金枝の柳 〜〜走れなくてもよかった【狂気の姫君】〜 〜 作:干山 静玖
入学して数日経った。今日も今日とて、先輩ウマ娘は早朝から走り込みに行っている。・・・ご苦労な事で。
規則正しく早起きし、まずは身体を起こすためにゆっくりとストレッチを始めた。これを1時間弱行い、早めに朝食を食べたら教室へ向かう。
教室には既に何人か人はいた。会釈で挨拶をしてから席へつく。席で授業の復習と自身のトレーニング方法を確認していれば、あっという間に授業時間となる。
昼休憩になれば、皆が食堂へ向かうこともあり、廊下は非常に人が多かった。しばらく人の波に揉まれていた所を、誰かに引っ張り出された。
息を整えた上でお礼を述べたところ、呆れた顔のナカヤマフェスタがそこにはいた。
「何やってんだよ、お前」
「す、みま、せ…。ぅッ…!身長の、低さと…パワーのなさが、恨めしい…ッ」
「そりゃそんだけチビだとそーなるっつーか…。せめてもうちょい筋力つけろよな。日常生活に支障出てんじゃねーか」
ナカヤマフェスタの指摘に、オーラムウィローは眉尻を下げて苦笑した。
その通りすぎるが、今は本格化が始まったばかりな上、成長があまりにも緩やかな事を鑑みても、パワーをつけられるようになるまでは時間がかかると考えられるからだ。
「ごもっとも、ですわね…。ふぅ…。ナカヤマさん、助けて頂いたお礼に、お昼をご馳走させてくださいませ」
「お、ラッキー。じゃ、Aランチで」
「承知致しました。席の確保はお願いできますか?」
「おー。ウィロー、あんま遅くなんなよ。早食いしなきゃいけなくなんぞ」
「ええ、何から何までありがとうございます、ナカヤマさん」
ウィローがなんとか注文を終え、ナカヤマの待つテーブルへ料理を持って行けば、ナカヤマはいじっていたスマホを伏せて、ウィローから自分の分のトレーを受け取った。
そして二人で穏やかに昼食を食べ、細々とトレーニングやトレーナーについて話をしていれば、あっという間に時間は過ぎた。
「っと、トレーニングの時間だ。俺は行くぜ」
「ええ。ありがとうございました、ナカヤマさん。トレーニング頑張ってくださいね」
「お前もな。良いトレーナー引っ掛けれるといいな」
ナカヤマを呼びに来た、彼女のトレーナーと目が合い、軽くお互い会釈をしてからナカヤマと一緒にトレーナーは去っていった。
ウィローも自己トレーニングをしながら、より効率的に、脚の負担を減らすために上半身を主に鍛えていく。
パワーとスタミナを中心に鍛えていく事で、逃げ脚質の自分が、より楽に逃げられるようにしているのだ。
スピードも大切だが、自身の脚の速さだけ見れば、同世代デビューの中でもかなり早い方なので、今はあまり気にしていない。
それよりも、コンパスの短さをどう補うか、が課題だ。
身体が小さいウィローは、大柄なウマ娘に比べて一歩の歩幅(ストライド)でどうしても劣る。ならば、その短いコンパスを他人の倍以上の超高速で回転させる(ピッチを上げる)か、あるいは一歩の無駄すら削ぎ落とした極限の効率性(エコ)を求めるしかない。
そのためには、ブレない体幹と、砂を力強く押し出すパワーが不可欠。
「……ふふ、やはり今のわたくしに必要なのは、地道な基礎作りのようですわね」
自分の全盛期という「ゴール」から逆算した完璧なメニューをこなしながら、オーラムウィローは白金の髪を揺らし、一人静かにひたすら肺活量を鍛えたり、水中を2時間小走りで走るなどの、自己トレーニング続けていった。