OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー 作:Monjiroh
撃ち込まれた砲弾が、僕の左手の指先に触れた瞬間――
「なっ!?!??!?!?」
パン、という効果音と共に、熱も、衝撃も、攻撃にまつわる全ての現象が消失した。
「なああああにいいいいいいッッ!!??!!??」
その事実に、驚き固まるクソ野郎。
これはそう、いなし技。
相手の攻撃に合わせて繰り出すことで、全てのダメージを無効化することが出来る、特殊防御技。一方的な攻撃で相手の動きを封じる、所謂「固め戦法」への対抗手段として作られたもので、格ゲーには似たシステムを搭載したタイトルが多数存在した。
一見すると弱点の無いクソ強技だけど、判定発生時間が僅か0.24秒しか存在せず、空振れば一気に不利になってしまう。ハイリスク・ハイリターンな、危機的状況回避手段だ。
「む、無敵技!? いやさ、パリィ・アーツの類か! そんな技まで内蔵していようとは! しかし、セルフ・コントロール! この私、蔵瀬セイジン、一度決めた戦法に変更は無い! 遠距離からの連続射撃を続行する!」
と気勢を取り戻したクソは、いなしの構えの僕に向かい、
「発射ッ! 発射発射発射発射ァッ!」
「いなす! いなすいなすいなすいなすっ!」
砲撃再開。僕は撃ち込まれる砲弾全てを、完璧なタイミングでいなし尽くす。
「発射ッ! 発射発射発射発射発射っ射ァッ!」
「いなす! いなすいなすいなすいないなすっ!」
撃たれる、いなす。その間に、現実の動きを仕込む。仕込んでいなし、また仕込む。
「発射ッ! 発射発射発射発射ァッ!」
「いなす! いなすいなすいなすいなすっ!」
「発射、発ッ、ハッ?! くおおおっ!? おおおおのれ、いつの間にいいい!?」
その繰り返しの果て、クソの砲撃が突然止まり、クソが怒りに戦慄いた。 でも、遅い。手遅れだ。
何故か、距離だ。
クソは僕から距離を取って、安全地帯、遠距離からチキンするつもりだった。でも、今は違う。もう違う。
近付いた。
戦車の前面装甲は、既に僕の目と鼻の先にある。
いなし行動を終える度に、剣道のすり足歩行を挟み、少しずつ前進して距離を詰めていった、その結果だ。
「主砲の発砲炎と、技のエフェクト! その眩しさで私の遠近感を狂わせ、戦車に近付くとは! 更に、そうだ更にいいい!」
その気付きも、もう遅い。
「青ゲージだ! 先の戦闘でも気付いていた、感じていた! その青ゲージの存在感! 貴様、小僧! 小僧貴様! まさか、そのゲージをまさか!」
「そのまさか、ですよ……!」
震空波にいなし技に、たっぷり技を使ったおかげで、僕の必殺技ゲージはとっくの昔にマックスだ。
この技が通らなかったら、僕には他にもう手段が無い。これが正真正銘、僕の最後の攻撃になる。
でも、かます。ブチかます。
「ぐおおバックだ後退だ! バックしますバックしますッ!」
さっき同様、クソは僕から離れようとするけど、遅すぎる。
モーション、始動。必殺技ゲージ、全消費。
「重撃!!」
「く、おおおおおおおおおおッッ!?!?」
気合と同時、僕の右手に力が集い、集った力が輝き滾る。
拳が唸る、風を呼ぶ。
竜巻のようなエフェクトが僕を中心に巻き起こり、ひと際眩しい光を放つ。
この力を、右ストレートのモーションに乗せ、今、ここに、
「震空波っっ!!!!!」
全解放。
突き出された拳から生まれる、特大の光弾。白い旋風を纏った閃光が、クソの操る戦車にゼロ距離で着弾し、
「おあああああああああああんッッ!?」
轟音、爆散。
白い嵐が弾けて飛び散り、クソの戦車が遥か上空へと吹き飛ばされていく。
でも、
「ふは……、はははははっ!! ぬっはははははははははっっ!!」
荒れ狂う竜巻のようなダメージエフェクトの中、クソはバンザイ・ポーズで高笑いしながら、
「見ろ! これほどの規模の攻撃を受け、私の戦車は一切ダメージを受けていない! 完封だ! 貴様のゲームでこの私がダメージを受けることは、絶ッッッ対になくなったのだっダァン!!」
超必殺技の効果が終わると同時、戦車は盛大に墜落した。
「勝ったッ!! そして死ねい、小僧オッ!! 主砲ォオオッッ!! 発ッ射ァアアアアッッ!!」
そして、クソはすぐさま僕に照準を合わせ、砲撃をコマンドする。
けど――
「……? 何故だ!? 何故主砲が発射せん! 一体、何故!? ……ハッ!?」
クソ保安正は、視界に映る情報にやっと気付いたのか、
「戦車の耐久値が、ゼロだと!? 何故だ、何故ッ!?」
「何故ですって……?」
僕は空っぽになった体で何とか立ち、
「あなたの言う通り、ダメージを与えたのは僕の攻撃じゃありません。それは『ビガー・クライム』のルール、あなたのゲームによるものです」
「私の!? 私のゲームに己を自滅させるシステムなど、……ハッ!?」
クソは気付いたようだけど、僕はそんなのお構いなしに、
「さっきの遠距離攻撃は、戦車の履帯を狙ったものじゃない。僕のゲームのルールがちゃんと機能しているか、それを探るための作業だった」
そう、さっきの震空波はダメージが入る場所を探るためのものじゃない。僕の攻撃で戦車が浮くかどうか、それを確認するための攻撃だった。
つまりは、ノックバック。
ゲームでいうノックバックとは、攻撃を受けた側が後ろに弾き飛ばされることを言う。
重撃・震空波は多段ヒット、何度もダメージ判定が発生する超必殺技で、これを喰らった相手はガリガリとダメージを受けながら、水平方向だけでなく、垂直方向にも大きく吹っ飛ぶことになる。
マイサン・ロボは、ノックバック無効能力があったから吹き飛ばなかった。だから怯まず、そのままダメージを受け続けた。
でも、この戦車は違う。シュルツェンでダメージを無効化しても、ノックバック無効能力の無いこの戦車は、超必殺技の効果通り、ちゃんと吹き飛ぶことになる。
そこから先は、『ビガー・クライム』のルールの出番だ。
「高所から落ちて耐久値がゼロになった乗り物は、爆発して消滅する。僕もゲームで乗り物を交換する時は、よく自爆させてました。あなたもやりませんでしたか?」
そう、落下ダメージ。
僕は、シュルツェンでは無効化できない落下ダメージを与えるために、戦車を上空に吹き飛ばした。そのための超必殺技だ。
「それで、乗り物が爆発した時の巻き込まれダメージって滅茶苦茶ヤバイはずですけど、そんなライフで大丈夫ですか?」
「馬鹿な……、馬鹿な馬鹿な馬鹿な……!」
僕が種明かしを終えると、戦車が火花を上げ、かたかたと揺れ始めた。ゲーム通り、自爆の前兆だ。
「そんなッ!! 馬鹿なあッ!?」
砲塔の上、灰髪灰眼の壮年男性が、その顔をぐにゃりと歪ませ絶叫する。残念ながら、近くの僕にはその感情が伝わってくる。
『人を殺す気でいたのは、自分だけだと思っていた』って。
理解はできる。
でも、それはとてもとても、本当にとても、
甘っちょろいと考えだと思うんだ。
僕達はお互い、自分の欲望のためにゲームの力を使った。だったらその結果は、その報いは、自分の身を以て受け入れなければならない。
「――いかん! いかんいかんいかんいかんんんッッ!!」
自分の置かれている状況を理解したのか、クソは砲塔の上でこれ以上ないほど滑稽にもがき、
「スススステータス・オープン! 武器を購入! ここから拳銃で小僧を殺す殺せない! 戦車に乗っている間! または降車モーション中は他の武器の使用ができん! 戦車は装備でまずは降りねば! その前にステステステーキでライフをかか回復回復! いかんいかん、降りねば買わねばロケットランチャー! 食う買う撃たねば部下小僧! いや、まずは降りる! 降りながら小僧を撃たねば銃を購入! そそそうだ、私はほああほあほあ、保安正! いかん、わ私、私はコントロール! ロールロロール、コオオオントロオオオルッ!」
追い詰められた人間の取る行動は、とても不思議だ。
ここから助かるには、ただ戦車を降りればいい。ただそれだけの行動が、今のあのクソには、どうしても出来ない。
そして、クソは何の対処も選択も出来ず、やがて、やっと、ようやく、
「いかんいかんいかん!! いかッ――」
『You Dead!!』
時間切れ、と同時に電子音声が死亡宣告。
「アァアアアアン!! コォオオーントロオォルオォルオォル……!!」
クソ酷い断末魔を最後に、戦車が木っ端微塵に大爆発。ゲームの設定通り、クソは消し炭になって消滅した。
『ビガー・クライム』
プレイヤーのあらゆる行動を価値化するそのゲームはしかし、プレイヤー自身の価値を規定してはくれない。そのシステム通り、あのカスの価値は表示されなかった。
よかった。
でも、僕ももう、限界だ。
『YOU WIN!!』
炎上するプラント施設に響き渡る、電子音声の勝利宣言。
薄れゆく意識の中、炎上する戦車に向かい、僕は地面に倒れながら、
「ゲーム・オーバーだ。クソ犯罪者さん……」