無自覚にヒロインを沼らせるソシャゲの凡人(自認) 作:狐仮虎威
内弟子、と言っても基本だらしない師匠の世話をするようなものであった。
師匠の元へやってくる書類を整理し、時には内容を伝えて代筆。
研究室や私室の片付け、家事手伝い。
もっとも、それらの多くは時折、メイドさんがやってきては手伝ってくれるために、どうしても必要な場合だけやっていた。5歳児にやらせるようなことでないのは確かだけれども。
大体の時間は自由だったので、いろんな講義にこっそりと出席し、わからないことがあれば、師匠に尋ねる。これが俺の修練の基本だった。
ともあれ、最初に教わったのはメダルの射出────。
精力を撃ち出す術である。
「ウイジャ、あるいは狐狗狸と呼ばれる術さ」
「こっくりさんですか……?」
ベッドに寝転がりながら何やら本を読んでいる師匠。
その格好は完全にオフのようで、白いネグリジュだった。
うっすら透けてるし………!
この人、恥とかないわけ!?
5歳児に対してあるわけないか……。
「東洋ではそう呼んでいるね。ともあれ見えざる力────
精力で物を動かす術全般のことさ。僕は賭け事みたいにレイズって呼称してる」
「じゃあ俺もそう呼びますか」
「それは好きに呼んだら良いと思うけど、メダルの精錬まで出来てるんだから簡単だよ」
「といいますと?」
俺がそう言うと、師匠は指先にメダルを作り出し、浮かせ始めた。当然メダルは勝手に浮いたりしない。師匠が精力を使って浮かせているわけだ。
「メダルにする前の精力をイメージして」
「はぁ、まぁ、なんとなく」
メダルにできているんだから、なんとなくはイメージできる。なんというか体にまとわりついているオーラ的なものだ。これをメダルになるまで圧縮するのが普段だが。
「それをメダルに纏わせて操作するイメージ」
「むぅ……」
とりあえずやってみるか。
まずメダルを錬成。それから体の精力をこれに纏わせて……操る……?
おっ、浮いたぞ。
「出来ました先生!!」
「君はやっぱり天才だねぇ~。
そこまでいけば後は自由自在に動かそうと意識すれば出来るはずだよ」
ふぅむ。やってみよう。試しにぐるぐる回転させたり……ちょっと飛ばしてみたり……ブーメランみたいに戻してみたり……なるほど、だいたい理解できたぜ!!
「これってメダル以外にも出来るんですか?」
「もちろん。精力がある限りね」
へぇ、なかなか便利な術を教えてもらったぞ。
コントロールも欲しいけど、速度も上げてみたいな。
めちゃくちゃ上げたら拳銃の代わりに出来そうだし。
「一応言っておくけど、これ単体で戦おうとするのは非効率的だよ。攻撃だって防御だって君にはハチがいるだろ。中には、これの精度を競う術師もいるけれど……僕はバカだと思っている」
「ざっくばらんですね」
「多いんだよね、これしか出来ない1年なんか特に」
まさしく児戯というわけだ。
と言いつつも師匠は複数のメダルを出して、自由自在に空中を泳がせてみせる。
その速度もかなりのものだ。
「とはいえ、こういう基礎をおろそかにするのもくだらない。
これぐらい出来る程度には練習しておきなさい」
「はい!!」
あんまり師匠は自分から教えてくれないんだよな。
自主性を重んじているのか、面倒くさいのかわからないけれど。
ともあれわからない授業内容を聞いたら要約してくれつつも「それは君にはまだ早いよ」と諌めてくれるし、必要なことはちゃんと教えてくれるので、そこは助かっている。
「他に急いで覚えておくことってあります?」
「え? う~~ん、暇ならこれでも読んでおきなさい」
そう言ってベッドの横の本棚から、一つの本を取り出し投げ渡してきた。
内容は「結界・異界の基礎」。列車でのおさらいをしておけということか。
まぁ、まずはレイズの精度と速度上昇だな。
「俺、中庭で練習してきます!!」
「お昼には戻ってきなよ~~」
もう11時ですよ、師匠。
まぁお昼御飯を用意してくれと言っているんだろうけど。
ともあれ、俺は中庭でひたすらレイズを練習することに。
幸いにして、巻藁が複数ある。これに向けてメダルをおもいっきり射出するのだ。
たまには変化をつけたり、あるいはスローにしたり……。
……これ、相手のメダルが飛んできたときに精力で包めば奪ったり出来るのか?
ちょっと試したいな……。
「あれ~~、こんなところにガキがいる」
「先生の内弟子じゃない?」
「へっ、贔屓かよ」
おっ、ガキどもが絡んできた。
と言っても今の俺より5~6歳は上な感じ。
新入生かなんかかな。
「あ、よろしくおねがいします。ここ使うんですか?」
「おまえ生意気なんだよ」
よってきたと思ったら、突然ドンと突き飛ばされた。
ガラが悪そうなガキだ。周りは「やめときなよ」と止めはするがヘラヘラ笑っている。
どうするかな、絡まれているとはいえ、相手はガキ。
こっちは5歳とはいえ転生者だ。大人の対応がしたいが。
「なにしてるの!? やめなさい!!」
中庭の廊下、勝ち気そうな赤髪の少女がこちらに駆け寄ってきた。
歳は他の奴らと変わらなさそうだが。
「年下をイジメるなんてクズのやることよ!!」
「こ、こいつが生意気だから……」
「なんかこの子がしたわけ!?」
「いや……」
行こうぜ、などと言って気分悪そうにガキどもは去っていった。
どうやら赤髪の子はガキ大将というか、クラスの中心的存在のようだ。
「貴方、大丈夫?」
突き飛ばされ、尻餅をついている俺に手を差し伸ばしてきた。
ありがたく、その手を掴んで引き上げてもらう。
「ありがとうございます。助かりました」
「貴方、スノウ先生の内弟子よね? あいつらなんて余裕で倒せたんじゃないの?」
「ええ、どう怪我させずに追い払えばいいか迷ってて……」
ちょっと傲慢な台詞に聞こえるかもしれないが、実際のことだ。メダルだけならともかくハチが動けば、1年生など余裕だったろう。しかし怪我だけでは済まない気がする。
『そうだな。手足の何本は齧ろうかと思った』
グルルル、と不機嫌そうに影で唸るハチ。飼い主が突き飛ばされて怒っているのだ。
しかし大怪我なんてさせたら、俺はともかく師匠の面子に関わる。
「へぇ、言うじゃない」
「ともあれ本当に助かりましたよ」
じっ……と赤髪の子は膝を曲げて、視線を合わせてくる。
な、なんなんだ……。
「貴方、名前は?」
「じゃ、ジャック・
「じゃあフォーくんね。私はリリカ・フリコネクトよ。よろしくね!」
そう言ってリリカさんは俺の手を握り、無理やり握手をしてきた。
な、なんというか強引な子だな……。
「ちょうど中庭で昼飯を食べようと思ってたのよね」
「……あ! 俺、師匠の食事を用意しなきゃなんだ!!」
「貴方が!? ……私がやるわ。連れていって!」
大して変わんねんぇだろ、5歳も10歳も。
しかしどうにも断るのは忍びない。
俺は彼女に着いてきてもらうことにした。
リリカ・フリコネクト
腰まで伸びた赤髪の少女。白い学院の制服を着ている。
ガキどもにとってはガキ大将のようなもののようだが……?