ジョセフィーヌは可憐な乙女である。
かつて魔法を嗜んでいたこともあったが、とある出来事をきっかけに魔法使いという職そのものを引退した。
現在は軽いおまじないを施した魔道具や、丹精込めて調合した煎じ薬を主とした露店を営んでいる。
装飾品としても通用するおしゃれなデザイン、オーガニックな素材を使用した身体に優しい効能が売りなのだが、問題は買ってくれる人がいない、ということだ。
現に今も、通りすがりの男性が視線をジョセフィーヌのお店に向けた途端、恐怖に満ちた声を上げて凄まじい勢いで引き返していった。
買ってさえくれれば品質には自信があるのに、とジョセフィーヌは頬杖をつき、憂鬱な気持ちをため息に乗せる。
「今日はもう店じまいしてしまいましょうか」
落ち込んだまま作業を続けていても良いことはない。
これまでの経験から思い切って終了の方針に切り替え、ジョセフィーヌは立ち上がった。
頭頂部に軽い衝撃が走る。
かわいさを重視して組み立てた屋台は、ジョセフィーヌの身長よりも屋根が少し低い。
せっかく手作りした自店を壊さぬよう、かがみながら屋台の外へと抜け出る。
青空の下、立ち上がったジョセフィーヌの身長は、先ほど通りすがった成人男性のものよりも高い。
腕や脚は丸太よりも太く、抜群の安定感を誇る。
鋼のように鍛え上げた筋肉を纏っているからだ。
そこらの野生動物なら道具を使わずとも一撃で仕留められそうな頼もしさを漂わせていた。
平和な町中の屋台よりも、戦場で返り血を浴びている姿がしっくりとくる。
現役時代には魔法使いではなく歴戦の戦士だと勘違いされること多数。
ジョセフィーヌは、可憐な乙女である。
きっかけは確か、冒険者育成機関にて。
仮で割り振られたパーティーの男子に言われた言葉である。
『女と一緒に戦えるかよ! ヒョロくて頼りない、足手まといにしかならないだろ!』
ショックだったが、納得もした。
これから向かうのは戦場だ。
戦争そのものは終わったが、自分達が向かおうとしているのはその残党である魔物の討伐である。
人々を救わんとしている者が頼りなくてはどうするのだ、と。
ジョセフィーヌは奮闘した。
頼ってもらえる存在となるべく。
実家が貴族ほどではないものの、それなりに裕福なこともあって、鍛える手段は潤沢だった。
そうしてジョセフィーヌは鋼の肉体を手に入れた。
これなら一緒に戦えますね! と言えば、例の男子は震えていた。
『ナメた口きいてすいませんでした』
その後より才能があると評された魔法使いの進路を取ることになり、戦士職の教師には随分と惜しまれたりもした。
そうしてなんやかんやあり、魔法使いを引退して今に至る。
ジョセフィーヌはまだ鍛錬を止めていない。
力はあるに越したことはない、と思っているからだ。