金枝の柳 〜〜走れなくてもよかった【狂気の姫君】〜 〜 作:干山 静玖
「それで?フロックと言われてもいい。ただただ、G1バとしての肩書きを、掠め取る(・・・・)だけに掲示板に入り続ける、と?」
「もちろんですわ。勝利を掠め取る?上等でしょう、そんなの。
油断を誘い、その誘いに乗せることと同義ですもの。
ハナ差でも何バ身差でも勝ちは勝ち。勝利に意味はあれど、着差に意味などないのです。」
ウィローは皮肉を交えて言い切った。
そう、勝てば良いのだ。
圧勝なんてしなくていい。フロックと思われてもいい。G1バになりさえできればそれだけで良い。
「着差に意味などない、か」
「ええ。ございませんでしょう?
・・・せいぜい、のちの【伝説】になった方々にのみ必要な事でしかない。
私に必要なのは、勝利、もしくは掲示板入りだけですもの」
それに、ウィローには目標レースこそあれど、絶対に勝ちたいレースやタイトルなど存在しないのだ。
G1バになれればいい。適正外のレースだろうと、適正内のレースだろうと関係ない。
今しかできない(レースで稼ぐ)事をしつつ、身体を壊さない事だけを考えたレース予定表だ。
「私(わたくし)の成長曲線は非常に緩やか、かつ大器晩成。シニア以降にピークが長期間続くタイプと予想されておりますの。
だからこそチャンスは何度でもありますし、そもそも掲示板に乗れていれば良いだけですもの」
「確かに。君の体躯も、データも、それを明確に示している。
その身体の消耗を抑える事ができれば、他者の倍の年数を走る事だって可能だ」
ウィローは白河の言葉に満面の笑みを浮かべてみせた。
作り物の笑みではなく、心からの笑みを浮かべた。
「ええ!それこそ貴方にしかできない芸当だと思っておりますわ。
全担当ウマ娘重賞勝利かつ、愛バのG1勝利、そして貴方の生涯目標の、全担当ウマ娘の無事是名バを体現して差し上げます」
「あーッはッはッは!!あはははは!!
ふッ!・・・ククッ!本当に怪我さえしなければ、フフッ、G1バになるチャンスは、他者の倍はある、と?」
「ええ。ですから白河トレーナー。私と、このトゥインクルシリーズ、共に駆けてくださいませんか?」
ウィローは笑みを保ったまま、小首を傾げて穏やかに問いかける。
白河も、ウィローの事を口元のみの笑みを浮かべ、目だけは爛々と光らせる。
その目を見て、ウィローの差し出していたデータの価値を正しく見積もれている事を、ウィローは確信した。
自身のピークはシニア期以降になる。だが、それは【遅咲きの】ウマ娘とはイコールにならない。
ウィローの、そして一族の意思を汲める、ジュニアはまずまず、クラッシックでは普通に強いが、全盛期はシニア以降だった強いウマ娘になる事を了承する意思を感じたのだ。
「ええ。承知致しました。
貴女がG1バになる、その上無事是名バを体現する。
それは私のトレーナーとしての夢も、貴女の夢も、どちらも叶えられると言う事に他ならない。
約束いたしましょう。貴女に怪我はさせない。その脚を守り抜き、それでいて誰よりも長く保たせ、誰よりも鋭く磨いてみせましょう」
「ええ、よろしくお願いします。私のトレーナー(共犯者)」
「はい、私の愛バ(相棒)」
二人はどちらから共なく手を出し、がしり、とお互いの手を握る。
逆の手では、机の上にいつの間に広げられた、専属契約書へサインをしていた。
ここに、後に狂気の姫君と呼ばれる、稀代の名女優と、燻し銀ではなく、神の手、神の瞳を持つ男、と呼ばれる、稀代の名演出家が誕生したーー。
第1章 完