持ち運びやすく折り畳んだ屋台を肩に担ぎながら向かうのは、商人ギルドである。
店舗を持つ者、全国を渡り歩いて売買する者。各人の商業形態によって期間や内容は異なるが、ギルドに所属している者は定期的に売上金や現在扱っている商品の種類など、自分の状況を報告しなくてはいけない。
面倒だと渋る声もあるが、大半の者は真面目に取り組んでいる。なにせ信用と情報は商売人にとっての命だ。自分は真っ当な人間であり、そんな自分が売っている物も真っ当ですよと証明しなくてはいけない。
もっとも、その信用と情報が真実かどうかは人と時と場合によるが。
商人ギルドの建物は、ジョセフィーヌから見ても立派な造りをしている。
屋台を空いている壁へ立てかけ、扉をくぐれば広めのエントランスと、来客用の受付が目に入った。
その背後には商談用の部屋に繋がる扉がいくつも並んでいる。
見渡す限り埃一つなく、手入れが行き届いているとよく分かる内装だ。
普段なら直接受付を尋ねる前に警備員から危険物がないかチェックをされるのだが、今日は様子が違った。
周囲は慌ただしく行き交う人が多い。そうでなくとも誰かと小さな声で話す者など、浮足立った雰囲気だ。
そしてその多数が、入ってきたばかりのジョセフィーヌに目を向けていた。
「え?」
私になにか、と戸惑っていると、近づいてくる存在があった。
受付でよく応対してくれる、気のいい婦人だ。
「ちょいと、ジョセフィーヌちゃん! あんたも隅に置けないねえ!」
「ルーシーさん。あの、私はここに来たばかりで状況が掴めてないんですけれども……」
「あたしゃ安心したよ、あんたみたいないい子のことだ、男がほっとくわけないんだから!」
快活で太っ腹なこのご婦人、気の良い人であることは間違いないのだが、人の話を聞かないという欠点がある。
その恰幅に似合った一撃でジョセフィーヌの背中をばしばしと叩きながら、ルーシーはどこかへジョセフィーヌを連れて行こうとする。
婦人の連打にさしたるダメージはないものの、わけのわからない状況は変わらぬまま。
ジョセフィーヌは意を決し、少しだけ大きい声を出した。
「ルーシーさん! 一体何があったんですか!」
ごう、と暴風が吹く。
一瞬だけのそれは周囲の人間の前髪を拭き上げ、仰け反らせる。
全員が黙り込み、騒がしかったエントランスは途端に静まり返った。
またやってしまった、とジョセフィーヌは青ざめた顔で口を押さえる。
善良な市民を怯えさせたい訳ではないというのに。
「どうやら噂通りの方のようだ」
コツリ。
凍りついた空気の中、一つの靴音が響いた。
丁寧に拵えられた革靴が、エントランスの床を叩く。