そして厄介なのは、その迫害は根絶してはいないということ。
特に教会ではつい最近まで『回復術で傷を悪化させる者、それすなわち人間に化けた魔物なり』という文が公的に出回っていたほどだ。
震えながら荘厳なる大聖堂にて待ち続けて、数分。
子供にとっては千秋に近い時間が流れた頃、足音が聞こえた。
「待たせてしまったかな」
同時に、瓶や器具の擦れる音も。
救急箱を抱えたディーンが、そこに立っていた。
「怯えなくていい。私は君を害するつもりはない」
患部を流水で洗い流し、回復術にて与えてしまった魔力を魔力吸引器によって吸い取る。
脱脂綿である程度浸潤液を吸い取ってから消毒を施し、などの一連の治療を行いながら、ディーンは子供へ話しかける。
「すまないね、本当だったら傷口を洗って清潔にしておけば治っただろうに」
「いえ、……」
言いよどみ、続きの言葉を紡ぎかねている子供。
沈黙に嫌な顔をすることもなく、ディーンは丁度よい大きさにガーゼを切り取った。
そして、
あ! と突然の大声を上げる。
「えっ!?」
「あっ、その! すまない! 怖がらせて!」
いや今も怖がらせたんだろうけど! と慌てる様子からは、先ほど険しい顔をしていた厳しい雰囲気は霧散している。
大げさな手振りで、つまんだままのガーゼがぴろぴろと風に吹かれていた。
「きみは自分が人と違う体質だということは理解しているのだろう? そしてそれが伝わったら怖い目に遭うかもしれない、とも」
「っ、はい」
「だとしたらその怖い目に遭う原因は、教会だよなぁ……怖がる子を無理やりお化け屋敷に連れてきたみたいになっちゃったなぁ、ごめんなぁ」
失敗しちゃった、と肩をがっくり落とすディーンが苦い顔をしていると、前方からくすりと笑う声。
見れば、子供のこわばっていた顔がようやく笑顔に変わっていた。
「えっと、安心しました。司祭様でも、失敗するんですね」
「安心してくれたならなによりだ。妻に何度も言われているが、間が抜ける癖が治らなくてね。私もドジをした甲斐がある」
それに対し、ディーンもようやく笑みを取り戻す。
頬の赤みは羞恥によるものという、なんとも情けない仕上がりであったが。
「それにしても」
幾分か力の抜けた子供へ治療を施しながら、ディーンは会話を更に重ねる。
「保護者の方はどうしたんだい? 心配しているだろうに」
発覚した状況によっては、迫害されかねない体質。
孤児院の子ども達よりも上等な身なりを見るに、放置されているとも思えない。
今頃親御さんはさぞや、と眉尻を下げるディーンに対し、返ってきたのはこれでもかと泳ぐ視線であった。
「……まさか」
「お父さん、お母さんはこの町にはいません」