BIOHAZARD ASHES TO ASHES 作:しお林檎
パンッ、と一発、乾いた銃声が鼓膜を震わせる。ほんの一瞬マズルフラッシュによって視界が白く染め上げられ、かと思えばすぐにまた元の暗闇が戻ってくる。
放たれた一弾は怪物の頭部中央を捉え、確実に
レオンは銃口を前に構えたまま、怪物の様子を注意深く観察する。照射する先では怪物の体が若干後方に仰け反り、着弾部からは鮮烈な赤色の血液が流れ出ている。
――瞬間、怪物の巨躯が揺らめいた。
目にもとまらぬスピードで突如動いた怪物は、レオンに飛びかかるようにして彼の体を掴む。予想外の動きに反応が遅れたレオンは銃を取りこぼすことこそしなかったものの、その鍛え上げられた体は怪物の巨大な手によって捕らえられ身動きが取れないまま中空に持ち上げられた。
「ぐっ……!」
万力のような力で掴まれ骨が軋む。レオンの表情が歪み、小さく呻き声が漏れ出た。
辛うじて巻き込まれずに済んだ左手のライトが、間近に迫った怪物の顔を照射する。
そこには先程まで存在したはずの風穴は見当たらず、ただそれがあったであろう部分の周囲にまだ凝固していない血液が付着しているのみ。
銃弾は確実に命中した。とすれば、瞬時に回復したという事実に他ならない。眼前の怪物の見た目通りの怪物ぷりにレオンは内心辟易とする。
しかしそんなことなど露知らず、怪物はレオンを掴んだ右手を眼前にまで持ち上げると、角度を変えながらゆっくりと手を動かす。まるで捕らえた獲物を値踏みでもするかのようなその動きに、レオンの眉間に深い皺が刻まれる。
銃を持つ右手を動かそうとするも、ぴくりとも動かない。ならばと足をじたばたさせるが、怪物の手で胴体全体をがしりと掴まれているせいでそれすらも効果のある抵抗にはならない。
さて、どうしたものか。脳をフル回転させ脱出する方法を考えようとした、その時。
――ふわり。内臓が一瞬、浮遊感に包まれる。
次の瞬間ガシャンッ、と大きな物音を立て、寺院の壁が一部崩壊する。土煙を吸い込んだダメージと背中に受けた衝撃のダメージで、レオンは激しく咳き込んだ。
図らずもレオンは怪物の手からの脱出に成功した。何を思ったか、怪物が突如レオンを寺院の壁に向かって投げつけるという行動によって。
肺と背骨が悲鳴を上げる。だが敵は決して待ってはくれない。ダメージを訴える自身の体に鞭打ち、レオンはふらふらと覚束ない足取りで立ち上がった。
一方怪物の方はといえば、投げつけた獲物に対しまるで威嚇でもするかのように獣の如き咆哮を上げた。巨躯をぐっと小さく屈め手足を地面に着くその様は、まさしく獣のそれであった。
――今の状況では、こいつには勝てない。
「っはぁ……悪いが、俺が用があるのはお前じゃないんだ」
吐き捨てるように告げると、レオンは素早く踵を返し走り出す。それを見た怪物は再度咆哮を上げ、重量のある足音を立てながら追いかけてきた。