金枝の柳 〜〜走れなくてもよかった【狂気の姫君】〜 〜 作:干山 静玖
沖野トレーナーを呼び出したのは、翌日の午後13時半頃。ちょうどいい(・・・・・・)時間だ。
廊下で居心地悪そうにキョロキョロと、自分を探しているであろう沖野にうっすら笑みを深めて脚を進める。
小柄故、周囲に呼吸を溶け込ませれば、自然と紛れられる、と気がついたのはいつだったか。
それでも、自分が強くなれば必然的に目立ちやすくなる。だからこそ特徴的な動きなく、周囲に溶け込むように呼吸を保つ。周囲の浮ついた雰囲気に合わせて、少し弾んだように歩く際は、小柄な身体のせいで、ウマ娘にも殆ど聞こえないほどの小さな足音で、軽やかに歩く。
「沖野トレーナー」
「!!!お、おう、久しぶり、だな。オーラムウィロー」
「お久しぶりです。本日はお時間頂戴しまして、申し訳ございません。チームの方々は大丈夫でしょうか?」
沖野トレーナーの視線が、ウィローと真反対の時、声をかけられるように計算してわざと驚かせたが、それに引き攣った笑みで答える沖野トレーナー。
ウィローがわざとそうやって声をかけたのだ、と気がついているのだろうか?
「おー、ちゃんと言ってある。『将来が楽しみなウマ娘の相談受けてくる』ってな」
「あらまぁ。それではチームの方々は、私がチームへ加入するのでは、と期待されてしまうのでは?」
「・・・は!?!おま、俺に相談しといて、別のとこ行くつもりか!?」
「まぁ!人聞きが悪ぅございますわ。
私はただ、トレーナーとして相談に乗って欲しい、と言っただけですのよ?スピカへ入りたい、とは一言も言っておりませんわ。ッふふ」
ウィローの言葉に沖野はがっくりと崩れ落ちた。
そのまま、「やっとチームに新人が入ると思ったのに・・・!」と呟いている所を見るに、やはり沖野と担当ウマ娘との相性が合わなかった事と、問題行動(・・・・)のせいもあり、チームから人が減っているのは確かなのだろう。
そんな沖野を横目に、ウィローは確信していた。もうすぐだ、と。
「・・・なぁ!!頼む!!俺を、チームを、ゴルシを助けると思って・・・!!」
「それはちょっと・・・。いくらゴルシさんの担当とはいえ・・・、はぁッ?!ちょ、縋りつかないでくださいませ!」
「そこをなんとか!!んん?このトモがなんか柔らかい、上にこの筋の付き方は・・・」
「ひゃ!お、おやめください、ませっ!!」
「もうちょっと触らs「ざけんな犯罪者!」ぁごふあ!?!!」
嫌がるウィローを助けるべく、その人は持っていたノートと専門医書の角で、沖野トレーナーの脳天を思い切り叩いた。
脳天への攻撃により、痛みで転げ回る沖野を無視して、ウィローを助けて(・・・)くれた白河トレーナーへ向き直る。
「ありがとうございます。もう少しで思い切り脚で蹴ってしまうところでしたわ・・・」
「いやいや、こちらこそ同じトレーナーとは言え、友人が迷惑かけたね。
えっと、君は、新入生、かな?」
「はい、私(わたくし)は、高等部のオーラムウィローと申します。以後、よろしくお願い致しますわ」
出会い方まで完璧だ。沖野は素晴らしい助演者だ。
ウィローは苦笑から笑顔へ表情を変え、軽くカーテシーをしながら挨拶をした。
白河トレーナーは足元を転げる汚物(・・)を冷たく見た後、ウィローへにこやかに「白河 健人(タケト)です、ここ、中央トレセン学園のトレーナーです」と丁寧に軽いお辞儀と共に挨拶してくれた。
「バ鹿が迷惑をかけてすまない」
「いえ、私こそ、今後トレーナーを探す上で相談に乗って欲しい、と頼んだ立場ですので。ある程度は我慢すべき、かなと思って、おりまして・・・」
「そんな!!こんなバ鹿に頼らずとも、ワタシへ相談してください。
女性の脚、しかも大切な商売道具を触った犯罪者(ロリコン)へ蹴るんです。正当防衛です。
貴女が我慢などする必要はありませんよ」
「正当防衛・・・確かに。
・・・え、相談に乗って頂ける、のですか?
宜しいのですか?その、チームの方や、ご自身の担当の方のお時間をいただくわけには・・・」
戸惑い、揺れる瞳と期待のこもった言葉。そして低身長故、かなり下から伺う上目遣い。落ち着きなさげに揺れる尻尾と、フルルルル、と勢いよく揺れた耳。
白河トレーナーはそんな可哀想な(・・・・)新入生ウマ娘を誘ってくれた。今はチームどころか担当ウマ娘の、そのどちらも居ないから、スカウトしに運動場へ行く途中だったのだ、と言いながら。
「それでしたら、是非とも」
「ちょ、ま!俺が先約!!俺が!!」
「ですが沖野トレーナーは、ゴルシさんを始め、チームの方々がいらっしゃるのですし。元々チームへは加入しないつもり、とお伝えしておりましたでしょう?」
ウィローの言葉に、一度詰まっていたが、それでもタフネスが売りだからなのかすぐに突っ込んできた。
「い、いや、でもなぁ!!」
「それに、トモとはいえ、商売道具を無断で触られたのは、ちょっと・・・」
「グゥ・・・!!」
「はいはい。お前の自業自得な?ウィローさんは俺に任せておけって。また気になるなら連絡するからさ」
「〜〜〜〜!!!わーったよ!!
ウィロー!気が変わったら、俺に連絡してくれ!」
「ええ、気が変わったら、ご連絡致します」
沖野が離れて行き、その場には白河トレーナーとウィローのみが立っていた。
白河トレーナーから、とりあえずお茶でも飲んで話を聞きたい、と誘われたため、笑顔で承諾して白河トレーナーに続くようにして、廊下を歩いて行った。