うきうき魔王のパーティバイキング   作:mrr

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2.僧侶は祈りを-8

「そうとも。人は得てして簡単に悪へと堕ちる。それは誰にでも起こり得ることだ。だけど、悪へと落ちないよう導くことと、既に悪となってしまった者から善き人々を守ることは、全く違うことだよ」

「でも、ディーン」

 

子供がでもでもだってと、破綻した理論をこねくり回すのはよくあることだ。

慣れているはずなのに、ディーンはどうにも苛立ちを抑えきれずにいた。

 

ビリーが見た目の年齢よりも随分と大人びた発想をするからだろうか。

ディーンは、無意識に察していた。

口を開いて出てくる言葉が、己の心を強く揺さぶるものであることを。

 

「悪い人たちを嫌うことは当然だという。それなのに貴方はなぜそんなに苦しそうなのですか、ディーン」

 

倉庫と倉庫の間。

背の高い建物は日を遮り、細道はより一層暗がりとなっている。

そこへ踏み入ろうと近づいていた子供の姿さえ、朧気だ。

 

米神に冷たい汗が流れるのがわかった。

 

「いつもより、声が大きかった」

 

暗がりに寄り添うように、子供の姿は溶け込んでいる。

黒髪の隙間から、底の見えない蒼がディーンをまっすぐに見つめていた。

深く、深く。

彼女が沈んでいったように。

 

「海になにかイヤな思い出でもありますか?」

「君は本当に、……どこまで知っているんだい」

 

恐怖による身震いは、久しぶりのことだった。

ディーンの問いかけに、子供は愛らしい笑顔で返すばかりだ。

 

 

 

「妻は、海で亡くなった」

 

倉庫街から離れ、ディーンとビリーが腰を落ち着けたのは、聖堂前の広場であった。

平日であるからだろう。

見晴らしのいい平地を通りすがる人はまばらだ。

 

これまでの信頼からか、後ろをついてきていた従者は姿を消していた。

こんな会って数日のおじさんに護衛対象を任せるな、とも言いたかったが、正直なところ、今のディーンにはありがたかった。

大人が同席していれば、ディーンは話すのをためらっただろうからだ。

 

「妻の遺体はひどいものだった。海水に長時間浸かっていたのもそうだが、明らかに危害を加えられた傷があった」

 

不自然なほどに白く膨れた肌。

滴り落ちる水滴と、同じように落ちていくふやけた肉片。

魚に突かれたのか、特に目の辺りは人間の形を保っていなかった。

かろうじて彼女とわかったのは、手に握られていたペンダントトップがあったからだ。

ディーンが送った、おそろいのロケットペンダントだった。

 

「引き上げてくれた者達は事故だと言っていた。岸壁から身体を打ち付けながら落ちたのだろう、と」

 

そんなわけがない、とディーンは叫びたかった。

叫ばずとも、似たようなことは口走ったかもしれない。

ただの事故ならば、太ももの辺りにあんなにくっきりと、人の手形としか思えないような鬱血が残っていたはずがないのだ。

 

誰かがいるのだ。

彼女に危害を加え、無慈悲に海へ打ち捨てた誰かが。

 

 

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