顔色を変える大人をなだめるように、子供は両手を上げる。
それは降参のポーズにも、立ち上がったディーンから身を守ろうとしているようにも見えた。
「ちゃ、ちゃんと許可はもらってます。どうしてもこの町に観光に来たくって、大人の従者と一緒なら行ってもいい、って」
「そのお目付け役の従者は?」
「どっか行っちゃった……」
「どっか行っちゃったのは君の方だよ!」
ぺしん、と最後にガーゼを強めに貼り付けたのは、せめてもの折檻代わりである。
なにせ自分の体質を理解しながら大聖堂のある町まで来てしまうような行動力だ。
痛みに膝を抱える姿は大した反省をしているようには見えない。
深くため息を一つ。
気持ちをリセットすると、ディーンは涙目の子供へ、手を差し伸べる。
「もうじき日も暮れる。宿は取っているのだろう? 従者のところまで送るよ」
え、と声を上げた理由は、会ったばかりの他人にどうしてそこまで、という戸惑いだろうか。
口にせずとも伝わる疑問に、ディーンは微笑みながら答える。
「勇者様ならきっとそうしたさ」
夕陽の射し込むステンドグラスは、橙にその色を染めて降り注ぐ。
神を象った光は、暖かな熱の色を伴って、眩くディーンを飾った。
「なにせここは勇者様のお生まれになった町だ。教会の者がその精神を見習っても不思議じゃないだろう?」
「ああ、そういえば肝心なことをまだしていなかったね。自己紹介といこう。私はディーンという。君は?」
「ビリーといいます。よろしくお願いします」
「……ここかい?」
「はい、ここです」
幸いなことに、ビリーは自分が宿泊する宿の場所を覚えており、そして日が完全に沈む前に送り届けることはできた。
ちょっぴり唇の引きつったディーンが知る限り、この町一番の高級宿のはずである。
「ビリー様」
そして転がるように飛び出てきた従者の身なりも、それ相応のものだった。
ここでディーンは、ビリーが自分の予想より相当格式高い生まれであることを察したのだった。
「ありがとうございます、なんとお礼を述べたらよいか」
「いえ、大したことはしていないので……」
「ちょうど旦那様の言いつけで人が出払っておりまして、捜索に難航しているところでした。手ぶらで返せば我々が旦那様に叱られてしまいます」
「そう言われましても」
「せめてここまでの手間賃だけでも」
「いえいえいえ」
ほとんど直角に背を曲げて感謝の意を表す従者に、ディーンは冷や汗を流しながら物品等のお礼を固辞した。
ビリーを送る道中、二人でこっそりと決めたことがある。
回復術を使ったことは伏せよう、と。
自分の体質のせいで、身内は教会関係者に良い感情を向けていない。
しかし、回復術を使用していない、つまり体質のことを知らない司教に、そうあからさまな態度は見せないだろう、とはビリー本人の主張だ。