、二十世紀に活躍した大型戦車。その砲塔上部には、キャノピーから上半身を出した灰色髪の男が――
「ぬあっはっはっは! これぞ正に一網打尽! 私のコントロールは流石である! ふーっはっはあ! 全く、いいざまだなあ、小僧!」
クソ、保安正……!
あのクソが、機動部隊から逃げ切り、僕達をここまで追ってきていた。しかも、ゲームの犯罪レベルを上げ、戦車まで購入して。そうか、僕達は、あの大砲で攻撃されたのか。
「何故、あなたがここに……」
立ち上がろうにも、体に力が入らない。僕はそのまま、かすれた声で、
「クイスト博士は、亡くなりました。開発プログラムは、もう二度と手に入りませんよ……」
「プログラムだと? そんな物に用なぞ無い! 私の目的は、そこに転がっているゴーストよ!」
「何故、あなたがゴーストのことを……?」
「当然、知っていた! この街で起きている犯罪を、この私が見逃す筈があるまいて! ぬわっはははは!」
クソがクソのように笑い続ける、その時、
「嘘だ、何処だ……」
クーリエの震える声に、体をよじり、振り返る。
「わたしの姉妹は、彼女達は何処に行った……」
地面に倒れ伏す骸骨馬。残り火を揺らす輸送ドローンの残骸。その破片に混じり、黒い棺のような箱が七つ。
あれが、クーリエ達の封印装置。
でも、
「嘘だ……、何処だ……、姉妹達は、一体何処に……」
蓋の壊れた黒い棺。その中には、誰も、何も入っていない。
空だ。
その空の棺に、小さな黒猫がすがり付き、
「博士は、人間は……、わたしの家族に何をしたのだ……!」
混乱する。
そんな僕を、クソ保安正はアホみたいな態度から一変、
「ゴーストとは、何だ……?」
両手の指を合わせ、尖塔を形作り、諭すような口調で、
「ゴーストが発生した当初から、その研究は続けられてきた。あれは一体何なのか。何のための存在なのか。分からないまま、時が流れた。しかし、それで済ます我々人間ではない。ゴースト本体を解析することは出来なくとも、蓄積したデータから、その影響力を分析する事は出来る」
影響力、まさか……。
「仮想での体験は、人の力を伸長させる。仮想でゴーストと対戦し、刺激を受けた人間達の多くが、ある力を獲得していた。そう、適応能力などというちんけな力ではない。ゴーストの影響で、多くの人間が実現能力を身に付けていたのだ。そして、更に多くの科学者が更に多くの被験者を解析し、ある結論に至った。ゴーストと対戦し、勝利することが出来たなら、その者はゲームを100%現実にする力。オーバー・リアルの真の力に目覚めるであろうと」
そこでクソは、演説よろしく両手を広げ、
「ゴーストとは、人ならざるものにして人を導く、最適解。ところが、そんな存在が、ある科学者の作り出した人の器に、偶然宿ってしまった」
アルバート・クイスト博士……。
「人を超えるものは、人が作り出さなければ意味が無い。人を超えるということは、人以外の力によって成されるものではない。それが、その科学者の思想であり、信念だった」
もう理解っただろう、灰色髪のクソはそんな口ぶりで、
「クイスト博士がチームを募り行っていた実験は、試験体に宿った意識が本当にゴーストであるのか、確かめるためのものだ。オーバー・リアルの人為的開発プログラムなど、その過程で生まれた、ただの副産物に過ぎんのだ」
そして、ぎょろりとした目で僕を睨み、
「クイスト博士の目的は、現実化したゴーストを、確実に葬ることだったのよ!」
っ……!
「そんな……。人は、人間は、わたし達のことを……」
小さな黒猫が、空の棺に囲まれ、力尽きたようにへたり込む。
クソ保安正は、クーリエの悲痛な声など知らんぷりで、
「ゴーストのうち他六体は、検証実験の終了と同時に破壊されている。そこに転がる残りの一体は、メンバーの裏切りで外に売り飛ばされそうになった故、すんでのところで廃棄を逃れた。それだけのことよ」
怒りに震え拳を握る、クソ保安正はそんな僕を冷たく見下ろし、
「分からんのは、貴様だ、小僧。当初は博士の子飼いと踏んでいたが、どうやら違う。貴様のような能力者が、何故この件に首を突っ込んできたのか……」
突然、パンと大きな拍手を鳴らし、
「しかし、それも今はどうでもよい! 小僧、貴様には感謝しているぞ! 貴様がクイスト博士を下さなければ、今頃そのゴーストは破壊されていたのだから! ああ、感謝する! おかげでこの私が、ゴーストを屠る権利を得たのだからなあああ!」
っ……!!
地面を殴り、拳を突いて、あらん限りの力を込める。
もう一度立ち上がる、そのために。
「させま、せんよ……! そんな、クソッたれたこと……!」
「はあん? 何がさせんのだ? 貴様はあれか? ゴーストとお友達にでもなったつもりか? ゴーストは人間ではない。ゲームに出てくる、雑魚モンスターと同じだ。人間に消費されるために生まれてきた、ただのリソースだ」
クソ保安正は、クソむかつく嘲り顔で、
「そのリソースに感情移入など、全く理解出来ん! 気色悪いにも程がある! これだから最近の若い輩は! 現実というものを全く分かっておらあん!」
明らかなクソの挑発に、僕は歯を食いしばり、
「あなたを見てると、恥ずかしくなってくる……」
吐き出す、悪態を。僕にとっての、ただの事実を。
「僕が今まで関わった大人の人は、ちゃんと大人だった。大人だと思える、そういう行動をして、そういう心を持っていた」
僕はもう一度、血が滲むほど地面を殴りつけ、
「でも、あんたは違う……! 自分勝手にルールを利用して、自分勝手に人を食い物にして……! あんたみたいなクソな大人を、ゴミ老害と言うんでしょうよ……!」
震える膝で立ち上がり、腹の底から声を出す。
「クーリエの明日を! あんたみないたクソ野郎に! 食い物にされて、たまるかってんですよ!」
「ほほう! ならば、どうする! どうする、小僧!」
僕は胸の前、両の拳を固めて握り、
「あんたを、潰す!!」
「シン……!」
クーリエの震える声を背中に聞き、そして、最後に呼びかける。
「だから……」
この現実なんてクソッたれた場所に堕ちてきた、小さな迷子を救うために。
「だから、僕に力を貸してくれ!! 『NO TITLE』!!」
『OH、YEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAH!! FINAL BATTLE!! READY!?』
火の海に包まれた滑走路に響き渡る、電子音声の開始宣言。
潰すべき鋼鉄の車体に向かい、足を踏み出す。
イメージはそう、進行方向にレバーを二回。
『FIGHT!!』
前へ!!
ども、誤字脱字などの文章チェックを行うため、
今週木曜金曜は投稿をお休みします。
再開は来週月曜七月六日です。
残すところあと四話で終了となりますので、よろしくどもー。