OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
「はああっ!!」
「おおうッ!?」
夜の実験用プラント施設。輸送機用滑走路。
二十世紀の世界大戦で活躍した大型戦車。僕はその前面装甲に向かい、速攻ダッシュでダッシュ強パンチを叩き込んだ。
車体を浮かせ後退した戦車に、僕はそのまま、
「せっせっ! はああっ! 震空波!」
「おっおっ!? うおう!? んおおおう!?」
弱弱強からの必殺技コンボで追撃する。
超至近距離に寄った僕を、クソ保安正は上から見下ろし、
「臆することなく我が戦車に突っ込むとは、その意気や良し! だが、寄らば当然轢き殺す!」
「っ……!」
反撃は、シンプルに突進。キャタピラをギャリギャリ鳴らす戦車の体当たりを、後方バク宙ジャンプで回避する。
僕のライフは残り数ミリ。一撃でも喰らえば、即敗北。意識不明の後、即死亡だ。
「そこだ! 主砲、発射ァッ!!」
「っ……!」
着地際、セオリー通りに放たれる戦車の砲撃を、現実の動きを挟んで方向転換。ダッシュでその場から高速離脱し、つかず離れずの距離で走り続ける。
この戦車のゲーム中での操作方法は、思考信号。そして攻撃方法は、今の二つ。
体当たりか、大砲の砲撃か。
この二つには、大型兵器にありがちなガード貫通効果が内蔵されている。だから、格ゲーのガードは機能しない。しかも、あの砲弾は爆風にも当たり判定がある。掠っただけで、僕は終わりだ。
「っ……」
そして、走りながら、何より重要なライフ確認を行う。
クソの頭上に浮かぶ、二本のゲージ。一本は戦車の耐久値、もう一本はクソのライフだ。そのライフが、対戦前から大幅に削れている。残り三分の一しかない。
逃走を許したとはいえ、能力者のライフをここまで減らしてくれた。特区情報機動部隊の皆さんには、感謝しかない。
「ぬううん! やはり、貴様のゲームは相当に素早い! 下手な武装変更は命に係わる愚行と見た! 故に、戦車は降りん! この戦車で、今度こそ貴様を始末するッ!」
言いながら砲塔を旋回させ、主砲で僕を狙い続けるクソ野郎。
戦車は、戦争が生んだ最強の陸戦兵器だ。何の武器も持たない普通の人間が、そんな最強兵器に敵うはずがない。
でも、やれる。現に、さっきのコンボで戦車の耐久は四分の一ほど削れている。
そう、どんな高級車だろうが、蹴って殴れば40秒で廃車に出来る。
それが格ゲーだ。
だから、潰す。
僕は超信地旋回中の戦車の背後に回り込み、
「はああっ! 震空波!」
「おうっ! おおうっ!」
「はああっ! 震空波!」
「おうっ! おおうっ!」
吹き飛ばし効果を内蔵したダッシュ強パンチからの必殺技を連続で叩き込む。僕の攻撃で戦車は先ほど同様微妙に車体を浮かし、制御を失いつつダメージを受け続ける。
吹き飛ばし効果のあるダッシュ強パンチが有効なのは、開幕で分かった。このまま体当たりを拒否しつつ、ハメ殺すのが安全策。
相手にとって有効な手段が分かったら、相手がブチ切れるまで擦り続ける。それが対人ゲーのセオリーだ。
「ぬうおおおお! 何たる地味さ! しかし、戦車に設定された耐久値をものともしない、ダメージ・ディール! こ、ここまでの性能を発揮するゲームとは、おおおのれええい!」
キューポラから上半身を丸出しにしたクソは、旋回が間に合わないまま、
「主砲、発射ァッ!!」
明後日の方へ主砲を発射させた。しかも、
「はああっ! 震空波! はああっ! 震空波!」
「発射発射ッ!! 発射発射発射発射ァッ!!」
僕の攻撃に構わず、連続発射。下手な鉄砲、数撃ちゃなんてもんじゃない。砲塔をぐいんぐいん回して、辺り構わず砲撃しまくっている。
この戦車に、弾切れは無い。弾丸の補充が必要な通常の銃火器と違い、戦車は弾数無制限の乗り物だからだ。
でも、何故こんな――
「っ……!?」
その狙いはすぐに分かった。
施設だ。
戦車の砲撃で施設が破壊され、実験プラントのあちこちから火の手が上がりまくっている。
そう、これは――
「そのまさかよ!!!!!」
『Crime Upgrade!』『Crime Upgrade!』『Crime Upgrade!』
施設破壊、器物破損、犯罪行為。
『ビガー・クライム』のシステム通り、ティロンティロンという効果音が連続で鳴り響き、クソの犯罪レベルが連続で上がっていく。
何かある。でも、その前に終わらせれば――
「はああっ!」
「ぐおお後退だ旋回だ前進しながら後退する!」
クソは僕のダッシュ強パンチを何とか回避し、信地旋回からの後退で距離を取った。
逃した。
戦車の耐久、残り五分の一まで削れたところで、距離を取られてしまった。
「はあっ、はあっ……。認めよう……。私は、未だ油断していた……。小僧、貴様を過小評価していたのだ……。だが、私は負けん……。そのためにッ……!」
砲塔にしがみ付き、息を切らせるクソ野郎。けど、すぐに呼吸を整え、
「この戦車に! 上昇した犯罪レベルで購入可能になった、シュルツェンを装備させる! (ギャキイ!!)」
「っ……!?」
途端、戦車の側面を覆う形で、巨大な盾にも似た装甲が現実化された。
シュルツェン。
二次大戦中に使用された、補助装甲版だ。
「小僧! 我がゲームをひと目で見抜いたほどの貴様だ! このシュルツェンの装備効果も知っていよう!」
「被ダメージの一定値無効化……!」
「その通りである!」
シュルツェンは別に、『ビガー・クライム』のゲーム的に、大した装備じゃない。戦車の耐久をちょこっと上げるかな、と思った時に選ぶ、普通のアイテムだ。
でも、今この時、僕に対してはてき面だ。
「そして次に認めるのは、私、蔵瀬セイジンの、能力者としての限界だ!」
キューポラから上半身を出したクソは、何かを悟った顔で、
「私は今の自分に、ゲームに、これ以上ないほど満足している。そう思っていた。しかし、違う。私の実現能力には、ある重大な欠陥があった。実現能力起動時の犯罪レベルを維持出来ない、セーブ出来ないという欠陥だ。どれだけ犯罪レベルを上げても、終了する度にレベルがリセットされてしまう。この制限さえなければ、私は今頃ゲームに実装されていた全ての要素を現実化できていたものを。仮想でいくらゲームをやり込んでも、この欠点だけは克服することが出来なかった。それこそが、私唯一のアンコントロール、不満である」
クソどうでもいい自分語りを始めたクソは、背筋を伸ばし、
「認めよう、私の実現能力は不完全であると。しかし、私は勝つ。現状の犯罪レベルで、この戦車で、小僧、貴様に勝たねばならない」
そこで再び、クソみたいな笑顔をクソ面に貼り付け、
「更に、認めよう! 貴様のゲームは我が知識を以てしても分析不可能! その相手に対し、自己分析を完了した私はどう対策するか! そうだ、慎重に慎重を重ねて警戒し、こちらの有利な距離を保って遠距離攻撃のみを行う!」
そして、上半身を砲塔に乗り出す、前のめりな姿勢で、
「あとは小僧、貴様のミスを待つだけの事故待ちに徹する! そして、勝つ! チキンだズルだと笑わば笑え! 最早、この私に油断は無い!」
正解だ。
宣言通り、クソはこっちに一切近寄らず、
「では、行くぞう! 主砲、発射ァ! 発射発射発射ァッ!」
「っ……!」
次々に撃ち込まれる砲弾の雨あられを、僕はとにかくダッシュで避け続ける。
「主砲、発射ァ! 発射発射発射ァッ!」
「っ……」
その中で、タイミングを読む。
負けられないのは、こちらも同じ。
こいつに勝つ、そのために、
「震空波!」
「何ッ!?」
隙間を見付け、必殺技を撃ち込んだ。
履帯に当たった白い光弾は戦車の車体を浮かし、少しだけ後退させる。けど、シュルツェンの効果でダメージは一切入っていない。
「飛び道具! 履帯を狙うとは叡智だが、ふはは、ノーダメージ、対策成功である! そうと分かれば、この有利、この機会! 今が攻め時と見た!」
「っ……!」
にたりと笑うクソに嫌な予感を覚え、僕は即決断。
ダッシュを止め、クーリエと戦車の間、その射線上に立ち位置を定めた。
その僕を見て、クソは、
「小僧! 貴様、私の攻撃をゴーストから遠ざけようと、誘導していたな!? その動き、コントロールを得意とする私には全てお見通しよ! それにだ、小僧! 倉庫での戦闘で見せた、あの堅牢なガードはどうした!? ……答えは、コントロール! 我が戦車の砲撃、貴様のガードでは防げんと見た!」
「……」
戦車の砲身をこちらに向け、僕の頭にぴたりと狙いを定めた。
それも正解。見抜かれた。
だったらもう、やるしかない。
タイミングは相当にシビアだけど、あの方法で凌ぐしかない。
「……」
息を吸い、そして吐く。
ガード不能な砲撃からクーリエを守り、あのクソを潰すために。
僕は左の拳をゆらりと開き、
「覚悟を決めたか!? それでは、最後だ! 主砲、発射ァッッ!!」
夜闇を切り裂く、マズルフラッシュにかざし――