うきうき魔王のパーティバイキング   作:mrr

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2.僧侶は祈りを-10

いつの間にか日は傾き、斜陽の橙が広場を照らす。

世界が同じ色に染まっていくにも関わらず、ビリーの瞳は青のままだった。

 

海が、囁く。

 

「ディーン。貴方の心は、許される」

 

言葉は無用だと、目を離せぬままディーンは直感的にそう思った。

海に向かって叫んだところで、なにも返ってこないように。

おそらく彼は、全てを受け入れるだろう。

 

孤児院の子供達に言って聞かせるようにはいかない。

訪れる訪問客へ説教をするようにもいかない。

与えられているのは、こちらだ。

なんだこの状況は、と働かない頭が疑問符を浮かべる。

 

「今すぐ全てを解放するのは、無理かもしれません」

 

やがて二人が見つめ合う時間は、ビリーが目を細めて微笑んだことで唐突に終わりを迎えた。

 

「ですがディーン、まずは少しづつでいい。試してみてください。悪い行いには悪い結末がついてくることを望む貴方の心を、許してあげて」

 

そうしてビリーは、ベンチから跳ねるように立ち上がった。

本職の方相手に、長々と語ってしまいました。

ごめんなさい、とビリーは頭を下げ、駆け出す。

その先には待機していた従者達がいた。

 

「また明日、会いましょう! それまでに元気になっててくださいね!」

「あ、ああ、……転ばないように気をつけて」

 

突然の動きに、ディーンはそう注意することしかできなかった。

いつの間にか固く握りしめていた拳を解き、ビリーの後ろ姿に手を振る。

 

駆け出す子供。

隣接する乗合馬車の駅。

思い出したのは馬車と接触してしまったビリーと、初めて会った時だ。

ほんの数日前であるというのに、まるで遠い過去のように記憶が朧気に感じる。

 

そういえばあの時以降、ビリーに怪我を負わせた運転手の顔を見ていないな、とディーンは気づく。

頬に傷のある男だったから、会えば印象に残っているはずなのに。

 

「まあ、……そういうこともあるか」

 

毎日つぶさに馬車の運転手を観察しているわけではない。

ディーンは呟くと、その気づきを他の考え事の下に送りこんだ。

少しむくんだ足を動かし、帰路へつく。

 

また明日。

爽やかな笑顔の少年が、次はどこに行こうとするのかを予想しながら。

 

 

 

しかし翌日、その言葉が本当の意味で果たされることはなかった。

 

「父様に『連絡の一つくらい入れなさい』とお小言をいただきました」

 

半泣きのビリーから、予定の変更という連絡を受けたからである。

曰く。

条件付きで両親の付き添いなしの観光に訪れたビリーだったが、その条件には従者を連れて行くことの他に『逐一無事を知らせること』も含まれていたらしい。

 

「……で、連絡をとっていなかったと」

「夜でいいや、明日お手紙書こう、ってずるずる引き延ばしていたらこんなことに」

「それはご両親も心配するよ」

 

一応従者から報告は送っていたものの、約束であるビリーからの直接の便りがなかったせいで不安になってしまったらしい。

公になれば迫害されかねない体質の子供である。

なにか行動を起こそうとするのもやむなし、と事情を知るディーンは深く頷いた。

 

「今日は時間ができたから少しだけ顔を見に来る、と知らせが届いたので、お出迎えをしなくちゃならないんです」

 

孤児院の子とも遊ぶ約束をしていたのになぁ、と唇を尖らせる様は本当に悔しそうだ。

子供らしい仕草に、ディーンも苦笑を漏らす。

 

「そういう事情なら、仕方ないよ。子供達には私から言っておくから、お父様達を安心させておあげ」

「はぁい。あ、ディーンさんと傷のことはごまかしときますから!」

 

教会という、迫害する側の関係者。

大量の従者を幼い息子に付き従わせる財力。

ディーンと両親が関わるとすごく厄介なことになりそうなことを、ビリーはしっかり理解していた。

 

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