ふと気づく。
ジョセフィーヌがついているならば、おそらくケイトに絡んでくるような命知らずはいないだろう。
しかし、それにしてはジョセフィーヌの反応は芳しくない。
通りの屋台に並ぶ品々を見ないように、足取りも余裕のなさそうな早足だ。
「その、私が苦手なのです」
疑問に思っていることを勘づかれたのか、ジョセフィーヌはぽつりと言葉を交わす。
故意か偶然か、屋台を担ぎ直した拍子に、ケイトからはジョセフィーヌの顔が見えなくなってしまう。
「魔物は……確かに戦争中は敵、でしたけれど。ものを考えることができて、同じ言葉を話せる存在を、家畜のように扱うところが、どうしても好きになれなくて」
ケイトはぱちくり、と大きな瞳を瞬かせた。
ジョセフィーヌに近づく際、彼女の素性はある程度調べている。
元冒険者であることも。
魔物を殺すことが仕事であった彼女が、そのようなことを言うのはどうにも違和感があった。
「おい、あれ」
「『仲間殺し』の」
「よせ、聞かれるぞ」
ふと。
なにかの毛がついたままの皮を取引している店の奥から、こそこそと呟きが漏れる。
幸いにもジョセフィーヌには聞こえなかったようだ。
声の主が姿を見せぬまま、ケイトとジョセフィーヌはその店を通り過ぎていった。
露天を更にいくつか越えて、入り組んだ道を歩いた先に、ようやくジョセフィーヌが借りているという倉庫へたどり着く。
少々お待ちを、と言われ、ケイトは倉庫の入り口で待機することとなった。
立て付けの悪い扉を開けた途端、薬草特有の匂いが漂ってくる。
カビ臭さはない。
経年劣化の著しい建物の中でも、中のものが丁寧に管理されている証拠だ。
ターゲットがいなくなり、一時的とは言え警戒する必要のなくなったケイトは、深く息をつく。
空を見上げれば雲が流れていく様がよく見えた。
雨が降りそうな気配はない。
なんとなしに脳裏に浮かぶのは、先ほどの魔物のパーツを取り扱う露店での出来事だ。
少しだけこみ上げた吐き気を、むりやりのどの奥へ押し込む。
ケイトにとって、人間とは魔物をバラバラにして売りさばく、おぞましい生き物だ。
例え言葉が通じようと、同じような姿を模して交流しようとも、心を通わせられるとは到底思えない。
『魔物は……確かに戦争中は敵、でしたけれど。ものを考えることができて、同じ言葉を話せる存在を、家畜のように扱うところが、どうしても好きになれなくて』
だからこそ、人間であるはずのジョセフィーヌが、ケイトのような魔物に寄り添うような意見を述べたのが、信じられなかった。
事前に集めた彼女の経歴を知るならば、なおさら。
なにせ彼女は、己の放った魔法で周辺一帯を消し炭にした過去がある。
敵も味方も全てを巻き込んだ一撃から、囁かれるようになった異名は『仲間殺し』。
ジョセフィーヌが魔法使いを辞するきっかけになった出来事でもある。
短いながらも言葉を交わし、抱いた丁寧な印象とは、随分とかけ離れている。
「見た目は俺より魔物に近いのにな」
「なにかおっしゃいましたか?」
「ほぁっ! いいえなにも!」
あまりに気を抜きすぎたせいか、ジョセフィーヌの接近に気づかず、ケイトは王子らしからぬ素っ頓狂な声を上げてしまった。
ジョセフィーヌは不思議そうに小首を傾げるばかり。
どうやら漏れ出た言葉の真意はわかっていないようである。