うきうき魔王のパーティバイキング   作:mrr

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1.勇者はかつて-2

「く! そ、ぉ!」

 

汗が散り、光を反射する。

アインが傷心の中、それでも素振りを行うのは演習室ではなかった。

広大な学校の敷地内には様々な施設がある。

その乱立した建物の間と外周の壁に挟まれた、広場とも言えぬような半端な空間。

植樹された緑すらないそこで、木剣が風を切る音が響き続ける。

 

正面に構え。

上段からの振り下ろし。

中段の突き、下段からの返し。

その他、足運びと数十に及ぶ型。

学校に入学した初期の頃に一通り教わった剣術の基本を、アインはひたすらに繰り返しているのだった。

 

『実力のないあなたが何言っても説得力に欠けるのよ』

 

普段であれば、それらを更に繰り返すところである、が。

振り切るどころかより鮮明に脳裏に蘇った言葉を思い出し、振るう木剣の動きは鈍ってしまった。

あまりに鋭すぎる言葉であったが、事実である。

演習で負けたのは事実。

それを組んでいたグループのせいにするほど、アインは子供ではなかった。

原因の一端は確実に自分にある。

もっというなれば、自分の──

 

「あれてますね」

 

と。

伏せた視線が捉えたのは、こちらを見上げる二つの瞳。

深い青色は故郷の海を思い出す。

肩の辺りで揃えられた黒髪の下は、なにが面白いのか笑みが浮かんでいた。

 

そこにいたのは子供であった。

冒険者学校の入学を許されるような年頃には見えない。

本来ならばここにいてはいけない人物である。

 

「……また来たのか」

 

しかし、アインはその姿を咎めることもなく、一つため息を吐くだけに留めた。

理由は単純。

アインは既に彼と顔見知りだからだ。

 

念願の冒険者育成学校へ入学するために移動している最中、たまたま馬車が魔物に襲われているところに出くわした。

当時しがない傭兵だったアインでも倒せるレベルであったことが幸いし、死者を出すことなく馬車を救出。

その馬車の中にいた一人が、目の前にいる少年──ビリーだ。

 

貴族の一人息子だという彼は、自分を助けてくれたアインに懐いたらしい。

冒険者育成学校に所属していることを知り、こうして度々敷地内に侵入しては会いに来るのだ。

最初の内は見つけ次第教師に突き出していたのだが、二、三度目に『仲良くしてさしあげて』という言葉と共に返却された。

どうやら学校の運営資金を、ビリーの親が一部寄付しているらしい。

世の中結局金か、とアインは大層やさぐれた気分になったものだ。

 

「お前は悩みがなさそうでいいよな」

 

呟きつつも、いまだ型を止めない木刀を振るいながらビリーの薄い身体をそっと後ろへ下がらせる。

身に纏うシャツは手触りからして上等なものだ。

頭を揺らすたびに石鹸のいい香りがして、毎日身だしなみを整えていることは嫌でもわかる。

道具の調達に苦労したことなど一度もないのだろう、と、かつて頭皮の脂でべたべたになった己の髪を思い出してアインはうんざりとため息をついた。

 

「失礼な。いつも能天気に木の枝をブンブン振ってるアインさんよりはありますよ」

「お前のほうが失礼だし、これはちゃんとした練習方法なんだよ! ほんとに俺に懐いてんのか!?」

 

子供特有の取り繕わない言葉が、先ほどできたばかりの心の傷に突き刺さる。

叫んだアインの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「でも、他の人達がそんなことしてるの、見たことないですよ?」

 

教本通りの型が、乱れた。

かひゅ、と喉から空気が抜けていく。

言い返すだけの言葉はアインの中に存在しない。

なぜなら全て事実だからだ。

 

入学してから数ヶ月。

木刀による基本の型の練習をやっている者は、今やアインだけだ。

同級生は、皆次の段階へと進んでいる。

 

「一通りの授業と実習による基本的な戦闘訓練を積んだら、選定式って奴が開催される。知らないか?」

 

素振りを止め、唐突に壁に背を預けて座り込んだアインに、首を傾げながらもビリーは答える。

 

「校内のスケジュールはまだ早いって教えてもらえていないんですよね。催し物でしたっけ?」

「一大イベントには違いないが、少し違う。これまでのレポートや実習の結果で、新入生の能力を評価するんだ」

 

ともすれば成績表のようなものだが、まるで違う。

評価される能力とは、それまでの行いではなく、これから開花するであろう可能性だ。

 

『魔力の操作が今後も上達する』と言及されれば、その者は魔法使いを目指す。

『前衛攻撃の要になる可能性あり』と評価されれば、その者は戦士を目指す。

 

元王宮勤めと噂の教師による占術、元勇者パーティーの魔術師が作成した魔道具による測定データを加えて導き出されたそれは、もはや予言に等しい。

わざわざ逆らうような反骨精神溢れる者もおらず、大抵はその評価に従って己の修練内容を決める。

つまり、より高度で専門的な授業を選択して習得していくのだ。

 

一方で、アインに告げられた評価といえば、こうだった。

 

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