□月☆日
アイツマジで生活能力が皆無なんだが。というか勇者学校に通う勇士候補達の殆どが生活能力ないんだが。勇士候補達は全員寮に入れられている。男女ともにだ。ここを卒業すれば性別など関係なく悪魔達と戦うことになるのだから当然ともいえる。男女が共に過ごして互いのことを知らなければ実際の任務の時大変なことになるだろう。だからそれはいい。当然の判断だと俺も思う。
問題なのは勇士候補ほぼ全員がいい所の家の出身者ということだ。俺みたいな孤児院出身や一般家庭出身の人間など存在しない。要するに、実家ではメイドさんやらが世話してくれて来た人間ばかりということだ。料理など当然できないし掃除も、洗濯すら出来やしない。
それでも最初の二ヵ月くらいはまぁなんとかなっていた。食堂の利用を学校が許してくれていたからだからだ。だがその二ヵ月を越えたら一ヵ月ごとに食堂利用をしていい月としてはいけない月に分けられた。そして今日がその日で……全員が食事を用意されない事態に対応できずに飢えに苦しんでいる。食堂の利用には金がかかるから俺は普段から安上がりに済ませるために自炊していたから影響は絶無だったが。
奴が腹を空かせている光景、腹を鳴かせている姿はとても面白いのだがトゥモーを含めた全員がこうなると腹の音で授業が十分に受けられない。仕方ないので食堂から大鍋を借りてきてスープを作ったら……何故か他のクラスの連中まで集まってきた。ありがとうありがとうとみんな言ってきたのだが、もしかしてこれから毎日作らなければならないのだろうか。自主鍛錬もあるので嫌なのだが。
でもあの女がいつも無表情なその綺麗な顔を悔しそうにしながらスープのお代わりをしに来たのは面白かった。これが見られるのであれば奴の部屋の掃除もしてやろう。もっと悔しそうにする顔が見られそうだ。羞恥心に悶え苦しむがいい。今日は非常に気分良く寝れる事だろう。
□月○日
奴の部屋を掃除してやった。物自体は少ないはずなのによくもここまでぐちゃぐちゃに出来たものだ。日々出てくる洗濯物もこの調子では積み上がっていくことだろう。だがまぁこの量ならば機械を使うより手洗いした方が早いのでそうしたら真っ赤な顔して殴りかかってきやがった。
下着なんて所詮はただの布だろうに何をそんなに怒っているのかまるで分らない。着ている所を見られたのならば殴られるのも吝かではないがこんな事で怪我するのは心底嫌なので逃げた。
洗濯してない下着とかただの汚い布だろうに。洗濯途中の布を持って逃げたら全速力で追ってきやがった。
結論として洗濯は自分でやるという言葉を引き出せたので良しとする。奴の屈辱と羞恥の入り混じった顔は実に見ごたえがあった。明日は殴られた顔が腫れて前が見えなくなるだろうがそれだけの価値はあったと断言出来る。腫れが酷くならないように顔を冷やしながら寝ることにする。
◆月■日
入学から既に四ヵ月たった。唐突だがやはり俺に天使様が与えてくれる聖法を使う才能はないらしい。勇者学校に通いだして早数ヵ月が経ったが俺に出来るのは自分の肉体を強化することくらいだ。天使様の“ツガイ”になることが出来れば更に強くなれるらしいが俺には無理だろう。天使様と直に接したことなんてないし、接する機会もない。
それに“ツガイ”になるべきなのはトゥモーのような聖法を天使様と同じくらい扱える本物の勇士みたいな奴だ。強い人間をさらに強くすることの方が重要だろう。俺はトゥモーのような勇士を守る盾になればいい。
復讐者に天使様の祝福が届き切らないなんて当然のことだから納得はしている。それでも身体を鍛えることだけはやめない。不可思議な力が使えないなら筋肉で殴るしかない。あの女に対してもここ最近は食らいつけるようになってきた。もっとも条件を同じにした状態ならという但し書きが付くが。奴はトゥモーと同じように聖法も使える。しかも肉弾戦よりそちらの方が上手いほどだ。
それを封じた上で近距離戦(武器在り)で俺を上回ってくるのだからたまったもんじゃない。クラスどころか学年、学校全体から見ても近距離戦だけならトップクラスなんだが。
だが学校という環境の中でトップというのは別にそこまで誇れることではないだろう。なにせそんなもの毎年いるのだから。向上心を捨てずに奴を上回り打倒し、復讐するまで鍛錬を続けなくてはならない。
★月○日
年末が近づいてきた。今年は非常に大変だったと断言出来る。だがその甲斐もあって俺は非常に成長したと言えるだろう。奴との模擬戦でも今ならほぼ対等に戦えるようになってきた。身体の頑丈さという奴に上回れる部分を鍛えまくった結果だ。今ならば胃がひっくり返るような奴の蹴りを受けても耐えられる自信がある。というか何度か耐えた。奴との戦績もここ一ヵ月で言うならほぼ五分だ。
だが油断はしていけない。あくまで互角なのは近接戦闘の上でだけだ。聖法を使いだせば俺に勝機はないだろう。光の槍や弓の攻撃力は侮れないし、光の鎖などで縛られたら今の俺では脱出するのに一呼吸はいる。その隙を奴は見逃しはしない。実際なんでもありでやったら身動きできなくなった瞬間に集中砲火を受けて負けたのだからこれは間違いないだろう。光の鎖を無理矢理引きちぎった時の奴の顔は見物だったが。「なんで普通に逃げられるの……!?」と目を見開いていた。逃げられなかったからその後光の矢に押し潰されたのだが。手加減してたとか言っていたが嘘だろうあれは。俺以外だったら死んでたかもしれない。
……他の連中に使ってこなかったのは殺さない為、なのだろう。この勇者学校で過ごしにくくなるから仕方ないと思っているのか。それとも奴自身に良心があり殺したくないと思っているからなのか。
もし後者の場合だったら、そんなものを持っているのならば、何故俺の故郷を滅ぼしたのかを聞き出したいところだ。納得することなど到底できないだろうが、それでも知りたいと思うのは俺の復讐心が弱くなったからだろうか。頭が混乱して来たし、これ以上考えたら動けなくなりそうなので止めよう。俺はもう止まることなど出来やしないのだから。
★月■日
アイツ本当に最悪なんだが!!!なんであそこまで的確に人の心を抉るようなことが出来るんだよ!!!俺じゃなかったら心を病んで引き籠っている所だぞ!!!
……いけない、落ち着け俺。盾役には冷静さが必要不可欠だ。どこをどう守るべきかを判断するのに冷静さを欠いたら俺自身も仲間も死ぬだけだ。
落ち着く為にも今日の出来事を振り返ってみよう。年末にはパーティーがあり、そこでダンスを披露することになるらしい。俺は当然参加するつもりなどなかった。お偉いさんに顔を覚えてもらうつもりもなかったし、パーティーでは食事もろくに食べられないらしいので行く理由がなかったのだ。
それがどうしても参加しなければならなくなったのが俺が優等生だったからだろう。既にこの学校で一番の戦士と言われている俺が出なかった場合どのような不具合が起こるかあの銀髪オッドアイ女に懇々と説明された。
それ自体はありがたいのかもしれないが、何故奴は語尾に「なんでこれくらいのことも分からないのですか?」とか「脳みそちゃんと詰まってますか?」とつけるのだろうか。思わず「分からない人間に説明する時の気遣いをするだけの脳みそはないのか」と言い返してしまった。たんこぶが出来るくらいに思いきり叩かれた。
とにかくそんなことがあったので年末のお披露目パーティーには参加することに放った。問題なのはダンスとは縁のない人生を送ってきた事だろう。戦いとはまるで違う足元のステップとか覚えるの滅茶苦茶面倒くさい。
何を思ったのか奴が俺のパートナーとして練習を見てくれることになった。奴曰く「貴方に足を踏まれたら私以外では無事に済まないから仕方ないことです」らしい。ありがたすぎて涙が出てくる。なんか妙にやる気に満ちているがなんなんだろう。
★月★日
お披露目パーティーは問題なく終わった。料理が滅茶苦茶美味しかった。今まで食べたことのないような豪華な物だった。こんな料理貴族でも殆ど食べたことないとトゥモーが言っていた。しかし国のお偉いさんどころか天使様達が見に来るなんて聞いていなかったので非常に驚いた。優秀ということで話し掛けられたが物凄く緊張してしまった。奴が隣に立ち、肘で突いてきたので覚えた言葉を何とか出すことが出来た。非常に業腹だが今回は感謝するしかない。
奴もなにやら天使様に言われていたが、それについては何も聞こえなかった。音が漏れないような聖法をお使いになられたのだろうか?天使様がそうするべきだと判断したのであればそれについては何も言えないし、言う気もない。
ただそれでも学校の代表として踊る役目に俺が入るのか、それだけは聞きたかった。トゥモーのような人間がやるべきだと思ったが、当然そちらもやることになっていたらしい。学校全体の成績優秀者が参加するとこの時初めて聞いた。当然あの女も知っていたらしい。何故言わなかったと言ったら「だって聞いていたら緊張で更に物覚えが悪くなりそうでしたし」と無表情で言いやがった。それはそうかもしれないけど本番直前に知らされる俺の身にもなってほしい。
ムカついたのでダンス中に奴のドレスを褒めちぎってやった。今ならば何を言っても反撃出来やしない。顔が真っ赤になる様は実に見応えがあったと言っておこう。
当然そのままやられっ放しではなく、ヒールの付いた靴で思いきり俺の足を踏んできやがったが。なんなのアイツ、負けず嫌いにも程がない???
△月★日
もうすぐ勇者学校に通いだして一年になるという今日。四大魔王の一角が大きく動き出したとのことだ。既に隣国では被害が出てきているらしい。俺達もまた無関係ではいられない。
トゥモーを筆頭に、俺と銀髪オッドアイ女、それと聖女を秘密裏に送り出し魔王を殺すように天使様から使命を受けた。
天使様達は最前線で上級悪魔達を始めとした連中と戦うことになる。その隙を突くということだ。天使様が魔王のいる所まで行こうとすれば必ず途中で露見するが、人間ならば可能という事だろう。悪魔に“欲望”を供給する人間があちらにもいる。人間ならば、それに紛れ込むことも出来る。世界の為にも、俺の故郷のような地獄絵図をこれ以上生み出さない為にもこの使命を果たさなければならない。