うきうき魔王のパーティバイキング   作:mrr

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2.僧侶は祈りを-20

ディーンの朝は、鶏が鳴くよりも早く訪れる。

朝日も差さぬ薄暗い空間で手早く支度を整え、早朝の祈りを捧げる。

女神エリスを象徴する真円と三本線のシンボルに、決められた個数のビーズを連ねた飾り。

手の中にペンダントは、もうない。

 

教会に併設された孤児院で子供達に挨拶を交わし、いくつかの教えを説いた後で向かった先は大聖堂。

ディーンはそこで、最近始めた新たな仕事に手をつける。

 

「司祭様、こちらです」

「魔物が魔力を含んだ毒を持っていたらしく、病院では対処しきれないと」

 

案内された部屋では、荒い息を吐く男が簡易的なベッドに寝かされていた。

はだけた上半身は紫に侵されつつあり、万全の体調でないことが見て分かる。

 

「司祭様、仲間は治りますか」

 

傍らに控えていた若者達が、おそるおそる問いかける。

ベッドに横たわる男を含めた彼らは、冒険者だ。

病院の手が回らない時、もしくは病院ではなく回復術での治療が有効と判断された者が、こうしてディーン達の元へやってくるようになった。

 

「なんで病院じゃなくて教会なの? それに、大がかりな施設もいらないんなら現地に来てくれてもいいんじゃ」

「やめな。司祭様は魔物の被害にトラウマを抱えてらっしゃるらしい、滅多なことを言うんじゃないよ」

 

ひそりひそりと交わされる密談を聞かなかったことにして、ディーンは神妙な顔で最初の質問に頷いてみせる。

 

「全力を尽くしますが、最悪の事態も考えられます。どうかお覚悟を」

 

その言葉に。

仲間達は、どこかほっとしたような顔をした。

 

 

 

治療を行うから、という名目で冒険者達を追い出し、部屋の中にはディーンと毒に侵された男だけとなる。

 

「おい、……さっさと治せよ、回復だけがお前らの取り柄だろうが……」

「回復術には術士の技術と同時に、本人の体力や資質が重要となる。君が助かるのは君次第だろう」

「はあ?! なんだよそれ、ふざけんじゃねぇぞ!! う、ぐ」

 

苦しそうに喘鳴を漏らす男へ、ディーンは声を掛ける。

 

「君のことは知っているよ。冒険者にも関わらず、些細な諍いを起こしては一般市民に傷害を加えることで有名だね」

「それが今関係、あるってのかよ」

「女性関係で問題を起こし、どういう風に泣かせてきたか自慢げに語ると聞いているよ」

「だからかんけいねぇ、だろ! っごほ」

「あるよ」

 

ベッドに背を向け、道具の準備を行っていたディーンが、そこで振り向いた。

 

「悪には罰を。回復術には関係ないが、ここで回復術を施されるのが君で、施すのが私であるなら、大いに関係あるとも」

 

穏やかな微笑みだった。

海のように、全てを包み込むような安心感。

だというのに、男はなにを感じ取ったのか、口をつぐむ。

苦痛によるものではない冷や汗をにじませる彼へ、ディーンは一歩近寄る。

 

「さ、始めようか。君がどうなるかは、君次第だ」

 

 

 

潮の香りと風が肌を撫でる感覚。

海は、ディーンの中へ帰ってきた。

 

 

《おわり》

 

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