無自覚にヒロインを沼らせるソシャゲの凡人(自認) 作:ヘルダイバー睦月
「おぎゃぎゃっぎゃおー! おぎゃぎゃっぎゃおー!」
「まぁ聞いて貴方、妙な泣き方をしているわ!」
「これは……モールス信号だ!! やはりこの子は天才だぁあああ!!」
ガキが産まれた。俺である。バカが二人いる。親である。
ガキってのは親を選べないから困る。この通り、どこに出しても恥ずかしくない立派な親バカだ。だが愛されないよりはるかにマシなのかもしれない。
おしめが汚れたり、腹が減ったりしたら俺は変な泣き方をしていた。
するとこのように飛んでくる。哀れな連中め。
ちなみにモールス信号ではまったくない。そんな赤ちゃんいたら怖いだろ。
「おぎゃおー」
「パパ大好きだって!!!」
「いえ、今のはママ大好きよ、きゃああああああ!!」
幸せそうで何よりです。
しかし赤子ってのは暇なもんだぜ。
母親の爆乳をいかに吸えるからって欠片もなんとも思わないし。
性欲より、食欲だし。
あとやっぱり血のつながってる相手に変な感情は沸かない。
おしめまで代えられてるし。
これが案外苦痛である。
自分では何も出来ないし、人に介護されてるんだからな。
早くこの地獄から解放されてぇ~~~。
「この子も立派になれるかな?」
……とりあえず色々理解ったことがある。
スマホはまだ普及されていないが、カラーテレビとかはあること。
冷蔵庫とか、エアコンとかもある。
文明としては二十世紀末といったところか。
両親は黒髪の日系人だが、おそらく日本人ではないこと。
なんかお互い呼び合ってるのが「レイモンド」とか「アンナ」だし。
そしてもっとも肝心なのは……。
「ええ、この子は立派な錬金術師になれるわよ!!」
この家は錬金術師の一族であること。
まだ実際に見たことはないが、おそらく両親は完全にそう思っている。
やばい宗教にでも入ってなければいいが……。
「貴方のような錬金術師になるといいわね」
「ええ~~ママ似でしょ~~この子は」
イチャイチャしおって。
つか錬金術師ってなんだよ。
手をパァンって叩いたら色々作れんのかな。
あるいは錬金釜をぐつぐつ混ぜるタイプ?
何かを作る職業ってのは理解できるが……。
こういうのは作品によりけりだからな。
とりあえずハイハイできるようになったらあの本棚にある本でも漁ってみるか。
こういうのは幼少期からのスタートダッシュが大事だといいますからね。
「ぎゃおす」
あ~~~暇だ~~~。
なんてことを考えると、ふと視線を感じた。
犬である。大型犬。茶と白の毛を持ったボーダーコリーである。
俺を睨んでいる。……まさか転生者であることがバレているのか?
いやまさかな。気配などおくびも出していない。
そもそも鳴き声しか上げられないのだから。
「ぐるるるるる……」
なんかちょっと気づかれてるな。気づかれているんですけど。
ちょっとやめてください。何よ、マジになっちゃって……。
「そういえばどうしたのかな」
「ああ、おしめは綺麗だし……お腹でも空いたんでしょ」
そう言うと、母親が俺を抱き上げてくれた。
お、至福のおっぱいタイム。性欲が微塵もなくともおっぱいに吸い付けるのはかなり嬉しいと思いませんか、そこの貴方。
「ぎゃおん!! ぎゃおん!!」
何キレてんだよ、犬!!
そりゃあ飼い主が転生者の赤子に乳やってたらキレたくもなるけど!!
俺だって、好きで転生してきたんじゃね―っつ―の!!
というか転生ってどういう理屈なんですかね、マジで。私、気になります。
神様的なものにも会わなかったんだよな……。
「ほ~~ら、ハチは向こうに行ってなさーい」
父親に追い出されてやんの。けっけっけ。
さぁ至福のおっぱいタイムだぁあああああああああああああ!!
…………………………………………
……………………
……………
ハイハイが、できるようになりました。
となればやることは一択。あの子ども部屋にある怪しげな本を読むことだ。
幸いにも俺がなんとか取り出せる場所に置いてあった。
苦労したぜ……台を必死にかき集めるのはな……。
「どれどれ……」
そういえばちょっとした言葉ならもう喋れるようになりました私。
発育が速いなんてもんじゃないけど、転生者だしね。
まぁ難しい単語使ったら流石に怪しまれるから、適当単語だけど。
さて、本をご開帳────。
うわ、滅茶苦茶英文!! アルファベット!!
英語の点数死ぬほど悪かったんだからな、俺。
こんなの読めるわけ無いじゃん。
というかアルファベットでいいのか。
現代と大して変わんない世界なのかねぇ。
仕方ねぇ、文字を覚えるまではお預けか。
俺のスタートダッシュが台無しだ……。
「ぐぉん」
あ、やべ。犬が入ってきた。
こいつアレから俺を目の敵にしてるんだよな……。
このままだとやられるんじゃないか。
いやいかに転生者といえども、赤子を噛んだりしたらひどい目に合いますよ……?
主に両親の手によって。
『……貴公、何者だ……』
喋ったぁああああああああああああああああ!?
え!? 喋れるんですか!? 頭に直接!?
『ふん、わらわは錬金術で改造されているからな……』
へぇ~~錬金術ってすごい。
ていうか、俺の考えも読まれてんね。
しょせん、犬に読まれようがどうということはないが。
「俺は実は転生者でぇ……」
『転生……?』
「魂が輪廻しててぇ」
…………これ、かなり東洋的な概念か。
西洋の人間、否、犬には分かりづらいか。
とりあえず前世の知識があるとだけ伝わればいいかな。
『ふん、あの二人の研究が良くない結果になったのだろう……子を成すためにかなり色々やっていたからな……』
へぇ、さすがは錬金術師って感じだ。
しかし転生すら自由にできるのかな。いや、赤の他人の魂なんだから事故か。
『まぁ、あの二人を悲しませないのならばなんでもいい。前世のことは黙っておけ』
「ああ、わかったよ」
『文字と言葉ならわらわが教えてやる……』
おお、犬なのに俺より賢いぞ。
言語はともかく、文字も読めるってマジですごくないか。
さすがは錬金術師の犬だ。
ともあれ、こうして俺は幼少期を犬に鍛えられたのである。
この時はまだ思いもしていなかった。
自分がソシャゲの主人公だなんて……。
俺 俺である。名前は一応あるらしい。
レイモンド 父である。黒髪で筋骨隆々。
アンナ 母である。爆乳でケツもタッパもデカい。
ハチ 犬である。一人称がわらわで二人称が貴公、なんだこいつ。