フェリックス司教が、ハーライルで発見された。
それも、重度の火傷を負った状態で。
詳しく調べたところ、火傷は回復術の拒否反応によるものだと判明した。
それはフェリックス司教の体質故か。
それとも、魔物がフェリックス司教に取って代わっているからか。
現在は病院にて医術による治療を行ってはいるものの、成果は芳しくないという。
「大勢の町民に慕われる方でした。人当たりもよく、私の気分が落ち込んでいる時も積極的に声を掛けてくださるほどでした」
「フェリックス司教の体質について、聞かされたことは?」
「……いえ」
「フェリックス司教が当日、ハーライルへ移動するという予定を聞いた記憶は?」
「ありません」
努めて冷静に、落ち着いて問答を繰り返す内、ディーンの中で情報が繋がっていく。
心臓が痛いほどに拍動していた。
フェリックス司教は、今とても危うい立場にいるらしい。
ディーンの証言が、天秤の傾きを変えてしまうほどに。
『フェリックス司教です』
ヘーゼルブラウンの震えた声が言う。
轟音と悲鳴、横たわる遺体が眼球の裏で響き渡った。
遺体がだらりと力なく。
死体がぷかりと浮き上がる。
「現在治療を行われているフェリックス司教について、汝の知見に基づく見解を述べよ」
証言台に立っているはずの自分の足が、本当に地面に立っているのか疑わしくなってくる。
上から降ってくる声は確かに聞こえたはずなのに、それ以外の音がうるさくてかき消されそうだ。
叫んでしまいそうな衝動を吐き気と共に呑み込んで、ディーンはなんとか言葉を出そうと喉に力を込める。
既に数秒の沈黙が部屋の中を支配していた。
とてもうるさい。
「ディーン司祭?」
轟音。
悲鳴。
水の音。
海の静寂。
己の呼吸と心臓の拍動。
濡れた音とシーツの裂ける音。
悪い行いには、悪い結末を。
『僕は許します』
一番大きな声が、全てをかき消した。
「……回復術の拒否反応は、時に魔物のものと思われてきました」
ディーンは告げる。
嘘偽りなく、己の本心を。
「近年では魔力の相性によるもので、体質によっては人間にも起こりうるものだと判明している。ですが定着してしまった常識を完全に払拭することは難しく、拒否反応を起こす人物に対して迫害が発生することは今もなお問題とされています。フェリックス司教も、懸念されていた方の一人です」
「となると」
「善なる人々を心配し、導いてきた方です。もしそういった体質をお持ちならば、隠そうとはせずに人々のために公言されるでしょう」
証言は長く、少しばかり遠回しな言い方になったが、淀みなく言い終えた。
ディーン自身が持つ力であり、長年研究し、磨き続けてきた回復術に関する内容であったからかもしれない。
その証言に待ったをかける者はいなかった。
ディーンの証言は終了し、証言台に別の者が立つ。
天井画の女神に見守られながら、審問は続いた。