金枝の柳 〜〜走れなくてもよかった【狂気の姫君】〜 〜 作:干山 静玖
今年、新たに中央トレセン学園へ入学した。桜は満開。今日から始まる過酷なまでの日々。
けれど彼女にとって、その過酷さなどどうでもよかった。彼女は、その美しい金髪を左の首元で一つに束ね、心に留めている言葉を何度も何度も繰り返して心中で呟き続ける。
【無事是名バ】であるだけで、それだけで良い。
はしゃぎながら知り合いや親族と話す新入生のウマ娘たち。オーラムウィローは、その中でも際立って美しく、その上あまりにも落ち着いていた。
それでも、生徒会長であるシンボリルドルフの話が始まった途端、ざわめきもピタリと止まった。
「入学おめでとう。ここからが君たちのスタートラインだ。辛い事が多いだろう。だが、それが中央。それがレース。最大18人の中で、掲示板に入って賞金を得られるのは5人。その内勝てるのは一人だけ。レースの数は、入学してくるウマ娘の何十分の一になるのか。
それでも君たちはここへ来た。この私も、皆も同じウマ娘。レースで戦うライバルだ。ゆえに手は抜かない。全力でこの皇帝の首を狙いに来るといい。全て撫で切ってくれよう」
その迫力、そして皇帝とまで呼ばれているそのウマ娘。その威圧を浴びた新入生は、震え上がるか、興奮して挑発に乗るか、スルーするかに別れた。
オーラムウィローは多少圧によって顔を歪めたものの、穏やかな笑みのままスルーしていた。
(当たり前ですわね。それがレース。それが中央。
トリックスターも、皇帝も、覇王も、勇者も…どんな肩書きがあれど、レースでは皆ライバル。新入生だろうと関係ない。…良い事ですが、でも所詮それは、身体の大きな、あるいは頑丈なウマ娘が望む事。
小柄すぎ、力も弱く、美しい私のようなウマ娘はただでさえ、他人の倍以上身体を使うのです。一気に、脚も身体も壊す原因になりうる。生来の頑健さはあれど身体が追いつかない今、そんなレースになど出るべきですらないのです。
だからこそ、私は、勝てずとも、この身体がピークを超えるその手前まで走り、無事是名馬を達成した上で…)
ーーお姉様のように、有終の美を。
決意を新たに入学式を終え、教室でHRやら寮生活の注意事項等を聞いた。
どうやら同室は、一学年上の先輩らしい。
昨年デビューし、未だ未勝利である事から酷くピリピリしているが、私にはなんら関係ない。所詮他人の生き様。
…そんなに脚を削って、はたして競走人生が終わったら何をすると言うのか。
脚が思うように動かなくなる、歩けなくなるとは思わないのだろうか。無茶無理無謀なトレーニングで、せっかくトレーナーが限界を見極めて指導しているのに、オーバーワークでその脚の消耗予想を超えるだなんて馬鹿らしい。
努力しないと報われない。けれども、無駄な努力は自身を裏切らず、自らに怪我や病気として降りかかる。
…この感じからして、この方は未勝利を抜けても、そう長くは走れないでしょうね。
ならば尚のこと、努力の仕方は気をつけねばという、反面教師にすべきね。それにこの先輩は長くとも1・2年で学園から去る。
無理に関わる必要もないでしょうね。
オーラムウィローは穏やかに微笑み、先輩の愚痴とトレーニングを眺め、心中で呟きながら時折相槌を打ちながら話をした。
比較的穏やかなら入学初日となったのであった。