好都合な申し出だった。
同行し、領地内に入るまででもいくつかの罠は仕掛けてある。
「すみません、私まで馬車に乗せてもらってしまって」
「構いませんよ。それに、この方が二人きりでお話できますから」
「はわわ」
商売の話だよね!? と己を律そうと努めるジョセフィーヌと対面しながら、ケイトはほくそ笑む。
疑わしきは罰せよ。
ジョセフィーヌが予言にある勇者パーティの一員となるかどうかは不確定だが、違っていたとしても嫌いな人間が一人減るだけだ。
こちらに損はない。
物騒なことを考える心は隠し、ケイトは素知らぬ顔で話を続ける。
「商談の話に戻りますが。ジョセフィーヌ嬢の作成される回復薬は素晴らしい、という評判を聞いております。良ければ二、三本のサンプルを頂けないでしょうか。実際に使用してみたいのです」
「そ、それは全く構わないのですが……先ほども申し上げました通り、回復薬を含めた商品は私一人で作っているものです。もし気に入ってもらえたとしても、大量生産するには材料も人手も足りなくて……」
商人ギルドで聞いた答えが返ってくる。
本音を言えばジョセフィーヌに好感を持ってもらうために会話を発生させることが目的なので、回復薬についてはどうでもよい。
しかし、そうですかで終わるわけにはいかないので、ケイトは食い下がった。
「材料に関しては、見込みがございます」
先程から話題に出している、ケイトが是非とも来て欲しいといっている、領地内の村。
そここそ薬草の生産を生業としており、領主が支援していることもあって、収穫量も年々上がっている。
回復薬の作り手であるジョセフィーヌが是と言えば、すぐにでも流通も融通が利くよう取り計らうつもりだ。
そこまで話を聞いていたジョセフィーヌだったが、ふと小首を傾げた。
「どうかされましたか?」
「薬草の生産地……? あのう、もしかしてその村の名前って」
言葉を言い終わる直前。
鋭い馬の嘶きと同時に、馬車が大きく揺れた。
「何事だ!」
「と、盗賊です!」
御者台からの狼狽した返事に、ケイトは眉を寄せる。
貼り付けられた革をわずかにスライドさせ、馬車の小窓から様子を伺えば、なるほど確かに無法者の集団と思わしき、顔を隠した面々が馬車を取り囲んでいた。
覚えのある格好に、ケイトは眉間に皺を寄せる。
なにを隠そう、ケイト本人が雇った魔物の強盗達だ。
だが、襲撃ポイントが指示した場所よりも随分と手前である。
ジョセフィーヌの実力を確かめるため、正体が分からぬよう本物のそれらしく森の中で襲いかかれと言っていた。
にも関わらず、彼らが取り囲んだのは高い木が数本道なりに立ち並ぶ、林とも呼べぬ並木道だ。
視界は広く、下手をすれば通りすがる第三者に見つかってしまいそうな空間で、一体どうするつもりなのか。
「ジョセフィーヌ嬢はけして馬車の中から出ないように」
「まさか、直接対面するおつもりですか!」
ケイトの言葉に、ジョセフィーヌはぎょっと目を剥く。
複数の盗賊達に対して、こちらはケイトとジョセフィーヌ、それに御者しかいない。
圧倒的に不利だ。
元冒険者でもある彼女は、今がいかに危険な状況であるかを分かっていてケイトを引き留めようとしているのだろう。
「大丈夫です。いざとなれば、貴女だけでも守ってみせる」
しかしこれも作戦の内だ。
王子様のように華麗に盗賊を打ち倒し、ジョセフィーヌの好感を稼ぐという、なんとも子供じみた作戦だが。
ケイトはジョセフィーヌの制止を振り切り、馬車の外へ出る。