「片付けは済みましたか?」
「ええ、お時間を取らせてしまって申し訳ありません」
「では、移動しながら話しましょうか」
これ幸いとばかりに、ケイトは露骨に話題を変える。
内容はもちろん、最初にジョセフィーヌを誘った理由である、回復薬だ。
「ところでジョセフィーヌ嬢は、この後どの程度時間を取れますか? 先ほど現地でお話したいとは言いましたが、移動に結構な時間がかかってしまうのです。もちろん拘束するだけの謝礼金は支払うつもりですが」
「所要時間はどのくらいでしょうか?」
「イェルズリー家の領土内にある村でして……一日は移動時間になるかと。難しいようでしたらお話だけでも結構」
「まあ」
ケイトにとってこの移動を切り出した目的は、二つある。
一つ。ジョセフィーヌの籠絡。
見た目はともかくとして、彼女が恋に恋する乙女らしい少女であることは知っている。
自他共に認める人間好みの美貌を持つケイトに恋をさせることで、思うままに操れてしまえば、勇者パーティ入りを阻止することも可能だ。
一つ。籠絡がうまくいかなかった場合の、ジョセフィーヌの抹殺。
案内しようとしている村の奥には、仲間達を潜伏させている。
ケイトとは違い、腕っぷしに自信のある実力派揃いだ。
誘き寄せて一斉に襲いかかれば、『仲間殺し』などと恐ろしい二つ名を持つジョセフィーヌとてただでは済まない。
どちらにせよ、ジョセフィーヌにある程度信頼してもらわねば始まらない。
ケイトはこの時のためだけに王子らしく振る舞い、ジョセフィーヌへの好感を会得してきた。
彼女が承諾する可能性は高い、と我ながら思っていたのだが。
「えぇと、その……大変申し訳ないのですが」
返ってきたのは芳しくない反応だった。
期待はずれだが、当然こうなることも予想済みである。
大部分の戦力は目的地の村へ割いているが、そもそもジョセフィーヌを連れていけなかった時のために、他の抹殺プランもいくつか準備済みだ。
ケイトは落ち着き払って話を続ける。
「ご用事がお有りでしたか」
「はい。ある村に薬のいくつかを納品する予定がありまして、待っていらっしゃる方がいるので早く届けてあげたくて……、ごめんなさい! 先に言っておけばよかった!」
「いえ、詳しい話をしようとしなかったこちらにも非はありますから」
知らない村に行かれてしまっては、計画の実行は難しい。
この町にいる間にやるべきか、とケイトが考えあぐねていると、そうだ、とジョセフィーヌが手を叩く。
手のひらから発生した強風が、ケイトの顔を襲った。
「良ければ途中まで一緒に行きませんか? 私が向かおうとしているのは、イェルズリー辺境伯の領地にある村なんです」