無自覚にヒロインを沼らせるソシャゲの凡人(自認) 作:狐仮虎威
師匠の私室に行くと、いまだにベッドの上でゴロゴロとしていた。
この人、下着着けてなくないか……?
そのような姿を見たリリカさんは、頬を膨らませて師匠の抱えていた枕を剥ぎ取り、そのまま思い切り打ち付けた。
「5歳児にっ!! 家事をやらせてっ!! 自分は何をしてるんですかっ!!」
「ぎゃああああ!? えと!? リリカちゃん!? やめてーっ!?」
一通り枕で殴打せしめると、気が済んだようで止まった。ハァ、ハァ、と荒く肩で息をしている。周囲には枕からはみ出した羽毛が飛び交っていた。
「なにって内弟子は師匠の面倒を見るのが仕事じゃないかな!? 少なくとも、僕のときはそうしていたよ!?」
「時代が違います! それに相手はまだ5歳ですよ!?」
「で、でもジャックの作った料理は美味いし……掃除洗濯もしっかりしてくれるし……」
「それは彼が天才なだけでしょう!?」
照れる。前世の一人暮らしがたまたま功を成しただけだ。
掃除洗濯は誰でも出来る範囲しかやっていないし、料理だって大した手間暇はかけていない。
「い、いいんだよリリカさん……俺が好き好んでやってるんだから」
「学院長に報告したら、どんなお叱りが飛ぶでしょうね」
それを聞くと、師匠はしおしおとした顔になって正座をした。
そんなに学院長が怖いのか。
「が、学院長に報告するのだけはやめておくれよぉ~~」
「ではもう少ししっかりしたらいかがですか」
「うん……」
ふんす、と鼻を鳴らすリリカさん。
その後、なにか気になったのか部屋の中を見回り始めた。
「フォーくん、台所はどこかしら?」
「え、あそこだよ。でもどうして?」
「せっかくだから3人分作ろうと思って。冷蔵庫の中身は使っても良い?」
「かまわないけど……」
どうせ俺が買い込んできたものだし……と言っても和食メインの材料が多い。一体何を作るのかと見守っていると、トマトを切り刻み、パスタを茹で始めた。どうやらトマトソーススパゲッティを作るつもりのようだ。
たしかに昼食にはぴったりかもしれない。
しばくすると3人分のスパゲッティ、サラダ、それにパンが置かれた。
「さぁ、食べましょう!」
「わぁああああ! ジャックはこういう娘を嫁にしなよ? 僕が助かるから」
「なんで俺の結婚後も同居するつもり満々なんですか」
そう言ってスパゲッティを貪る師匠。
どれ、俺も一口……。ふむ、トマトのしょっぱさとソースの甘さが絶妙にマッチしている。麺の茹で加減も絶妙だ。幼少にしてこれはすごい。
「リリカさん、どこでご料理なんて覚えたんですか?」
「べ、別にパスタぐらい誰だって作れるわよ……!」
「僕は作れないよぉ~~~」
少し照れて頬を赤らめるリリカさんと、頬を膨らませてサラダを貪る師匠。
あ、ドレッシングを追い掛けした。体に良くないぞ。
「はぁ……こんな人の世話1人でしてたの? フォーくん」
「たまにメイドさんが来るよ」
「出来れば毎日来てもらいなさい」
そう言っていると、昼休みの終わりを告げるチャイムの音が聞こえた。
簡単な料理とはいえ、作って食べるほどの時間はなかったようだ。
リリカさんはパンを一つつまむと、急いで扉へと駆け出した。
「それじゃあフォーくん、また会いましょ!!」
「ああ、リリカさんもお元気で!」
そのまま廊下へと出ていき、彼女の姿は見えなくなった。
師匠はと言うと、チャイムの音がなったにも関わらず、モシャモシャとパンを貪っている。今日は講義とかないんだろうか……。
「師匠は、今日休みですか?」
「ん~~? 2時から実習あるよ? やっていく?」
「いいんですか?」
「教師の僕がいいんだからいいだろ」
そんな適当でいいのか、と思うがこの人が良いんなら、学院長とやらが怒らない限りは問題ないのだろう。問題は急いで食事をさせ、準備をさせないと間に合わなくなるということなのだが……。
「ほら、それじゃあとっとと食べて!! 師匠ってば食べるのも着替えるのも遅いんですから!!」
「いいじゃん、ちょっとぐらい遅刻したって僕の授業なんだし……」
「生徒の時間を何だと思ってるんですか!?」
ともあれ必死に騒ぎ立てることで、なんとか間に合わせることができた。
実習ということで集まった場所は体育館。しかしやってきた生徒は体操服ではなく、ローブと制服を着込んでいる。まぁ錬金術雨が必ずしも体を動かすわけではないのは確かだが……。
……ん、よく見たらさきほど俺に絡んできた1年じゃないか。
リリカさんもいるし。師匠の授業とは1年の実習だったのか……。
「さて、君たちもそろそろメダルの扱いに慣れてきたし、今日はレイズによる実戦をやってみることにするよ~~」
ええ!? 覚えた昨日の今日で実戦しなきゃいけないのかよ!?
そりゃあ1年は段階的に習っているだろうけどさ……!!
「始めに手本を見せようか。対戦相手は僕の内弟子だ。彼にケチョンケチョンにされたい子は前に出たまえ」
「俺ぇ!?」
くそっ、実習の手伝いをさせるつもりで呼び出したんだな……!
しかしそんな言い方をして、わざわざケチョンケチョンにされたい生徒はいないと思うけれど……。
「へっ、逆にぶっ飛ばしてやるよ!!」
お、昼休み俺を突き飛ばした生徒。ずいぶん度胸があるやつだ。
ちょっと見直したかもしれない。それとも俺に勝てるつもりでいるのかな……。
まぁ、そうか。見た目は5歳児だもんな。可哀想に。
「いいねぇ。では双方その絨毯の端に立ちなさい」
背後には風船。その前には対戦相手。
これはおそらく風船を守りながら、相手の風船を叩き割れってやつかも。
「僕が始めと言ったら相手の風船を叩き割ること。なるべく対戦相手は狙わないようにね。ただし相手のメダルは撃ち落としても良い。出来るものならね」
ふむふむ、加減してやりたいことだが俺も習い始め。
万が一負けたら師匠の恥だ。ここは最速で相手の風船を撃ち落としてやるか。
なんか相手は自身満々の顔をしているけれど……俺を狙ってきそうだな。
それを撃ち落としつつ、風船を狙う────出来るかな?
「よぉい、始めっ!!」
案の定、ガキんちょは俺に向けてブレイクを放ってきた。
仕方がないので、俺はそれに向けて精力を放ち────。
そのまま相手めがけて跳ね返してやった。
ぶっとぶガキンチョ。余波で割れる風船。
あいつのブレイクが強すぎたのか……?
危ないことをするなぁ。
そんな惨状を見て、生徒たちが思い思いの言葉を口にする。
「…………え、なにアレ」
「ヒューイが吹き飛んだんだけど」
「風船を割るだけのはずじゃ……」
「そういえばヒューイのやつ、昼頃あの子に突っかかってたよ」
「報復ってコト!?」
師匠が後ろのクッションにまでぶっ飛んだガキンチョを確認する。
どうやら息はしているが、ショックで伸びてしまったらしい。
すぐさま保健室から担架がやってきて連れて行かれた。
運び終わると、師匠はにこやかにこう言った。
「……さて、次のチャレンジャーはいるかなぁ~~~?」
「「「ひぃいいいいいいいいいいい!!??」」」
すくみ上がる生徒たち。
俺の運が良かっただけなのに、完全に実力でふっ飛ばしたのだと思われている。
しかししばらくすると、ピンと一本の手が伸びてきた。
「私がやるわ!!」
おお、リリカさん!!
良かった!! リリカさんがやってくれるなら百人力だ!
胸を借りるつもりで行こう!!
風船を変えて、俺の前に立つリリカさん。
その眼は闘志に燃えていた。
「手加減しないでよね。フォーくん」
「もちろんです」
さっきのでメダルを跳ね返す技は覚えたし……。
そうそう無様な負け方はしないはず……!!
「それじゃあ、はじめっ!!」
リリカさんが大量のメダルを撃ち出してくる。
それはさながら列車で見たガトリングのようだ。
俺はその全てを精力で受け止めていた。
「流石ね、フォーくん!!」
「……っ!」
相手の風船まで持っていきたいが余裕がない……!
くっ、このままでは負けてしまう……!!
仕方ない。
左手を使おう。
左手でメダルを錬成し、撃ち出す。
その勢いでリリカさんの弾幕を破ることがなんとかできた。
メダルの種類はチャージ。固定された空気の針が風船を破ることに成功した。
「……貴方、両手で……!」
「ええ、さっきの人もリリカさんも、片手で狙いを定めてるから反則かと思ったんですけど……そういうルール聞いてなかったし……いいかなって」
ちょっと反則気味な気がするが、師匠の名誉には代えられない。
ていうか片手でやれって言われたら多分負ける。リリカさん強い、うん。
それを聞いて、師匠がフフフ、と微笑む。
「ああ、両手を使うな……なんてルールはないよ? 僕はなるべく片手でやるように教えたけど」
「なるほど……じゃあ内弟子としての教育のおかげってことですね……!」
…………リリカさんが犬歯をむき出しにしてこちらを睨んでいる。
教えられた以外のことで勝った俺がムカついたのだろうか。
くっ、申し訳ない……。
「見てなさい、今度は絶対に勝つ……!」
「えと……リリカさんも両手を使えばいいじゃないですか」
「はぁ!?」
さ、叫ばれた……そんなにマナーがなってなかったのかな。
だけれども、師匠は俺の頭をぽんぽんと叩いて、こう言った。
「気にしないでいいよ。君は両手でも脚でも何でも使っていい」
「それは……俺がまだ若いからですか……!?」
反則を慰められた気がして、恐る恐る聞いてみた。
すると師匠は妙なことを言い出してきた。
「そもそも普通の錬金術師は片手で集中しないと無理なんだよね……」
ハハハ、そんなはずはない。だってあんなに簡単なのだから。
こうして認知の歪みができていくんだね。