OVER REAL DOWNLOAD!! 人類最後の格闘ゲーマー   作:Monjiroh

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046 PERFECT GAME(2)

 撃ち込まれた砲弾が、僕の左手の指先に触れた瞬間――

 

「なっ!?!??!?!?」

 

 パン、という効果音と共に、熱も、衝撃も、攻撃にまつわる全ての現象が消失した。

 

「なああああにいいいいいいッッ!!??!!??」

 

 その事実に、驚き固まるクソ野郎。

 

 これはそう、いなし技。

 

 相手の攻撃に合わせて繰り出すことで、全てのダメージを無効化することが出来る、特殊防御技。一方的な攻撃で相手の動きを封じる、所謂「固め戦法」への対抗手段として作られたもので、格ゲーには似たシステムを搭載したタイトルが多数存在した。

 

 一見すると弱点の無いクソ強技だけど、判定発生時間が僅か0.24秒しか存在せず、空振れば一気に不利になってしまう。ハイリスク・ハイリターンな、危機的状況回避手段だ。

 

「む、無敵技!? いやさ、パリィ・アーツの類か! そんな技まで内蔵していようとは! しかし、セルフ・コントロール! この私、蔵瀬セイジン、一度決めた戦法に変更は無い! 遠距離からの連続射撃を続行する!」

 

 と気勢を取り戻したクソは、いなしの構えの僕に向かい、

 

「発射ッ! 発射発射発射発射ァッ!」

「いなす! いなすいなすいなすいなすっ!」

 

 砲撃再開。僕は撃ち込まれる砲弾全てを、完璧なタイミングでいなし尽くす。

 

「発射ッ! 発射発射発射発射発射っ射ァッ!」

「いなす! いなすいなすいなすいないなすっ!」

 

 撃たれる、いなす。その間に、現実の動きを仕込む。仕込んでいなし、また仕込む。

 

「発射ッ! 発射発射発射発射ァッ!」

「いなす! いなすいなすいなすいなすっ!」

「発射、発ッ、ハッ?! くおおおっ!? おおおおのれ、いつの間にいいい!?」

 

 その繰り返しの果て、クソの砲撃が突然止まり、クソが怒りに戦慄いた。 でも、遅い。手遅れだ。

 

 何故か、距離だ。

 

 クソは僕から距離を取って、安全地帯、遠距離からチキンするつもりだった。でも、今は違う。もう違う。

 

 近付いた。

 

 戦車の前面装甲は、既に僕の目と鼻の先にある。

 

 いなし行動を終える度に、剣道のすり足歩行を挟み、少しずつ前進して距離を詰めていった、その結果だ。

 

「主砲の発砲炎と、技のエフェクト! その眩しさで私の遠近感を狂わせ、戦車に近付くとは! 更に、そうだ更にいいい!」

 

 その気付きも、もう遅い。

 

「青ゲージだ! 先の戦闘でも気付いていた、感じていた! その青ゲージの存在感! 貴様、小僧! 小僧貴様! まさか、そのゲージをまさか!」

「そのまさか、ですよ……!」

 

 震空波にいなし技に、たっぷり技を使ったおかげで、僕の必殺技ゲージはとっくの昔にマックスだ。

 

 この技が通らなかったら、僕には他にもう手段が無い。これが正真正銘、僕の最後の攻撃になる。

 

 でも、かます。ブチかます。

 

「ぐおおバックだ後退だ! バックしますバックしますッ!」

 

 さっき同様、クソは僕から離れようとするけど、遅すぎる。

 

 モーション、始動。必殺技ゲージ、全消費。

 

「重撃!!」

「く、おおおおおおおおおおッッ!?!?」

 

 気合と同時、僕の右手に力が集い、集った力が輝き滾る。

 

 拳が唸る、風を呼ぶ。

 

 竜巻のようなエフェクトが僕を中心に巻き起こり、ひと際眩しい光を放つ。

 

 この力を、右ストレートのモーションに乗せ、今、ここに、

 

「震空波っっ!!!!!」

 

 全解放。

 

 突き出された拳から生まれる、特大の光弾。白い旋風を纏った閃光が、クソの操る戦車にゼロ距離で着弾し、

 

「おあああああああああああんッッ!?」

 

 轟音、爆散。

 

 白い嵐が弾けて飛び散り、クソの戦車が遥か上空へと吹き飛ばされていく。

 

 でも、

 

「ふは……、はははははっ!! ぬっはははははははははっっ!!」

 

 荒れ狂う竜巻のようなダメージエフェクトの中、クソはバンザイ・ポーズで高笑いしながら、

 

「見ろ! これほどの規模の攻撃を受け、私の戦車は一切ダメージを受けていない! 完封だ! 貴様のゲームでこの私がダメージを受けることは、絶ッッッ対になくなったのだっダァン!!」

 

 超必殺技の効果が終わると同時、戦車は盛大に墜落した。

 

「勝ったッ!! そして死ねい、小僧オッ!! 主砲ォオオッッ!! 発ッ射ァアアアアッッ!!」

 

 そして、クソはすぐさま僕に照準を合わせ、砲撃をコマンドする。

 

 けど――

 

「……? 何故だ!? 何故主砲が発射せん! 一体、何故!? ……ハッ!?」

 

 クソ保安正は、視界に映る情報にやっと気付いたのか、

 

「戦車の耐久値が、ゼロだと!? 何故だ、何故ッ!?」

「何故ですって……?」

 

 僕は空っぽになった体で何とか立ち、

 

「あなたの言う通り、ダメージを与えたのは僕の攻撃じゃありません。それは『ビガー・クライム』のルール、あなたのゲームによるものです」

「私の!? 私のゲームに己を自滅させるシステムなど、……ハッ!?」

 

 クソは気付いたようだけど、僕はそんなのお構いなしに、

 

「さっきの遠距離攻撃は、戦車の履帯を狙ったものじゃない。僕のゲームのルールがちゃんと機能しているか、それを探るための作業だった」

 

 そう、さっきの震空波はダメージが入る場所を探るためのものじゃない。僕の攻撃で戦車が浮くかどうか、それを確認するための攻撃だった。

 

 つまりは、ノックバック。

 

 ゲームでいうノックバックとは、攻撃を受けた側が後ろに弾き飛ばされることを言う。

 

 重撃・震空波は多段ヒット、何度もダメージ判定が発生する超必殺技で、これを喰らった相手はガリガリとダメージを受けながら、水平方向だけでなく、垂直方向にも大きく吹っ飛ぶことになる。

 

 マイサン・ロボは、ノックバック無効能力があったから吹き飛ばなかった。だから怯まず、そのままダメージを受け続けた。

 

 でも、この戦車は違う。シュルツェンでダメージを無効化しても、ノックバック無効能力の無いこの戦車は、超必殺技の効果通り、ちゃんと吹き飛ぶことになる。

 

 そこから先は、『ビガー・クライム』のルールの出番だ。

 

「高所から落ちて耐久値がゼロになった乗り物は、爆発して消滅する。僕もゲームで乗り物を交換する時は、よく自爆させてました。あなたもやりませんでしたか?」

 

 そう、落下ダメージ。

 

 僕は、シュルツェンでは無効化できない落下ダメージを与えるために、戦車を上空に吹き飛ばした。そのための超必殺技だ。

 

「それで、乗り物が爆発した時の巻き込まれダメージって滅茶苦茶ヤバイはずですけど、そんなライフで大丈夫ですか?」

「馬鹿な……、馬鹿な馬鹿な馬鹿な……!」

 

 僕が種明かしを終えると、戦車が火花を上げ、かたかたと揺れ始めた。ゲーム通り、自爆の前兆だ。

 

「そんなッ!! 馬鹿なあッ!?」

 

 砲塔の上、灰髪灰眼の壮年男性が、その顔をぐにゃりと歪ませ絶叫する。残念ながら、近くの僕にはその感情が伝わってくる。

 

『人を殺す気でいたのは、自分だけだと思っていた』って。

 

 理解はできる。

 

 でも、それはとてもとても、本当にとても、

 

 甘っちょろいと考えだと思うんだ。

 

 僕達はお互い、自分の欲望のためにゲームの力を使った。だったらその結果は、その報いは、自分の身を以て受け入れなければならない。

 

「――いかん! いかんいかんいかんいかんんんッッ!!」

 

 自分の置かれている状況を理解したのか、クソは砲塔の上でこれ以上ないほど滑稽にもがき、

 

「スススステータス・オープン! 武器を購入! ここから拳銃で小僧を殺す殺せない! 戦車に乗っている間! または降車モーション中は他の武器の使用ができん! 戦車は装備でまずは降りねば! その前にステステステーキでライフをかか回復回復! いかんいかん、降りねば買わねばロケットランチャー! 食う買う撃たねば部下小僧! いや、まずは降りる! 降りながら小僧を撃たねば銃を購入! そそそうだ、私はほああほあほあ、保安正! いかん、わ私、私はコントロール! ロールロロール、コオオオントロオオオルッ!」

 

 追い詰められた人間の取る行動は、とても不思議だ。

 

 ここから助かるには、ただ戦車を降りればいい。ただそれだけの行動が、今のあのクソには、どうしても出来ない。

 

 そして、クソは何の対処も選択も出来ず、やがて、やっと、ようやく、

 

「いかんいかんいかん!! いかッ――」

『You Dead!!』

 

 時間切れ、と同時に電子音声が死亡宣告。

 

「アァアアアアン!! コォオオーントロオォルオォルオォル……!!」

 

 クソ酷い断末魔を最後に、戦車が木っ端微塵に大爆発。ゲームの設定通り、クソは消し炭になって消滅した。

 

 『ビガー・クライム』

 

 プレイヤーのあらゆる行動を価値化するそのゲームはしかし、プレイヤー自身の価値を規定してはくれない。そのシステム通り、あのカスの価値は表示されなかった。

 

 よかった。

 

 でも、僕ももう、限界だ。

 

『YOU WIN!!』

 

 炎上するプラント施設に響き渡る、電子音声の勝利宣言。

 

 薄れゆく意識の中、炎上する戦車に向かい、僕は地面に倒れながら、

 

「ゲーム・オーバーだ。クソ犯罪者さん……」

 

 

 

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