「簡単に言ってしまえば、生物学的に定義された人間には備わっていない体質のことです。それも百万人に一人、あるいはそれよりもっと少ない確率で持っている体質のことを言います!」
「アレルギーとかは大勢いるから違うってことか」
「アレルゲンがなにかにもよるかもしれませんけれど。哺乳類アレルギーの人間、とかならユニークタイプといえるかも」
説明を続けるビリーは、ふんすと鼻を鳴らしてどこか得意げだ。
年上のアインに教えることができて嬉しいらしい。
「今回講演にいらっしゃるチャーリーさんは、まさしくそのユニークタイプをお持ちなんですよ。内容はずばり、『有名になるほど強くなる』!」
輝けるチャーリーズアドベンチャラー。
流行にはさほど詳しくないアインも、入学する前からそのパーティー名は聞いたことがあった。
前線で活躍しているだけでなく、積極的に人々の前に顔を見せては己の活躍を声高に主張している、と。
その噂を聞いて、報復とか変なことに巻き込まれるのは怖くないのだろうか、とか、前線で活躍しているからにはさぞや実力者揃いなのだろう、とか、様々な感情がよぎったことを覚えている。
アインの心の大部分を占めたのは、『名前言いづらいし他のメンバーはその名前で良かったのか』というどうでもいいことだったのも覚えている。
しかし、その奇妙にも思える行動も、ユニークタイプによる体質が理由であるならば納得がいく。
「強くなるためにわざわざ目立つようなことをしているのか」
「もちろんこれはチャーリーさんの場合です。他の方はユニークタイプを持っていても切り札として秘匿していることが多いですね」
そして件のパーティーメンバーは、なんと全員がユニークタイプ持ちなのだという。
「誰がどんな体質なのかはさすがに教えてもらえませんでしたけれど」
「なるほど」
あのチャーリーズアドベンチャラーの。
と、言いかけて、アインは止めた。
話題の渦中にいる名前なのに、口に出すと雰囲気が面白くなってしまいそうだったので。
「とにかく、そんなユニークタイプを持ったお強い方たちに怪しまれるような行動は控えてくださいね?」
「…………つまり、彼らと戦ったら必然的にユニークタイプの真髄を体験できる、と」
「絶対に止めてくださいね?!」
アインさんが同級生に敬遠されてるの、そういうところですよ!
叫ぶ幼子へ反論する内、いつの間にやら同級生に敬遠されている原因と思われる『アインは汗臭いか否か』などという話題に転がっていく。
演習をサボった昼下がりは、こうして不毛な終わり方を遂げたのだった。
時間は経過し、次の日の早朝。
アインは、件の冒険者パーティーがやってくると予想される学校の正門付近の茂みで張り込んでいた。
ビリーが言葉を尽くした説得は無駄だったと言える。
(ビリーにはああいったが、喧嘩をふっかけるような真似はしない。退学になったら困る)
が、アインにも常識というものはあった。
唯一の救いである。
(ユニークタイプというものは持っている者と持っていない者で視認できる違いがあるのか。『有名になるほど強くなる』というのはどういった強さになるのか、段階はあるのか。講演でお会いする講堂内では遠い、間近で観察したい)
その救いという名の常識は、アイン本人が独自に作り出しているというあまりにも頼りないものだったが。
あわやビリーが待望する未来の勇者が、入学半年もしない内に迷惑行為で退学、という危機。
その可能性がなくなったのは、アインの耳に異音が飛び込んできてからであった。
「……なんだ?」
学校からほど近い街の喧騒とはまた違う騒がしさ。
太い眉を上げ、様子を伺うべく茂みから顔を出したアインの視界に、すぐに映る異変があった。
学校と街を囲む外壁、その向こう側。
衛兵達が慌ただしく向かうその先に、不自然な土煙が上がっていたのだった。
「これは……!」
学生は許可なく外壁の外へ出てはならない。
にも関わらず、アインが外の状況を知ることができた理由は簡単だった。
外壁として積み上げられていた石が崩れ、大きな穴が空いていたのだ。
「がゃあぁおあがぁ!」
穴の向こう、聞くに堪えない鳴き声を上げる存在があった。
悪魔と同じ皮と骨の翼、岩盤すら容易く噛み砕く強靭な牙。
蜥蜴をむりやり大きく引き伸ばしたような醜悪なその姿は、元傭兵であるがゆえに同級生よりも多少の魔物討伐経験を持つアインでさえ、絵本でしか見たことのないものであった。
それは、多くの者にとって勇者と同じくおとぎ話でしか存在しない魔物。
魔王を除いた魔の頂点、ドラゴン。
「なんで、……なんだって、こんな奴が街に……?!」
唖然と呟くアインだったが、我に変えるのは早かった。
悲鳴が耳に飛び込んできたのだ。
ピントを合わせれば、ドラゴンが大きく開けた口に呑まれようとしている人間が、泣き叫びながら逃げ惑っているところであった。
「あれは!」
咄嗟に駆け寄ろうとし、
「ぐかごゃえあああ!」
汚らしい吠え声と共に、放たれた威嚇が質量を伴った重圧となって襲いかかる。
一拍遅れて、冷や汗が滝のように溢れ出した。
喉に含んだ空気が引きつって声が出ない。
ガンガンと警鐘を鳴らす本能が、足を止めさせる。
痛いほどに告げている。
進めば、死ぬと。
「おい、きみ! 早く逃げるんだ!」
そんなアインを見かねてか、声を掛ける者がいた。
壁を崩して侵入を試みるドラゴンを押し返すべく、攻防戦を繰り広げている内の一人だ。
装備が特徴的だ。
均一化された防具を纏う衛兵ではない。
冒険者だ。
アインは剣を構えるその顔に、見覚えがあった。
「輝けるチャーリー……」
「おや、僕のファンかい? ありがたいね、こんな時でなければハグの一つでも送らせてもらうところだ」
こんな窮地にも関わらず、軽快にウインクを投げるその顔立ちは整っている。
本人が有名になるべく活動していなくとも、女子が放っておかない美貌だ。
しかし今のアインにとって輝ける顔立ちはどうでも良い。